『FFXIV』水晶公&コルットとの3人道中は当初なかった!? 5.0イベントバトル制作にまつわる中川誠貴氏インタビュー前編

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 オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV(以下、FFXIV)』の魅力をお伝えすべく、タイムリーな話題を追いかけながら開発者の方々の声をお届けするインタビュー連載企画。

 今回質問に応じていただいたのは、『FFXIV』リードバトルコンテンツデザイナーの中川誠貴氏! 主に『漆黒のヴィランズ』パッチ5.0近辺の“イベントバトル”についての話題を中心に、登場人物のセリフはどう生み出されているか、どんな点に注力しているのか、そもそも制作工程は……などなど詳しくうかがっています。あまりに詳しく聞きすぎたため、なんと今回は前後編仕立てでお届け。気になる話題が目白押しですので、どうぞ最後までご覧ください!

 さて、インタビューに移るその前に……今回のお話に登場する『漆黒のヴィランズ』メインストーリーのイベントバトル(メインストーリー中に挟まる、コンテンツバトル以外の特別なソロ用クエストバトル)がいくつあったか、それぞれがどのようなものだったかをおさらいしておきましょう。

【①ミンフィリア救出作戦】

 ユールモア軍に拿捕された光の巫女を奪還するため、クリスタリウムの衛兵団とともにラクサン城へ突入するバトル。衛兵団団長のライナや、アルフィノ、アリゼーたちとの共闘ののち、ユールモアの将軍・ランジートとの激戦が繰り広げられました。

 これまでのクエストバトルでは1戦闘通じて仲間たちが常に冒険者についてくるか、あるいはまったくの別行動をとるタイプのバトルが大部分だった印象です。が、このバトルを皮切りに、5.0では状況に応じて仲間たちが共闘したり別行動をとったりと、“各キャラクターが独自に判断し、その戦いで個別に動いている”ことを感じられるバトルが多く、仲間たちの行動に注目したくなるつくりになっていました。こんなふうに共闘してくれるとなんだか涙腺に来るものが……。


【②仕掛けと呪いと毒と】

 キタンナ神影洞の扉を開くため、ヤ・シュトラやロンカの護り手であるアルメとともに、ロンカ遺跡の“大トゥパサの崇神所”を探検するバトル。巡回の守護像から隠れつつ進んだり、全力で走って巨大な球から逃げたり……と、“罠を突破する”体験にフォーカスしたつくりになっていました。このバトルでしか入れない特別なフィールドがとくに見どころ。ちなみに、初回攻略時に逆走して岩の球にブチ当たってみたところ、タンクでも問答無用で2発で戦闘不能になります。球から逃げる際に、珍しくヤ・シュトラさんがやや疲れ目な姿を見せるのもポイント。


【③激動のレイクランド】

 光が掃われたあとのレイクランドに大挙して押し寄せた罪喰いの軍勢を撃退すべく、アルフィノ&アリゼーとともに戦うバトル。罪喰いに応戦する衛兵たちのHPがなくなる前になんとしても敵を倒さなきゃ……という焦燥感が熱かった、印象的な戦闘です。敵を倒したあとでアルフィノが消耗した兵士を治癒していたり、アリゼーは兵を助けるため先行して駆けだして行ったり、道中で強力な罪喰いをヤ・シュトラ&ウリエンジェが食い止めていたり、ヤ・シュトラがLBの詠唱をしている間ウリエンジェがバリアで護っていたり、あまりの敵の数に軽く驚いたり、アリゼーが皆の援護を受けながら大技を放ったりなどなど、見どころ多数。


【④廃都ナバスアレン】

 ナバスアレンの跡地を目指す冒険者と光の巫女を逃がすために、サンクレッドがランジートと対峙する“真にカッコいいサンクレッド”が存分に見られたバトル&イベント。実力的にランジートに劣るサンクレッドが1対1の状況でいかにランジートを退けるか……絶望感漂うだけになんらかの代償を伴いそうで、バトル中は「死ぬなよ? 死ぬなよ?」などと思考をぐるぐるさせていた記憶があります。バトル前のイベントBGMが“ザナラーンの黄昏”ってのもじつにイイ……!


【⑤膨らんだ嘘】

 ヴァウスリーの非道を止めるため、暁の仲間とともにユールモアへ攻め込むバトル。仲間たちが敵を食い止めるために次々その場に残り、最後はアルフィノと2人で都市内に踏み込む展開でした。アルフィノ&冒険者と赤と青2人の道化師のタッグ戦ののち、ランジートとの1対1の決戦に臨む……という流れはまさに対ユールモア軍のクライマックス。


【⑥採掘と破砕】

 巨大タロースの心核に必要な素材を手に入れるため、トメラ村のコルットに案内されて採掘場まで歩く……という内容のバトル。戦闘はからっきしだというコルットを罪喰いの襲撃から護るのは、冒険者と水晶公の2人。一見すると平凡な展開かと思いきや、決戦前に水晶公と2人で協力するという体験と、クエスト中のセリフのせいで途中から涙で前が見えなくなること請け合いのバトルでした。ラスト付近、クリスタルタワーのアレンジBGMとバトル演出は本当に涙腺クリティカル&ダイレクトヒット。


