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2007年9月6日(木)

裏テーマは「他のヲタに差をつける!」アニメ検定に向け、桃井講師による講義実施

 「アニメ検定実行委員会」は、11月23日に実施する「全国総合アニメ文化知識検定試験」に向け、「アニメ検定トークセッション」を8月~11月にかけて開催する。その第1回「声優と音響 音楽と主題歌」が、桃井はるこさんを講師に迎えて文京学院大学・文京学院短期大学 本郷キャンパスにて行われた。

 「全国総合アニメ文化知識検定試験(通称、アニメ検定)」は「アニメに関してのさまざまな知識を学び、アニメをより楽しむこと」を目的に行われる、アニメ全般に関わる知識についての検定試験。2007年11月23日に、東京都内にて第1回目の試験が実施される。
  その試験に向けて全9回開催される「アニメ検定トークセッション」では、作品の作り方や流通にいたるまで、アニメ業界に関するさまざまなテーマが扱われる。その第1回「声優と音響 音楽と主題歌」は、声優・アーティストとして活躍中の桃井はるこさんが講師を担当した。

 パリッとしたスーツ姿で教壇に立った桃井さんは、開口一番「今日はマジメにやります。質問があるときには挙手してからするように。それ以外はヤジとみなしますので」と宣言。いつになくシリアスモードだ……と思いきや、「裏テーマは、他のヲタに差をつける、です。明日から使える「知ったか知識」を覚えていってください」と集まった学生を笑わせる。このように、基本的にはマジメな姿勢ながらも、ところどころで桃井節が炸裂した「濃い」講義に、学生たちは真剣な眼差しで聞き入っていた。

教室を埋め尽くした学生を前に、「教師モード」で講義を行う桃井さん。強烈な存在感を放っていた前列の生徒(ロボット)に対しても「明らかにツッコミ待ちな人がいますが、授業を始めます」と華麗にスルーした。

 前半のテーマは「声優と音響」。まず最初に桃井さんが説明したのは、アニメ番組の音声を収録するアフレコ作業の流れについて。収録は、演技やマイク位置の確認などを行う「テスト」、本番同様に演技を行う「ラステス(※1)」、そして「本番」という順番で行われるということを、体験談を交えて説明していく。
 実際に現場に携わった人でないとわからない苦労として桃井さんが挙げたのは、大人数のアフレコでは、限られたマイクを協力して使わなくてはいけないということや、ページをめくる音などのノイズを立ててはいけないということなど。マイク位置の説明では、「複数の役者が入れ替わり立ち替わりマイクの前に立つことになるので、交錯に気をつけなくてはいけません。野球でもよくありますね、交錯プレイ。吉村と栄村とか(※2)」と、プロ野球ファンの桃井さんらしい例えを持ち出す場面も。

 また、「アニメ検定公式問題集2007」から「リップシンク(※3)」についての問題を取り上げ、「よく、キャラの口の動きとセリフを合わせないといけないから大変そうですねって言われるんですけど、最近は合わせることのほうが少ないんですよ」と断言する桃井さん。会場から笑いが起きると、「ここは笑うところじゃないですよ!?(※4) 最近では、完成した絵に声を合わせるんじゃなく、ボールドとかボードと呼ばれる、キャラの動きや表情、効果音などが書かれた指示を見てセリフを言っていくことが一般的なんです」と、ホワイトボードを使いながらその様子を再現していく。こういった、音に絵を合わせる手法「プレスコ」は、収録当日にセリフが変更した場合や、役者のアドリブを生かす際などに効果的なのだとか。

※1 ラステス:「本テス」とも呼ばれる。桃井さんは、「どうやらこのときにも録音をしているらしい。本番でなにかあっても、このパートが使えるようにしているんじゃないかと思っている」とか。
※2 吉村と栄村とか:1988年のプロ野球・巨人対中日戦で、巨人のレフトを守備していた吉村禎章選手と、センターを守備していた栄村忠広選手による衝突事故のこと。当初、吉村選手は再起不能の重症と報じられ、野球ファンに大きな衝撃を与えた。しかし吉村選手はリハビリを乗り越えて現役復帰を果たし、1990年にカムバック賞を受賞している。
※3 リップシンク:音声と動画の同期。
※4 「笑うところじゃないですよ!?」:おそらく、桃井さんが感性のおもむくままにセリフをあてているのだと思ったのではないだろうか。

アニメの制作現場で実際に使用されている専門用語を交え、アフレコとレコーディングの流れを説明。「これは例えですが」と前置きし、“小麦”や“燦”といった、桃井さんファンにはおなじみのキャラクター名がホワイトボードに書かれる場面も。

