2009年8月17日(月)
――本作は、シリーズの世界観的にはどこに位置するのでしょうか?
藤岡:実は『モンスターハンター』シリーズはあまりそこについて意識していないんです。このシリーズで時間軸や場所の意識が強すぎると、想像する余地が狭くなってしまう。関係性がはっきりしすぎるよりも、発想する部分を残して縛られないようにしたいんです。
――勝手なイメージですが、島でスラッシュアックスが開発され、東方から太刀が入ってくる。それらの技術が内陸に流れて、ガンランスが開発されたのでは? とか考えてしまっていたのですが……。
藤岡:そういう風に受け取ってもらえ、それを楽しんでもらえるのが狙いといえば狙いです。あとは、全てが絡み合ったしっかりした設定というのはゲームを作る上でも持ちたくないんですよ。ゲーム的にいいもの、おもしろいものが出てくる環境のほうがいいじゃないですか。もちろん作っていく上で、「これまでのシリーズをふまえたら、こういう設定になるかな?」というのはあります。しかしあくまで、今回の作品に関してはこういう流れや影響があって進行していき、武器はこういう設定にしているという形です。
辻本:文明的には近いものがあって共通しているものはあるんですが、どこにあって時代はどうというのは設定していません。ネットワークゲームっぽい考え方ですね。きっかけは与えるので、自由にコミュニケーションを取ってほしいっていう。現在判明している進化の過程もそうだと思うんですよね。誰かがある物を見て「こうなっています」っていうのを学術的に発表して、それが浸透しているという。
藤岡:我々が情報を提供する時も「今の考えではこう」という書き方にしています。恐竜もそうですよね? こうじゃないかという想像の中で、可能性が一番高い情報が世に出てくる。
――なるほど。では、そのモンスターについて聞いていきたいと思います。モンスターの取材などは行われましたか?
辻本:モンスターへの取材はちょっとできませんでしたね(笑)。
(一同笑)
――ですよね(汗)。……たとえば動物園に通ったり、動物を飼ってみたりとか、モンスターの生態に関連づくような取材はしたのでしょうか?
藤岡:日常的に動物園に行ったり、動物の映像を見たりというのは普段からしています。動きは動きの目線で見ないと気付かないことも多いので、特にしたというよりはずっとしていますね。水中の動きを見るなら水族館にも行って、変わった動物の動きが見えると聞くと飛んでいったりしていました。骨格を見るだけでも勉強になるので、恐竜博などがあれば行ったりもしましたね。
辻本:スタッフは、特定のモンスターのための取材というのではなく、いろいろな生き物のイメージの蓄積を心掛けているんです。そういう意味では、動物園にいっても見方は違うと思いますね。「この動物が怖く見えるのはなぜだろう?」とか「柄がこんな理由はなぜだろう?」とか。
藤岡:まず最初はきっかけとしてなんとなく見るでいいんですが、そこからもうちょっと素材として分析していく。その素材がたくさんあるほうが、モンスターを作る上で役に立つと思うんですよ。普段、自分たちが街中にいるだけでは見られないものが随所にあるので、しょっちゅう行っていましたね。
――では、個々のモンスターについて、公開された順に踏み込んで聞いていきたいと思います。まずは本作を象徴するラギアクルスについてですね。コンセプトは?
藤岡:水中を作って、メインモンスターにすることは決まっていたので、それを一番体現しているモンスターにしようと心掛けました。メインモンスターはパッケージを背負っていくモンスターでもあるので、素直にカッコイイと思えるデザインにするとか、強いけど何回遊んでも飽きないとか……主人公のキャラクターにないとダメな要素を表しているモンスターですね。
辻本:王道なデザイン、王道のモンスターに仕上がっていると思います。
藤岡:水中という新たなテーマを、一番感じてもらえるモンスターを目指して作っています。
――属性が雷なのは?
藤岡:せっかくいろいろな属性があるので、水中というフィールドを生かせるものがいいと。他には、ブレスを吐く姿がカッコイイとか、強そうというイメージも大事にしました。世界観に縛られすぎないけど組み立てていくディティールにはこだわるという、『モンスターハンター』開発陣らしい作りから生まれたモンスターです。
――ではドスジャギィはどうでしょうか?
