2010年5月3日(月)
明日5月4日、PC用ソフト『あの、素晴らしい をもう一度/再装版』と『サンダーストーム』を同時発売する自転車創業。電撃オンラインでは、同社代表・かざみみかぜ。さんにインタビューを敢行した。
『あの、素晴らしい をもう一度/再装版』は、同社が展開しているアドバンスドノベルのシリーズ1作目をリメイクしたもの。電撃オンラインでは作品紹介と体験版の配布を行っているので、詳しくはそちらを見てほしい。また『サンダーストーム』は、1984年にデータイーストからリリースされた同名の業務用フライトSTGを基板レベルで解析した“完全移植版”だ。WindowsだけでなくX68030/60にも対応している。
かざみさんには、『あの、素晴らしい をもう一度/再装版』の話を中心として、ゲーム制作の考えや取り組み方、同社のコンシューマ移植への意識などを聞いた。というわけで、マスターアップも終わり落ち着いているだろうと思われた4月末。自転車創業へと向かったのだが……。
■かざみみかぜ。
合資会社・自転車創業の代表。『空の浮動産』や『ロストカラーズ』といったアドバンスドノベルを企画・制作しており、ゲームデザインやシナリオ執筆を手がける。
インタビューの中では、以下の作品について略称で表記しています。
1999年発売『あの、素晴らしい をもう一度』 → 初代『あのすば』
2010年発売『あの、素晴らしい をもう一度/再装版』 → 『あのすば』再装版/リメイク
『そう、あたしたちはこんなにも理不尽な世界に生きているのだらよ』 → 『だらよ1』
『そう、あたしたちはこんなにも理不尽な世界に生きているのだらよ3 ※この世界で2の発売予定はありません。』 → 『だらよ3』
(インタビュー聞き手:アクティ)
――マスターアップが終わって、一段落されましたか?
いや、バタバタしていました。『サンダーストーム』のジャケット印刷で不具合がありまして、作り直したんですよ。
――えっ!
なぜか元データに比べて、印刷物の解像度が異常に低くなっていたんです。ただぱっと見ではわからないのもあって、流通に発送されるまで誰も気づきませんでした。それをうちに送られてきた現物を見て気づいて、即刷り直しを決めてパッケージングやり直し。直接取引のショップさんはスケジュール的にも大丈夫なんですが、流通のホビボックスは連休直前だし、そのままだとどうやっても間に合わないスケジュールでした。
なので、Amazon.co.jpへの流通分はホビボックスの倉庫でなく事務所に送ってもらい、到着と同時に担当さんが手書きで即返送。そこ以外の流通分は連休中の棚卸の日に、このタイトルのためだけに作業を遅らせてもらって、受け取りと発送処理をお願いすることになりました。倉庫が開く午前10:00より早くても受け取れないし、遅くても棚卸が始まってアウトだったので、最悪、発売日の延期も考えていたんですが、なんとかこちら側でできる処理としては間に合ったという感じです。
――それは、お疲れ様でした……。もう落ち着いているかと思っていました。では、まずは『あのすば』再装版の話から行きましょうか。なぜこのタイミングで作り直すことにしたかを教えてください。
割と長いこと売っていたので、最初はもう、欲しい人は手に入れただろうと思って作らなくてもいいと考えていたんですよ。ただ『だらよ1』を作ったあたりから、かなり新規のお客さんが増えたんです。その方たちが入ってきた時期には、もう『あのすば』が売っていない状態でした。一方で『あのすば』は、設計が古かったり、ゲームとして短かったりで、おれの中では「このままでは出せないな」という思いがあったんです。かなり昔に作ったものなので、あまり見直したくないという理由もあり。
ですから当時は、お客さんから聞かれた時も「優先順位はかなり低い」と言っていました。しかも『だらよ』は続編を作る前提でいましたから、『だらよ1』を作り終えた時は『だらよ3』をどうするかが最優先でした。なので『だらよ3』を発売して、いろいろな宿題が片付いて、ようやく“やりたい・やれるもの”の優先順位で『あのすば』のリメイクが一番上に来たわけです。
――では、開発に着手したのは『だらよ3』の後ですか。
