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2009年2月11日(水)

電撃小説大賞・金賞『パララバ -Parallel lovers-』の静月先生にインタビュー

文:電撃オンライン

 “第15回電撃小説大賞”の金賞を受賞した『パララバ -Parallel lovers-』の著者、静月遠火先生にインタビューを行った。

『パララバ -Parallel lovers-』 『パララバ -Parallel lovers-』
▲写真は静月遠火先生(写真左)と、受賞作『パララバ -Parallel lovers-』の表紙(写真右)。

 『パララバ -Parallel lovers-』は、想いを寄せる少年・一哉の死にうちひしがれる主人公・綾のもとに、死んだはずの一哉から一本の電話が掛かってくるところからはじまる学園ラブミステリー。著者の静月先生に、さまざまな質問をぶつけてみたのでご覧いただきたい。

――まずは、作品を書こうと思った経緯を教えてください。

静月先生:大学のサークルで、お題を決めて作品を書いたことがあったんです。その時のお題が確か“電話”で、すごく短いプロローグのようなものを書きました。それを長くしてみようと思って作ったものがこの作品です。それと、高畑京一郎先生の『タイム・リープ』がすごく好きで、いつかこんな話を書いてみようと思っていたこともキッカケの1つですね。

――“大学のサークル”というのは文芸部のようなものだったのでしょうか?

静月先生:そうですね。児童文学を書くサークルでした。

――そちらで作品を定期的に書いていたんですか?

静月先生:大体毎週書いていました。ふらっと行ったらシャーロック・ホームズの絵を見つけて、思わず入会してしまいました。

――ミステリー作品がお好きなんですか?

静月先生:それしか読まないぐらい大好きですね。

――ちなみに、どういった作家さんがお好きですか?

静月先生:西澤保彦先生や、麻耶雄嵩先生です。新本格派と呼ばれる方たちは全部好きですね。

――あとがきや今のお話でも触れていた、高畑先生の『タイム・リープ』についておうかがいします。最初に読んだのはいつごろでしたか?

静月先生:一番最初の『クリス・クロス』を受賞された時にファンになったんです。それからずっと新刊が出たら買っていました。

――その中でも、一番のお気に入りが『タイム・リープ』だと。

静月先生:はい。読んだ時にすごく感動して、興奮して読んでいられなくなって。

――部屋の中を動き回ったと書かれていましたよね。

静月先生:寝ながら読んで、座って読んで、立って読んで、歩き回って読んでいたんですけど、本を持っていられなくなったのでぐるぐる動き回って本に戻ってを繰り返しました(笑)。

――やはり一番好きな作家さんは、高畑先生ですか。

静月先生:そうですね。

――この作品は、学生のころ書いたショートショートがもとということでしたが、そうしますと、ずいぶんと寝かせていたことになりますよね。

静月先生:その時に書こうと思って、タイトルも決めていたんですが、本屋さんに行ったら東野圭吾先生の『パラレルワールド・ラブストーリー』が平積みになっていたんです。「絶対内容が同じだ!」と見た瞬間に怖くなってしまって、そのまま書くのを止めたんです。勇気を出して読んだら全然違う話でした(笑)。

――『パララバ -Parallel lovers-』というタイトルはそのころから変わっていないんですか?

静月先生:タイトルは最初『パラレル・ラブストーリー』でした。

――カブってますね(笑)。

静月先生:そうなんです(笑)。

――それで『パララバ -Parallel lovers-』になったんですね。

静月先生:これならカブらないなと。

――タイトルはすぐに決まりましたか?

静月先生:書き出す前から決まっていました。

――今回賞に応募しようと思ったキッカケを教えてもらえますか?

静月先生:学生時代から応募しようと思っていたんですが、読み返すとすごくヘタなんですよ。どう考えても「ないだろ」と思って。ずっとそう思っていたんですけど、去年書いたファンタジーものが人さまにお見せできそうだったんです。でも、規定をものすごくオーバーしていまして。

――分量が多かったんですか?

静月先生:すっごく多かったです。1.5倍ぐらい(笑)。でもこれなら来年は行けるなと思いました。

――応募は初めてだったんですか?

