千葉県のかずさアカデミアパークで開催されている「第34回国際シミュレーション&ゲーミング学会」にて、ビー・ビー・サーブおよびガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長の孫泰蔵氏、『信長の野望 Online』プロデューサー松原健二氏、韓国中央大学の魏晶玄(ウィ・ジョンヒン)氏らが出席する、オンラインゲームに関するセッションが実施された。
本日行われたセッションは、「オンラインゲームのビジネス」「オンラインゲームのデザイン」の2つ。「オンラインゲームのビジネス」では、孫氏と松原氏より『ラグナロクオンライン』『信長の野望 Online』という2つのMMORPGの運営事例を元に、オンラインゲームビジネスの課題と、その解決方法についての説明がなされた。
■オンラインゲームのビジネス
孫氏はまず、MMORPGは実際にプレイしてもらわないと魅力が伝わらないものということで、オープンβテストの形で無料で遊んでもらってから、有料化していくガンホーのスタイルを説明。ただしこの方法には、オープンβの期間中はまったく収入がないため、非常に大きな先行投資になってしまう問題があるとのこと。また、オープンβから有料化に移行した段階で、何%のユーザーが残るかという予想が非常に難しいため、設備投資面でも適切なサイズを探りにくく、オンラインゲームの運営は非常に難しいものであることを説明した。『ラグナロクオンライン』においては、現在有料会員数(総ガンホーID数)で27万人を確保して黒字となっているが、ビジネス面で見るとMMORPGの運営は非常に大変なことであるという。
また、続いて講演を行ったコーエーの松原氏は、家庭用向けパッケージゲームとオンラインゲームの開発費と収益を比較。パッケージゲームでは、5億円を投資して3億円の利益(投資額の60%の利益)を上げるビジネスモデルが存在するのに対して、オンラインゲームでは3.5年の時間をかけて、44%程度の利益見込みになるという。結局パッケージゲームの方が儲かるわけで、ゲームメーカー各社が一斉にオンラインゲーム開発という動きにならない理由を説明。
では、どうやってこの問題を解決するかというと、まずはコストダウンを図ることになる。3D・MMORPGはパッケージゲームに比べて、グラフィックのデータ量が2倍から5倍になる。コストの多くはこの部分にかかっているため、例えば過去に開発したゲームのグラフィックを流用したり、時には他社から買い取るなどすることで、コストダウンが可能になるとのこと。ただし、再利用のためには過去のデータを管理する、使いやすいデータベースを構築する必要がある。
また、運営コスト面では人件費が大きいため、ゲームの規模を大きくすることで運営費対収入の効率を上げる必要がある。1万人規模のMMORPGを1つ運営するのは不経済だが、3万人規模のMMORPGを3タイトル運営すれば、実質的には9万人規模のMMORPGを運営している状態に近くなり、効率のよい運営が可能になる。
そのほか、課金システムなどを自社で持つことで、先行投資はかかるものの、他社と提携して運営をまかせるよりも、トータルとしてはコストダウンをすることができるとのことだ。
■オンラインゲームのデザイン
続いてのセッション、「オンラインゲームのデザイン」では、魏氏によりパッケージゲームとオンラインゲームの違いが説明された。この説明は魏氏が行った日韓の『リネージュ』ユーザーの調査データをもとにしたものだったが、非常に興味深いデータが多い。例えば、日本でオンラインゲームをプレイしているユーザーは、PCゲーム暦が長い。具体的な例としては、PC98時代に美少女ゲームに触れた人が、今はオンラインゲームを遊んでいるというパターンが上げられた。
また、オンラインゲームをプレイする層は、家庭用ゲームのユーザー層とは違っており、ほとんどのユーザーはオンラインゲームしかプレイしていないとのこと。つまり、多くの家庭用パッケージゲームを遊ぶユーザーにとってオンラインゲームは未知の世界であり、メーカーはこれらのユーザーをいかにオンラインゲームに引き込むかを考える必要がある。
今のところオンラインゲームの市場はパイを奪い合う段階ではなく、市場拡大の時期であり、場合によってはパブリッシャー同士での協力などをするべきではないかという提言もなされた。
続いて登壇したサイバーステップ代表取締役社長の佐藤類氏は、同社が開発した『ゲットアンプド』が、どのように韓国で受け入れられているのか、実際のプレイを交えながら解説した。
まず『ゲットアンプド』の開発コンセプトについて佐藤氏は、ネットで遊べるファミコンソフトのような作品にしたとのこと。ファミコンといえば、アクションゲームだろうということで、本作が作られたという。
この『ゲットアンプド』、韓国では今注目のアバターシステムによる課金を行っており、アイテムやアクセサリー、キャラクターを現実のお金(リアルマネー)で販売している。例えば、キャラクターのスキン変更は330円、名前の変更が90円、もっとも高いアクセサリーが500円といった具合だ。もちろん無料で遊ぶこともできるが、格好いいキャラクターを作るためには、リアルマネーが必要になってくる。佐藤氏によれば、月あたり2,000円から3,000円を使うユーザーもおり、韓国での運営は順調に進んでいるという話だ。
セッションの最後には、松原氏、魏氏、佐藤氏に加えて、コメンテーターとしてスクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏が登壇しての、ゲームデザインに関するパネルディスカッションが行われた。
このディスカッション、各社が運営するタイトルの運営方針、ゲームデザインコンセプト、ユーザーコミュニティの管理、クレームに対する対処、オンラインゲームの可能性と抱える問題など、オンラインゲームに関して広い範囲で話題が提示され、非常に濃密なものとなった。こちらの詳しい様子については、次回のリンクチェックでお届けしよう。
ビー・ビー・サーブとガンホー・オンライン・エンターテイメントでの経験を元に、オンラインゲームビジネスについて語る孫氏。
孫氏が提示する、オンラインゲームの有料化シミュレーション。オープンβの時期のユーザーの動きによって、いくつかのパターンに分かれている。
オンラインゲームは初期投資、ランニングコストのどちらも大きい。資本力がないとMMORPGの運営は難しいとのこと。
松原氏は、プロデューサーを務めた『信長の野望 Online』の事例を元に、パッケージソフトとのビジネスモデルの違いを説明。
グラフィックデータの流用などで、コストを削減。パッケージソフトなどを開発してきたコーエーだからこそできる話だ。
韓国の魏氏は、ネットゲーム先進国で研究をしているだけあり、データをもとに各社への提言を行った。
日韓の『リネージュ』ユーザーの年齢層を比較。日本は年齢層が高く、PCゲームからオンラインゲームに移行したユーザーが多い。
サイバーステップの佐藤氏は、『ゲットアンプド』について説明。韓国での成功事例と、今後の展開についてが語られた。
「オンラインゲームには大きな可能性があるが、反面多くの問題が放置されたままになっている」と語る和田氏。
■関連サイト
・第34回国際シミュレーション&ゲーミング学会公式サイト