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2006年8月30日(水)

【CEDEC2006】ゲーム業界関係者が考える恋愛シミュレーションゲームの現状と今後

 社団法人コンピュータエンターテインメント協会(略称:CESA)が主催するゲーム開発者、および業界関係者向けカンファレンス「CESAデベロッパーズカンファレンス 2006」において、「わが国におけるPCゲームの現状と今後の展望 -恋愛SLG市場の成熟と家庭用ゲーム機への移植を中心に-」をテーマにしたセッションが行われた。登壇者は、東京大学大学院情報学環の吉田正高氏、哲学者・批評家の東浩紀氏、アルケミスト取締役の浦野重信氏、ベック所属のゲームクリエイター・芝村裕吏氏の4人。

 最初に登壇した吉田氏は、恋愛シミュレーションゲームの歴史を解説。PC用ソフトの『ザース』や『WILL』を例に挙げながら、80年代からアニメの影響を受け、「RPGのゲーム性に、いわゆる「アニメ絵」的な表現が加えられたゲームが登場するようになった」と説明した。
 一方で、SS用ソフト『センチメンタル・グラフィティ』を皮切りに、ゲーム性よりキャラクターを重視する状況が一般化したことによるゲーム性の喪失、キャラクターの記号化が加速し差別化ができなくなることを危惧する発言も見られた。

 続いて講演を行った東氏は、恋愛シミュレーションゲームを「PC用ソフト『雫』の影響を受けて登場したシナリオ分岐型のアドベンチャーゲーム」と定義した上で、『ひぐらしのなく頃に』を例に「ゲーム性のない方向へ進んでいる」と語る。
 そういった状況の中でユーザーは、「マルチエンディング的な物語の可能性」やユーザーコミュニティに「ゲーム性」を見出しているのではないかと東氏は考察。特にユーザーコミュニティについて、インターネットの普及によって「ゲームの話を話題に、遠方の人とでも気軽におしゃべりできることを楽しんでいるのではないか」と話した。

 浦野氏からは、PS2用ソフト『ARIA The NATURAL ~遠い記憶のミラージュ~』や『ひぐらしのなく頃に祭』など、原作つきのタイトルを制作しているメーカーとしての話が語られた。
 アニメ、ゲーム、コミック、そしてそれを取り巻くエンタテインメントコンテンツ業界を、近いようで違うものだと説明。商習慣が異なる者同士が共通認識を持つために調整役となる移植会社の役割は大きく、コミュニケーション力が必要になると語る。
 移植について浦野氏は、「結局のところ、お客様や原作を含めた関係者がどれだけ幸せになるかが一番重要」と語り、自分の講演の結びとした。

 最後となった芝村氏は、「ゲーム制作の際、他タイトルと制作タイトルの差別化を説明する上で重要になるのは“キーワード”。いってしまえば一言二言で説明できる変化によって、差別化を繰り返してきた」と、ゲーム制作の実体験から意見を述べた。
 一方で差別化が進むと、外部から見るとわけのわからないものになってしまうことがあるとも語った。海外では、浮世絵がその芸術性ではなく構図や描かれた小物ばかり評価されることを例に挙げ、「われわれの業界でも同じことが起こるかもしれない」とも語った。
 また現在のPCゲーム業界について、「日本はPCゲームの市場規模が小さいが、このまま規模が拡大していけば、大手メーカーが進出してくる可能性も高い。近い将来、具体的にいうなら5年以内にそうなるだろう」と話したところで、今回の講演は幕となった。
美少女ゲームの現状と展望

美少女ゲームの現状と展望

美少女ゲームの現状と展望

美少女ゲームの現状と展望
講演を行った講師たち。画像上から順に吉田氏、東氏、浦野氏、芝村氏。
美少女ゲームの現状と展望
今回のセッションでは、4人の講師によってさまざまな視点から美少女ゲームの現状や移植に関する話、今後の展望などが語られた。


データ

■「CESAデベロッパーズカンファレンス 2006」開催概要
【開催期間】2006年8月30日~9月1日
【場所】昭和女子大学(東京都世田谷区)
【受講料】「レギュラーパス(3日間有効)」CESA会員」:25,000円、一般:50,000円/「デイリーパス(いずれか1日のみ有効)」CESA会員:10,000円、一般:20,000円

■関連サイト
「CEDEC 2006」
社団法人コンピュータエンターテインメント協会