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2010年5月20日(木)

【経営者は語る 第6回】WeMade Online代表取締役 崔鍾玖氏インタビュー

文:電撃オンライン

■韓国オンラインゲーム業界ベスト5で最後の巨人が日本市場へ

『【経営者は語る 第6回】WeMade Online代表取締役 崔鍾玖氏インタビュー』

──本日はよろしくお願いします。YNK JAPANがWeMade Entertainmentと提携するというお話は、客観的に見てかなりのビッグニュースですし、実際私もびっくりしました。韓国のオンラインゲームメーカーの中でも、大手かつ老舗ですし。ここ2~3年で言うと、アジア各地のゲームショウで『蒼天』を大規模にPRしていたイメージが強いです。

WeMade Online 代表取締役社長/CEO 崔 鍾玖氏(以下、崔 鍾玖氏):確かに、WeMade Entertainment本体が現在一番力を入れているのが『蒼天』ですね。韓国ではトップ5に入る規模のオンラインゲーム会社ですが、何より韓国では『Legend of Mir 2』(ミルの伝説2)のイメージが強く、実際に最大の収益を上げています。

──おお、『Legend of Mir 2』といえば、NC softの『Lineage』以前、韓国オンラインゲーム業界草創期の大ヒット作品ですね。

崔 鍾玖氏:そのとおりです。サービスを開始してから10年以上になりますが、中国市場で韓国製オンラインゲームのイメージを形作った作品でもあります。

──今回の提携のお話は、いつ頃から進んでいたのでしょうか?

崔 鍾玖氏:資本関係のお話に入ったのは、昨年10月頃です。WeMade Entertainmentとの関係というと、2年ほど前に『Legend of Mir 2』の日本パブリッシングに関するお話が、最初のコンタクトです。『タルタロス』と『蒼天』の日本パブリッシャを検討する段階でもお話があったのですが、これらは結局実りませんでした。

 今回の提携に直接関連しているのは、2008年7月頃に始まった、ベンチャーキャピタル(投資会社)7社ほどによるYNK JAPANへの出資のお話です。このときに始めた資本強化計画の一環として、韓国の知人から出資の申し出があったのですが、どうせなら事業上のシナジーを狙えるゲーム会社からの出資を受けたいということで、あらためてWeMade Entertainmentを紹介していただきました。

 WeMade Entertainmentとしても日本市場を重視して、2年ほど前から日本に拠点を構えることを考えていたようです。その役割を我々が担うことでGoサインが出て、2月にすべて決まったというわけです。韓国の大手であるNCsoft、Nexon、CJ Internetはそれぞれ現地法人を持っていて、またNeoWizはゲームオンを買収しました。これらに続くWeMade Entertainmentも、YNK JAPANを買収することにより、230億円前後の内部留保を活かして“時間をお金で買った”ということになりますね。

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──なるほど。話の発端はあくまで、YNK JAPANの事業拡大であるわけですね。

崔 鍾玖氏:そのとおりです。YNK KOREAの作品をサービスするところから始まり、ここまで他社作品も順次パブリッシングしてきましたが、これからのタイミングでYNK KOREAにちょうどいい作品がないということもあり、WeMade Entertainmentの作品に期待するところも大きいです。

■2008年の社長就任と同時にYNK KOREAからある程度独立したパブリッシャへ

──ではあらためて、YNK JAPANが歩んできた道について教えてください。会社は最初、YNK KOREAの作品をサービスするために設立されたわけですよね?

崔 鍾玖氏:そうです。ただし最初に『SEAL ONLINE』のサービスを計画したのはGBMという会社で、当初はここがパブリッシャになる予定でした。その後、戦略の変更に伴って2004年にYNK JAPANが設立され、その下に設けた100%出資子会社KESPIがサービスを提供することになりました。

 YNKという社名はもともとY&Kの意味で、これは設立者二人の苗字、YoonとKimに由来しています。そしてそのKのほうと私は大学の同期でしたので、その縁もあってYNK JAPAN設立後は、ずっと監査役を務めていました。

──『SEAL ONLINE』のコピーライト表記として前々から気になっていたKESPIという会社についてなのですが、どうしてYNK JAPANの下に、もう一つ別の会社を作る形になっていたのでしょうか?

