2009年12月15日(火)
――『UO』ファンとしては開発プロデューサーにお目にかかれて光栄です。まずは読者向けの自己紹介として、『UO』開発チームでの役割やご自身のゲーム歴などをお願いします。
Calvin Crowner氏(以下、Calvin):世界でもっとも長いサービス歴を誇るMMORPG、『UO』の開発プロデューサーを務めているCalvin Crownerです。私の仕事内容は予算やスケジュールの管理、ゲームデザインに関してデザイナーから挙がってきたアイディアを『UO』の世界観と照らし合わせ、開発にGoサインを出すか否かの最終判断。その他にも、EA日本との連携、プレイヤーからの意見に耳を傾け、彼らのリアルな要望を汲み取ることまで含まれています。
個人的なゲーム歴は10年前の『Asheron's Call(※)』から『スター・ウォーズ ギャラクシーズ』、『Dark Age of Camelot』、最近で言えば『World of Warcraft』まで、それぞれ短期間ですがプレイ経験はありますよ。『Ever Quest』だけは一度もプレイしていませんけどね。そしていかに『UO』がそれらの作品より優れているか、改めて実感しました(笑)。オフライン作品だと『Advanced Dungeons & Dragons』にも熱中したクチです。というか今もプレイしています。
その後ゲームの作り手側になったのは4年前のことです。『UO』の開発には2年半前から関わっています。
(※『Asheron's Call』はTurbineが開発、『UO』『EverQuest』とならぶ3大MMORPGの1つ)
――では次に、今回の来日目的を教えてください。
丸山大輔氏(以下、丸山):あまり詳しくはお話できませんが、そもそもCalvinが最後に来日したのは1年半も前のことなんです。メールや電話でのやりとりは頻繁にしていますが、「1年半って、ちょっとごぶさた過ぎない?」と言ったら「じゃあ行くよ」となりまして……。もうひとつの理由は、つい最近まで私がミシック・エンターテインメントの開発スタジオに行っていたこともあり、日本チームと北米チームの連携強化。さらには日本側が提案する、『UO』のイベントやコンテンツ、新システムのアイディアについて、プロデューサーとして判断してもらうという目的もあります。
――日本では最新拡張版の『ステイジアン アビス』(以下UOSA)発売から3ヶ月が経過し、プレイヤーも一通りの要素を試して落ち着いた頃だと思います。すでにいくつかの修正パッチなども入りましたが、現時点でのプレイヤーからの反響はいかがでしょうか?
Calvin:プレイヤーは『UOSA』で追加された新要素をとても楽しんでくれているようですし、幸いにも良い評価をもらっています。ただ、新種族ガーゴイル、新スキルのImbuing(練成)、Mysticism(神秘魔法)などについては修正/改善を随時、行っていく予定です。開発者は1つの大きなプロジェクトが完成すると作ったものについては忘れがちですし、次のプロジェクトにばかり目が向いてしまう傾向があります。でも『UO』では過去のコンテンツもきちんとサポートし続け、気を配ることは忘れません。なぜなら、それは『UOSA』発売前からプレイヤーと我々が約束したことだからです。約束は必ず守りますよ。 ちょっと話はそれますが、実は私自身はゲーム内で練成を使ったことがありません。でも、あれはおもしろいスキルですね。チーム内の友人が練成で作成した武器をくれるので、実に楽しいです(笑)。
――『UOSA』も無事発売され一段落ついた現在、次に抱えている課題は何でしょう。
Calvin:課題は山積みですよ。目下の課題はスピードハッキング対策、サードパーティツールの検出、毎年恒例のホリデーギフトの準備、さらに我々が今注力しているのはPvPの活性化です。かつてのようにフェルッカ、PvPそして派閥にプレイヤーが戻ってきてくれるよう、どうすべきか検討中です。あとは『UOSA』開発中はライブイベントがおろそかになっていたので、そちらも力を入れていく予定です。
――PvPの活性化に注力というのはかなり気になる発言です。トランメル世界ができて以来、ごく一部のコアプレイヤーを除きPKやPKKを目的にフェルッカに出かける人は、日本シャードを見る限りかなり稀有な存在です。今から一体どうやってフェルッカにプレイヤーを呼び戻すおつもりですか? 何か秘策があるのでしょうか?
