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2003年9月26日(金)

【TGS】「今のゲーム産業はシューティングゲームと同じ」任天堂岩田社長が基調講演

 本日9月26日10時30分から、東京ゲームショウ2003会場において、任天堂代表取締役社長 岩田聡氏の基調講演が行われた。公演のテーマは「ファミコンから20年:ゲーム産業の今とこれから」。ゲーム業界の最重要人物の講演とあって、会場には業界関係者を中心に多くの出席者が集まった。
 
 壇上に立った岩田氏は、まず「1983年7月のファミコン発売からの20年間、私はいち開発マンとして家庭用ビデオゲーム作りにかかわり、今日までの発展をすべてこの目で見て実感するチャンスに恵まれました」と前置きし、ファミコン発売からのゲーム産業の歴史について語り始めた。以下に岩田氏の発言を流れに沿って紹介していこう。

■ファミコン~スーパーファミコン時代「ゲームセンターのゲームが家で楽しめる」

 「1983年の時点でファミコンは先発ハードではありませんでしたし、発売当時『任天堂の参入は遅すぎる』と言われたほどでした。流通からも期待はされていませんでした。しかし、当時大学を出たばかりの私は他のゲーム機と比べた明らかなクオリティの差に衝撃を受け、ゲームセンターのゲームが家で楽しめる時代が来たと思いました」

ファミコン時代の特徴
・ゲームソフトは2~3人の開発チームで数ヶ月以内で開発。
・ほとんどのビデオゲームがユーザーの目に新鮮で魅力的に映る。
・10万本以上売れるのは当たり前、100万本以上売れるものも珍しくない

スーパーファミコン時代の特徴
・開発チーム50人以上、開発期間1年半~2年の大作が登場
・1万円を超える値付けのソフトも誕生
・売れる商品と売れない商品が明確に、大作の続編が次々と作られる


■3Dゲーム第1世代「3Dでなければ時代遅れという風潮は行き過ぎだった」

 「1994年以降、あらゆるゲームが3次元化され、派手で豪華な映像がもてはやされました。いまでこそ3Dだからといっておもしろいわけではないという認識ができていますが、当時は派手さこそがていねいな作りこみに優先するという流れができてしまっていました。この風潮は“3Dブーム”と言ってもよいほどのものでしたが、私はこれを行き過ぎであると感じていました」

1994年以降:3Dゲーム第1世代の特徴
・PlayStation/SEGA Saturn/NINTENDO 64 発売
・3Dの映像表現は新鮮で魅力的、3Dでなければ時代遅れという風潮
・インタラクティブなプレイコントロールの作りこみより、派手で豪華な映像がもてはやされる
・開発に必要な時間とパワーはさらに増大
・ソフト低価格化の流れが定着


■3Dゲーム第2世代「多機能ハードについては慎重に考える必要がある」

 「PlayStation 2は、DVDプレイヤー機能を持つことでヒットしましたが、私はゲームが主役でない形でゲームハードが売れるという状況には複雑な気持ちでした。最近はゲーム機もいろいろな機器と融合し、多機能であるほど成功の可能性が高いといった論調があるようですが、それについては慎重に考える必要があると思います。確かにPlayStation 2とDVDプレイヤーの融合は成功しましたが、これは幸福な組み合わせに過ぎないし、今後もしDVDレコーダーなどとの融合が考えられているとしたら(もちろんソニーさんはそんなみっともないことはしないでしょうが)ゲームで遊びながらテレビの録画が同時にできない、などといった欠点を持つことになります。DVDプレイヤーの事例のように、いつも都合よくうまくいくとは限らないわけです。例えば携帯電話にゲーム機能が内蔵されたとして、電話がかかってきたときに電池がなくなってしまったというようなことが許容できるでしょうか。ゲーム機は、誰にでも簡単に使いこなせるということが必要不可欠であって、そういう都合のよい組み合わせはそんなに多くないと思います。私は、多機能ハードこそが答えなんだという論調には同意できません」

2000年以降:3D第2世代の特徴
・PlayStation 2/NINTENDO GAMECUBE/Xbox 発売
・3D映像の表現能力が大きく向上
・DVDプレイヤー機能を標準搭載(PS2)