『【経営者は語る 第6回】WeMade Online代表取締役 崔鍾玖氏インタビュー』

崔 鍾玖氏:もともとは、YNK JAPANが展開する作品ごとに会社を立てる構想だったのです。『SEAL ONLINE』を運営する会社はKESPI、次の作品が始まったら、また別の会社を設けて、そこで専門的に運営したほうがうまくいく、と。その当時の『SEAL ONLINE』の勢いからして、それでうまくいくという見通しだったのですが、実際にサービスを開始してみると、そこまで一足飛びに大きなビジネスにはなりませんでした。そこで、1社が複数のタイトルを提供する、現在よく見る形に収まっていったわけです。そうなると、YNK JAPANの下に別の会社組織を置く意味はありませんから、『R.O.H.A.N』のパブリッシング開始と同時に、KESPIはYNK JAPANに吸収する形で解消しています。

──崔さんが代表取締役社長に就任したのは2007年ですよね? 以降のYNK JAPANが何を目標に歩んできたか、ぜひ教えてください。

崔 鍾玖氏:私は最初コンサルティングに近い立場でYNK JAPANに関わり、2004年から2006年までの間は、非常勤の役員に留まっていました。実を言うと、私がゲームをプレイしたのは2007年が初めてだったんですよ(笑)。いまではもちろん、自社のサービスタイトルはすべてプレイしていますけど。

 2007年時点での課題は、とにかく“生き残り”でした。『SEAL ONLINE』の開発元の体制がうまくいかず、これは結果としてYNK KOREA本体に戻ります。また2006年に『R.O.H.A.N』をローンチしましたが、月額課金制だったこともあって、あまり伸びませんでした。

──ちょうど日本市場での、定額課金からアイテム課金への移り変わり時期に当たっていたわけですね。

崔 鍾玖氏:はい。2007年6月に社長に就任して、“生き残り”のために力を入れたのは“とにかくまともなサービスを提供しなければいけない”ということでした。その時点で、私にオンラインゲーム業界での経験はありませんでしたが、日本サムスン時代とコンサルティング事業の経験を通して、日本市場についてはさまざまなことを学んできました。当時サムスンは、自動車事業やスーパーマーケットも手がけていましたので、日本における小売業のサービス精神について、いろいろ思うところがあったのです。

──なるほど、オンラインゲームという“サービス”がどうあるべきか、小売業での経験に照らして模索していったんですね。

崔 鍾玖氏:『R.O.H.A.N』のアイテム課金化に続いて、社内の体制を整備していきました。例えば『新生R.O.H.A.N』で、長期アップデート予定を明らかにしたのも、お客様から見てサービスがどうあるべきかということを考えた取り組みの一つです。そして、2007年度後半に集中的にやったのが人材の育成です。スキルの向上よりも精神面での組織作りですね。

 他社さんではGM(ゲームマスター)部署と別にQA(Quality Assurence:品質管理)部署を設けるケースもあるようですが、YNK JAPANではあえてGMを中心とした社員でQAを担当する形にしました。独立したQA部門を設ければ専門性は高まるかもしれませんが、プレイヤーさんとの距離がひらき、開発サイドとのコミュニケーションの質とスピードが劣化すると考えたのです。この方針は現在も変わっていません。

 GMが広範な責任を負う体制にしたため、例えばGMさんの新規採用に当たっても、他社さんでのGM経験はあまり重視していません。むしろ、接客経験の持ち主を重視しています。それは、お客様から寄せられた意見や要望の裏にある気持ちを、きちんと想像する能力に繋がるからです。

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──基本的な社内体制の構築が、つまり“生き残り”のための策だったわけですね。続く2008年の課題はどういったものだったのでしょう。

崔 鍾玖氏:2008年の課題は、先ほども申し上げたとおり資本の拡大でした。現在は解消されていますが、エキサイトの出資を受けたり、先ほどのベンチャーキャピタル7社からの審査とアドバイスがあったりで、引き続き増資に向けた社内体制作りに努めました。その中で、事業計画の甘かったところを見直すことにもなったわけです。

 パブリッシャとしての事業計画といっても、それは開発ありきのお話であって、2008年段階ではYNK KOREAも、ほかの国でのサービス案件などさまざまな事情で、必ずしもこちらの要望に沿えない見通しでした。1本のMMORPGが成功しても限界がありますから、新規タイトルを追加しつつ事業を進めるしかない。そこでYNK KOREAと話をし、YNK KOREA以外からのソーシングを始めたいという考えを伝えました。それを受けて、2008年度からは新規タイトルを積極的にサービスし始めたのです。

──2008年の段階で、YNK KOREA開発作品以外もサービスする、いわば普通のパブリッシャさんの立場に近づいたわけですね。まあもちろん、引き続きYNK KOREAが開発したオンラインFPS『STING』のサービスも始まるわけですが。

崔 鍾玖氏:2009年はむしろ2008年より業績の厳しかった時期です。『R.O.H.A.N』のアップデートがあまり入らないことが分かっていた時期ですから、有望な新規タイトルを必死に探していた時期でもあります。その結果が『81keys』と『AILA Online』ですね。

──お。最新作の話題に突入ですね(笑)。

 ■生活重視のコンセプトに立ち戻る『AILA Online』、もともと日本市場に合った性格を活かす『81keys』



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