Calvin:これまでの情報から日本のプレイヤーがPvPをさほど好まない。ロールプレイやハウスカスタマイズが人気だ、ということは我々もよく知っています。具体的なプランは幾つか出ていますが、今はまだお話できません。
――逆に、そのPvPを活性化させるための具体的な策は、いつ頃お話いただけそうでしょうか。
Calvin:時期についてもまだ何とも言えません。次回の“UO HoC”(定期的に行われる、開発者とファンとの公開質問会)では、何かしらお伝えできることがあればいいなあと思っています。逆に教えて欲しいことがあります。どうすれば日本のプレイヤーをフェルッカに、そしてPvPに戻せるのでしょうか?
――これはあくまで私個人の意見ですが……仕事柄、多くのMMORPGをプレイしてきましたが日本のプレイヤーは長時間かけて溜めてきた資産やゲーム内通貨、経験値を失うことを非常に嫌います。リスクを取らない選択肢があるかぎり、多くのカジュアルゲーマーはトランメルから一歩も出ないことを選ぶでしょう。強いPK/PKKに育つプレイヤーは、例え身包みはがされても、保険金のせいで全財産がバンクから失われても「どうせゲームの中のことじゃない。また頑張ればいい」と割り切る精神的な強さがあります。しかしカジュアルゲーマーは「趣味で遊ぶためにプレイしているのに、ゲームの中でもまでストレスを感じたくない」と思うようですね。
丸山:今のPvP仕様はお金もかかる割りに、メリットが少なく、初心者には敷居が高すぎるのは事実です。
――しかし一方で、経験値や所持金を一切失わないリスクゼロのシステムが実装されているゲームでは、攻城戦や国家戦は大変盛り上がっています。また、ブラウザゲーム『Travian』を日本サーバでプレイした際には、大規模同盟に所属したとたん高圧的に周囲の村を手当たり次第に襲う人をよく見ました。安全な場所から低リスクだと分かると、日本人プレイヤーも積極的にPK活動に励むようです(笑)。現在のデスペナルティを短縮、保険金の額を減らせばもう少しフェルッカに人気が戻るかもしれません。ただし同時に『UO』の世界観を破壊しかねませんが。
丸山:あくまで選択肢の一つですが、もう少し競技性のあるルール下でPvPができれば、スポーツのように楽しむプレイヤーが増える可能性はあるかもしれませんね。
――『UOSA』の新要素についてお話をうかがった際、新種族や新スキルの実装はもちろん嬉しいのですが、同時に『UO』の世界に伸びしろが無くなって来ていると感じました。単純なエリア拡張、アイテムが出ますよというだけで、ワクワク感が足りないと言うか、何か新しい可能性を感じられるようなインパクトに欠けると言いますか……。
Calvin:それについては順番にお話しましょう。まず最初に『UOSA』の実装は最初にお話したとおり、プレイヤーとの約束であり、絶対に守るべきことでした。2つ目は、『UO』にはこの12年間で築いてきた、素晴らしい世界とゲームシステムが存在します。これからはおっしゃる通り単純なエリア拡張ではなく、クライアントや既存の場所、システムを整理整頓し、より洗練したものに変えていく必要があります。そして3つ目、2つ目のシステムの洗練が成功すれば休眠中のプレイヤーはきっとブリタニアに戻ってきてくれるでしょうし、古参プレイヤーが新たなプレイヤーを連れてきて、新たな遊び方を一緒に見つけるでしょう。
『UO』は大きな箱庭です。プレイヤー自身が遊び方を見つけ、伝え、よりおもしろがっていけるように、我々はその土台をきちんと整備していく予定です。
――インパクトの強い新規コンテンツ開発というよりは、既存コンテンツのブラッシュアップがメインというわけですね。今クライアントについて話が出ましたのでお聞きします。『UOSA』という3Dクライアントの開発にこだわった理由は何でしょう。
