2009年5月27日(水)
スクウェア・エニックスから5月27日に発売される音楽CD『ピアノ・コレクションズ キングダム ハーツ』。このCDのプロデューサーである作曲家・下村陽子さんにインタビューを行った。
『ピアノ・コレクションズ キングダム ハーツ』は、同社の人気タイトル『キングダム ハーツ』シリーズの歴代サウンドトラックから選抜した曲に、ピアノによるアレンジを加えて収録したもの。収録曲は、スクウェア・エニックス メンバーズのユーザー投票で選ばれた人気曲を中心に、下村さんが選曲したものとなっている。
先日に引き続き、『キングダム ハーツ』シリーズの音楽を手掛けた作曲家・下村さんに、『キングダム ハーツ』との出会いと本日5月27日に発売になったばかりの『ピアノ・コレクションズ キングダム ハーツ』について語ってもらった。
――ゲーム音楽の作曲家は、クリエイターからどういう風に依頼を受けるんでしょう?
下村:いろいろなディレクターさんがいらっしゃるので、発注の仕方はまちまちだったりするんですけど、必要な曲のリストを出してもらうことが多いですね。どのシーンに使う、こういう曲で、こんな感じの曲がほしいというのをいただいて、で、足りないものについては色々と口頭で話したりして、進めていく感じですね。
――『キングダム ハーツ』はどうだったんでしょうか?
下村:最初の『キングダム ハーツ』は、私が曲のリストを作りました。通常はもらうばっかりだったんですけど、もっとイベントと音楽をシンクロさせたいと思っていたんです。ディズニーアニメって、転んだらシンバルがなるとか、ドナルドがつぶれてヒョロヒョロヒョローって効果音のような音楽が鳴るとか、いろいろなことが音楽で表現されている。ゲームは、ユーザーが操作するので完全にシンクロするのは難しくても、近い雰囲気でイベントの曲などをもっと自由に組んでみたかったんです。
――それで下村さんの方から提案したと。
下村:そうですね、そういうのをやってみたい、と。会議で、「音楽の人間が先立って動かないと、どういう曲をどういう風に貼っていけばいいのかわからない」という話になったので、最低限必要な曲のイメージを出してもらい、それ以外を私のほうで全部出すという、非常に稀なケースで制作していきました。その中の、最低必要というオーダーに、フィールドとバトルの曲があったんですけど、コンセプトとして「エンカウントで切り替わるわけでなくシームレスである」というものと、「フィールド曲とバトル曲をクロスフェードさせたい」というのがあったんです。
――各フィールドごとにバトル曲を作る作業というのは大変ですよね。
下村:かなりしんどかったですね(笑)。ステージが増えるって聞くと、必ず2曲セットで増えることになる。なので、そこは結構苦労しました。あとは、PS2は内蔵音源でやっているので、メモリーの容量の問題もありました。1曲1曲ロードしてくれればいいんですけど、クロスフェードさせなければいけないので2曲分を1つの曲データで持たないといけないという制限もあって、クオリティ的にどうしようかっていうのが問題に。マニピュレーターの方がすごく一生懸命やってくださっているのに、「もっともっとこうしてほしい」とかお願いして、それに対して「これ以上は厳しい」とか、そういうやりとりがありましたね。
――ディズニーアニメ自体、以前から好きだったりしたのでしょうか?
下村:熱烈なファンというわけではないんですけど、リスペクトすべき、非常に素晴らしい作品なんで、結構見ていました。
――その作品にかかわることになったというのはどういう感じですか
下村:「私でいいの?」って思いました。ディズニーには、本当に素晴らしい作品・楽曲が沢山あるので「恐縮です」といった感じでしたね。
――ディズニーの曲をアレンジするにあたり、いつもと違ったことなどはありましたか?
下村:特に「ディズニーだから」という意識はしてないですね。ディズニーの音楽って、すごく素晴らしい世界観を持っている楽曲なので、「世界観をとにかく壊さないように。そして、大切にしていきたい」っていう、その気持ちだけでアレンジしています。もちろん、ディズニーの曲だから特別というわけではなくて、どの曲をアレンジする時でも、その世界観を壊してはいけないと思っています。アレンジの考え方の中には、壊してなんぼっていう方向もあるとは思うんですけど、私の場合は、とにかく壊さないことを大切にしたいと思っていますね。
――『キングダム ハーツ』のサウンドにかかわることになったのは、クリエイターから依頼されてということなんでしょうか? それとも、会社内でのスケジュールなどで決まったんですか?
