2008年4月7日(月)
2005年10月にTVアニメが放送され、今年1月31日にはDS『蟲師 ~天降る里~』が発売された人気コミック「蟲師」。TVアニメやDSで主人公の“ギンコ”を演じた中野裕斗氏が、「蟲師」に携わった人を訪ねたり、「蟲師」にかかわったことをするコーナー「蟲の居所」の第5回をお届けする。
題字・漆原友紀 |
「蟲師」は、「月刊アフタヌーン」(講談社刊)で隔月連載中のコミック。TVアニメが放送された後、幅広い層の支持を獲得し、文化庁メディア芸術祭「日本のメディア芸術100選」アニメーション部門で6位入賞を果たした。また、DS版『蟲師 ~天降る里~』では、ゲーム内で「蟲師」の世界が再現され、ゲームオリジナルのストーリーを楽しめることでも話題となった。
前回の「蟲の居所」で、木箱を制作することになってしまった中野氏。図面を事務所に忘れて、大変なことになってしまったが、今回はその後の様子をお届けする。
■「大家さん登場」 2008年3月某日
前回、加工所のオヤジさんに大きな材はカットしてもらったが、細かい作業はノコギリとノミを使って、自分で切る必要がある。これが結構キツい。常に中腰だから、腰が痛く、骨が折れる。「坐骨神経痛の俺には、こたえるな……バンテ●ンは手放せない」とつぶやきながら、作業が続く。
ガンガンとノミを入れていると、大家さんが現れた。しまった!! ちょっと大きな音を立てすぎたか? これで出ていけとか言われたら、死活問題だぞ!
中野「すみません、うるさいですか?」
大家さん「全然」
あ、そうですか。でもこれで心おきなく作業に集中できるってもんだ。
作業を進めていると、やはりかみ合わせが悪いことに気が付く。微調整が必要となってくるのだが、これがまた細かい作業だから神経を使う。
どうにかうまくいったので、次に材木を固定するためにボンドをつけ、隠し釘を打つ作業に。……ところがうまく打てない。やはり下穴(あらかじめ穴を開けておき、釘を打ちやすくする穴)を開けたほうがいいか? 仕事帰りの職人・ケンちゃんにエマージェシーコールを送る。現場に駆けつけてくれたケンちゃんは、いともたやすく見本を見せてくれた。
さすがだ! ただのガン●ムおたくではない!
中野「ありがとう! あとは自分で打つから、息子のユーイチローを風呂に入れてやってくれ」
これで外枠は完成したぞ!
問題は背板だ。これもノコで切らねばならない。横はいいが、縦が長いから、真っ直ぐ切れるか!?
俺は深呼吸をして、目を閉じた。一切の雑音をシャットアウトして、「無」になろうとした。
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が! そんなことはいきなりできるわけない(笑)。
気を取り直し、一気にノコギリを引き始めた。
数分後、「意外と簡単に切れたな」と満足気に笑みを浮かべる40男が立っていた。
さあ、いよいよ引き出しだ。その前に仕切りを作らなければならない。どういう工法を用いるか、ケンちゃんに相談するかな。
と、ここで一息入れて、借りていたDVD「里見八犬伝」を観る。深作欣二監督作品である。CGなどに頼らずここまで見せるのはやはりすごい。セットもハンパではない。八犬士が舟を漕いでやってくる場面を見て、映画に対する情熱が改めて沸き上がってきた。
いいものは、いつまで経っても色あせないのだ!
そういう作品を作っていきたい。そして「蟲師」もそうなるだろう!!
■「思い出せ! 我が師の言葉を」 2008年3月某日
さあ、仕切りの板を切り分けるとするか。ケンちゃんと相談の結果、「あいがけ」という工法にする。
……が、これがとにかく面倒くさい! 骨が折れる、腰が痛い、頼むぜ、バン●リン。
って、何を弱音を吐いているだっ! これには「蟲師」の未来がかかっているんだぞ!!
四の五の言わずにやればいいのだっ、Tomorrow never die!
これは映画「007」のサブタイトルだ。ちなみに最新作の「カジノロワイヤル」は、かなりお気に入り。
作業は順調に進み、必要な大きさと枚数は切り終えた。だが、ここからが問題だぞ。
組み合わせる部分を切り込んで、ノミを入れなければならん。ちょっと考えてみてほしい。
引き出しは小さいものが15個(単行本9巻参照)あるんだぞ。
こんなにたくさんの引き出しに、一体何を入れて持ち歩いているんだ、“ギンコ”よ。
おや……仕切りができたら、今度は引き出しも作らねばならんのか。
まずい、まずいぞ。
心が折れそうだ。
こんな時こそ思い出せ! 我が師であるブルース・リーの言葉を。
Walk on. 頑張れ!!
