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2010年1月25日(月)

雨を題材にした『蒼空時雨』で選考委員奨励賞に輝いた綾崎先生インタビュー

文:電撃オンライン

 1月25日に発売される小説『蒼空時雨』(※『夏空時雨』より改題)で、第16回電撃小説大賞・選考委員奨励賞を受賞した綾崎隼先生のインタビューをお届けしていく。

『蒼空時雨』
▲こちらは『蒼空時雨』の表紙画像。

 『蒼空時雨』は、雨を題材にした6つのエピソードからなる作品。激しい雨の日にアパート前で倒れていた女性を助けたことがきっかけで、互いに秘密を抱えながら同居することになった青年のエピソードや、亡くなった兄に恋心を抱き続ける女性のエピソードなどが展開していく。6つの物語は関連性を持っており、最終的に作品全体の人間模様が浮かび上がってくる構成となっている。

 以下に、綾崎先生に行ったインタビューを掲載していくので、興味がある人はぜひご一読いただきたい。

――では最初に、受賞した時の感想を教えてください。

綾崎先生:うれしかったの一言につきます。受賞の知らせを知ったのは、仕事を終えた後の職場でだったんですが、祈るような気持ちでメールを確認しました。ずっと昔から、それこそ小学生のころから小説家になりたいと思っていたので、本当にうれしかったです。

――投稿を始めたのはいつごろですか?

綾崎先生:投稿を始めたのは大学を卒業してからです。あきらめずに頑張ろうとは思っていましたが、5~6年くらい落選を繰り返していて。かなうとは限らない未来のために努力し続けることが、困難に思える時期もありました。受賞の知らせを受け、「やっとスタートラインに立てるんだな」という思いもあれば「これから生き残っていけるのだろうか」という不安もあり、本当にいろんな気持ちを味わいました。

――小説を書き始めたのは大学生のころ?

綾崎先生:いえ、中学生の時に書き始めました。「小説家になりたい」と思ったのは小学生の時で、空想にひたっていることが多かったような気がします。読み手として、生き物をモチーフにした小説が好きだったので、自分でも動物が主人公の小説を書きたいと思っていました。今考えてみると、動物を主人公にして書くのは難しいと思いますが(笑)。

――綾崎先生の趣味は?

綾崎先生:音楽とサッカーが好きなんです。音楽はもちろん聴くのも好きなんですが、学生時代にバンドを組んでいたこともあって、自分で曲を作ったりもします。小説でも歌詞でもメロディーでも、何かをつくることが好きなんだと思います。サッカーは観戦するのも自分でプレイするのも好きです。週末はたいてい、サッカーかフットサルをしていますね。ただ、個人的には「サッカー」より「フットボール」という表記の方が好きなので、作中ではそう書いています。

――小説のアイデアを考える時に何かしていることは?

綾崎先生:四六時中、小説のことを考えてはいますが……岡崎律子さんの曲を聞いて、この曲にあうようなシーンを書きたいな、と考えることがあります。

――それでは作品についてうかがいます。本作のセールスポイントは?

綾崎先生:基本的には日常を切り取ったお話なんですが、日常にはささやかでもエンターテイメントの芽があって、そういった断片を切り取って1冊につむいでいったというイメージです。そのお話の共通項がタイトルにも入っている“雨”になります。一見別々のエピソードから成り立っている作品ですが、ところどころでリンクしていて、構成の面でも楽しんでもらえるように仕立ててあります。裏表紙のあらすじでも明かされている通り、主人公とヒロインがそれぞれに秘密を胸に抱いているのですが、いい意味で読者の予想を裏切れたら嬉しいです。

――続いて、本作を書くにいたった経緯を聞かせてください。

綾崎先生:雨が好きなので、とにかく全編にわたって雨をモチーフにした小説を書きたいという思いが最初にありました。投稿を始める前、学生時代は自分で世界設定から作って作品を書いていたんです。理想を言えば、有川浩先生の『塩の街』や『海の底』のようなレベルの世界観を構築したいのですが、現在の自分の技量では難しいと気付き、身の丈にあった話を書くことにしました。その前提で、自分の職業であれば、その世界は嘘いつわりなく書き出すことができますので、主人公を塾の講師という設定にして書きました。

――いくつかの物語が交錯するような構成になっていますが、これについては?

綾崎先生:もともとは2話で完結する短編だったんです。ところが、書き出したら思っていた以上に楽しく、もう1つ雨の話を書きたくなって。1、2話に登場した人物のその後も気になっていましたし、だったら長編にしてしまおうと。

――電撃小説大賞に作品を送る上で注意した点などはありますか?

