2009年9月14日(月)
小清水さん:小説のキャラクターを絵にマンガを描くのは、やっぱり大変なんでしょうか?
小梅先生:うん。これは大変というか反省点なんですけど、初期の服のデザインは、じつは細かいところで間違っていたんですよ。見よう見まねで描きやすいように書いていたら、ちょっと原作とは違うものになっちゃったんです。だから、これからバレないように少しずつすり合わせていくかもしれません(笑)。ロレンスのトレッキング用の衣装とかもそうなんですが、文倉先生は相当考えて絵を描いているなと、改めて実感しました。行商人が着るような歩きやすい服といえば、山歩きみたいなところから持ってきたんだと思うんですよ。それにホロも、結構重厚な服を着ていますからね。
小清水さん:やっぱり原作を意識して描いているんですね。
小梅先生:文倉先生が描く女の子のように、体つきがきゃしゃになるように描いています。最初に僕が書いたホロは、ちょっとぽっちゃりしてたんですよ(笑)。
小清水さん:たしかに、ホロってきゃしゃですよね。ホロがよく「かよわくて守ってあげたくなるような、しおらしい女の子がみんな好きなんじゃろ?」ということを言うんですよ。これが本心というか、(狼の化身の)ホロ自身が理想に思っている姿なのかも?
小梅先生:ホロのことだから、グラマーだと男が大勢近寄りすぎて、うるさくなるから、なんてのもありそうですよね(笑)。そんなホロを演技するうえで、この要素だけは外してはダメとか、そういうものはありますか?
小清水さん:1つはやっぱり言葉使いですね。滑舌も大変なんですけど、何よりセリフの表現方法が大変です。同じ言葉でも表現方法でまったく別の伝え方になってしまうので、どういう話し方を選べばいいのかとかよく悩みます。他にも、ホロが持っている裏と表の部分もそうですね。ホロはわざと自分の本心をわからせないようにするところがあるんです。たとえば、ロレンスに何か助言を与えようとしている際は、どこか芝居がかった、ちょっと怪しい雰囲気を出していますよね。ちょっとした言葉を普通にしゃべるよりも、わざと強調して話したりとか。ホロのあるセリフの中で一番言いたいことはこういう言葉なんだろうけど、その言葉をわざとぼやかせるようなものを付け足して話したりとか、そういうことをホロはよくやるんです。言葉の持つ本当の意味に気が付いてほしいけど、すぐにはわかってほしくないみたいな、そういう感情がホロのどこかにあるのかなって思います。そういうポイントをどうやって伝えていくかというのを気をつけていますね。
小梅先生:さすがですね。
小清水さん:でも、全部を私1人でできるわけじゃないんですよ。家で練習して、いざ本番! となってみると、全然うまく伝わらなかったりとか(笑)。『狼と香辛料』のアフレコは毎回一筋縄ではいかないですね。悩んで悩んで、ホロの本当の気持ちを探して、それで現場に行くんです。けれど、現場には監督さんや役者さんがまわりにはいて、現場で初めて気がつくことであったりとか、他の方に教えてもらったりとか、そういうことがよくあります。自分がこの現場でとても成長させてもらっている気がしています。こういうキャラクターにはなかなかめぐり合うことはないんですけど、ホロに出会えてとてもよかったな感じています。小梅先生的には、マンガを担当されて改めて気がついた部分とかはありますか?
小梅先生:それはもう(笑)。『狼と香辛料』のマンガを担当する前は、『くじびきアンバランス』というマンガの作画を担当していたんですね。それは木尾士目先生からコンテをいただいて、それを僕が描くという形だったんです。そういう作業自体が初めてで、とても勉強させていただいたんですが、『狼と香辛料』ではさらにその上を目指す――自分で応用する機会をいただいたんだなと思っています。『狼と香辛料』って、心の機微をメインにしている物語なので、今までの応用の作品としても、とてもレベルの高い作品だと思うんです。この作品をやりきることができたら、僕自身とても成長できるなじゃないかって、そういう風に思える作品ですね。こんな機会をいただいて、とても感謝しています。
小清水さん:『狼と香辛料』がすでに人気がある状態でのコミカライズということで、プレッシャーや不安は大きくありませんでしたか?
小梅先生:ないと言えば嘘になるんですけど、ある時からは気にしないようにしました。実は1話を描くまでに紆余曲折あって、準備期間として半年いただいていたんですよ。でも、いろいろと試しているうちに、それを全部使っちゃって(笑)。『狼と香辛料』のマンガって、鉛筆で線を書いているんですよ。普通のマンガだと、それにペン入れをするんですが、今回は鉛筆のみで描いています。鉛筆にすることで、どこか土っぽい、中世のような雰囲気が出るんじゃないかなと思ったんです。
小清水さん:それは知らなかったです!
小梅先生:鉛筆でやりたいっていう話は、だいぶ最初のころに担当さんに相談して、OKをいただいたんですね。でも、鉛筆だけで、ペン入れしていないのを見たら、これは手抜きじゃないのかっていう人がいるんじゃないかと思い、1話の4ページくらいまでをペン入れしてしまったんです。そうしたら担当さんが「いい加減にしろ、鉛筆でいけ!」としかってくれて(笑)。そういうことがあったおかげで、自分なりに『狼と香辛料』を描く決意ができて、今に至りました。
小清水さん:なるほど。マンガがどこか柔らかいって感じたのは、鉛筆だからという秘密があったんですね!
小梅先生:鉛筆だと繊細な表現はあまりできないんですけど、『狼と香辛料』には、こういう雰囲気のがあっているかなって思いました。今度のホロはよく動きますよね。くるくる動いてとてもかわいい。あと、小清水さんの演技力が素晴らしいので、ぜひこれから見られる方は、それを楽しみにしてご覧ください。僕も楽しみに毎週観ます!
小清水さん:マンガ版『狼と香辛料』にはアニメでは描かれなかったお話があったり、マンガならではの表現があります、そういうのをたくさん見られるのはとても魅力的だと思いますし、より『狼と香辛料』の世界が広がる作品でもあります。それと、小梅先生の描く女の子は、とてもやわらかそうで、かわいくて、そしてちょっとセクシーでと、小梅先生ならではの魅力が満載な作品です。そんな『狼と香辛料』をよろしくお願いいたします。
(C)支倉凍砂/アスキー・メディアワークス/「狼と香辛料II」製作委員会
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