藤岡:“群れ”をテーマに制作しています。ジャギィもセットで、今回やろうとしていた“群れ”をコンセプトにしています。プレイヤー的には、初めて対峙する中型モンスターになると思うので、それを体感してもらうモンスターであり、群れとボスの一体感を感じられるものになっていると思います。
辻本:ジャギィのボスなので、同じような動きをするんですが、各モンスターには“食らってはいけない攻撃”があって、「これだけは危険だ!」っていうのを覚えてもらう役割も担っています。
藤岡:小型のモンスターだと、プレイヤーの一方的なアクションで狩れるんですが、中型、大型モンスターになってくると、そうではなくなる。同じ調子で攻撃していたらダメというのをわかった時に次の段階にいけると思うので、どうするかを考えてほしいです。
――次は声マネが特徴のクルペッコですね。
藤岡:今回、『MH3(tri-)』を作ろうってなった時に、モンスター同士の作りこみをもっとしたいというのがあったんです。それを大型モンスターとして、一番強く出そうとして作られています。クルペッコ自体はそんなに強くはないんですが、他のモンスターを呼んだり、踊りを踊ることで影響を与えていき、場を混乱させていく。これはモンスターがモンスターを意識しているからできるんですね。そういうコンセプトでできています。
辻本:序盤に出てきて飛竜種の動きをするだけなら、クルペッコじゃなくてもいいんですよ。もちろん、そういう役目も持っているんですが、『MH3(tri-)』らしさをいきなり教えてくれるのが、このモンスターなんですね。
藤岡:ただし、1つ1つのしぐさは特徴的で、スキがあって予備動作も大きい。これ以降のモンスターはだんだん予備動作が短くなってくるんですが、何かをやってくる前に予兆の動作をすることを教えてくれる設計です。ただし、慣れてきて油断していると、大型モンスターを突然呼んで「なんや~!?」ってなりがちです(笑)。一筋縄ではいかないモンスターになっているかと。
辻本:ただ、呼ばれた時には対処法として、“こやし玉”で追い払うという選択肢も用意してあるので、それを黙って見ている必要はありません。
――今回は“こやし玉”の重要度が上がっていますよね?
藤岡:“こやし玉”は大事ですよ。クルペッコ以外の場面でも使えるアイテムなので(含み笑い)。
――気になる人も多いでしょうが、次のモンスターに。獣竜種という新たに加わった種から、ボルボロスをお願いします。
藤岡:獣竜種という新しい種を作る時に最初に考えたモンスターなので、種の基本的な動きが詰まったモンスターです。ボルボロス自体やってくることはシンプルなんですが、その1つ1つが獣竜種の特徴を出していると思います。
辻本:基本は突進とか泥つぶてをまくことなのでシンプルですよね。でも突進というシンプルな動作の後に、ちょっと特徴的な距離の取り方が入っているので、驚かれたのではないでしょうか?
――泥つぶてをまき散らすというのは、どこから発想したのでしょうか?
藤岡:砂原というステージでモンスターを作っている最中に、もう1つ特徴があったほうがおもしろいと考えていたんですよ。カバやイノシシって泥浴びをするじゃないですか。泥を身にまとっているなら、撒き散らしたほうが楽しいかなってつながり、それを特徴にできたらと思ったのがキッカケです。やはり突進だけだと単純になりすぎてしまうかと思い、泥という要素を加えました。
――続いてリオレイアが公開となりました。シリーズではおなじみですが、見た目やモーションが変わったのはなぜですか?
藤岡:遊ぶ以上はいてほしいモンスターというか、『モンスターハンター』にいないとイヤだと思うモンスターの1頭だと思うんですよ。開発としても登場させたいと考えたんですが、今までのシリーズと同じ動き、同じ方法で討伐できてしまうと拍子抜けするじゃないですか? 『MH3(tri-)』は、もう1度新鮮な気持ちで遊んでほしいという気持ちが強かったので、そういう意図を強く背負っているモンスターです。動きはリオレイアなんですが、かかわりを持とうとすると、今までとは違う部分を持っています。捕食やスタミナ面なども含め、『MH3(tri-)』らしいモンスターになったと思います。
――ウラガンキンは見た目のインパクトがかなりありました。
藤岡:そうですね(笑)。見た目のインパクトはモンスターをデザインする上で大事だと思っています。シルエットからして「なんじゃこりゃ?」ってインパクトを持たせるのと、「強そう」というイメージを持っていることを意識しています。
辻本:このモンスターに関しては、シャープではない強さですよね(笑)。
藤岡:固い、ごつい、デカイ……そういう重量感を体現させようというモンスターです。終盤の火山になるとモンスター側に個性が出てくる感じになっていて、ウラガンキンの個性の1つが重量感です。他には、あまりいやらしいことをしないとか、獣竜種でトップクラスの強さを持っているとかですね。圧力があって、プレイヤーのミスを誘うような雰囲気があるのではないでしょうか。
辻本:この巨体で転がってきますからね! でもスタミナが切れると、コロッて倒れるんですよ。微笑ましくて「うおっ! こけとる!!」って驚きますよ。
藤岡:フフフ。スタミナの要素もギャップとして、うまく入れられたんじゃないでしょうか。
――最初に見た時に、片手剣の盾で防げるのか心配になりました。「腕を持っていかれるんじゃないかな?」って。
(一同爆笑)
藤岡:実際にあんなことをされたら大変ですよね。
辻本:ペチャンコになって、ヒラヒラと宙を舞って、ペタって(笑)。
