2009年7月31日(金)
――今回再録されたカードは、確かに昔から『マジック』を遊んでいる人にとっては、魅力的に映ると思います。《稲妻》や《強迫》(※8)などを収録したのは、やはり昔からのプレイヤーを意識して、ということもあるのでしょうか。
▲《強迫》(※8) |
森氏:先ほど、『M10』では“ユーザーフレンドリー”を意図していると言いましたが、これが新規のプレイヤーに対する1つの変化だとすると、それと平行して、既存のプレイヤーの方々には温故知新という意味で『M10』の楽しさを味わっていただこうという考えもあります。最近、『マジック』を久しぶりに遊ぶ人が多くいらっしゃるんですが、トーナメント志向ではなく、気軽に遊ぶには最適のセットになっていると思います。昔やっていたけど、今はやっていないといった人がいたらぜひ誘ってあげてください。
――それらの再録カードに替わり《ブーメラン》や《涙の雨》、《忍び寄るカビ》などの、相手の行動を阻害するようなカードが退場していますが、このあたりもウィザーズによる“環境のコントロール”ということなのでしょうか。
森氏:収録されたカードによって、環境にどのようなデッキを生み出したいかということについては、私は開発部に所属しているわけではないので、あくまでコンセプトというレベルの話になります。その点を踏まえていただいた上で話しますと、今回の赤には《稲妻》、黒には《強迫》が帰ってきました。しかし青に《対抗呪文》は復活せず、打ち消し呪文として採用されたのは《取り消し》(※9)です。また、土地破壊カードに関しても《酸のスライム》(※10)が一応はありますが、あれは「ダンジョンに潜むウーズやスライムが何もかも溶かしてしまう」というフレーバー要素のほうが強いデザインのカードですし、マナ域も5マナとなっていますよね。このように、いわゆるパーミッション戦術に代表される、相手の邪魔をし続けるだけの戦い方が強くなり過ぎないような配慮はされているという事実があります。もちろん、そういう戦い方をさせるつもりがまったくないというわけではないので、頑張ってデッキを組んでほしいのですが、「なぜ《対抗呪文》が再録されなかったのか」、「なぜ《涙の雨》や《忍び寄るカビ》はなくなってしまったのか」を考えてもらえば、私たちの狙いをご理解いただけるかと思います。何といっても“基本セット”だから、といった理由も大きいです。
▲《取り消し》(※9) | ▲《酸のスライム》(※10) |
――相手の邪魔をするという点においては、《神の怒り》もそうでしょうか。これらのカードの脱落と同じように印象的なのが、新しいカードの中に、コンボ向けのカードが多く収録されているという点です。《蔵の開放》(※11)や《集団意識》(※12)のようなカードが基本セットに入るというのはおもしろい変化ですよね。
▲《蔵の開放》(※11) | ▲《集団意識》(※12) |
森氏:『M10』は調整された第4版とも言われているのですが、第4版の時には《天秤》などの超強力なカードがありました。ああいった、単純に強すぎる、唱えればそれだけで勝ててしまう、一方的なゲームになってしまうカードというのを安易に入れないように配慮しています。昔はそういうカードのコストが低過ぎたんですね。『M10』においては、そういったゲームをひっくり返すような強力な効果は、プレインズウォーカーに託されているとも考えられます。各プレインズウォーカーの“必殺技”能力ですね。
――なるほど。では、最後に森さんが個人的に『M10』でオススメしているカードは何かありますか?
森氏:いろいろありますが、まず《稲妻》を使ったことのない方にはぜひ稲妻を打ってみてほしいですね。「強いけど、決して壊れてはいない」という理屈っぽいデザインの部分はさておき、コモンカードなのでめぐりあう機会も少なくないと思います。それと神話レアになってしまいますが《悪斬の天使》でしょうか。これはおもしろい。強いカードでありながら、《怒りの天使アクローマ》のように強過ぎるわけではないという、これが今のウィザーズが目指しているカードデザインの1つの到達点だと思います。イラストも美麗でいいなあ、と個人的にも大好きです。またトーナメントレベルのカードから選ぶなら《大貂皮鹿》(※13)。いわゆるアンチ・フェアリーなカードですね。そしてM10ではフェアリーデッキを純粋にシナジー面で強化するカードはありません。これもウィザーズの方向性を垣間見せるデザインだと思います。今のままでフェアリーは十分に強いと。それに対して部族で言えば白の兵士もオススメですね。これまであまり“職業”がフィーチャーされてなかったぶん、アラーラ・ブロックをはじめとした過去のセットの兵士と組み合わせるとおもしろいデッキになると思います。また、構築戦以外にも、たくさんリミテッドを遊んでもらいたいですね。シンプルにできているので、使いたい色の使いたいカードで組んでもデッキは動くし、同時に戦略的な組み合わせで強さを発揮するようにもできます。とにかく、トーナメントレベルのデッキを作る、とか競技云々ということにこだわらず、いろいろな遊び方で楽しんでほしいですね。
▲《大貂皮鹿》(※13) |
――ありがとうございました。
また、このインタビューの後、7月17日~20日にかけての3日間に渡り、広島にて日本選手権’09が開催された。『第10版』の退場によって、マナ基盤を失った“白黒トークン”や“黒緑エルフ”、コンボパーツを失った“スワンアサルト”といったデッキが衰退する中、ベスト8に残ったのは各色のパワーカードを集めたコントロールデッキ“クイッケントースト”、『ローウィン』ブロックから常にメタゲームの中心にあった“青黒フェアリー”、爆発的な展開力を誇る“親和エルフ”、そしてフェアリーに対して有利を付けられる赤黒の“ブライトニング”の4つ。『M10』の加入で強化されたと言われていた白ウィニー系のデッキはここに残ることができなかった。
決勝戦の組み合わせは“クイッケントースト”を操る中村修平氏と、先日のプレリリースレポートでも紹介させていただいた渡辺雄也氏の“青黒フェアリー”。今回のインタビューでも注目株とされていた《大貂皮鹿》が、そのフェアリーデッキへのアンチ性能を存分に発揮し、中村氏を優勝に導いた。
《大貂皮鹿》は、ベスト8に残った8つのデッキのうち、3つのデッキのサイドボードにフル投入されており、そのパフォーマンスの高さを伺わせた。また、親和エルフには《エルフの大ドルイド》(※14)が追加され、展開力と打撃力の増強に大きな役割を果たしていた他、ブライトニングには当然《稲妻》が入っているなど、『M10』のカードは好感触をもって環境に受け入れられた様子だ。
▲《エルフの大ドルイド》(※14) |
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