イベントバトル制作の流れ――大まかな展開は制作初期の段階でほぼ決まる

――はじめに、クエストバトルがどのように生まれるのか、あらためてお聞きしてもよろしいでしょうか。

中川誠貴氏(以下、敬称略):はい。制作の流れを説明した方がよいと思ったのですが、とはいえ長くなりそうなので……制作工程の資料を作ってきました。

  • ※本画像は実際の資料を参考に編集部側で作成したものです

 この青い部分がシナリオ班・イベント班側が担当する工程で、緑色の部分が自分たちモンスター班のやる工程となっています。最初にシナリオ班のプロットがありますが、この時点でざっくりと、クエストバトルの前に何があってバトルの後にどういうことが起きるのか、みたいなことはすでに決まっています。

――セリフの細かいところではなく、まず、そのバトルが発生する状況みたいなところですね。

中川:はい。わかりやすく例を出すと、パッチ5.0【廃都ナバスアレン】ではサンクレッドVSランジートのクエストバトルがありましたが、最初の段階では“サンクレッドとランジートが1対1で戦う”という状況と、“プレイヤーはサンクレッドを操作する”という条件が、シナリオ側からの設定としてありました。そしてもう1つ“ランジートはこういう人で、サンクレッドよりも戦闘面では明確に格上である。このクエストバトルに至るまでに、光の戦士は一度負けている”といった情報も、モンスター班側に渡ってきています。そして、“ランジートより戦闘能力の低いサンクレッドが、なんとかランジートに勝つ”というのが、この時点でシナリオ側からモンスター側に出されていたオーダーとなります。

 次にクエストバトルの概要書を作成するというフェーズがあって、この段階では、“バトルの中で、シナリオがやりたいこと&見せたいもの”をもうちょっと詳しく書いた資料が作成されます。そのあとでモンスター班がバトルの企画を作っていく流れですね。ただ、この概要書はスケジュールなどの都合で省略されることもありまして……例えばさっきのサンクレッドVSランジート戦では、この概要書はありませんでした。

 というわけでこのときは、先ほどのプロット情報を受け取ったあとすぐにこちら側で戦闘の内容を考えていくという感じでした。なので、まずは“シナリオ側がこのバトルで最もやりたいことはなんなのか”を資料から読み取り、担当者にヒアリングしたうえで制作にあたっています。このバトルの例だと“サンクレッドが本当にいろいろと工夫をして、なんとかランジートに勝つ”ということをやりたいという話でしたが……初めてそれを聞いたときは、わりと難しい案件だなとは思いました。

――そうですよね。『FFXIV』のバトルの仕様を考えると、プレイヤーがギミックを処理して勝つというだけだと“苦労して勝った”ではなく普通に勝ってしまっている印象になりそうですし。

中川:そうなんですよ。もちろんランジートを弱くするわけにもいかないのだけれど、かといってクエストバトルは基本的に誰でも勝てるようにしないといけない……そのなかでの“苦労して勝った感”なので、バランスを取るのはすごく難しかったところですね。

 ……そして、バトルの内容を考えた企画書をつくったらシナリオ側にバトルの内容をプレゼンして、そこでシナリオ側とモンスター側のやりたいことにズレがないかを確認していきます。シナリオのOKが出たら開発・実装して、完成したらモンスター班側でテストプレイをして、ある程度調整してからシナリオ側にテストプレイしてもらいます。

――すごく基本的なところで恐縮なのですが、“モンスター班”というのは“バトル班”の中に含まれる1チームという感じなのでしょうか?

中川:バトル関連ではまず“バトルシステム班”というジョブの調整やバトルのシステムそのものを作っているセクションがあり、それはそれで独立しています。一方で“モンスター班”はバトルコンテンツを作っています。じつは自分はモンスター班という名前があまり好きではなく、“バトルコンテンツ班”でいいんじゃなかろうかと思っていますが……まあそれはそれとして“モンスター班”というのがあります。バトル関連全部で1部署というくくりではなく、それぞれで独立しているのですけど、バトルシステム班の人もクエストバトルとかボスバトルを作ることがあるので、あまり明確にくくりがあるという感じではなくなってきています。

――ありがとうございます。ちなみに、企画のプレゼン時点で、“ランジートのギミックとしてどんなものがあるか”や“パーフェクトインビジブルを使って……”というところまで組み上がっているものなのでしょうか。

中川:そうですね。この時点での企画書は、企画書というよりは仕様書のレベルまで練り込んだかなり詳細なものになっています。ただ、シナリオ側がやりたいこととは違うことを提案することはあって、それを仕様書レベルまで落とした段階でダメになってしまうと、企画をやりなおすのにすごく時間がかかってしまうので、シナリオ側になかったものをバトルに盛り込んでいくときは、この時点で担当者レベルのやり取りを逐次しているという感じです。

――石川さん(石川夏子氏。メインシナリオライター)や織田さん(織田万里氏。世界設定/メインシナリオライター)に、「こういうことをしたいと思っている」という話をしているということですね。

中川:そうです。

――みなさんそういうコンテンツに紐づくアイデアはどんなときに出してどう固めているのでしょう。ギミックアイデアの共有みたいなこともされているのでしょうか?

