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2009年9月19日(土)

『UO』開発チームによる『UOSA』開発話をメールインタビューでお届け

文:電撃オンライン

 先週の9月9日に最新拡張パック『ステイジアン アビス(UOSA)』が発売された、エレクトロニック・アーツのPC用MMORPG『ウルティマオンライン(UO)』は、数あるMMORPGタイトルの中でも古参中の古参。いまやオンラインゲームの代名詞と言っても過言ではないタイトルだ。前回は日本運営チームに『UOSA』インタビューを行ったが、今回は米国・開発チームのスタッフが電撃オンラインからの質問に、メールインタビューという形で回答してくれた。

 なお、普段のインタビューは様々な大人の事情から口調や語尾を編集しているが、今回は日本運営チームの皆様が、普段からやり取りしている“回答者のキャラクター”を反映させた渾身の翻訳を送ってくれたので、それを生かす形でお届けしたい。

『UOSA』 『UOSA』


──最初に、本インタビューに回答してくださった方々のお名前、担当、『UO』といつから関わっているのかを教えてください。

『UOSA』
▲リードデザイナーのTim “Draconi” Cottenさん

Tim “Draconi” Cotten(以下、Draconi):リードデザイナーのDraconi。デザイン担当で、UO開発に携わって4年です。

John “Wilki” Wilkinson(以下、Wilki):『UO』のデザイナーだ。俺は2004年からUOチームに所属している。最初はコミュニティチーム所属だったんだが、その後デザイナーに変わったんだ。2007年の終わり頃にMythic Entertainmentへチームが異動になったときは、1年間学校に通っていて、チームへ戻ったのは2009年の初めだ。初めてプレイしたウルティマシリーズ作品は『ウルティマ II』で、1981年の俺が7歳か8歳の時だった。それ以来リリースされたシリーズはすべてプレイしたんだけど、『ウルティマ 8』だけは別だね。『UO』をプレイし始めたのは2000年からで、ゲームにもコミュニティの活動にも、すぐに没頭し始めたよ。

Mark Steelman(以下、Mark):拡張版チームのアシスタントデザイナー。UOと関わって1年。アシストってギフトだよね。

──拡張パック『宝珠の守人』から『ステイジアン アビス』発売まで、4年ものブランクがあいてしまった理由を教えてください。

Draconi:2005年に開発チームに入った頃、『UO』は宝珠の守人の実装後でたくさんの改革計画が練られていたんだ。甦りし王国(UOKR)の前に集中していたことは二つ。一つ目が不具合の修正で、二つ目がゲーム内へ活気を注ぎ込むべく、新たなコンテンツを用意していくことだ。その時に出たアイディアは、一部がUOKR導入前の段階で実装され、一部は後の拡張版で実装されたりしたんだ。そう、それこそステイジアン アビス(UOSA)さ。

 UOSAは『ウルティマ VI』と初期の『ウルティマ アンダーワールド』の世界をベースにしている。チームのみんなはそのことですごく盛り上がったし、なんたって『ウルティマ』の世界観に忠実に沿って新種族ガーゴイルを追加しようってことになっていたしね。UOKRをリリースして以降、新たなプロジェクトが開始された。ただそれも、一つの大きな出来事によって中断期間があったけどね。というのも、オフィスがカリフォルニアからバージニア(つまりアメリカ西海岸から東海岸)へ引っ越したんだ。Mythic Entertainmentのスタジオで勤務できるように、と。

 大変な引っ越し作業が終わった後は、ゲームを引き続き改善していきつつ、新たなメンバーを雇って、チームを再構成した。ゲームのスキルシステムの中核部分の改善を行いながらも、Patrick “Leurocian” Malottの元で、拡張版に関する作業も進めていた。2008年初めのころだ。

 そうしてその年の初夏、ついにプロジェクトに青信号が灯った。UOSAの開発が再び軌道に乗り、運営中のゲームの改善を続けていたチームも、全員が新たなコンテンツの開発に向けて準備をしていった。マーケティングチームもアナウンスの準備を進めた。ずっと昔の古いアイディアをひっぱり出してきて、新たなゲームのビジョンを新しく練り直し計画を立てるのは、かつてないほどの挑戦だった。UOチームで手腕を発揮していたアートディレクター、Eric Piccioneは、2007年に契約していたオリジナルのアートを見つけ出してきて、新たなモンスターやエリアにふさわしい、僕たちの想像以上のアートを提供してくれたんだ。