■現在のゲーム産業の問題点「いまのゲーム産業は、複雑化して衰退したシューティングゲームや格闘ゲームと同じ」

 「ゲーム業界にいる方で、以前のようにゲームソフトが売れなくなったと感じていない方はおそらくおられないでしょう。国内ソフト出荷額は縮小傾向にあるのは、実際のデータにはっきりと表れています。ソフトビジネスが縮小傾向である状況については、新しいハードが浸透するまでの一時的な現象と考えている人もいましたが、私はそうは思いません。景気の低迷や少子化もその一因かもしれませんが、ビデオゲームは以前は景気の影響を受けてこなかった産業ですし、PlayStation2など登場により以前よりもゲームユーザーの年齢は上がっています。

 私はこのゲーム産業の縮小化の原因について、これまでの“ゲームの大容量化、複雑化によってゲームユーザーに満足してもらう”という成功法則が、限界に達し飽和してきたためだと考えます。あらゆる娯楽は“ユーザーの限られた時間を奪い合う戦争”の中にあるのに、ゲームはますます重厚長大になり『最近のゲームにはとても付き合えない』と感じている方が増えてきています。 

 また、その一方で『前と同じでは何の価値も感じてもらえない』『もっと複雑でもっと遊び応えのあるゲームがほしい』というユーザーサイドからの声があることも事実です。そして実際にそれがこれまでの成功法則の王道であったため、開発者も依然としてそれに応えようとしています。 

 しかし、シューティングゲームや格闘ゲームの例を考えてみてください。以前は、シューティングゲームも格闘ゲームも非常に人気のあるジャンルでした。ですが、それらはだんだん複雑化し、いつのまにか普通の人には遊べないものになってしまいました。そしてそのまま衰退の一途をたどり、現在は壊滅状態にあります。いまおこっている日本のゲーム産業全体の縮小は、それと同じようなものであると私は考えています。もともとビデオゲームには対象年齢もなければ、遊ぶ人を選ぶこともなかった。進歩の代わりに失ったものも大きいのです。今後ゲーム産業が再び拡大していくためには、間口が広くて奥が深いゲームを制作し、新しいユーザーを獲得するとともに、ゲームから離れたユーザーを取り戻す必要があります」

■海外市場の現状「世界中で受け入れられるソフトを制作することは難しい」

 「北米市場はヒットソフトが長期にわたって売れ続ける健全な市場です。国内では多くのソフトが1~2週間しか売れず、商品寿命が短いのに比べ、海外市場はソフトが比較的長期にわたって売れ続ける傾向にあります。しかし海外の市場も右肩上がりで拡大し続けるのは難しいようです。なぜなら今後はグラフィックの進化にユーザーが慣れ、驚きや魅力が弱くなっていくでしょうし、これまで世界中で受け入れられてきた日本製ソフトが以前ほど海外で受け入れられなくなってきているというデータもあります。この要因として、ゲームの表現力が向上して、以前はユーザーが想像力で補ってきた部分(国や文化による嗜好の違い)が実際に画面で表現できるようになったことが挙げられると思います。海外の開発者が日本のゲームを研究し、日本の開発者のプレイコントロールについての優位性が失われてきていることもひとつの原因でしょう。かといって海外産のゲームで日本で爆発的に売れているわけでもありません。世界中で受け入れられるソフトを制作することは難しいというのが現実です」

■世界中で売れるソフトとは「間口の広さと奥の深さの両立が必要」

 「世界中で受け入れられるソフトを制作することは難しいと言いましたが、例外的に世界中で売れているソフトがあります。それが『ポケットモンスター』です。『ポケットモンスター ルビー・サファイア』の発売以前には、世界中で『ブームは終わった』と思われていましたが、実際に販売してみると、日本で479万個、北米で316万個、欧州で211万個、オーストラリアで15万個と、全世界で1,000万個を超える本数が販売されています。『ポケモン』は“リアルではない、大容量ではない、3Dではない”ソフトですが、間口の広さと奥の深さを両立することによって、いわゆる重厚長大路線だけが答えではないということを証明していると言えるでしょう。ゲームは技術の進歩とともに発展し、よりリアルな表現を中心とした最先端技術でドライブしていくということを信じている人が多いのですが、決してそうではないと考えています」