中川:アイデアがいつ出るか、というのはもちろん人によって違いますが、自分はジムで走っているときによく出ますね。あとは、最近はモンスター班のスタッフがかなり多くなり、余裕もでてくるようになってきたので、ブレスト(ブレインストーミングの略。テーマにそって、複数の人が自由に意見を出し合うタイプの会議のこと)をよくやるようになりました。須藤(須藤賢次氏。絶バハムート討滅戦などを制作したバトルコンテンツデザイナー)と自分がやっていた昔は、1パッチにつき1人でいくつものコンテンツを作っていたのですが、今は1コンテンツに担当者が1人ついて、集中してやっています。アイデアが出ないときは何人か集めてブレストなどをします。サンクレッドVSランジート戦は、かなり何回もブレストしていましたね。

 そうして決定した内容を詰めて、実装して……自分たちでテストプレイをしたあとに、シナリオ側のテストプレイがあります。その段階で一度会議室を確保して、シナリオ側の担当者とモンスター班側の担当者などを集めて、感想を言い合って、どこを改善していくのかを話し合っていきます。そんな感じで調整していって、この実装時点でセリフなどの仮テキストをモンスター班側が入れていき、コンテンツがある程度完成に近づいてきたら、シナリオ側に最終的なテキストを書いてもらいます。そのあとで“調整”と書いている工程は、横澤(横澤剛志氏。リードバトルシステムデザイナー)などバトルシステム側の人間や、このコンテンツについて何も知らない人などいろいろな人にテストプレイをしてもらったりして、フィードバックをもらったうえで調整をします。最終的には吉田にチェックしてもらって完成、という感じです。

――ちなみに、クエストバトルで調整ののち、大きく手を加えたものはありますか?

中川:結構ありましたよ。担当者にいろいろと聞いて、まとめてきました。メインクエストのクエストバトルの担当者はパッチ5.0で4人おり、全員若手の、これまでいなかったスタッフです。少し話が脱線しますが、じつは5.0に向けてもう1段階クオリティの高いゲーム体験を実現するために、去年の10月くらいにモンスター班のスタッフを一気に増員しているんですよ。今回のクエストバトルは、そこで増えたスタッフがそれぞれ担当しています。

――こういう制作の流れは、討滅戦とは異なるのでしょうか?

中川:そうですね、大きく異なります。水晶公とドワーフを護衛する【採掘と破砕】などは、形式上“クエストバトル”と呼ばれています。しかし、これらはバトル自体が重要ではないですよね。その際に重要となるのが……さきほどの回答ともかぶりますが、“シナリオ側が何をやりたいのかをしっかりヒアリングして、その要件を満たした内容にする”ということです。ここが、討滅戦といったボスバトルと一番違う部分です。

 サンクレッドVSランジートも、“サンクレッドがなんとかして勝つ”という要件だけを聞いたところで、単体の部分でシナリオ側がやりたいことはわかるとはいえ“パッチ5.0全体のシナリオでどういう役割をはたすものなのか”はわかりません。もちろん僕らも、当然すべてのシナリオプロットを読んである程度把握はしているのですけど、実際に各バトルがどれくらい重要なものなのかの温度感は、企画の初期段階ではわからないのですよね。なので、開発時点ではシナリオ側が必要だと言ったものを信じて、その通りに作るしかない。最終的にゲームとして完成して、テストプレイで通してやってみて初めて“これは必要だった”とわかることも多いです。だから制作の時点では、シナリオ担当者を信じて精一杯やるしかないんですね。

シナリオを魅力的にするために意識した部分は――? 各クエストバトルの注力点

――では、せっかくですので、クエストバトルごとに注力した点や苦労した点などを、詳しくおうかがいしていこうと思います。まずは【ミンフィリア救出作戦】について、コンセプトなどを教えてください。

中川:ミンフィリア救出作戦において、シナリオ班から降りてきたオーダーは“開発名【眠り粉】で大量の兵士を眠らせて、効かなかった敵兵を蹴散らしながらミンフィリアを助ける”“救出後の道中でランジートと遭遇し、ボコボコにされて負ける”という2点でした。つまり、このクエストバトルでは“ミンフィリアを助けることでの達成感”と“助けたあとに初登場となるランジートの強さ”を表現することを、シナリオ班から求められていたわけです。我々としては、その注文をどうすればゲーム体験として表現できるか、という部分が苦労した点になります。

 正直な話で言いますと、パッチ5.0で負けバトルを作ると聞いたときに感じたのは、“すでにパッチ4.0でもゼノスとの負けバトルをやっているのに、もう一度同じことをやるのは大変だろうな”ということでした。ですが、あえてパッチ4.0と同じことをやるとオーダーしてきたということは、絶対に必要な理由があるのだろうなとも感じたので、大変なのは承知のうえで「実現しましょう」と答えました。そして、今の形になったという感じですね。

――クエストバトル後半のランジート戦では、仲間キャラクターがバトルエリアから少しずつ除外されていく演出が印象的でした。

中川:そこは、バトルコンテンツの担当者が企画を考えるなかで発案した要素ですね。“ミンフィリアを救出してランジートに負ける”ということ以外は何も決まっていなかったので、それ以外の要素に関してはこちらで考えていて、なんとかうまく表現できたかなと思っています。

――素人目にも、負けバトルを作るのはかなり難しそうだと感じますが……。

中川:そうなんですよ(笑)。まず前提として、プレイヤーに負けバトルだと悟られないようにしないといけません。プレイヤーが遊んでいるなかで負けバトルだと感づいてしまうと、熱が冷めてしまいます。これはミンフィリア救出作戦の担当者も難儀していたようで、“制作時に苦労したこと”として同様の点を挙げていますね。「プレイヤーに負けバトルと悟られないようにしたい」と。

