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2008年12月18日(木)

行ってみたい場所は「衛星軌道」!? 河森正治氏のインタビューをお届け!

文:電撃オンライン

 第21回東京国際映画祭で開催された、ビジョンクリエイター・河森正治氏のティーチインイベント。そのイベント終了後、河森氏にインタビューを行った。


 インタビューでは、この日行われたティーチインイベントに即したものから、今後の河森氏の活動に関するものまで、さまざまな質問に答えてもらった。以下に、インタビューの内容を掲載していこう。

――まずは率直に、今日のイベントの感想をお聞かせいただけますか?

河森氏:そうですね。「kenjiの春」は、10年以上前にTVでオンエアしたものとビデオ以外には、自分も大画面で見たことがなかったので、しばらくぶりに上映できてよかったですね。トーク部分に関しては、本当にあと3~4倍の時間がほしいくらい(笑)。最初集めたネタを圧縮して駆け抜けた感じですね。

――これまで多くの場所に取材に行っていると思いますが、その中で一番衝撃的だった場所はどこでしょうか?

河森氏:最初の衝撃としては、イベントでも話した中国の奥地の子どもたちの目でしたね。あとは、ボルネオのジャングルはすごかったですよね。ブラジルの「パンタナール」という湿原地帯もおもしろかったです。乾季になると干上がってしまう湿地帯なんですけど、そうなると小さな池のような水場に、いろんな生物が集まるんですよ。カピパラとワニが並んで仲よく水を飲んでいたり、その横には水鳥がいたりして。弱肉強食はどこに行ったんだみたいな状況(笑)。そういう場面を目の当たりにしてしまうと、大好きな動物系のドキュメンタリーでも、獲物を取る瞬間ばかりを編集して写しているんだと思わされてしまう。もっと時間がのどかに過ぎているんだな、と。

――河森監督というと、「インド」の印象が強いのですが……?

河森氏:ハハハ(笑)。インドはエキサイティングですよ~。イベントでもインドの話をしようかと思ったんですが、その話をしちゃうと止まらないんで。インドのカルチャーショックで大きかったのは、やっぱりガンジス川ですね。死体を焼いているわ、それが流れてくるわ……そこで顔洗ってトイレまでしている。絶対日本ではありえない、すべての生き方がむき出しなんです。その感覚が通用する場所が、大きな街中で20世紀後半まで維持されていたというのが何よりも驚きでしたね。他だと奥地に行かないとそういうものがないんですよ。

――では、そんな監督が今後行ってみたい場所はどこですか?

河森氏:そうですねえ……。とりあえず衛星軌道は行きたいですよね(笑)。できれば、バンアレン帯の外まで行きたいです。実際、スペースシャトルくらいの軌道だと、すごく地球に近いんですよ。本当に地球から離れたって言えるのは、バンアレン帯の外だろうって話があって。そのぐらいまで、万が一行けたらいいし、あと深海には行ってみたいですね。南極やアフリカにも行きたいし、接触していいかどうかは別として、アマゾンの非接触民族を遠巻きでもいいから見たいですし、行きたいところが多いですね。

――今日のイベント中に「TVを見ていない子どもたちの方が、顔がイキイキしていた」と、おっしゃっていました。河森さんは監督として多くのアニメ作品を作っていますが、仕事を辞めようと思ったことはありますか?

河森氏:もう、ずっとその葛藤の歴史みたいなものですよね。TVでも映画でもメディアってどうしても、催眠とか洗脳というとオーバーですが、意識操作の性質を帯びているワケなんですよね。そういうメディアにかかわっている以上、もし可能であれば、催眠が解けるような作品ができないかなと。その作品を見ることで、モノの見方が変わったり。それって、いいとか悪いとかではないんですよね。別の見方もあるってことがわかったり、普通の子に比べるとマニアックでもいいから、たまには外に遊びに行く――そんな子どもが増えてくれたらいいなとは思いますね。

――「マクロスF」で新たに河森作品のファンなった人の声を聞いて思ったことや、やってみてよかったと思うことはありましたか?

河森氏:昔自分が、最初の「超時空要塞マクロス」を作ったころは、インターネットがほとんど影も形もないような時代だから、反応が返ってくるまで、すっごい時間がかかったワケですよね。そのぶん、必死になって情報を探したり必死になって届けようとしたんでしょうけども。それが、「マクロスF」では周りからもネットでの反響を聞かされたり、ライブに行くと直にそういう人たちに会えたりして、リアルタイムでモノを作っている最中に反響が返ってきて、それをフィードバックしていけるみたいなところは楽しかったですね。映画と比べてTVシリーズって、そこが醍醐味でもありますので。

――ネットの反響は気になっていましたか?

