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2009年2月13日(金)

第15回電撃小説大賞・銀賞受賞作『ロウきゅーぶ!』の蒼山先生インタビュー

文:電撃オンライン

 “第15回電撃小説大賞”の銀賞を受賞した『ロウきゅーぶ!』の著者、蒼山サグ先生にインタビューを行った。

『ロウきゅーぶ!』
画像は、『ロウきゅーぶ!』第1巻の表紙。

 『ロウきゅーぶ!』は、高校の入学早々部長のロリコン疑惑のせいで、所属するバスケ部が廃部になってしまった主人公・長谷川昴が、なぜか小学校の女子バスケ部のコーチをやることになってしまう……という、さわやかローリング・スポコメディ。インタビューでは、著者の蒼山サグ先生と担当編集・和田敦に、作品への思いや制作時のエピソードなどをタップリと語ってもらった。

■ お遍路の途中に思いついた『ロウきゅーぶ!』 ■

『ロウきゅーぶ!』
▲写真は、著者近影。

――この作品を書こうと思い立ったキッカケから教えてもらえますか?

蒼山先生:ちょっと変な話になるんですが、この作品を書く前に四国に1人でお遍路に行っていまして、山奥のお寺で野宿なんかもしていたんです。でもテントで寝ている時にあまりにもさみしくて、何か楽しいことを考えないとと思ったんですよ。それで、楽しいこと楽しいことと考えていたら4、5人のかわいい女の子たちが頭の中に出てきたんです。先に女の子がいて、後でバスケという要素を持ってきたんです。

――バスケットボールを題材に選んだ理由は?

蒼山先生:バスケが好きなんです。中学のころはバスケ部に入っていましたし、NBAなどが放送されている時は試合も見ています。

――作品を読むと、バスケに詳しそうな印象を受けるのですが……。

蒼山先生:いや、そこまで詳しいわけでは……。ってコレ、あんまり言わない方がいいのかな(笑)。

――小学校を舞台にしたことや、ヒロインが全員小学生の女の子という設定には、どういった意図があるんですか?

蒼山先生:バスケを題材にした作品って、高校生ぐらいのものが多かったと思うんですよね。それと、女の子たちが頑張っている姿を描きたいという思いもあって、小学生の女の子という設定になりました。小学生ぐらいのほうが頑張っている姿がよく伝わるんじゃないかなと考えたんです。

――個性的なキャラクターが多いですが、どのように設定していったんですか?

蒼山先生:自分の好きな要素をどんと置いて、それを5つに分配していくようなやり方で作りました。5人を書こうというよりは、こういう女の子いいよね、こういう子かわいいよねという要素を1つの山にしておいて、そこから切り分けていくような感じですね。

――つまりこのキャラクターたちが、蒼山先生の好きな女性のタイプということでしょうか?

蒼山先生:そうなっちゃいますね……。でも僕は結構幅広くなんでも好きなので、この子が好きと特定はできないのですが……。

――もっとも好きなキャラクターは選べないということでしょうか。

蒼山先生:一応この作品の中でもっとも好きな女性は誰だと聞かれると、実はミホ姉が好きなんですよ。

――大人の女性ですね。

蒼山先生:えーと、どうなんでしょう?(笑)

――そういえば、主人公のお母さんについてはあまり触れられていないですよね。ミホ姉の親戚なので、やっぱりミホ姉のような女性なのかと思ったのですが。

蒼山先生:自分の中で、お母さんはおっぱい担当なんです(笑)。

――なるほど(笑)。今後イラスト化した時などはお母さんに注目ということですね。作品を作るうえで苦労したことなどはありますか?

蒼山先生:作品のどこかで主人公が気変わりしなくてはいけないんですが、最初それがいかに自然にできるかどうかを考えていたんです。でも和田さんから、それよりも勢いで読ませることの方が大事だと言われ、そのバランスの取り方に苦労しました。

和田:やっぱりバスケと人間ドラマ、そのバランスを取るのは難しそうでした。

――お話自体はサクッと決まったんですか?

蒼山先生:高畑先生もおっしゃっていましたけど、話の作り自体はシンプルなんです。逆に言えば、そのシンプルな話を単調に見せないようにするという部分で苦労しましたね。

――執筆期間はどれくらいでした?