 この塩梅が本当に難しくて……。ゼノスのときもそうだったのですが、プレイヤーには“もしかしたら勝てるかも”と思ってもらえるような展開にしつつ、そのうえで負けてもらうような作りにしないと、“ゲーム”にしている意味がないんですね。そうできないのなら、カットシーンで事足りてしまうわけですから。シナリオ班からオーダーがあったということは“ゲーム体験としてプレイすることに意義がある”ということなので、そこはがんばって作ったという感じですね。

――ちなみに、ミンフィリア救出作戦のバトルを開発していた段階で、このあとランジートと何度戦うかは把握されていたのでしょうか?

中川:もちろん把握していました。最初に光の戦士が負けて、サンクレッドとの死闘があり、ユールモアで光の戦士が倒す流れは決まっていました。

――ありがとうございます。では次に【仕掛けと呪いと毒と】についてお聞かせください。

中川:このクエストバトルは、初期案から大きく変わったところが多かったですね。クエストバトル中にヤ・シュトラが自身の姿をした囮を召喚しますが、担当者によると、初期案として“デコイが水着になっている”というものがあったのだそうです。自分は知らなかったので、「そんな案があったのか」と驚きました(笑)。

――たしかに、複数出てくるなかに一体くらい水着ヤ・シュトラがいたら大いに話題になったと思います(笑)。

中川:ブレストででたアイデアなので、そういう案もあったのでしょうね。それから、クエストバトルの序盤にはゴーレムに見つからないように移動するパートがありますが、彼が最初に出してきた企画には、パズルとか謎を解いていくようなアイデアも存在していました。

――それは、長くなりそうといった理由でシンプルになったのでしょうか。

中川:そうですね。だいぶシンプルになりました。現在リリースされているバージョンでも、ちゃんと冒険している感はありましたし、結果的には削ってよかったと思います。とはいえ感想では、担当者は「やりたかった」と言っていましたね。あとは、巨大な岩に追いかけられた後、3人で飛び降りるシーン。あそこは最初、飛び降りた場所が深めの水路だったんですよ。3人で飛び降りて一緒に泳いで、ランジートと戦う場所に出る……という企画でした。NPCと一緒に泳ぐという体験はこれまでに1回もやっていなかったので、「たしかにそういうのがあると冒険感が出るかもしれないね」と話したことを覚えています。ただ、プレイヤーはもちろん泳ぐことが出来るのですが、じつはNPCが泳ぐというシステムはまだなく、根本のシステムから作らないと実現できなくて……今回は諦めたアイデアです。いつかはやりたいなと思っています。

――その後に、もう一方の通路から現れたランジートと戦う流れになりますね。

中川:じつは、最初はランジートとの戦闘自体がなかったんですよ。カットシーンで出てくるということは決まっていたのですが、バトルを挟むというのはモンスター班のアイデアです。もともとの案では、NPCたちがランジートを引き受けている間に奥に行くという流れでしたが、プレイヤーもある程度戦った後に奥に行くという形に変更しました。

 また、奥に進んだあとのイベントでは、追ってきたランジートをサンクレッドとウリエンジェの不意打ちで対処するというシーンがあります。この前のミンフィリア救出作戦でも、ランジートは不意打ちを受けて光の戦士たちを取り逃していますよね? ここは、シナリオ班から降りてくる情報から、“ランジートの実力は計り知れないものがあるが、一方で不意打ちに弱いのでは”といった細かい情報をすくい上げて、うまくバトルのなかに落とし込んでいきました。

――バトルそのものではないですが、イベントシーンでウリエンジェが救出を使ってランジートを引き寄せましたよね。ああいう“バトルアクションをカットシーンの中でも活用する”表現は今までなかったので驚きました。

中川:そこは、シナリオ班やカットシーンを作る側の、『新生編』からずっと開発を続けてきた経験からくる魅せ方の工夫でしょうね。表現という意味では、自分的にこのクエストバトルはとても印象が強くて。というのも、クエストバトルとしては初めて専用のバックグラウンド(以下、BG)を作ったんですよ。

 ほかのクエストバトルは、基本的には既存のBGを使いますが、ロンカ遺跡に関しては、もともと専用BGを発注するという想定でシナリオプロットが組まれていて、そのコストを確保して作ったものになっています。しっかりコストを掛けた結果も出ていたので、そういったことをやる価値があることを証明してくれました。そういう意味では、担当者がすごく頑張ってくれたというのと、デザイナーやプログラマの方々がしっかりと応えてくれたかなと思います。

――ちなみに、モンスター班の方々が完成されたBGを初めて見るのは、実装時なのでしょうか?