河森氏:正確に言うと気にしたらまずいんですよね。そこでの反響って、ごく一部の声ですからね。ただ、今までの傾向を見てると、2年3年経つとそっちがだんだん主流になっていくような傾向があるんで、もしかしたら今の日本の子どもや若者たちがそういう思考パターンの中にいるんだなっていうのが見えるような。なんか、文化人類学的興味というか(笑)、世界の他の国だとぜんぜん違うものの見方をしている人たちがいて。念押ししておきますけどいいとか悪いとかじゃなくて、この違いがおもしろいんですよ。ジャングル行ったり珊瑚礁行ったりすると、実に多様な生物がいます。それがおもしろいんですよね。ずっとテクノロジーや機械工学、最先端科学についても興味を持っていましたが、それと同時に生態系や先住民族の暮らしにあこがれていたり。両方が混在できるような社会だったらいいなと思いますね。片方だけどちらがいいっていうんじゃなくてね。

――どんな音楽が好きだったりするのでしょうか?

河森氏:わりとノージャンルで、どれも結構楽しめちゃうほうです(笑)。ただ、ある時期から「生」が好きになってしまって……。普段の自分って、メディアにあまり触れないで過ごしているというか、中国に行って帰ってきてから、ほとんど小説とかストーリー性のある映画を見られなくなっちゃって、ノンフィクションとドキュメンタリーばかり見ています。最近だと、それさえもあまり見なくなって、極端なこと言うと公園行って鳥や虫の声聞いているほうが音楽だなって(笑)。ただ、民俗音楽がとても好きというのもあるので、アフリカやアマゾンなどの先住民族が観光のためではなく、自分たちの儀式として催すお祭りとかに参加してみたいですね。そういうところでの歌とかを聴いてみたいです。モンゴルに行った時、モンゴルの若手No.1歌手が歌っているのを聞いたんですけど、あまりの声量の多さに部屋中のガラスが共振してしまって、このままいくと、窓が割れるんじゃないかと思ったり(笑)。別にメディアというものを否定するわけでないし、作るのは好きなんですけれども、体験するなら、生がいいなぁって。そんな感じですね。

――「マクロスF」では大規模なライブツアーが行われていますが、その感想などありましたら教えてください。

河森氏:「マクロスF」の場合だと、歌姫2人という、かなりチャレンジングなところがあって。しかも“シェリル”とかは「銀河系No.1」とか言っちゃってますし(笑)。菅野さんの音楽はもちろんのこと、May’nちゃんが歌ってくれたおかげで、“シェリル”の歌に説得力を持たせることができたし、いい形になったと思います。オーディションで選んだ中島愛(めぐみ)ちゃんも“ランカ”としての、“シェリル”とはぜんぜん違うタイプの歌声で、それがあわさっていく。タイプも歌い方も、全然違う2人がいることで多様性が表現できればと思っていたんで。その2人が一緒にデュエットしていくっていうのは、気持ちいいんですよね、自分の中では。1人の人が歌うのも好きなんだけど、全然異質のものが合体していく感じが好き。そんな感じでしたね。

――「マクロス」シリーズでは三角関係が主題になったりするのですが、これは監督ご自身の恋愛感などが反映されていたりするのでしょうか?

河森氏:ハハハ(笑)。きっとあの娘のこういうところがいいなとか、こっちの娘はココがいいなとか、多様性はいい! ……みたいなね(笑)。絞り込めない性格なんでね。「マクロスF」も、最後の方は開き直ってて。いろんな国を取材していると、いまだにかなりの割合は一夫多妻制で、チベットに行こうものなら一妻多夫で。一夫一婦制が近代的な幻想に過ぎないというところを見てしまうんですよ(笑)。日本で言えば、戦後ようやくですよね。一応形の上では一夫一婦制でしたが、農村だとかに行くと、全然守られていないところもあったりしてね。この制度自体、「そうじゃなきゃいけない」と思い込まされているんだなぁと。あまりにも「思い込まされていたんだなぁ」と感じる体験が多すぎて、ちょっと価値観が現代日本に合わなくなってきています(笑)。よくそれで「お前、ちょっとおかしいんじゃないか?」とか言われたりするんですけども。地球規模とか宇宙規模でのメンタリティの中では、それもアリなんじゃないかと思ったりするんですよね。まぁ、言い訳でもあるんですけどね(笑)。

――続いて「マクロス」シリーズに関して伺います。このシリーズでは、無文明の相手にショックを与える手段として、歌が使われています。その理由を教えてもらえますか?