 その後の関心はただ一つ。新たなコンテンツをどれだけ早く開発できるかってこと! プロジェクトが始動した初めの頃、確かにUOSAの開発で身動きが取れないこともあった。でも、オープンベータが終わって最後の改善作業に専念していた8月頃までには、ようやく、暗いトンネルの先に明るい光が見えてきたんだ。それがガーゴイルの故郷テルマーさ!

Mark:そうですね……まずボスモンスター“スラッシャーオブベイルズ”との出演契約が上げられます……わかりますか? 悪魔と契約するのがどんなに一大事かってことが。まず彼は契約書を隅から隅までチェックしました。罠を疑っていたのです。次に、彼は彼の露出に関して、全て彼のエージェントの承認を必要とする、という条項を追加しようとしました。(我々が、彼を善き存在として露出演出したり、悪の代表としての威厳を損ねるような演出露出を行わないしたりしないか心配したのです) その上、彼は全ての契約のサインを血で書くように求めてきたのです。 健康条項に違反するとか何とか言ってね。

 いや真面目な話、我々は永遠にこれをやる羽目になってたかもしれませんが、正しい方向には進んでいた、と信じています。

──ガーゴイル開発中に一番悩んだことはなんですか?

Wilki:ガーゴイルはヒューマンやエルフと体格が異なるから、既存の鎧や服のグラフィックを再利用することはほぼ不可能だった。ヒューマンとエルフと同じ装備システムは利用したくなかった(でかい爪が生えた足にブーツを履かせたいかい?)から、ガーゴイル専用装備の性能やプロパティのバランスには、多大な時間を掛けたんだ。装備可能な箇所の数がヒューマンたちとは異なるから、開発初期の段階から検討を重ねていった。

 もう一つ大事な検討事項があって、それはガーゴイルが飛べるってこと。もちろん、移動できない場所を阻む境界教会をすべて超えて飛行できるなんてことにはできない。飛行していける場所を制限しつつも、飛行というアドバンテージを活かせるようにするにはどうやったらいいか、ってことを考えなければならなかった。さらに、ガーゴイルの飛行とヒューマン&エルフの乗馬とのバランスをとるための時間も必要だった。

Mark:英雄的でありながら同様に悪魔的であること。現実と同じような恐怖をプレイヤーにもたらすこと。そして、ガーゴイルの飛行をゲームバランスの崩壊無しにゲーム内に組み込むこと、などですね。

──エルフ実装時に、「オークも新種族候補として人気が高かった」と聞きました。3番目の新種族としてオークが入る可能性はありますか?

Draconi:『UO』の初期から、オークに扮してロールプレイするプレイヤーがいたことを知ってるかい? オークヘルムを被った集団がギルドを作り、勢力を集結して人間たちと戦いを繰り広げる―これを見たときは、『UO』はプレイヤーの手にゆだねられた生き物だ、って気がしたものだ。これは個人的な意見だけど、もし自分が次にプレイしたい種族は? と聞かれた時は「オークだ」と答えるだろう。とはいえ『UO』には無限の可能性があると思うよ!

『UOSA』
▲デザイナーのJohn “Wilki” Wilkinsonさん。

Wilki:宝珠の守人の仕事に関わり始めた時、新しい種族が欲しいってのは分かってた。だけど、何を追加すればいいのかってのは分かってなかった。というわけで、新種族は何がいいかってアンケートを取ったんだ。オークが選ばれるってのに10ドル掛けたんだけど、実際のところは、他のどの選択肢よりも、エルフを選ぶ人が多かった。だから、オークじゃなくてエルフが入ったってわけ。

 将来どうなるかって? 可能性? もちろん可能性はある。ただ、オークを追加するための作業をいま現在積極的に行ってるってわけじゃない。今後どうなるかってのは、時間を置く必要があると思うね。

──日本でもUOSAが発売されて2週間近くが経過しましたが、欧米も含めてプレイヤーからの反応はどんな感じでしょう?