Calvin:こだわっているわけではありません。今「古参の復帰とゲームの活性化が、新規プレイヤーを引っ張ってくる」と言いましたが、最近のMMORPGしか知らない人が2Dクライアントで今の『UO』を見たら、やはり驚くでしょう? 操作も特殊ですしね。ですから初めてオンラインゲームをやる方、あるいは他社タイトルからちょっと乗り換えてみようと思った人に、わりと直感的にプレイ可能なインタフェースを提供することで、この偉大なMMORPGを楽しむきっかけを作りたかったんです。クラシックな世界観を愛する既存プレイヤーのために、2Dクライアントを無くすことは考えていませんが、同時に古参プレイヤーだけが盛り上がる閉鎖的な空間でなく、門戸を広く開けるために『UOSA』クライアントは開発されました。
――なるほど。では同じく新たな3Dクライアントとして、過去に開発された『UOKR』はすでに廃止されましたね。『UOKR』の失敗から何か学んだことがあったら教えてください。
Calvin:その質問はこれまで何度も聞かれましたが、失敗と言いかたは好きではありませんね。なぜなら『UOKR』クライアントのエンジンやコンテンツの多くが、改良された形で『UOSA』に生かされているからです。新規プレイヤーが『UO』に感じる障壁を少しでも無くしたい、という気持ちから開発したことは間違ってなかったと今も信じています。当時はいろいろ手厳しいことも言われましたが、『UOKR』クライアントへの挑戦なしに、『UOSA』クライアント開発はありえませんでした。
――『UO』現役プレイヤーというのは、本当に『UO』を愛している熱心な方が多いため、いち早く確かな情報を得るために北米版の公式サイトをマメにチェックしています。正直、我々メディアよりも詳しい方も多くてですね……なんでも構いません。1個でいいので電撃オンラインの読者向けに、ウチでしか読めない最新情報を教えてください。
Calvin:難しいことを言いますね(笑)。では……1つだけ。PvPにも大きな影響を与える変更、具体的にはアイテムの保険金に関してちょっと変更がありますよ。これ以上は申し訳ありませんが何も言えません。
――ところで、少し話は変わりますが、2007年にはEAとMythicを巡る様々な動きがありましたよね。その後『UO』開発チームの構成メンバーの、オリジナルスタッフと元Mythicスタッフの割合を教えてください。
Calvin:何人という数字でその質問にお答えするわけには行きませんが、そもそもオリジナルの開発スタッフか、Mythic出身かということ自体にあまり意味がありません。この業界は人の動きも早いので、メンバーは頻繁に変わりますし、EAを退職した後に意外なきっかけで戻ってきたスタッフも本当に多いですから。
また、開発にたずさわるスタッフは全員『UO』で遊んでいますし、『UO』が持つ自由度の高さ、おもしろさはきちんと理解できています。ですからオリジナルのメンバーか否かは開発していく上でなんら影響はありませんし、気にする必要もありません。むしろMythic出身のデザイナーが『UO』らしさに強くこだわるタイプだったりします。
――それでは、北米版公式サイトで既出の情報ではありますが、少し前にEAで行われた大規模リストラが開発チームに影響を与えたのか、改めて日本のプレイヤー向けにお願いします。
Calvin:まず、プレイヤーの皆さんには一切何の影響もありません。メンバーは適材適所に配置されており『UO』の開発はこれまで同様に続きますし、過去のアップデートに関する調整、修正も手抜きはしません。既存のコアプレイヤーを楽しませるだけでなく、かつて『UO』で遊んでくれた休止プレイヤーが復帰したくなるような、魅力的なコンテンツを作るべく、むしろ我々開発チームはより精力的に活動していますよ。
■Calvin氏が世界のPCゲーム市場を分析(>>Page3)
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