中川:実装直前にモックアップを見せてもらうタイミングが最初です。例えばロンカ遺跡の探索で大岩が転がってくる部分は“だいたい何メートルくらい坂が必要か”などを企画書に書いて、それをBGチームに渡して作ってもらうのですけど、最初は大岩が転がってくる部分の距離が足りなかったんですよね。自分がテストプレイをさせてもらったのですが、物陰に隠れる必要もなくすぐに駆け抜けられてしまって。ギミックを理解する前に終わっていたので、実装の段階で、坂の距離を2倍にしてもらいました。

――続いて、【激動のレイクランド】ですが、このバトルコンテンツでは非常に大きなフィールドで、さまざまなキャラクターが入れ代わり立ち代わり立ち回っていくのが、ゲーム体験としてとてもおもしろかったです。

中川:このバトルについて、シナリオ班からの最重要オーダーは“マップ全域を使った、大量の罪喰いとのバトル”でした。

 モンスター班の担当者が重要視したのは、暁のメンバーたちが出てくるので、それぞれに見せ場を作ることでした。ヤ・シュトラがリミットブレイクで罪喰いを一掃したり、アリゼーが仲間たちからエーテルを受け取って必殺技を使ったりといった部分ですね。

――アリゼーの必殺技は、パッチ3.4の闇の戦士たちとのバトルで使ったものだったので、見たときは「おおっ」と思いました。

中川:担当者はアリゼーなどのキャラクターが過去にどういった戦いかたをしていたかを調べ尽くした上で企画を作っていました。あとは、戦いのなかで傷ついている兵士をアルフィノが癒しの術でサポートしていたりもします。ここは、「アルフィノの性格が出ているな」と自分がテストプレイをしていて感じたところですね。

――ちなみに、タンクとして必死で敵視を集めていたのでHPゲージのあるクリスタリウム兵は全員生存できたのですが……もし間に合わなかった場合、敵にクリスタリウムの兵士が倒されるとそのまま死んでしまうのでしょうか?

中川:死にます。そこも、シナリオ班からは“これだけ大規模なバトルならばクリスタリウム側にも相応の犠牲者が出るだろうから、そういう場面も作ってほしい”というオーダーをもらっていたので、そういった要素を入れた形ですね。

――さきほどのお話にもあったように、このバトルのフィールドはかなり広く感じました。パッチ4.0の終節の合戦も広大でしたが、このようなクエストバトルで使えるフィールドの広さに限界はあったりするのでしょうか?

中川:じつは、広さに限界はないので、極端な話だとフィールド全体を使ったバトルも作ることができます。ただ、1つのクエストバトルのなかで“NPCや敵キャラクターを合計いくつまで出現させられるか”というのは、システム的に決まっています。フィールドが広大であればあるほどアクターの上限数に引っかかりやすくなるので、うまく特定の場所でピンポイントにバトルが発生するようにしているんです。【激動のレイクランド】では、この点について、実装作業を進める中で担当者が非常に苦労していたのを覚えています。

――進行自体は一本道だったので、うまく集約させて、密度の濃いゲーム体験を実現していたんですね。ちなみに、バトルフィールドはシナリオプロット上で“どこを舞台にするか”も決まっているのでしょうか?

中川:はい。どのエリアで戦うかはシナリオプロットの時点で決まっており、そのうえで実際の細かい座標はこちらで考えるという感じです。

――バトルフィールドの中にフキダシで喋る人物がいたりしますが、そういったNPCはどのように配置されるのでしょうか?

中川:NPCの位置やセリフなどを細かく指定するのは、モンスター班の担当者ですね。【激動のレイクランド】を例にすると、レイクランド全体が罪喰いに襲われているというオーダーをどうやったらクエストバトルの中で演出できるかを企画書作成の時点で詰めていって、どこからスタートし、どこに兵士がいて、どういうセリフをしゃべるかというのを担当者が細かく指定していく形になります。

 セリフについては、先ほどのワークフローどおり基本的には仮テキストをモンスター班担当者が入れていて、最終的にテストプレイが終わった時に、シナリオ担当者が正式なテキストを入れていくという感じですが、仮テキストの時点でほぼリリース時と変わらないテキストが入っていることもよくあります。ここはバトルコンテンツ側プランナーのセンスが問われますね。

――吹き出しセリフのような短いセリフは、この時点でほぼほぼ決まっていると。

中川:ええ。あとの調整は、言い回しなどを変える程度ですね。このクエストバトルに関しては、担当者がすごく苦労していました。実際にプレイヤーの方が意識する必要はないのですけど、【激動のレイクランド】のクエストバトルは、開発環境的にはプログラマがほとんど関与せず、バトルコンテンツプランナーがスクリプトを書いて実装していくタイプのものなんです。

 これは“QIB(クエストインスタンスバトル)”と呼ばれるもので、仕様書を書いてプログラマ側に実装してもらうタイプの“QIC(クエストインスタンスコンテンツ)”というものとは区別されています。QIBはボリュームの小さいクエストバトルを量産するための開発環境で、QICはボリュームの大きいクエストバトルをじっくり時間をかけて作るための開発環境です。そして、激動のレイクランドはスクリプトで書くQIBタイプのものだったのですが……実際は、ボリュームはQICレベルのものだったんですよね。そのような大ボリュームのものをスクリプトで実装していったがために、最初に実装した時点ではバグがすごく多くて、担当者はその修正に苦労したと言っていました。

――暁のメンバーと一緒に戦い、一定の距離を進むと今度は彼らがバトルフィールドの外にいる形になり……という状況の移り変わりがおもしろいなと思っていたのですが、そういう工夫があったのですね。