蒼山先生:自分の頭の中でキャラクターを動かしていた期間はありますが、実際にパソコンに向かって文字を打っていたのは1カ月ぐらいです。

――作中で、女の子たちがSNSを使ってやり取りをするシーンがあるんですが、このシーンの意図はどういったところにあるのでしょう。

蒼山先生:この作品は、主人公の1人目線で書いていく手法があっているかなと思っていたんですが、そうすると女の子たちの感情が表に出てこないので、読んでいておもしろくないんじゃないかなと感じたんです。なので、主人公には伝わらずに読んでいる側に女の子たちの感情を垣間見せる方法はないかと考えた時に、インターネットとかそういうメディアに頼るのもいいかなと思ったんです。

――応募段階からこのギミックはあったんですか?

蒼山先生:ありました。

和田:バスルームトークだけはなかったんですけどね(笑)。

蒼山先生:受賞後、原稿を改稿する期間があるんですが、その時に書きすぎちゃって、和田さんに削れと言われたんです。でもその時に「バスルームトークも削りますね」と言ったら「そこだけは削るな」と止められたんですよ。実際本になったらそこに見開きのイラストまで入ってしまったという(笑)。

――他に和田さんとはどういった話をしましたか?

蒼山先生:一番最初は、自由にやっていいよって言われて「思ったより優しいなー」と軽い気持ちで自由に直したんですが、調子に乗って加筆しまくったら、余計なことまで書きすぎだとものすごい数の直しが返ってきたんです。これで「はじまった!」と思いました(笑)。

――あとがきにも書かれていましたよね(笑)。タイトルについてうかがいます。時雨沢先生が講評に「籠球と休部でOKですか?」と書かれていたのですが、ズバリこれは正解でしょうか。

蒼山先生:時雨沢先生のおっしゃる通りですね。100%正解です。

■ お気に入りは、自転車のシーン。変な意味ではなく ■

――てぃんくる先生のイラストはどうでした?

蒼山先生:新人につけていただけるようなイラストレーターではないだろうと思いました。

――てぃんくる先生はご存じだったんですか?

蒼山先生:某ショップの会員証に、何人かの絵師さんの中から好きなイラストを選んでつけてくれるというものがあったんですが、その時に(てぃんくる先生のイラストを)選んでいたんですよ(笑)。

――すごいですね(笑)。

蒼山先生:あとがきにも書きましたが、絵だけで売った方が売れるんじゃないかというプレッシャーはありました。

――確かにかなりかわいいイラストですよね。スパッツに対するこだわりを感じます。イラストをお願いする段階で、先生からご要望などは出しましたか?

蒼山先生:ブルマとニーソのシチュエーションをなんとか入れてもらえないでしょうかとお願いしました(笑)。

――素晴らしい要望ですね。実際に入ったんですか?

蒼山先生:描いていただきました。

――デキはどうでした?

蒼山先生:まだ見ていないんです。なので楽しみにしています。

――ちなみにどのキャラクターがブルマとニーソを?

和田:ひなたちゃんです。

――イラストになったキャラクターたちのイメージはどうでした?

蒼山先生:いい意味で違いました。応募段階では少年マンガ風の絵を漠然とイメージしていたので、最初お話を聞いた時には驚きがありました。でも絵を見てみると「なるほど、これはいい」と思いました。

――劇中でお気に入りのシーンなどありますか?

蒼山先生:自転車のシーンは好きです。変な意味ではないですよ?

――生徒ですもんね。

蒼山先生:妹みたいなものですから。

■ ペンネームもカレーから? カレー好きの蒼山先生 ■

――ペンネームの由来について教えてもらえますか?

蒼山先生:本名が、出席番号順に並べると結構後ろにきてしまうんです。学生時代それがしゃくで、もし違う名前を名乗る時があったら最初は“あ”にしようと決めていたんです。今まで何回か応募したことがあったんですけど、全部“あ”で固定して他は変えていたんです。今回はたまたま“蒼山”に決めたという感じです。名前の方は、“サグカレー”という青菜のカレーがあるんですけど、そのカレーがちょうど食べたかったのかな?(笑)。蒼い山のようなサグカレーが食べたいなといった感じで、結構思い付きで決めました。

――この間、真藤先生のインタビューの後に「蒼山先生はカレーがすごく好きです」という情報を入手したんですが、カレーがお好きなんですか?

蒼山先生:好きですね。

和田:今日もこのインタビューの前に、“きんもちカレー”(※アスキー・メディアワークスの近くにあるカレー屋)を食べてきてました。

――ローカルな話で読者に申し訳ないのですが、味はどうでした?

蒼山先生:おいしかったです。神保町にある“エチオピア”に系統が似ていました。

――アスキー・メディアワークスは、前の社屋が神保町で、実は電撃オンラインのスタッフもよく“エチオピア”に行っていました。神保町でオススメのカレー屋はありますか?