Mark:素晴らしい評価をいただいています。バグもいくつか報告いただきましたが、まあいつものことなので。『UO』ファンの皆様がまさに待ち望んでいたものをリリース出来たのではないでしょうか。

──本当はUOSAに実装したかったけれど、実現できなかったシステムなどがありましたら、裏話を含めて教えてください。

Draconi:えぇ、もちろん!:) スペシャルな隠れた“開発室”を作りたかったね。そこに行くと、開発者の姿をしたキャラクターがおかしな話をしてくれるんだ。バーには二人のガーゴイルがいて、「翼なしのガーゴイルどこ行った?」とかなんとか話しかけてくる。それは冗談だけど、実際に導入された面白いアイディアもたくさんあるんだ! レッドヘリング、闘鶏、そしていつか見つかると思うんだけど、スペシャルなイースターエッグなんかもあるぞ!

Wilki:えーっと、現在のシャードに、初期のハロウィーンの内容を実装しようって話がでたんだ。でもプロデューサーがダメって言いやがった。グッドなアイディアだと思うんだがね。だって、銀行が死体で覆い尽くされるんだぜ!

Mark:ブルースは、調理して食べるとステータスが上昇する“名誉のベーコン”を落とす“武士道の豚”を用意していました。幸い、我々は彼がそれをしでかす前にとっ捕まえることができましたが。 カルは気難し屋のガーゴイルのアイデアがお気に入りで、そいつは人間をいろんなやり方で侮辱する、っていう奴でした。たとえば「我らが人と共に生きることなど無理だ。彼奴らは馬に乗って叫ぶのだ…夕食の具材に跨って戦に赴くのかね?」とか「あの人の男を見よ。今まで見た中で一番小さい翼をもつ男を…いや待て、あれは耳だ!ハハハ!」とか言うんですよ。

──先日のインタビューで日本の運営チームから「開発側スタッフは、『UO』の世界にはありえないと思ってしまうものも、積極的に導入しようとするチャレンジ精神がある。それをどちらかと言えば保守的な日本スタッフが止めてバランスが取れている」との話でした。なんとなく逆のイメージだけに驚きましたが、実際のところは皆さんはどう思われますか? 

Mark:USチームと日本チームの関係は、『UO』の成功のためにとても重要なファクターです。お互いに異なる地域におり、異なるゲーム性を求めるユーザが居て、それはとてもいいことだと思います。日本チームが新しいアイデアを出して、それはUSチームとして受け入れづらかったり、逆にUSチームが提案したものが、日本では受け入れられなかったりする。そういう議論を積み重ねて、より良いものが生まれると信じています。

『UOSA』 『UOSA』

──この次の拡張パック発売の予定とその内容について、今後の開発スケジュールを教えてください。

Mark:何も言えませんが、とりあえずいろんなアイデアがオフィスの中を飛び回っています。まず、プレイヤーのみなさんが何を求めているかを確認してから、次の方向性をまとめるつもりです。

──大変失礼な質問であることを承知のうえで伺います。いまやサービス開始から10年をこえた『UO』は、MMORPGの代名詞ともいえる古参タイトルになりました。今もなお『UO』を楽しんでいるプレイヤーは大勢いると思いますし、私自身も現役プレイヤーです。しかし、10代~20代前半の若年層のゲーマーにとって『UO』は、「名前だけは聞いたことがある有名な昔のゲーム」という存在になりつつあります。一方で30代半ば以上のゲーマーにとっても「昔は夢中になって遊んだし、今も『UO』を越えるクオリティのMMORPGは無いと思うが、さすがにもう古い」という感想もしばしば耳にします。

 MMORPGの黎明期は『UO』以外に選択肢がそもそも無かったという時代性を考えても、『UO』がオンラインゲームの普及に果たした役割は計り知れないほど大きいですが、意地の悪い言い方をすれば「既にその役割を終えた」と見ることもできます。開発チームは現在の『UO』をPCオンラインゲームというジャンルの中で、どう位置づけているのか? 今後どうして行きたいのかを聞かせてください。