下村:基本的に開発スケジュールと、サウンドメンバーのスケジュールとを考慮してですね。ディレクターさんや開発チームの方で、タイトルによって「誰でいきたいね」という希望があって、調整してオーダーする流れもあると思います。その時は、「下村がいいね」って言われたのかはわかりませんが、たまたま私のスケジュールが空いていたということじゃないでしょうか(笑)。
――なるほど。そして、『キングダム ハーツ』シリーズが続き、曲数もどんどん増えていますが、今現在はどういう心境でしょうか?
下村:すごく光栄だと思っていますね。最初は社員でかかわり、その後退職してフリーになって、同じタイトルで指名していただけるということは、そうそうあることではないと思うので。プレッシャーはあるんですが、それよりも信頼してくださる方を裏切らないように心掛けています。期待してくださる人がいるということで、モチベーションを高めていきたいと思っています。
――ちょうど1年ほど前の2008年3月に、下村さんの作曲家生活20周年を記念したアルバム『drammatica -The Very Best of Yoko Shimomura-』が発売されました。
下村:いや、もう光栄の極みというか、「私なんぞのベストアルバムを出してもらってよいんでしょうか?」みたいな感じで、信じられなかったですね、本当に。
――ファンや回りの反応はどうでしたか?
下村:作曲関係の方たちと食事に行ったりするんですけど、自分の作品の話はあまりしないんですよね。ただ、このアルバムに関してはドイツで録音してきたっていうのがあって、「ドイツの録音はどうだった?」とか「すごいよねー」という話を向こうからしていただいたりしましたね。ファンの方々も、直接私にメールしてくださる方はとても喜んでくださっていて。この当時は確か、『LIVE A LIVE』の楽曲配信もまだされてなくて(※)「今や幻のあの曲が聴けるなんて!」とか、「生のオーケストラであの曲を聴ける」とか、熱いメッセージをいただきました。個人的にも、これだけタイトルをそろえて1枚のアルバムを出せたことに対して、すごくうれしいなと思いましたね。
※現在はiTunes、moraで『LIVE A LIVE オリジナル・サウンドトラック』として配信中。
――そして、今年『ピアノ・コレクションズ キングダム ハーツ』が発売されますが、発売までの経緯を教えてください。
下村:スクウェア・エニックス ミュージックのスタッフから「『キングダム ハーツ』のピアノ・コレクションズをやりましょうよ」って言われて、「マジっすか、いいですね」と答えたことですかね(笑)。この受け答えから始まって、スクウェア・エニックス メンバーズのサイトで『キングダム ハーツ』の楽曲から人気投票をして、その中の上位曲をチョイスし、さらに私が選んだ曲を入れました。
――提案を持ちかけられ、自身もそれに乗ったという感じですね。
下村:CDとかは、「こういうのを企画しているんです」というお話をいただいて、動くことが多いですね。今回もそういう流れでした。
――ピアノ・コレクションズということについては、どのような感想を持ちましたか?
下村:ピアノ・コレクションズが発売されているタイトルは『ファイナルファンタジー』しか知らなかったので、「え? 『キングダム ハーツ』でも出してもらっていいの?」って率直に思いました。ピアノに特化したアルバムって、そうそう作れるものではないので、ピアノ好きとしてはすごくうれしかったですね。
――ピアノは下村さんが弾かれたんですか?
下村:プロモーション映像を収録する時(※)に「弾いて」と言われたんですが、「絶対イヤ!」って。ピアノが下手だから諦めた人間に対して、何を言うって(笑)。
※4月2日に行われた『ピアノ・コレクションズ キングダム ハーツ』のPV公開収録の時。
――今回アレンジャーが2名いるそうですが、アレンジを依頼する上で気をつけた点や難しかった点などを聞かせてください。
下村:アレンジそのものはすべてお任せという感じでしたが、イメージがずれるとよくないと思ったので、そこは注意しました。私の好きなピアノ曲や趣味のイメージを伝えておき、その後に、この曲では力強い感じにしてほしいとか、表現したいビジョンをはっきり伝え、それ以外の構成や曲の作りとかはお任せしますというスタンスでした。でも、原曲ですごく生きるフレーズみたいなのがあって、ピアノソロだと生きるフレーズというのが変わってきたりするんですよね。あまり原曲を重視してしまうと、ピアノらしさを損なう部分もあったので、ピアノらしさを出しつつアレンジしてもらうことに苦労しました。
レコーディングの様子がコチラ。 |
――アレンジャーによって、アレンジというのはかなり違ってくるものですか?