中川:あれは本当に苦労していました。

――そして、サンクレッドとランジートの一騎打ちが非常に印象深い【廃都ナバスアレン】について、このバトルのコンセプトをお願いします。

中川:ランジートが強敵だということは、ミンフィリア救出作戦ですでにプレイヤーが体験しています。最初の例の繰り返しになりますが、シナリオ班からのオーダーとしては“戦闘能力がランジートよりも明確に低いサンクレッドが、さまざまな工夫を凝らして辛勝する”というものでした。そこをどう表現するのかがコンセプトであり、難しかったところでもあります。

――光の戦士でも一度負けている相手なのに、けっこうなムチャ振りですよね(笑)。

中川:そうなんですよ(笑)。【ミンフィリア救出作戦】で暁の面々がいた状態でも負けてしまった相手に、サンクレッド1人で勝つというビジョンが、企画スタート直後はまったく見えませんでした。ですが、シナリオ班がそこまで難しいものを“やりたい”と言ったからには、これは非常に重要なバトルなんだろうと覚悟を決めて、時間をかけてアイデアを練っていきました。

――バトルでの表現に悩まれたということは、サンクレッドが切り札として使用した“パーフェクトインビジブル”などはモンスター班のご担当が考えたものなのでしょうか?

中川:はい、そうです。そのうえで、このクエストバトルで核となる“サンクレッドがそういう切り札的なものを隠し持っていて、ここで出すということがシナリオ的に許容できるのか”という部分について、シナリオ側としっかりコミュニケーションを取りながら進めていきました。

――サンクレッドは設定的にはリーンが魔力を込めた弾(ソイル)を使って戦うスタイルだけれど、特別な切り札となる弾を持っていてもおかしくはなかろうという判断がなされたのですね。

中川:ですね。“光の戦士よりも格上であるランジートにサンクレッドが勝つには何が必要なのか”、というのをいろいろとネタ出ししていくなかで決まっていきました。……じつは、企画スタート時点でこのバトルの担当者が決まっていなかったため、僕のほうで案をいくつか考えていました。そのときにシナリオ側と相談していたなかで、“そこまでの強敵を相手に1vs1で勝利するならば、なんらかの犠牲を伴うべきではないか”という話が出てきました。例えば、腕を失うような大ケガを負ってしまうぐらいの犠牲がないと、この戦いの絶望感のようなものが伝わらないのではないかと。しかし話を詰めていくなかで、そういうのも何か違うなという意見も出て、試行錯誤を繰り返していました。

 その後、ちょうど去年の12月くらいに正式な担当者を決めたのですが、その担当者が1週間くらいで今の案を出してきまして。自分は、それを見て「サンクレッドらしい戦い方だな」と思ったのでOKを出し、そこから本格的に企画が進んでいったという感じです。

――目に見える犠牲ではないけども、魂を危険域にまで持っていって……みたいなところもその辺りで決まったのですか?

中川:最初はステルスを使うことしか決まっていなかったのですが、ただのステルスだと、このバトルで急に使うのは当然不自然になってしまいます。とくに危険のない技であれば今までにも使えているハズですし、なんらかのリスクを持たせるべきだろう……ということで、設定を追加していった感じですね。

 実装したあとも、テストプレイ時のブレストで議題にあがり“パーフェクトインビジブルがここで急に出てくる技なので、プレイヤー側がその情報量についていけるのか”“ゲーム的にあの状態がずっと続くと死ぬような演出がされるが、それをどうやってプレイヤー側に伝えるのか”という部分は、何度も話し合いがありました。単純な解決案として、デバフをつけてその時間で表現するというのもありましたが……その場合デバフを見ない人もいるでしょうし、表現としては弱いかなと。

 そういった、さまざまなやりとりがあった結果、パーフェクトインビジブル中に“もうすぐやばい”という状況を演出するために画面に紫色のエフェクトをかけ、心臓の鼓動音を入れました。この鼓動音を徐々に早くしていくことで危機感を煽る、今の形に落ち着いた形ですね。

――あれはある種ホラーゲーム的な手法ですよね。

中川:はい。じつは、最初は赤いエフェクトだったんですけど、倫理的にNGが出てしまったので紫に変えました。そのあたり、『FFXIV』ではかなり気を使っているんですよ。

――この激闘の末にランジートは退きました。が……その際、物理的な戦いで地に膝をつかせられただけでなく、同じ父親的な立場としてサンクレッドの意地を見たために、あるいはもしかしたらトドメを刺す余力があったのかもしれないけれど、その場では身を引いたのかな……などと勝手に思っています。このバトルでの体験があったことで、サンクレッドの想いの強さをひしひしと感じ取れて、よりシナリオの没入感が高まりました。

中川:さきほどお話したとおり、このクエストバトルでシナリオ班から提示された要件は、サンクレッドが格上のランジートに辛勝する、というもののみでした。つまり、シナリオ班からは“ランジート&サンクレッドが抱いているミンフィリアへの想いを、バトルの中で表現して”とは言われていなかったんです。そういった状況で、この2人の戦いをドラマチックに演出するにはどうすればいいかを考えたモンスター班の担当者は、全体のプロットやランジートの設定、パッチ5.0でのサンクレッドの扱いといった資料の読み込み、シナリオ班へのヒアリングなどを綿密に行いました。その結果、生まれたのがこのクエストバトルです。

 なので、じつはランジートとサンクレッドの肉体的な戦いだけでなく“言葉の戦い”もバトルで表現すると決めたのは、モンスター班の担当者なんですよ。その判断にいたるまでの道筋が担当者の苦労したポイントであり、その結果はプレイしたみなさんが感じてくれたとおりです。やりきれなかった部分もありますが、やれてよかったと思いましたね。

――そのお話、聞けてよかったです。ちなみに、シナリオ班へのヒアリングは、各担当者が個人の判断で行うものなのでしょうか?