河森氏:例えば文字言語って、世界共通のものになりにくいじゃないですか。それと比べると、音楽は国境を越えていくケースがとても多いんです。ボルネオのジャングルに行った時にすごいと感じたのが、木の密度や虫の多さとかよりも、とにかく声――人の声ではなく、虫や鳥や動物の声だったんですね。特に夕方はすごかった。ものすごい音圧なんですけど、その中でもガイドさんは「今、オスの鹿とメスの鹿が鳴き交わしましたね」なんて聞き分けているんです。そういうのを見た時に、「人間以外とのコミュニケーション手段になりうるんじゃないかな?」なんて妄想がふくらむワケです。そうした体験がアイデアの原点なんじゃないかと。

──「マクロスF」最終回では、後半部分のほとんどで歌を流していく演出を組み込んでしました。その意図は?

河森氏:歌姫が1人だったら、ここまでやらなかったですよね(笑)。2人いるんで、それを完全に生かそう思って。こんなチャンスはめったにないから、それだったら徹底してやっちゃおうかと。1回見ただけだと置いてきぼりになるかもしれないけど2回目3回目と見ていくうちにどんどん深いところに染み込んで来るような。実際もし、戦争とかで戦場に行ったらば、そうだろうなと。自分たちが何やっているのか。どこに敵がいて、誰が味方なのかさえわからない状態で戦うわけですよね。しばらくして振り返って、やっとだんだんわかってくるみたいな。下手したら10年20年たって、やっと自分たちが何していたかわかるくらいのね。そんな風になったらおもしろいかなという実験でもありますよね。TVを見ている時にはわからなくて。2回目3回目にわかる、みたいな。TVとしては反則ですけども(笑)、見直した時に、違って見えてきたり。ある時現代日本以外の価値観に触れるような体験をしてから見るとまた違った見えたり。その見え方の違いそのものも、またエンターテイメントだと思っているので。

──劇場版について、監督の中ではどういったビジョンが見えていますか?

河森氏:お伝えできる部分はまだあまりないんですが、基本的にはストーリーをなぞっていくつもりでいます。ただ、結構アレンジはするつもりですし、大きな画面で観客が「体験」として歌や戦闘を感じられるようにできたらいいなと思います。

──TVシリーズの最終回後のストーリーを描かれる可能性はありますか?

河森:これが難しくってですね……どこをもって後というかなんですけど、後というよりは、前の部分の方が多いんですけども、じゃあ後の部分が全然ないのかというとそうでもないので。どういう風に処理しようかいろいろと計画中です。

――「マクロスF」で、歌姫を2人にしたことには何か理由があったんですか?

河森氏:1人だと“ミンメイ”になっちゃうし、グループだと「ファイアーボンバー」になっちゃう(笑)。少しマジメに言いますと、女の子1人だと、今の音楽シーンをカバーしきれないというのがあったんですよね。全然違うタイプの歌手2人であれば、そうしたところをフォローできるかなと。“ランカ”なんかは、今だとむしろ新鮮な感じに見えたのでは、と思います。

――河森監督も曲の制作に参加されたりしたんでしょうか。

河森氏:ミーティングの段階で「こんな感じで」みたいな話はしましたね。どちらかというと菅野さん(菅野よう子さん)に作品の世界観を説明しながら、キモになる部分を一緒に伝えるって感じでしたね。そうすると自由に広げていってくれるので。

――「マクロスF」が25周年作品でしたが、例えば30周年で「マクロス」新作の話があったら、また「マクロス」をやりたいですか?