下村:違いますね。言葉で表すのはすごく難しいんですけど、アレンジャーさんのカラーというのはあると思いますね。今回の2人のアレンジャーさんのうち、亀岡さんは以前にもお仕事をご一緒させて頂いたことがある(※)のでなんとなくカラーがわかって、「あの人らしいよね」と思うことがありました。今回初めてお願いした宮野さんは、最初はどういったカラーなのかわからなかったんですけど3曲目くらいになると、「あーなるほどなるほど」と思い始め、「こちらが伝えたことに対して、こう返してくれるのがこの人なんですね」と思うことがありました。こうやって、言葉で表すには難しいんですけど(笑)。
※『ピアノ・コレクションズ キングダム ハーツ』のアレンジャーは亀岡夏海さん、宮野幸子さんの2名が担当。亀岡夏海さんは下村さんのベストアルバム『drammatica』のアレンジを担当した。
――『ピアノ・コレクションズ キングダム ハーツ』の聴きどころを教えてもらえますか?
下村:聴きどころは、“ガツーンからキラキラまで”ですね(笑)。
――ガツーンというのは、聞いた人がインパクトを受けるということですか?
下村:ガツーンというピアノの力強さから、優しいキラキラキラっていうイメージです。ピアノらしいことを、ピアニスティックっていう表現をするんですが、そのピアニスティックって何かっていうと、私は、そのガツーンからキラキラまでだと思っているんですよ。
――ピアノのさまざまな表現を楽しめる『キングダム ハーツ』の音楽コレクションということですね。
下村:そうですね。端から端まで堪能してもらいたいです。
――下村さんが、お気に入りの曲は何ですか?
下村:よく聞かれるんですが、毎回悩みますね。どうしようかな……でもやっぱり、タイトル曲『Dearly Beloved』は印象深いですね。
――では、CD発売を楽しみにしている人へメッセージをお願いします。
下村:本当にいいアルバムに仕上がったと思いますので、あとほんの少し楽しみにお待ちいただければうれしいです。
宣伝担当:あと、4月2日にPVの公開収録を行いまして、そのメイキング映像を『ピアノ・コレクションズ キングダム ハーツ』か『キングダム ハーツ 358/2 Days』を買った人がもれなく見られるようになっています。メイキング映像は、下村さんが出ずっぱりの映像ですので、下村陽子ファンは必見です!
下村:見なくていいです(笑)。
――下村さんの入りのところから終わりまで、収録の裏側の全部を堪能できると聞いていますが、撮影はどうでしたか?
下村:私はすごいおしゃべりなんですけど、いざ人の前に出てしゃべるのが苦手なので。しかも写真やビデオを撮られるのも非常に苦手なので、最初はかなり消極的でしたね。ただ、ファンの方と実際に会ってお話できたことは、非常にいい経験をさせていただいたと思っています。モチベーションが上がりますね。非常にいい機会だったので「撮影さえなければ!!」と言ったら、「PV収録じゃないジャン!」といわれました(笑)。
宣伝担当:このメイキングを見るためにも、ぜひCDをお買い求めいただければと……!
――下村さんはもうご覧になったんですか?
下村:先ほど、チラッと見せてもらったんですけど「えー、私ってこういう人間なんだ」って(笑)。
宣伝担当:それくらい、下村さんの素が見られるという……。
下村:あはは! そうなのー!? 私っていつもこんな感じ!?
――下村さん的には、恥ずかしい感じですか?
下村:恥ずかしいから本当はあまり見てほしくないけど、宣伝担当者が「見てください」って言え!という顔をしているので、「見てください」(笑)。よろしくお願いします。
――(笑)。本日はありがとうございました!
ファン待望の『キングダム ハーツ』のピアノ・アレンジCDについて、語ってくれた下村さん。下村さんが音楽を手掛けたシリーズ最新作『キングダム ハーツ 358/2 Days』は、5月30日に発売されるので、ファンはあわせてチェックしておこう。 |
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