蒼山先生:神保町だと“まんてん”ですね。家庭的な味も好きです。でも神保町はまだあまり開拓していないので、もっと掘り下げていきたいですね。

――同期の先生たちと他に何かお話したことなどありますか?

蒼山先生:この間、川原先生にカレーを食べに連れて行ってもらいました。

――蒼山先生は、授賞式のインタビューの時に「いろいろ趣味を持っているのでそれを活かした作品を書きたいです」といった感じのコメントされていたんですが、まず最初に冒頭に出た“お遍路”について聞いてもいいですか?

蒼山先生:作家の沢木耕太郎さんというノンフィクション作家さんが好きで、『深夜特急』にあこがれていたんですが、あれは無理じゃないですか(笑)。とりあえずできるものはないかなと考えて、お遍路に行きました。

――いつごろ行ったんですか?

蒼山先生:2007年の秋から冬にかけてですね。

――それは……時期的に寒くなかったですか?

蒼山先生:最後は寒かったですね。着いたころはまだ温かかったんですが。

――期間はどれくらいでした?

蒼山先生:50日ぐらいです。前に応募した後、閉じこもっているのがダメなんじゃないかなと考えて、外に出てみようと思ったんです。まぁ出すぎだろって話なんですが(笑)。

――それにしても、まさか霊場をめぐってこの話を思いつくとは……。

蒼山先生:お遍路の途中にアイデアは3つぐらい考えていたんですが、確かにこの話はその中の色物ではあったんです。なのでとりあえずこれは練習のつもりで書いてみて、電撃に向けてはその後別の作品を書こうと考えたんです。でも書いているうちに「もうこれでいいんじゃね?」と思えてきて……(笑)。

――それで応募に至ったわけですね。他にはどのような趣味をお持ちなんですか?

蒼山先生:競馬です。読みが当たった時の気持ちよさがいいですね。あとは馬の血統を見ているのが好きですね。

――お詳しそうですね。

蒼山先生:はい。かなりガチでやっています(笑)。他にも、うまいヘタ関係なく、おもしろければなんでもやってしまいますね。

■ 2006年からアニメやラノベにハマり、今では…… ■

――先ほど沢木さんの名前が出ましたが、好きな作家さんについて教えてもらえますか?

蒼山先生:僕、ライトノベルという言葉を知ったのが2006年ごろだったんです。それまで本は読むことは読んでいたんですが、読書家というほどではなかったんですよ。キッカケは、『涼宮ハルヒの憂鬱』でした。なんか話題になってるしと思って読んでみたら「学園モノなのに宇宙人とか出てくる、なんだこれ、おもしろいじゃん!」と感じて(笑)。それからライトノベルを読み漁りました。そして、決定的だったのが秋山瑞人先生の『イリヤの空、UFOの夏』ですね。「なんで今までこんなおもしろい作品と出会わずに生きてきたんだろう!」と感じました。秋山先生の作品はそれから全部買って読みましたね。あと最近衝撃を受けたのは竹宮ゆゆこ先生の作品です。あと、あまりあれこれ名前を出すのもどうかと思うんですが、電撃文庫は『イリヤ』以来たくさん読んだので、成田先生や時雨沢先生も好きですね。

和田:結構、電撃作品のヘビーユーザーなんですよね。『ベイビー・プリンセス』とか。

――『ベイビー・プリンセス』ですか。ちなみに好きなキャラクターは?

蒼山先生:2番目です。

――青空(そら)ですか?

蒼山先生:ごめんなさい。上からです。

――霙(みぞれ)ですか。

蒼山先生:そうですね。

――ちなみに僕はあさひが好きです。

蒼山先生:かわいいですよね。変な意味ではなく。

――そうですよね。変な意味ではなく。ちなみに『苺ましまろ』とかどうですか?

蒼山先生:いいですね『苺ましまろ』。さっき家にDVD(※『苺ましまろ encore』)が届いていたので、帰ってから見るのを楽しみにしています。そういう意味では、『よつばと!』も『ガンスリンガーガール』も……そういう意味って書いちゃうと怒られそうですけど(笑)。

――確かに(笑)。ちなみに電撃オンラインはゲームの情報を扱っているサイトなので、ゲームについても聞きたいんですが、ゲームってプレイしますか?

蒼山先生:遊びますよ。広く浅くですが。『FF7』、『FF8』あたりはかなりハマりましたね。あぁいう王道のバトルモノも好きなんですよ。

――小説は『ロウきゅーぶ!』を書く前からよく書いていたんですか?