 続いて、後半のテーマ「音楽と主題歌」へ。この冒頭で、「音楽と主題歌について、キーワードで解説していきたいと思います。音楽制作現場でしか使わないような言葉を紹介していく、通ぶりたい人のための講座にしたいと思います」と前置きした桃井さん。初めて耳にするような用語が次々と飛び出したため、受講生はやや戸惑っていたかも。
  アニメ番組の主題歌ができるまでの流れの解説のなかでは、編曲者(アレンジャー)の仕事の範囲が年々拡大しており、仮歌(※5)まで編曲者が担当することもあることや、TV主題歌はほぼ90秒の「TVサイズ」と呼ばれる長さになっており、90秒におさめるようにさまざまな工夫がされることなどが語られた。この90秒という長さは桃井さんいわく「絶妙な長さ」とのことで、「MADも作りやすいんじゃないですか?」というコメントには会場から大きな笑いが起こっていた。
 講義の締めくくりには、「聞き慣れない言葉が多かったと思いますが、この辺の用語を使うと「それっぽく」聞こえます。「この曲のマスタリングは誰それさんだからいいよな」なんて言ってる人は、桃井的にはかなりいけてると思います」と、明日から使える「知ったか知識」の実践例を教えてくれた。

主題歌制作の実例を説明する際には、桃井さんが作詞・作曲を手がけた「Romantic summer」(TVアニメ「瀬戸の花嫁」のOPテーマ)のデモバージョン、トラックダウンバージョンなど複数のバージョンが披露された。

 また、講演の最後には質疑応答の時間も設けられ、多くの学生が挙手して桃井さんに質問を投げかけていた。その一部を紹介する。

Q:台本の「……」の部分は、収録現場ではなんと呼ばれるのですか?
A:アドリブですね。ほかにも、転んだときの「きゃっ」とか、物を取るときの「よっ」みたいなちょっとした言葉もアドリブと呼ばれます。

Q:ガヤ(※6)では、どんなことを言うのか台本に指定があるんですか?
A:必ずこれを入れなくてはいけない、というようなセリフがある場合は台本に書いてありますが、基本的にはアドリブです。下校時のガヤとか、昼休みのガヤ、というように、シチュエーションに沿ったセリフを入れるんですが、昼休みにガヤで、みんながみんな「おなかすいたね」みたいなことを言ってしまって、「食べ物以外にもなにかありませんか……」とNGになるようなこともあります(笑)。

Q:TVで聞く主題歌と、CDで聞く主題歌で、微妙に違いを感じることがあるのはなぜですか?
A:人によってレコーディングの仕方は違うんですが、基本的に1回の録音で済む人はまずいません。1テイク目、2テイク目、3テイク目、と何回も繰り返し歌い、そこから組み合わせて1つの曲にします。で、TVに使う場合には派手さがほしいからこのバージョン、CDで聞く場合はこっちのバージョンがいいだろう、というようなことがたまーにあります。

Q:TV番組の主題歌を依頼されるとき、番組名やキャラ名などのキーワードを歌詞に盛り込むようにお願いされることもあるんですか?
A:それはほとんどないですねえ。逆に、入れたら「いらないです」って言われることのほうが多い(笑)。マストでこのキーワードを入れてください、というよりは、明るい感じとか、かわいい感じとか、こういうイメージでお願いします、というのが多いですね。私自身はタイトルを入れるのは好きなので、作詞をするときに、タイトルやキャラ名を入れたバージョンと、イメージだけにとどめたバージョンを用意して、どっちがいいですか? と判断をお願いしたこともありますね。

※5 仮歌:レコーディングを行う際のガイドとして収録するボーカル。
※6 ガヤ:その他大勢の声。

「桃井先生!」と呼ばれて「うれしかったですね!」とご満悦の表情を浮かべていた桃井さん。ちなみに指し棒は事前に購入しておいたらしい。

 以上をもって、桃井さんの講義は終了。講師を務めるのは初めてという桃井さんだが、現役ならではエピソードをふんだんにもりこみ、ユーモアも交えた軽妙な進行で、1時間30分の講義があっという間に感じるほどの充実した内容だった。この日の講義は桃井さんいわく「ここ、試験に出る……とは限りません!」とのことだったが、アニメに興味を持っている人にとっては、アニメ制作現場の空気が感じ取れる非常に有意義な講義だったのではないだろうか。また、講義終了後には桃井さんにインタビューを行うことができた。その様子はこちらで。

 なお、次回のトークセッションは、9月22日に「企業とレーベル、地域と地誌」のテーマで開催される予定。詳細については、アニメ検定公式サイトを確認してほしい。



(C)2007アニメ検定 実行委員会

データ

■「アニメ検定トークセッション」スケジュール
第3回 9月22日 「企業とレーベル、地域と地誌」
第4回 9月29日 「技術と科学」
第5回 10月8日 「産業と市場、商品と流通」
第6回 10月14日 「脚本と演出、美術と設定」
第7回 11月3日 「海外への進出、世界の動向」出演:氷川竜介氏
第8回 11月11日 「原作とアレンジ、歴史と発達史」
第9回 11月17日 「アニメ検定試験直前対策」
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■関連サイト
アニメ検定公式サイト