綾崎先生:これが第15回までだったら主人公の年齢を引き下げようと思ったかもしれません。ですが、今回新設された“メディアワークス文庫賞”の告知を見て、自分が書きたい小説は間違いなくここに合致すると思いましたし、勝手に運命的なものまで感じて投稿しました。根拠もなく自分の作品はメディアワークス文庫にぴったりだと思っていたので、そういう意味では意識して改変した点はないのですが、投稿に際して、とにかく物語の冒頭からおもしろくしよう、最初の引っかかりを早くしようと心がけました。

――綾崎先生が好きな作品・作家などを教えてください?

綾崎先生:先ほども少し触れましたが、有川浩先生です。電撃文庫で『塩の街』を読み、そのあと生まれて初めて投稿をしたのですが。正直『塩の街』を読んだときは「こんなにレベルの高い作品でないと受賞できないのであれば、一生小説家にはなれないな」と思いました。その後、発売されたハードカバー版にいくつか後日談が追加されていますが、その中の『世界が変わる前と後』で何度泣いたか知れません。読み終えた直後にもう一度読み始めてしまった初めての本です。

――こんな作品を書いてみたい、といった理想はありますか?

綾崎先生:『海の底』や『図書館戦争』のような世界観に憧れつつも、自分には書けそうにないのですが、有川先生の作品で言えば、目指したい理想は『阪急電車』のような日常の繊細さを切り取った作品です。他にも電撃文庫ですと、柴村仁先生の『プシュケの涙』のような作品を書くことができたとしたら、幸せだろうなと思います。

――有川先生にはお会いになったんですか?

綾崎先生:授賞式がありましたので、その時に。本当に有川先生の作品が大好きなので、とにかくうれしかったですね! 

――その時は、どんなお話をしたんですか?

綾崎先生:作家として生きていくためのアドバイスをいくつもいただきました。そういう具体的な話をしてくださった方はお1人だけでしたし、ただただ感動しながらお話しをさせていただきました。幸せでした。

――今後の話といえば、時雨沢恵一先生も授賞式で「どうか安心してください。これから先のほうがよっぽど大変です(笑)」とコメントしていましたが、授賞式のあとで何か実感したことはありますか?

綾崎先生:今は、楽しくて楽しくて仕方がないんです。小説を書けばすぐに担当の三木さん(※三木一馬電撃文庫副編集長)が読んでくださるので、それが何よりうれしいです。

――本作の改稿作業はいかがでしたか?

綾崎先生:基本的に結末までプロットを練ってから書き始めるのですが、実際に原稿に向かう際は、はじめからしっかりと書いてしまうのではなく、ざっと書いて、後から徹底的に直していくという書き方をするので、もともと、とにかく推敲と改稿に時間をかけるんです。改稿自体すごく好きな作業ですし、三木さんからいただくアドバイスや指摘が常に的確なので、とても興味深くて。毎回のように「確かにこうしたほうがおもしろくなるな」と思わされます。勉強になります。

――時間はどれくらいかかりましたか?

綾崎先生:1カ月なかったかもしれませんね。

――改稿まで含めて、作品を書き上げるためにどれくらいの時間がかかったんでしょう?

綾崎先生:う~ん、正確にどれくらいというと難しいのですが、第2話まで書いてしばらく時間が開いて、第3話を別の話として書いて……といった感じだったんです。そもそも一番最後に書いたのが、真ん中の第4話だったりもします。実際に執筆に要した時間は3カ月くらいだったと思いますが、トータルの制作期間ですと1年くらいでしょうか。書き終えてからも、日常生活の中で「どうしたらおもしろくなるんだろう」と改稿ポイントを考えていることが多いです。

――お気に入りのシーンは?

綾崎先生:思い返したときに印象深いのは、第2話で学生時代の主人公が、とあるキッカケで感情を爆発させるシーンです。僕個人は彼のような行動を取れないと思いますが、彼らしいシーンかな、と。エピソードとしては第4話です。今、自分が本当に書きたいことが、ああいう日常の中にある繊細な感情なので。読者にとっても、蛇足ではないことを願っています。

――それでは、これから読んでくれるであろう読者に一言!

綾崎先生:代わり映えのしない日常に疲れて、ふとセンチメンタルになる夜に、昔好きだった人を思い出すなんてことが、きっと誰にでもあると思います。そんな雨の夜に手にとってもらって、優しく胸の砂地に染みこんでくれる恋愛小説になっていたら嬉しいです。群像劇の中に様々な仕掛けを用意してあるので、読み終わった後に「ああ、そういうことだったのか」と納得していただけると思います。伏線や構成にこだわった作品がお好きな方はぜひ読んでみてください。

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データ

▼『蒼空時雨』
■メーカー:アスキー・メディアワークス
■発売日:2010年1月25日
■価格:599円(税込)
 
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