静月先生:いえ、大学時代に短編を応募しました。短編ならなんとか――と思ったんですが、一次も通りませんでした。それ以来ですね。

――今回ミステリーを書こうと思ったのはどうしてですか?

静月先生:なんとか人さまにお見せできるような文章が書けるようになったなと思い、「よし、じゃあ高畑先生のような作品を書こう」と考えたんです。その時に大学時代に書いて眠っていたものがあったなと思って、こうなりました。

――この作品は、ケータイ電話を使って一哉と綾がやり取りをする設定になっていますが、この設定を作るにあたって参考にしたものなどはありますか?

静月先生:相手が死んだと思っていたら自分が死んでいたというのはよくある話だと思うんですね。そこで電話を使ってのやり取りを考えたんですが、家の電話だと毎回家に帰らないといけないじゃないですか。じゃあ動きながら連絡できるケータイだねといった具合に順番に作っていきました。

――登場人物やアイテムをうまく使って、きれいに伏線を消化している作品だなという印象を受けたのですが、ストーリーを練り込むのに苦労などはありましたか?

静月先生:今までは自分が好きなキャラクターを作って、好きなように動いて、最後悪者をやっつけてといった話ばかりだったので、話を練って書くのは初めてだったんです。ジャンルなども含めて全部初めてだったものですから、全部大変でしたね……。

――ストーリーを作るのにはどのくらいの時間が掛かりましたか?

静月先生:ある程度枠を作ってから書き出したので、意外と早かったですね。かかった時間は全部で4カ月ぐらいですが、話自体は1カ月ぐらいでできました。

――サクサク進んだみたいですね。

静月先生:逆に書き出してからが長かったんですけどね。

――書いていくうえで苦労した点などはありましたか?

静月先生:辻褄が合わなくなるところがあったんです。カレンダーを書いて、キャラクターが考えていることを全部書き出していったんですけど、わかんなくなっちゃって……。できた! と思ったらまた矛盾が見つかってしまって……。

――作品ができた後もそういった辻褄合わせの作業が大変だったと。

静月先生:もう暗記するくらい読み返しました。逆にわけがわかんなくなって、「もういいだろ!」みたいに思うこともありましたね(笑)。

――あとがきにも書かれていましたが、何度も推敲をされていたみたいですね。

静月先生:そのわりに……こんなですけどね(笑)。

――いや、金賞じゃないですか! この作品の見どころはどこになりますか?

静月先生:女の子側の視点だけで、男の子側の描写は1カ所もないんですけど、男の子側の世界にも人がいっぱいいて、違うことをしているのがうまく伝わるといいなと思っています。

――登場キャラクターは実際の友人をモデルに作られたそうですが、そのことについてお話いただけますか?

静月先生:盛り込まれているエピソードも、ほとんど実際にあったことをモデルにしています。自分で考えたことは少ないですね。

――劇中に○○○から□□□が作れるという話があったんですが、あれは本当の話なんですか?

静月先生:何年か前に、○○○からそういう成分だけを抽出して逮捕されたという人がいたらしいんです。本当に作れるかどうかはわからないんですけど、ミステリーを書く時は実際に犯罪に応用できないように、ありそうだけどないものを書いた方がいいということもあって、こういう設定にしてあります。

――劇中に出てくるストラップなども実際にあるものなんですか?

静月先生:ストラップのキャラクターは、絵本を描いていた友だちがアヒルのキャラクターを作っていて、それをモデルにしています。でも友だちのキャラクターなので、賞をいただいた段階で名前をヒヨコに変えさせてもらいました。最初は“アヒレンジャー”というキャラクターだったんです。

――それで色がカラフルなんですね。

静月先生:そうなんです。

――越島はぐさんのイラストをご覧になっていかがでしたか?

静月先生:想像していたものよりもすごくよかったですね。ヒロインは自分に自信がない女の子なんですけど、これだけ美人なら自信がないのはおかしいよなと思いましたね(笑)。部室の壁がゴチャゴチャしているのも理想通りで。特に感動したのが、この(※目次のページのイラスト)です。世界が2つあって空が映っているイラストなんですけど、漠然と頭の中にあったものを何も言わないのに描いていただけて、これを見た時に泣きそうになりました。

――お気に入りのキャラクターは誰ですか?