藤岡:あと、顔は他のモンスターにない個性を出していると思います。前面にそういう個性があると気になるじゃないですか? それでその顎(あご)を使ってくるという。インパクトがあって『モンスターハンター』らしい、わかりやすいデザインには仕上がるように気を使っています。
――続いて、動画が公開されるや話題になったチャナガブルですが。
藤岡:いろいろな要素を背負ったモンスターですね。水没林が水中を色濃く出したフィールドで、そこをメインフィールドにしたモンスターを作るべく生まれました。濁った水中に生息していて、擬態をしたり、いやらしいことをするのが個性になるかなって。顔のインパクト、やってくることの多彩さ、そういう印象を強く持ったモンスターですね。中盤にいろいろな要素に対して攻略をしてもらえたらと思います。
辻本:動画で公開するや、予想以上のリアクションがありましたね。そこまで反響があるとは思わなかったので、個人的には意外でした。
藤岡:顔がインパクトあって、口も大きいので、皆さん驚かれたのかもしれませんね。実はこのチャナガブルは、体型も思い切って変えてみたモンスターなんですよ。これまでだと、頭の大きさや首、尻尾の長さは同じ系列のモンスターなら、大きく変えることはなかったんですよ。でもこのチャナガブルは、海竜種でも「ちょっと違うな」という部分まで変化させることにチャレンジしたモンスターです。「こんなに変えられるんだな」と勉強になったので、挑戦してよかったです。
辻本:あとは、擬態することから頭のボンボンができました。
藤岡:これまでのシリーズだとゲリョスやバサルモスがそうだったんですが、「擬態や目をくらますということをしたいね」ということで、プレイヤーが「こんなことをやられる」というのを覚えてほしいと思っています。立ち回りを覚えた段階で特殊なことをやられ、それに対してスキルを考えたり対策を練るという、次のステップを感じてもらえるようにするという役割です。
――続いて、ドスバギィですが。
藤岡:群れのモンスターがジャギィだけというわけにはいかないので、凍土でそういう要素を持ったモンスターが欲しかったんですね。あとは、本作ではターゲットモンスターではない大型モンスターが登場してくるというシチュエーションを多く用意しているんですが、強いのばかりに当たるのってイヤじゃないですか? そういう意味でも、ドスジャギィに代わって、中盤以降に登場する中型モンスターを用意したかった。群れの組織力を持っているけど、単体ではそこまでの強さではないというのは同じですね。
辻本:あとは、睡眠への意識ですかね?
藤岡:睡眠という要素のチュートリアルも含めていますね。ネットワークモードだと、寝た人を起こすのって盛り上がるじゃないですか? うまくやれれば自分もゲームに参加した気になりますし。
辻本:あと今回は、その場で寝るんではなく、しばらく動けて味方の近くまで行けますから、そういう違いもわかってもらえたらなあという。
――では白銀の騎士・ベリオロスです。
藤岡:凍土のメインモンスターですね。飛竜で単純にカッコイイやつを作ろうと考えて作りました。リオレイアのようなベーシックなモンスターではなく、カッコよさによっていて、素早いモンスターの代表格ですね。これまでの『モンスターハンター』のテンポ感よりも1歩速いテンポで動くモンスターは個性になると思うので、そこを目指して作りました。
――すばやい動きが読みにくいと感じました。
辻本:厄介なモンスターですが攻略法というか、こうしたらうまく狩れるというのはありますよ。
藤岡:相手の素早さに付き合いすぎるとなかなか難しいので、プレイヤーがどうするかが重要ですね。
辻本:でも、初めて出会った時は一方的に攻撃されるかもしれません。こうしたらいいというのを教えてもらったら、僕も狩れました(笑)。
藤岡:中盤以降に出てくるモンスターでは強い方だと思うので、気合を入れてほしいです。モンスターリストを見ると意外とヒントが乗っているので、いろいろ試してみてください。
――なるほど。では最後にロアルドロスについて教えてください。
辻本:なぜか最後だったんですね(笑)。それまでもムービー中ではちらほら出ていましたが。
藤岡:なんででしょうね(笑)。このモンスターは、首にある海綿質の鱗(うろこ)が特徴ですね。モンスターを作る時って質感にインパクトを求めるんですよ。「そんな皮膚してるの?」とか「普通はそんな材質持ってこないでしょ?」というのを個性を出すためにするんですけど、このロアルドロスは、海綿質……わかりやすくいうとスポンジのような鱗を持っていて、その鱗に水を含ませるというのを再現しています。
――このモンスターもまたジャギィとは違うタイプの群れを作るというイメージがあるのですが。
藤岡:そうですね。ルドロスがいる以上は群れですが、むしろコロニーや集落があのあたりにあるという位置づけです。一夫多妻で、大きく成長したオスが群れのボスとなり、ハーレムを作るという。セイウチのような感じの生態を作っています。
辻本:ゲーム中の役割としては、水中のお勉強モンスターです。
藤岡:このモンスターはよく陸にいるんですが、最終的に水中に潜ることが多い。そこでプレイヤー的には、水中に付き合う必要があります。最後の討伐する時に、水中でうまく立ち回れないと討伐しきれない可能性がでてきます。
→次のページでは、武器の選別理由やネットワークモード、そして今後の展望に迫る!
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