2009年4月4日(土)
先日放送終了を迎えたTVアニメ『RIDEBACK(ライドバック)』。電撃オンラインでは、本作の監督を務める高橋敦史氏にお話を伺ってきた。
『ライドバック』は、月刊『IKKI』(小学館刊)で連載されていたカサハラテツロー氏原作の同名コミックをアニメ化したもの。事故でバレエの道を諦めた少女・琳(りん)が、バイクに似た人型ロボット“ライドバック”との出会いをきっかけに、壮絶なテロに巻き込まれていく様子が描かれる。
電撃オンラインでは、高橋監督にインタビューを敢行。アニメ化にあたって特に強く意識した点や苦労、さらに原作ではあまり語られなかった“アリゾナ戦役”の詳細などについて伺ってきた。本作のファンはぜひチェックしてほしい。
■当初は3DCG主体のアニメだった
──まず、監督オファーの時期からお伺いしたいと思います。オファーがあった時、原作は何巻まで出ていたのでしょうか?
高橋敦史監督(以下、高橋):私がオファーを受けた時だと、4巻まで出ていましたね。
──4巻が発売されたのが2005年の5月ですから、制作期間はかなり長く取られたということでしょうか?
高橋:そうですね。ただ企画進行中に方向転換した部分もあるので、当初のビジョンで一貫して作り続けたとは言えないかもしれません。
──具体的にどの辺が変更されたのですか?
高橋:3DCGの割合ですね。今よりもっと3DCGで描かれているオブジェクトが多かったです。
──ちなみに、今回メカ関係は“ライドバック”以外もすべて3DCGなのですか?
高橋:企画当初から、“バイク型ロボットは3DCGなのに、その隣に止まっているバイクは2Dの手描きでいいのか?”という疑問がありました。ですから、車などのオブジェクトもすべて3DCGで作っています。
■マシンの“音”について
──『ライドバック』では、作中で使用されている“音”も非常によいと思うのですが、やはりここにもこだわりがあるのでしょうか?
高橋:前半部分は彩色まで完了した動画が用意できたので、音響には力を入れていただきました。テレビシリーズでここまで色がついた状態で音響作業にかかれることはまれだと思います、普段どうしてもスケジュールが崩れて音響スタッフへちゃんとした画面が提示できず細部の音まではこだわれないのですが今回はそれができている(前半だけでしたが……)TVアニメとしては、奇跡と言ってもいいくらいです。やはり、実際に動いている“ライドバック”を見た方がイメージも伝わりやすいと思いますし。
──エンジン音なども作られたのですか?
高橋:はい。「基本はバイクのエンジン音で、電子制御的なモーター音を混ぜたような新しい音」とお願いしました。エンジン音だけですと、バイクそのままになってしまうんですよね。だから、他の音も混ぜてくださいとお願いしました。最初は、ジェットエンジンみたいな「シュー」っという音が強かったのですが、それは後半のハイテクな“ライドバック”に取っておいて、もう少し泥臭い音にした結果、今の音になりました。基本バイクなのですが自分がバイクに乗らないのでわからない部分は、バイクに乗るスタッフに聞いて参考にしました。バイクは乗っている車種なんかでこだわりが違うらしくスタッフによって言ってることが違ったりして、結構苦労しました(笑)。
■動きへのこだわり
──2話で珠代がコーナーリングする際、珠代が乗る“RBZ”が脚を組み換えているシーンがあるのですが、ああいう動作はどこから思いついたのでしょうか?
高橋:ロボットっぽい形態で走る時は、インラインスケートなどの動きを参考にしています。いろいろ調べたのですが、一番役に立ったのは、インラインスケートで峠を下るスピードレースの映像でした。走りに関しては、直線はバイクで走った方が速いだろう、オフロードや急カーブは人間っぽく、思いっきり滑り込んで手を付きながら走る方がいいだろうという感じですね。……腕の強度が不安になりますが(笑)。
──“インラインスケートの動きを“ライドバック”に置き換えた”ということでしょうか?
高橋:アニメーション制作の最初の動機って、「現実にある何かをアニメに置き換えたい」というのがあると思うんです。誰も見たことのない全く新しいものというのではなく、『ライドバック』ではどこかで見たことのある“動き”をアニメに落とし込みたいと考えていました。
──つまり、動きにはかなりこだわりがあるということですね。
高橋:ストーリーを追うだけなら、究極アニメである必要がなくなってしまう。個人的には、アニメは絵が動いてこそと思います。単に3DCGを使った作品というだけではなく、そこに乗るキャラクターは人間が絵を描いて動かす。その労力は大変なものになるのでそれに見合った驚きがないともったいない、せっかくだから見ている人が驚くような要素が必要だろうと。そういったことを考えていった結果として1話の形になりました、たとえば“ライドバック”を原作のままの大きなサイズにすると、3DCGに対して人間が小さくなりすぎてしまう、迫力がなくなってしまいますので、アニメ版では人間とマシンの対比を大きく変えてます。
──だから“ライドバック”のデザインが原作から変えられたのですね。
高橋:他にも大きいと人物と絡めたとき画面内に収めるのが難しいとかいろいろありましたが、基本は原作のイメージをできるだけ維持していきたいと考えてました。最終的に「サイズをもっとバイクに近くタイヤを大きく、デザインは原作の路線を守りつつ、ディテールは実在のバイクに近づけましょう」という方向でバランスを取るようにしました。その上で人間と同じように道に落ちているモノを拾える基本構造を作ってもらって、そこにエンジンやらカウルやらを足していく感じでデザインしてもらってます。実在のバイクを元にしている部分が多いので。ガレージキットを作る人は、バイクのプラモデルのパーツから結構流用できるのではないでしょうか(笑)。
──原作の“ライドバック”は、戦車と比較できるくらいの大きさですからね。
高橋:先ほども言いましたが、原作のサイズで作ってしまうと、上にセルで描いた人間を乗せてたときにいまひとつ迫力がでないんですよ。ちなみに、現場スタッフなどからは、フェーゴよりも岡倉が乗っている“SARU”の方が受けがよかったりします。3Dとセルを組み合わせるときはSARUくらいの比率が一番見せやすいのかもしれません。
▲ライドバック部顧問・岡倉の愛機“SARU”。他の“ライドバック”に比べて、ひと回り以上小さい。 |
──ただ、“SARU”だと足を広げる“スプレッド・レッグス・フォーム”になってもあまり意味がないんでしょうね(笑)。
高橋:アニメでは結局しないまま終わってしまったんですが、3Dモデルとしてはできるように発注してあったんです。ただ、見栄えがどうにも決まらなかったのもあって…(笑)。
──そういえば、“フェーゴ”が“スプレッド・レッグス・フォーム”になる時に、右手で握りこんでいるようですが、操作的にはクラッチを切っているんでしょうか?
高橋:実際にハンドルなどの操作系とエンジンやブレーキなど挙動が直結しているのではなく、1回コンピュータを通しているという設定です。ゲームのコントローラのボタンのようにAボタンとBボタン押しながら上ボタンを…みたいな感じで、操作と挙動の組み合わせがあらかじめプログラミングされていているんだと考えれば、あの少ない入力装置でも意外とフェーゴの複雑な挙動をコントロールできるんです…多分。
インタビュー後半では、琳が“ライドバック”と出会う前にあったとされる“アリゾナ戦役”の設定があるというお話も伺った。原作でも詳しく語られていない“アリゾナ戦役”の詳細とは!?
(C)カサハラテツロー・小学館/「ライドバック」製作委員会
■TVアニメ『RIDEBACK(ライドバック)』