『UOSA』
▲拡張版チームのアシスタントデザイナーMark Steelmanさん。

Draconi:まじめな話、『ウルティマ オンライン』と本当に競合するゲームは一つもないでしょう。長い年月を経て、たとえ『UO』が“歴史ある”“ニッチ”という印象をもたれたとしても、成長への姿勢を崩すことなんてない。チャンスを押さえていくだけで良いんだ! 今このインタビューの回答は、オースティン・ゲーム・ディベロッパーズ・カンファレンス(Austin Game Developers Conference)の参加中に書いているんだ。僕が『UO』の開発チームで働いているのを知ると、皆敬意を払って接してくれるし、うれしそうに話をしてくれる。

 確かに何年も前は、開発者仲間たちが否定的だった時もあった。でも現在は違う。今日のMMORPGマーケットにおいても、『UO』は堅実に一定のプレイヤー数を確保し続けているんだ。『UO』の領域に到達することなく、生まれては消えゆく新しいゲームは少なくない。

 それから、『UO』愛にあふれたコミュニティについても他の参加者に話してるよ。コミュニティという『UO』の強みと、開発チームの献身的な働きぶり、それらがすべて組み合わさって、『UO』というゲーム、いや、むしろ世界が生み出されているんだ。グラフィックとか、カリスマ開発者とかって話を超越した世界が。そうして僕らの世界、ブリタニアが息づいているんだ!

Mark:『UO』は次の二つの理由において、現在の市場のなかで大事な位置を占めています。一つに、大量のコンテンツ。12年分のコンテンツがあります。もし『UO』の現状のプレイスタイルに飽きたら、周りも見回してみればいいのです。何かしら新しくて面白いことが転がっています。

 二つ目に『UO』はスキル制度を採用しています。これは、まさに私が『UO』チームに参加した理由でもあります。他のゲームは職業(とかクラス)別システムであり、同クラスのプレイヤーの違いなんて鎧の種類くらいでしょう。最近のMMOは単純化されすぎてつまらない、と言ってしまいましょう。 『UO』には選択があり多様性があり、『UO』をプレイする人は『UO』が他のゲームよりもっと多くをプレイヤーに与えることを知っているのです。

 三つ目(増えちゃった!)、『UO』はいわゆるバードビュー(斜め見おろし視点)を採用しています。三人称視点のゲームと違って、キャラ周辺の環境をとても簡単にいじることができますね。三人称のゲームでは、プレイヤーはマウスをクリックしてばかりで冒険に興じている感じを得にくいと思います。三人称では周囲をチェックするためだけに、プレイヤーはアクションが必要でしょう。

──最後にUOSAを楽しんでいる日本のプレイヤーに向けて、メッセージをお願いします。

Draconi:“Stygian Abyss” wa saikou!

Mark:拡張版「ステイジアン アビス」をようやくウルティマのファンの皆様にお届けすることができ、またウルティマファンの皆様への我々の愛をお見せすることができたかと思います。 お楽しみいただけることを願ってやみません。 あと、電撃オンラインにも、こういう機会を用意いただき、アメリカと日本のプレイヤーのみなさんとの交流の場を設けていただいたことを感謝します。

Thank you!

 リアルタイムのインタビューではないため、「ああ、もう少し詳しい話を聞きたかったなぁ」という部分もチラホラあるのだが、開発チームのユーモアたっぷりな回答は、『UO』経験者には楽しんでいただけたのではないだろうか? 10年を超えてなおプレイヤーに愛され続けるMMORPGは、早々存在しない。いささか筆者個人の思い入れが強すぎるのは申し訳ないが、あと10年、いや20年先でも、ブリタニア世界がネットワークの向こうに広がっていることを願ってやまないのである。

(c)2009 Electronic Arts Inc., Electronic Arts, EA, Ultima, Ultima Online, and the UO logo are trademarks or registered trademarks of Electronic Arts Inc. in the US, and /or other countries. All rights reserved.

データ

▼『ウルティマ オンライン』
■メーカー:エレクトロニック・アーツ
■対応機種:PC(対応OS:Windows 2000/XP)
■ジャンル:RPG(オンライン専用)
■正式サービス開始日:1997年10月17日
■プレイ料金:1,554円(税込)/月額

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