「頑張ろう!」と決意して、墨出し(※)を開始する。計算して数字を出すが、合わない……。
※線・形や寸法を表示すること
真っ直ぐ切れていない証拠だな。ここは微調整する必要があるな。
ちょっと大変そうだから、続きは次回にしよう。
■「難題はなんだい?」 2008年3月某日
行くぜ、切り込み隊長!! 難題の仕切りに突撃じゃ。
慎重にノコギリの刃をあてがい、引き始める。
まずはすべての板に切り込みを入れていく。
それからノミだ、計16カ所×2。
かいちょう、快調! 怪鳥ベニー・ザ・ジェット・ユキーデ!!
さえないオヤジギャグを連呼しながらの作業は非常に楽しい。が、早いとこ、片づけないとそろそろ「早く先に進めろ!」と怒られそうだ。
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よっしゃー! 切り込み終了。続いてノミの登場です!(アナウンス風)
んっ? このノミをよく見ると「闘牛」のシールが貼ってある。
「そうか、お前も一緒に戦ってくれるのか!? よし、わかった。その心意気、しかと受け取った! ともに最強の「蟲師」になろうぞ!」
ちなみに相棒の玄能(カナヅチ)には西洋の甲冑のマークがついている。多国籍軍を率いて、俺の作業は続く。
するとここで、またまた警報が鳴り響く。ノミの幅が大きすぎたのだ。それもそのはず、ノミは21mmで、板は12mmなのだから。
細かい調整が再度必要になるが、今は仕方ない。いらない部分のカットに専念しよう。
唸れ玄能! 吠えろ闘牛!! なお「吠えろ鉄拳」は、真田広之主演のアクション映画だ。おっと、話が逸れたな。
数分後……16あった不要な部分は、見事に消え去っていた。
いよいよ、引き出しだ。
しばらくお前たちの出番はない。しばし、休んでくれたまえ。
ここで玄能と闘牛は工具箱へ帰還することとなった。
そして、最大の難関である引き出しに突入。軽く数えただけでも、90のパーツが必要だ。それも、小さなものばかり。
……ヤツに頼むか。
ホームセンターのトミー・リー・ジョーンズに。
と、その前にケンちゃんを召還して、引き出しの工法を練るのが先だな。
■「眼帯をつけた男、参上」 2008年3月某日
大変だ! ケンちゃんが目に怪我をしてしまった。作業をしていて、鉄くずが刺さったのだ。
幸いにも、小さいものですぐに摘出したため、大事には至らなかったが、眼帯をつける必要があった。
当然本業も休んで、木箱の打ち合わせも後日となる。
眼帯といえば、柳生十兵衛……「魔界転生」はおもしろかった。やはり千葉真一の十兵衛は最高にイイ!! そして忘れてはならないのはTVアニメの「十兵衛ちゃん」。これは大地丙太郎監督の作品で、これまたとんでもなくイカした作品になっている。
十兵衛といえばもう1つ。「ムラマサ」の力さん(竹内力)は、迫力がある。ああいう出で立ちがさまになる人は、そうそういないから必見だ!
ちなみに俺はチョンマゲが意外と似合う。オデコが広いからかな……。
ああ、そうだ。
ケンちゃんには、ハート型のラヴリーな眼帯がいいんじゃないか。“十兵衛ちゃん”がしているヤツ。その旨をケンちゃんに伝えると、彼もその気になって「よし! ヨメに作ってもらうよ」と声を弾ませた。
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30分後に、メールが届いた。
「ミサエが口を利いてくれなくなった……」
俺の予想だと、奥さんのミサエさんは最初快く応じたはずだが、1mmのズレも許さない職人気質のケンちゃんが、ああだこうだと口を挟み、さすがのミサエさんも
「だったら、自分でやんなさいよ!!」と怒ったのだろう。
うん、きっとそうだ。
それにしてもちょっとのズレも許さない男が、この木箱に関してはユルい……。思えばサシガネも使っていないのだ。
サシガネを使わないと、90度をキチンと取ることができない。では、どうやったのか? 職人としての感である。まあ、あまりキッチリ作ると味がなくなってしまうから、それくらいがいいのだがな。
個人的には、ちょっと危うい感じの木箱にしたいのだ。
そんな木箱を目指した俺の作業は、まだしばらく続く。
もうちょっと付き合ってくれ。
・中野裕斗氏近況 |
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スキを見て「Gメン75」のDVDを購入しました。 「1月3日、関谷警部補、殉職」という好きな話が収録されているのですが、子どものころに見て衝撃を受けた映画なんです。 そんなわけで、“関谷警部補”という大好きな登場キャラクターに会えるのを楽しみにしていたんですが、自分を待ち受けていたのは、犯人の犯行の数々。ショックでした。 最後まで見終えたあとに、30年近くため込んできたモヤモヤが晴れるのを感じました。 |
(C)漆原友紀/講談社・「蟲師」製作委員会
(C)2008 Marvelous Entertainment Inc.