河森氏:30周年……近いですよね(笑)。正確に言っちゃうと2007年が25周年だから、もう1年経っているし。来年映画やっているころには27年で、その3年後かとか思うとドキドキしますよね(笑)。うーん、まったく違うタイプの切り口が思いつけば、やるかもしれませんね。「マクロス」は歌で決着つけるところ以外はなんとでもなるんですよね。毎回の話は思いつくんですけど、最後だけが大変なんです。そのアイデアが閃いたらやるかもしれませんね。ひらめかなかったら、どうしようかな? って感じですよね。

――新規プロジェクトとなる「バスカッシュ!」の内容について、答えられる範囲で教えてください。

河森氏:内容については、まだたくさんのことを言える時期ではありませんが、映像を見ていただければわかるように「巨大マシンでやるバスケット+αのスポーツ」なんです。「マクロスF」は、自分の中ではかなりオーソドックスに作っているので、この作品ではまた新たなスタッフに参加してもらって、「ノールール」という言葉どおり常識をブチ破ることができたらいいなと思っていますね。

──「バスカッシュ!」で一番やりたいことはなんですか?

河森氏:今までロボットモノはいっぱいやってきているんですけれども、「まだこんなにも可能性があった!」とか、「こんな表現方法があったんだ!」というところが見つかりかけているところです。「アクエリオン」の時にもそうだったんですけども、合体ロボットモノって腐るほどあるんだけど、いざ視点を変えてみたら、「合体」というテーマってやり尽くされていないんじゃないかってわかってきて。「バスカッシュ!」の場合は、ややスポーツ寄りな作品ではあるんですけど、それにとらわれない斬新な表現方法があるんじゃないか。そういうことでやっています。

――河森監督は、ロボットをデザインする時にブロックを使っていると聞きましたが、それは今でも変わらないのでしょうか?

河森氏:ブロックを使ってデザインするのは変形メカの時だけなんですよ。変形しない場合には、頭の中でできちゃうので。さらに言うと、おもちゃとして製品化される場合だけですね。製品化するとなると、強度の問題であったり、パーツの干渉の問題であったり、そうしたものが出てきてしまうので。

――なるほど。例えば「VF-25」なんかはどれくらいの期間で作っていたんですか?

河森氏:他の仕事を並行して進めながら、ちょっと作っては別のこと、ちょっと作っては別のこと、という感じなので、正確なところはわかりませんが、期間で言うなら3カ月くらいですね。基本構造など、大体のところは1週間くらいでできちゃうんですよ。そこから細かいところに入っていくんです。1個でも無駄な関節を減らしたり、この部分をよりよくしようだとか、変形機構を前のものと大幅に変えようだとか、そういうところに時間を食うんですよ。「マクロスゼロ」に登場する「SV-51」を作った時は、パーツも足りなかったし大変だったんですよ。なんだかんだで1年半くらいかかちゃってるんですよ。

――「マクロスF」は、Blu-ray Discでのセールスも成功をおさめていて、河森監督も先ほどのイベントで劇場版を「大画面で見てほしい」とおっしゃっていました。普通のTVで見るユーザーと大画面で見るユーザーとで視聴環境に格差が出てきてきそうなのですが、そうしたところで何か意識している部分はありますか?

河森氏:画面が大きくなってくれるのはうれしいんですよ。自分の場合はどちらかというと大画面志向なんで。逆にネットとかでちっちゃく見られてしまうとキツいところは正直ありますね。ストリーミングなどだと、技術的な面でどうしようもない部分もあるんですが。小さい画面ですと、どうしても頭で考える部分やセリフのやりとりが前面に出てきてしまう。そして体感の部分がどうしても薄れてしまう。一番伝えたいところがオミットされてしまうんですね。深層心理などに訴えられない、別作品になっちゃう。逆に小さな画面でやるんだとしたら、説明の部分やセリフを増やした方がいいんです。そうじゃないことをしているので……できれば両立させたい部分ではあるんですけど、悩んでいる部分ですね。

――ありがとうございます。では、ちょっと質問の趣向が変わりますが、今一番興味を持っていることは?

河森氏:企画のネタになっているところもあるんで、ちょっと言えないところもあるんですけど、生物としての人間の能力にはずっと興味があって、それは今でも変わらないですね。いろんな人に「誰か変わった能力を持っている人を知りませんか?」って聞いているくらいです。ぶっちゃけて言ってしまうと、完全なインチキだったり勘違いだったりってこともたくさんあるんですけど、「本当にこんなことできるんだ! 人間ってこんな可能性を持っているんだ」と驚かされる人もいっぱいいます。世界中にはきっとそういう人たちがたくさんいると思うんで、そういう人たちに触れてみたいですね。

――では最後に、劇場版「マクロスF」や新プロジェクト「バスカッシュ!」を待っているファンに向けてひと言お願いします。

河森氏:これからもどんどん新しいチャレンジをしていきたいと思っているので、ご期待ください!

――ありがとうございました!

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