中川:担当者がシナリオ班のブースへ行って話すこともありますし、別途時間を設けてブレスト会議を1時間ほど行う場合もありますね。

――なるほど。……そして、ユールモアへと突入する【膨らんだ嘘】では、暁の面々が勢ぞろいして協力しながら進行する熱い展開が楽しめました。

中川:このクエストバトルでは、シナリオ班から話をもらった時点でやりたいことが明確に決まっていたので、ほかのクエストバトルと比べると作りやすかったです。最終的にプレイヤーとランジートが対決して勝利するという、わかりやすい盛り上がりもありましたので。

――言われてみると、流れ的にはかなり素直な感じですね。

中川:そうですね。ただ、ユールモアの市民が襲ってくる部分の表現は、少しだけ苦労しました。というのも、“暁のメンバーは市民たちを殺害することはない”という大前提があるので、それをインゲームでどう表現するかについて担当者が悩んでいたんです。最終的には、市民のHPをある程度減らしたらターゲット不能にする形で落ち着きましたが、その答えを出すまでに少し時間がかかっていましたね。

――中ボスとして、双子の道化師とのバトルがありました。ここは、アルフィノとのタッグバトルが売りのシーンだと思いますが、どのように演出を構築していったのでしょうか?

中川:当初シナリオ側から聞いていた情報は“双子の道化師を使って中ボス戦がある”といった具合でした。なので、あそこでアルフィノとタッグを組むというアイデアは、企画を進めていくなかででてきたものです。

――アルフィノから回復魔法をかけられたり、逆に彼を狙ったシェアダメージ攻撃に参加して助けたりと、ギミックも凝っていました。双子の片方を倒すと、残ったほうが怒ってバフがかかるのもそれっぽくておもしろかったです。

中川:全体的なボリューム感もとても適切で、かつ短いバトルのなかで工夫する余地も多く、充足感のあるバトルが作れてよかったかなと思っています。

――このクエストバトルのラストは、光の戦士とランジートとの一騎打ちになります。クエストバトルは、基本的に誰でもクリアできるようにしなければならない……けれど熱いバトルを展開するために歯ごたえも出したい……。そういった部分の塩梅は、すごく難しい調整だと思います。とくに、今回はこれまで負け越してきたランジート相手ということで、輪をかけて苦労したのでは?

中川:クエストバトルの難易度は、長年悩んでいるところではあります。基本的な方針としては、全てのクエストバトルは“1~2回のトライで勝てるように”という方向性で作っています。ただ、当然ランジートなどとのバトルでは強敵感を出さないといけなかったので、画的な演出やギミックの量を増やすなどで工夫をしています。ギミックが多いからといって難しくなるとは限らないので、そういうところがバトルコンテンツ担当者の腕の見せどころですね。

――なるほど。ランジートの強さは、技の多彩さで表現しているのですね。

中川:ランジートは、最初は格闘+ペット(グクマッツ)と共闘するスタイルで闘っているのですけど、途中でペットを武器防具として纏い、戦闘スタイルがガラリと変わります。あの演出は、ランジートが普通の人にはできないようなことをやるという強さの演出になっています。

――世界設定的に補足はされていましたが、その変化も当初はモンスター班の方から案が出された形だったのでしょうか?

中川:そうですね。ランジートに関しては、そのキャラクターがどう戦うかを考える際にモンスター班から“ペットが武器防具に変わる”という案を提案させてもらって、それを受け入れてもらった感じですね。それを裏打ちする設定に関しては、織田につけてもらいました。

 話を戻しますが、このクエストバトルの担当者は、“うまく苦戦している感じを出しながら、少ないトライ回数で勝てる塩梅”を模索していました。また、シナリオ的にも、光の戦士はパッチ5.0のスタートからティターニアや大罪喰いといった多くの戦いを経てここにいるので、大きく成長しています。冒険のなかで成長してきているのだから、ランジートと真正面から戦えるようになっていてもおかしくはないだろうという考えのもと、バトルを作っていきました。

――そして、最後になりましたが、【採掘と破砕】では水晶公との道中バトルが非常に印象深かったです。

中川:ドワーフのコルットが道案内してくれるやつですね。じつはあのクエストバトルはもともと実装が予定されていなくて、シナリオプロットの時点で存在しなかった一幕でした。パッチ5.0のクエストを実装していく流れで、「最終的にそういうものが必要になりました」という連絡がシナリオ側からきて、急遽追加したクエストバトルになります。

 とはいえ、最初の時点では“ドワーフのコルットが道案内をしたい、だからクエストバトルを作りたい”という話だけがあったため、何がやりたいのかがあまりつかめなかったんです。「ギルドリーヴにもあった、NPCを誘導していくやつをやりたい」と聞いていて……でもそれだと、道案内をしているのはプレイヤーになってしまうので変だよな、と。いろいろよくわからない部分があったのですが、担当者にヒアリングをしていくうちに、シナリオ側が求めていることが“水晶公と旅をするというシーンをゲーム体験として作りたい”ということなのだとわかり、最終的には「なるほど、なんとか頑張って作りましょう」という形になりました。

――そういうお話ですと、さきほどのフローの流れと異なる形での進行となりそうですね。これも最初はモンスター班のほうで仮セリフを入れ込み、あとでシナリオ側が修正という流れをふんだのでしょうか?