そうです。蚊遣豚を作ったりもしてましたけど。でも陶器を作ったり、LDゲームの移植手伝いをすることは並行してできたので、『だらよ3』が終わって2008年末ぐらいからちょこちょことやっていました。最初は半年ぐらいで作るつもりだったんですが、気付いたら1年半ぐらい掛かってしまいました。最初はかがりさん(原画の玉岡かがりさん)と「早くできちゃうけど、発売するイベントとかタイミングとかないからどうしよう」なんて言っていたんですけど、実際は進めば進むほど全然当てが外れて「やってもやっても終わらない」状況になっていきました。
――それだけ掛かったのは、記憶管理の仕組みを追加したことが大きいのでしょうか。
それもあります。あと登場人物は少ないですから、かがりさんに「量はたいしたことないですよ」とか言っていたんですが、リメイクするならこれはやっておきたいとか、後悔をなくすつもりでリストアップしていたらボリューム比ではかなりの量になってしまい、重複できるものをちょっとだけ削ったりして再調整したものの、結局あんまり減りませんでしたね。おれの作業も、最終的には手を入れていないシーンがほとんどない状態になりました。
――体験版を見た限りでは、かなり状況説明文がカットされている印象を受けました。
ええ。すでに『ロストカラーズ』や『だらよ』ではそうなっているんですけど、できる限り地の文をなくしたいんですよ。小説とノベルゲームの大きな違いのひとつは、後ろで絵が動いているかどうかです。小説は絵がないから地の文で説明する。ノベルゲームは絵があるんだからそれで説明すればいいだろう、ということで、場面を文字だけで説明する状況説明文は極力省く方向で作成しているんです。
初代『あのすば』でも、コンセプト自体はそのつもりでいたので、状況説明はかなり少なくしていたつもりだったんですが、10年経って今の感覚で見直したら結構多かった。まずそれを半減させて、状況説明を絵で代用しようとしたら、作業量が大変なことになったんです。
――以前の『あのすば』でも、絵はかなり動いていましたよね。
そういうコンセプトで作っていましたから。ただ、初代『あのすば』では画像に対するエフェクトがほとんどないんです。最新システムでは、キャラクターのスライドや拡大回転縮小ができるようになっていますから、そうした演出を入れています。たとえば体験版に入っている、リトが魔法を使っているシーンでは、手を揺らしたり、光を点滅させていたりと、いろいろな部分を動かしています。
――なるほど。では、かざみさんが書いているテキストの部分は、再装版ではどう変わりましたか。
“地の文で余計なことをしない”という方針でやっていますので、前より余計なことをしなくなったという意味ではよりシンプルになっているはずです。今の自分ではしない表現や言い回しを削り落としましたから、特性は残すがクセは消すというチューニングになっていると思います。
――テンポが上がっている印象は受けますね。
10年経って見直すと野暮ったいところがあったので、そこもチューニングの一環です。でも、一番手を入れたのは演出ですね。時間の大半はそっちに割いていました。
――ということは、スクリプトの作業が大変だったと。
大変でしたね……。作りながら途中で後悔しかけました。細かい演出は一番の時間食いなので、やってもやっても終わらないんですよ。一枚絵を一枚絵として出すだけなのがイヤだったので、でき上がった画像をもらう時も、1枚に統合されたものではなくレイヤーが分かれているものをもらって、パーツをばらばらにして動かせそうなものはできるだけ動かすようにしました。
で、1カ所凝ると他の所も同レベルにしないとまずいよなと思ってまた時間が掛かる。初代では“キャラクターが新しくしゃべっている時に表情は表情を変える”、再装版では“しゃべっている時には表情を変えて動かす”というスタンスです。もちろんスクリプトは最初から全部打ち直しです。テキストも、ぱっと見はわからなくても、実は手が入っている行はかなりあると思います。
――記憶管理の仕組みも入れていますしね。記憶管理に関する追加の文章も入っているんですよね?
フルオートで謎を解いていくところを、再装版では全部手動に変えましたので、謎解きは全部作り直しのようなものです。
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