蒼山先生:ライトノベルというジャンルを知った時に「やってみたい」と思ったんです。それより前は全然書いていなかったです。

――今ちょっと話に出ましたが、書く前はアニメやライトノベルなどはあまり見たり読んだりしなかったんですか?

蒼山先生:「『エヴァンゲリオン』っておもしろいね」くらいです。本当にアニメにハマったのは『ハルヒ』からですね。

――今、アニメはどれくらい見ているんですか?

蒼山先生:新番はとりあえず全部録画します。

――「『エヴァンゲリオン』っておもしろいね」からかなり進みましたね。

蒼山先生:だからお遍路めぐりとか行ったんですが、結局こちらサイドに落ち着いてしまいました。

――ちなみに、今放送中のアニメの中でお気に入りの作品はなんですか?

蒼山先生:『まりあ†ほりっく』です。あとは『とらドラ!』と『とある魔術の禁書目録』と……。

和田:そんな気を遣わなくていいですよ(笑)。

蒼山先生:ホントに見ていますよ(笑)。あと『ライドバック』もおもしろいですね。

――“電撃小説大賞”の他に応募した賞などはありますか?

蒼山先生:『ハルヒ』を読んだので“スニーカー大賞”には応募しましたね。まぁその時は引っ掛かるわけもなく。送った作品を読み返してあまりにもダメだったので、これはいかんと思って、その後ひそひそと二次創作をやりました。アイデアを出す前にお話の起承転結の付け方の練習をしておかないとと思いまして。二次創作なら、最初から好きな世界なんだから楽しく書けますしね。

――今回、賞を受賞した決め手のようなものはなんだったと思いますか?

蒼山先生:弾が集中しているところには投げないということでしょうか。今回の例で言えば受賞作の中に"スポーツ"は少ないなと感じていたので、読んでもらった時に「そういえばやってないな」と思ってもらえたらとはちょっと考えました。

――和田さんにお聞きしますが、選考にあたってそのあたりは実際どうだったんですか?

和田:ライトノベルでスポーツモノってなかなか難しいとは思います。でもその切り口として、5人の女の子のかわいさを見せていて、しかも熱いドラマになっているので、『ロウきゅーぶ!』は目にはとまりました。もちろん作品を選考する時は、物語として起承転結があり、ドラマがあり、盛り上がりがあるから上に昇れたという部分はあります。ただ、同じジャンル内で戦うと、そこでトップを取らないと受賞できないじゃないですか。そういう意味では、下調べは大事なんじゃないかなとは思います。

■ 『ロウきゅーぶ!』気になる続きは合宿編……? ■

――『ロウきゅーぶ!』の次巻のことも含めて、今後の展開について教えてもらえますか?

蒼山先生:今2巻を書いていて、合宿話になっています。

――きましたねー。ちなみに合宿場所はどこなんですか?

蒼山先生:学校です。

――おぉ~。

和田:合宿話なので、思い切り“バスケ”ができますね(笑)!

――まさに“バスケ漬け”といった感じですね(笑)!

蒼山先生:そうですね。“バスケ小説”ですから、いっぱい“バスケ”しないと(笑)! 和田さんから「あまりバスケさせないように」なんてことは絶対に言われてないと思いますし。

――友情、努力、勝利のロリコ……スポコンですもんね。

蒼山先生:あのキャッチコピー(※少女はスポコン! コーチはロリコン!?)を見た時は、「他人の作品で見たら絶賛するだろうけど、自分の作品にはお願いでだから付けないでほしい」と思いましたね(笑)。懇願したんですが、ダメでした……。

――『ロウきゅーぶ!』以外で書いてみたい作品はありますか?

蒼山先生:通るかどうかわかりませんが、“競馬モノ”ですね。あとはソフトな百合モノですね。“百合コメディ”というか。『まりあ†ほりっく』のような感じの。あれは厳密には百合ではないですけど(笑)。

――では最後に、これから本を手に取る読者が、そのままレジに持って行ってくれるような、あるいは購入ボタンをポチっと押してくれるような一言をお願いできますか。

蒼山先生:バスケがわからない人にも楽しんでもらえるように書きました。バスケ以外でも少しでも何か感じるものがあったら、ぜひ読んでもらえればと思います。

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データ

▼『ロウきゅーぶ!』
■メーカー:アスキー・メディアワークス
■発売日:2009年2月10日
■価格:599円(税込)

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