静月先生:綾を見た時カワイイー! と思ったんですけど、一哉もカッコいいですよね。全然活躍しないんですけどね(笑)。活躍させておけばよかったなぁと思います。合気道部って男の人は師範とかじゃないと袴着けないんですけど、着けた方がカッコいいので「袴で」とお願いしました。

――他に先生の方からイラストについて出した要望などはありますか?

静月先生:一哉の体格の話はしました。痩せているものと筋肉質のものを見せていただいて、じゃあ中間ぐらいで、と。

――この体格がベストというわけですね。

静月先生:そうですね。ベストです。

――受賞後、担当編集とやり取りがあったと思うんですが、本が出る実感などはありますか?

静月先生:実感はまったくないですね。メールマガジンに本の金額が書いてあったんですが、それを見てちょっと実感がわきました。

――授賞式の時も実感がないと話していましたよね。静月先生は、授賞式の時のインタビューで「今回は切ない話だったので、次は明るく元気な話が書きたい」と答えていましたが、今後の展開について教えてもらえますか?

静月先生:一応、次の作品のお話もさせていただいています。次の作品では、男の子も女の子も元気なキャラクターにしたいと考えています。でもミステリーにしようか、ホラーっぽいミステリーにしようか迷っているんです。舞台は学園で、今回の作品のように男の子と女の子がすれ違う話にしようとは思っているんですが……。『パララバ』と枠は似ていても違うような作品にできればいいなと考えています。

――作品の内容からは少し離れるんですが、普段ゲームってプレイされますか? 原稿の中にこれは『バイオハザード』の影響を受けているのでは? と思われる部分がありましたが……。

静月先生:しますよ。あの部分は高校生ならあぁいうことやると思って書いたんですが、やりませんかね(笑)。やらないかなぁ。私、運動神経はよくないのでアクションやシューティングはできないんですけど、従兄弟がオタクで、すごいディープなシューティングゲーマーなんですよ。しかもMSXユーザーなんです。自分では『ドラクエ』や『FF』など有名どころしかやったことがないんですけど、家に遊びに行ってよく見ていました。

――『ドラクエ』や『FF』だと、ファンタジーや冒険といったところが以前の作風とカブるかと思うんですが、やはりゲームもそういったジャンルがお好きなんですか?

静月先生:最近だと、『ICO』とか『ワンダと巨象』とかですね。

――なるほど。その2本、難しくなかったですか?

静月先生:難しかったです(笑)。頑張りました。でも従兄弟がやっているシューティングゲームよりは……。東亜プランのゲームとかやられてもついていけないじゃないですか(笑)。

――それは確かにハードル高いですね(笑)。まさか東亜プランをここで聞くことになるとは思いませんでした……。貴重なお話をありがとうございます。では、これから電撃大賞に応募する人に向けて、受賞のコツのようなものがあれば教えてください。

静月先生:いっぱい友だちに読んでもらいましたね。一番最初に読んでもらった時に、最後の解決シーンで、犯人がなぜ彼を殺したのかという動機を語るシーンが抜けていたんです。読んだ友だちに、なんで犯人殺したの? って言われて急いで書きました。出す前に読んでもらうのは大事です。あとは推敲ですね。

――ありがとうございます。先生から、これだけは語っておきたいというお話などはありますか?

静月先生:語るべきことはこっち(作品)で。伝わらなければ力量不足といった感じで。

――最後に、これから本を手に取る読者に向けてメッセージ&アピールをお願いします。

静月先生:難しいですね……。イラストがかわいいです。ダメですか?(笑)。遠距離恋愛の距離では他の作品には負けないと思います。でもよく考えたら100年前と連絡する話とかありますよね……。あ、プラトニックラブなら負けないですよ。会ってませんからね。でもそれも売りにはなりませんよね……。そんな感じです。読んでみてください(笑)。

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