■ネットワークゲームについて「月額会費制のビジネスは根付かない」

 「これからはオンラインゲームこそが新しいトレンドだという意見があります。私自身もネットワーク技術をゲームに持ち込むことにはまったく否定的ではありませんし、任天堂はそれをいち早く応用してきた企業もあります。しかし月額会費制のビジネスが新しいんだ、という論調には同意できません。もちろんオンラインゲームがゲームのいちジャンルとして発展していくことを否定するつもりはありません。それに魅力を感じるユーザーさんもいるでしょうし、新しいプラットフォームで努力する開発者の方を応援したいと思っていますが、昨今よく聞かれる『ネットゲームでなければ価値がない』などという発言は、少し前に『ドットコム企業はすべて成功する』と言っていた人たちと同じで、いわば“ハイテク詐欺師”たちの発言だと考えています。そもそも、これはあまり問題にされていないようですが、現在の家庭でネットワークにつながっているのはパーソナルコンピュータであってゲーム機ではなく、ゲーム機に接続するために必要なブロードバンドルータの設定などは、私でもマニュアルと首っ引きでやらなければならないようなものです。一般の方が誰でもできるものとは思いません。

 また、月額会費制となるとネットワークゲームを楽しめる人はさらに制限されてしまいます。実際、採算の取れている月額会費制のネットワークゲームというのは限られていて、パッケージのゲームよりもむしろ小さいといえるのではないでしょうか。海外のニュースでネットワークゲームの会員数が何10万人に達した、というような報道がありますが、それはハードの普及数の10分の1程度にすぎず、そうした報道はミスリード(誤解をまねくもの)であると感じます。しかし、ただ“ハイテク詐欺師”たちを批判しているだけでは未来は拓けません。任天堂では、ネットワークゲームに対するひとつの回答として、『ポケットモンスター』の新作を発表いたします」

【別記事参照「GBA版『ポケモン赤・緑』にワイヤレスアダプタを同梱。岩田社長が詳細を発表」
 
 「これまで私たちは、他人とのコミュニケーションをネットワーク技術を活用して拡張する可能性を議論し続けてきましたが、これらインフラの問題は、課金システムなども含め、一般の子供たちにはほとんど乗り越えることが不可能なハードルです。いずれ空気のような形でどのような家庭でも通信インフラが使える時代がくると信じていますが、早くてもそれは数年後であり、現在は時期尚早と言わざるを得ません。私たちは『ポケモン』を通して、新しいネットワークゲームの楽しさを提唱していきたいと考えています」

 以上、ファミコン時代からのゲームの歴史に触れつつ、それぞれの時代について語る岩田氏の発言を紹介してきた。講演はこのあと、任天堂の中国でのビジネス展開について言及し約1時間で終了。

【別記事参照「任天堂が中国向けに新ハード「神遊」を発売。ソフトはダウンロード方式!」
 
 今回の基調講演は、ゲームの歴史というテーマだけでなく、任天堂としての新たな発表もあり、非常に興味深い内容となっていた。この講演での岩田氏の発言が、今後のゲーム産業の発展の方向を示唆するものになることは想像に難くない。今後のゲーム業界をリードしていくのは任天堂かSCEかマイクロソフトか、または他のメーカーなのか、今後も各メーカーの動向が気になるところだ。

定刻どおりにステージに登場した岩田氏。落ち着いた口調で約1時間の講演を行った。

ファミリーコンピュータ発売から早20年。岩田氏曰く「歴史を紐解くことで今後の展望が見えてくる」とのこと。

1990年、スーパーファミコン登場でゲームはまた大きな進化を遂げた。

3D世代の話題になると、時折辛らつな発言が飛び出す場面も。

過去との比較で、海外での日本産ソフトの売れ行きの低下を指摘。

「世界中で売れるソフト」の例として挙げられた『ポケットモンスター』シリーズ。

「ワイヤレスアダプタ」をソフトに同梱しながらも、価格は据え置きの4,800円で発売すると明言。

「神遊機」はやや大ぶりのコントローラ型ハード。

任天堂の新しい取り組みとして挙げられた要素のなかには、先日発表された「クラブニンテンドー」に関する項目も。詳細の発表が待たれるところだ。


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