中川:おっしゃるとおり、この企画はややイレギュラーです。最初の企画書の時点で、モンスター班側の担当者が考えた、今リリースされているものとあまり変わらない仮のセリフが記載されていました。担当者の狙いとしては、“コルットが水晶公とプレイヤーの微妙な距離感にいろいろなセリフで突っ込んでいって、両者の関係性を少しずつ引き出していく”といったものでした。

 あとは、水晶公は全てのロールを扱えるキャラクターなので、各ロールの能力を使った要素を随所に組み込みました。プチメテオで罪喰いを一掃したり、コルットを救出で引き寄せて予兆の範囲から出したりとか、そういうネタが盛り込まれています。

――話がややズレますが、クエストバトル時やフェイスでの戦闘時に仲間たちが使うアクション名などはどうやって決めていくのでしょうか。

中川:技名は、仮実装の時点では仮のものを入れています。これは本当に仮も仮で、“水晶公用の救出”とか、名前とは呼べないものですね。そういう仮名称を入れておきつつ、のちの工程で織田に正式に発注をして正式名にしてもらう……という流れです。フェイスについても同様ですね。

 また、ちょっと話が脱線するのですけれど、フェイスの基本AIは、それぞれのキャラクターの個性をだすために、1個ずつオリジナルの技を入れています。ウリエンジェだと“サイオンズ・デス”を、アリゼーだと“ヴァルケアルガ”という“ヴァルケアル”の範囲版みたいな魔法を使います。もともと吉田から、フェイスに関しては“キャラクターの個性が出るようなAIにしてほしい”というオーダーがあったこともあって、独自のアクションを用意しました。

――ウリエンジェの“サイオンズ・デス”はよく見ますが、“ヴァルケアルガ”はまだ見たことがなかったですね。意外と見てない技がありそうなので探してみます。話を戻しますが……コルットの道案内に関してはBGMがクリスタルタワーのアレンジになっていました。あれもモンスター班が発注していたのでしょうか?

中川:いえ、あれは石川が決めたものですね。あの曲は……自分もテストプレイしたときに涙がでそうになりました。

――わかります。

中川:担当者もテストプレイしてすごく喜んでいましたけど、あれのおかげで、すごく雰囲気が出ましたね。

――結果的に、あのバトルは本当にパッチ5.0のシナリオにとってなくてはならないものになっていた気がします。

中川:パッチ5.0のクエストバトルの中では、かなりクオリティの高いものになっていると思います。担当者も、プレイヤーさんからの反応を見て喜んでいました。


  • ▲筆者の涙腺の耐久値は終了いたしました。号泣不可避案件。

――ひととおりクエストバトルについてお聞きしましたが、ここで中川さんの担当されている“統括”という部分についてお尋ねします。統括という立場で、制作時にとくに気にして見ているのはどういった部分なのでしょうか。

中川:やはりシナリオ側がやりたいことと、モンスター側がやりたいこととの方向性に相違がないかどうかを一番気にしていますね。一体そのバトルで何が重要なのか、シナリオ側が最初に出してきたオーダーが本当にシナリオ側のやりたいことなのか。【採掘と破砕】の話でもそうですが……あのクエストの場合、本当にやりたいのは道案内ではなくて水晶公との旅という点でした。道案内という言葉だけを受け取って、そのまま実装してしまうと、取り返しがつかないですよね。ですので、シナリオプロットをもとに企画書を作成するフェーズで、その方向性が本当に間違っていないかどうかをしっかりと、どちらの担当者にも確認するようにしています。

――そもそもの方向付けが、一番重くなってくるのですね。

中川:そうですね。“サンクレッドがパーフェクトインビジブルを使って勝つ”というのも、本当にそれでよいのかは非常に悩みました。

――クエストバトルの制作という面で、中川さん的な“今後どういった試みに取り組んでいきたい”“プレイヤーにどんな体験をさせたい”……という展望を、お話しできる範囲でお聞きしたいです。

クエストバトルは“シナリオ側がやりたいことを100%実現する”ものなので、バトルコンテンツ側としては、例えどんなものであっても“シナリオ側がやりたいと言ったネタを実現できる体制・システムを作っていく”というところが大事かと思っています。そこの土台をしっかりと整えていかないと、さらにクオリティを引き上げることはできないですから。

――真の意図を汲み取る、汲み取ったものを十二分に表現する……というところですね。

中川:はい。システムやフローが本当に最適なのかということもそうですし、スケジュール感や規模感、そして拡張パッケージにいれるバトルの数が本当に適正なのか……などなど考えていくのが自分の仕事かなと思っています。

――ありがとうございました!


 イベントバトルに関するインタビュー前編、いかがでしたでしょうか。後日公開の後編記事では、“なりきりNPC”のバトルについてのお話のほか、シナリオにおけるボス戦……いわゆる討滅戦などの制作エピソードについてもうかがっていますので、ぜひお楽しみに!!

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