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2010年7月27日(火)

【洋鯨亭 第21回】ゼニマックス・アジア、ローカライズへの心意気(前編)

文:電撃オンライン

 こんにちは。マイペースでお送りする海外ゲーム紹介所“洋鯨亭(ようげいてい)”亭主のRonです。

【洋鯨亭 第20回】洋ゲーのダウンロードコンテンツ(DLC)とやり込み要素

 国内向けに販売が決まった洋ゲーで一番注目される点は、やはりローカライズ(日本向けのチューニング)の内容です。原作のよさを生かすも殺すも、ローカライズのやり方次第と言っていいでしょう。

 では、メーカーはいったいどんなことに注意してローカライズを行っているのでしょうか?

 この疑問にお答えいただくべく、ゼニマックス・アジアさんにインタビューしてまいりました。お答えいただいたのは、ゼネラルマネージャー(GM)の高橋徹氏です。短い時間でしたが、GMという立場ながら開発現場に関する細かな質問にもお答えいただき、率直でわかりやすくなおかつ興味深いお話をたっぷり伺うことができました。

 ということで今回のインタビューも今週と来週の2回に分けてお送りします。洋ゲー好きの方はぜひご覧下さい。

【洋鯨亭 第20回】洋ゲーのダウンロードコンテンツ(DLC)とやり込み要素
▲ゼニマックス・アジアのGM・高橋氏。端的ながらも、ローカライズの現場やゼニマックス・アジアの方針などについて、切れ味鋭く語っていただきました。

■ローカライズの手順と、そこにともなう判断について

──早速ですが、まず、ゼニマックス・アジアとしてローカライズするタイトルが決まった後は、どのような作業から始めるのでしょうか?

高橋氏(以下省略):ゼニマックス本社のタイトルに関して言いますと、まずゲームのソースコードやデータなど、ローカライズに必要な素材をすべて日本に引き上げます。もちろん、引き上げる前の時点でそのゲームはどんな内容か、どのぐらいのボリュームがあるのかということはわかっていますので、そこから内容について理解していくわけではありません。その作業と平行して、音声も含めたローカライズにするのか、テキストの翻訳だけにするのかを検討したり、海外版と日本版の発売日をどれだけ近づけるのかといった販売的な戦略を考えたりします。これらの方針が決まれば、あとは各作業を黙々と進めていきますね。

──まずは素材集めからスタートというわけですね。

 はい。海外にあるとはいえ同じ会社ですから、素材集めに関しての作業的な苦労はないですね。あとは、やはりその前段階でどういうユーザーさんに向けて販売をしていくのか、プロモーションはどうするのか、そしてどれぐらい売れるのか、といったことを考えます。

──目標販売本数によっては、ローカライズ方針が変わったりするのでしょうか?

 そういう場合もありますね。たとえばPS3/Xbox 360『Fallout 3』が発売前に3万本しか売れないと予測した場合は、“日本語のボイスをカットする”という判断もありえました。このタイトルは60~70万程度のワード数が収録されていますので、販売予測に対するそういったコスト面での判断は常にありますね。

──セリフが多いほど収録にかかるコストも増えるわけですからね。ボイスの有無で制作費が大きく変わってくるのは想像できます。

 そうなんです。『Fallout 3』の場合は4つのスタジオを1カ月間、同時に借りて収録しましたから、時間もコストも相当かかっていましたね。

──ちなみに、『Fallout 3』でボイス収録にかかった日数はどれぐらいですか?

 4つのスタジオで、合計60日間ぐらいですね。

──その間、スタッフはずっと缶詰状態なんですか?

 もちろんそうです。朝から夜まで収録を行いました。まあ最長でも1日12時間ぐらいですけどね。あ、かかった金額についてはお答えできませんが(笑)。

──販売予測本数からかけられるコストを逆算して、具体的なローカライズの内容が決まっていくんですね。

 そうですね。これは“卵が先か、鶏が先か”みたいなお話にもなってきてしまうんですが……たとえば、ローカライズにお金をかければソフトが必ず売れるのか、という現実的な問題ですね。とはいえ、僕は少しでも販売本数が伸びる可能性があるなら、ローカライズにも積極的にお金をかけるようにしています。ただ、どう考えてもローカライズにお金をかけても販売本数に影響を与えないだろう、と思われるタイトルももちろん出てきます。そういう場合は、ボイス収録などは諦めざるをえない。もしくは、発売をしないという判断もありえます。タイトルによっていろいろと条件は違いますので、一概(いちがい)には言えないですが。

 最初は当然ながらユーザーさんにとってこのタイトルはどうあるべきか、といった“べき論”で考えていますが、条件によっては必ずしも100%そうすることができないのが歯がゆいところで。ただ、RPGだとセリフを読むのが大変だからコストはかかっても音声があったほうがいいだろう、といった判断もありえます。

──最初にコストや発売スケジュールなどを考えるものの、その結果だけでドライに割り切ってしまうわけではない、という姿勢は好感が持てますね。

 そう思っていただけると助かります。最初は“べき論”から入って、販売的な面も考慮して……厳しい部分はどうするか? あとはみんなでなんとかしよう! という考え方ですね。作業面だけを重視したら、海外とほぼ同時発売のタイトルは、スケジュール的にも日本語音声の収録なんてないと思うんですよ。でもそうではなくて、お客さんが望んでいるなら同時発売での日本語音声もありだと。じゃあ、それを実現するにはどうしたらいいのか? ということをメーカーは考えないといけないですよね。

→翻訳にこだわりすぎると、大事な本質が失われてしまう……?(2ページ目へ)

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