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2010年10月7日(木)

極みの境地から見えたこと プロゲーマーとゲーミング 前編1-3

文:電撃オンライン

『電撃ゲームス』

 頂点を目指す者だからこそ見える極みの世界。FPSのプロゲーマーである田原氏の目には、どんな世界が映っているのか。彼が歩んだプロの道、そして“ゲーミング”と呼ぶコミュニケーションの可能性について、数回にわたってお届けする。

プロゲーマー

【人物紹介】

FPSプロゲーマー
【田原“uNleashed”尚展】

 大学在学中に単身渡米し、プロゲーマーチームに加入。現在は各種イベントを主催しつつ、プロゲーマーとしても活動中。


Vol.1-2からの続き)

自分の能力の最低ラインを
いかに底上げするかが大会のカギ

――オフラインの大会に参加する際に、気をつけていることを教えてください。

 第一に体調管理に注意を払っています。食事や生活環境といった面は、大会の1カ月前から準備、調整をするようにしています。また、北米の大会に参加する場合は時差なども影響するので、なるべく早めに現地入りするようにしています。

――当日の体調が大会に影響する部分は大きいということでしょうか?

 少なからずありますね。また、これは私見ですが、アメリカの食事は非常に大ざっぱに感じるんですよ。大会期間中とかに現地で生活していると、ビタミン不足で調子が出なかったりします。そして、サプリメントを飲み出したとたんに調子が戻るなんてことが、実はザラにありますね。あと、ここ一番で集中したいときは、カフェインを摂取するのがいいといわれています。僕はコーヒーをあまり飲まないので、そういうときはレッドブルを1缶飲みます。

――レッドブルは効きますか?

 個人的には効いていると思います。気休めなところが多分にありますけど(笑)。

――そうこうしてでも、大会でベストな体調に持っていくようにすることがとても大切なんですね。

 個人的には、眠かったり、具合が悪かったりといったときでも、能力をそれなりに発揮できるように自分を作っておく必要があると思います。大会に向けた緊張状態のなかにあって、ベストな状態であることは稀(まれ)だと思うんですよ。自分自身の基本能力に多少の幅があるとして、大会ではその幅の最低ラインの能力を発揮して戦うものだと思っています。もちろん、相手も同じような状態ですので、能力の最低ラインの部分をいかに底上げできるかが、大会で勝てるようになるポイントですね。

海外遠征をすることは
ゲーミングの一環でもある

――最近はどんな大会に出場されていたのですか?

 今年の8月に“QuakeCon 2010”という大会があって、パートナーのproZaCと一緒に参加してきました。ですが、これまでにないほどのトラブル続きで、実力の半分も出せなくて……。大会期間中にどんなトラブルが起きたのかは、下のレポートをご覧ください。

――レポートを見る限り、確かに災難でしたね。ところでQuakeCon 2010は、大会としてはどのぐらいの規模になるのですか?

 観客を含めると来場者は9,000人ぐらいでしょうか。QuakeCon 2010は大きく分けると、トーナメント、LANパーティ、エキスポという3つのエリアで構成されています。LANパーティのスペースには、PCやモニターなどが3,000台規模で置かれていて、来場者がゲームを持ち込んで遊べるようになっているんですよ。

――田原さんが出場したのは『Quake Live』のトーナメントですよね?

 そうです。1対1で戦うDuelというルールのプロトーナメントに参加しました。このトーナメントは、300人ぐらいが参加して戦うオープントーナメントと、主催者側が選んだ32人が戦うプロトーナメントの2種類がありまして、僕はプロトーナメントのほうに参加しました。残念ながら1回戦で負けてしまい、敗者復活戦でも負けてしまいましたが……。ただ今回は、普段なかなか話す機会のないトップクラスのプロゲーマーたちと、知識や戦術の話ができたので、よかったと思います。

――プロといっても意外とフレンドリーなんですね。なんだか秘密主義のイメージがありました。

 彼らはイイ人が多くて、聞けば結構答えてくれちゃうんですよ。1カ月間悩んでいた戦術について、彼らとの会話でサクッと答えが出たので、こういうコミュニケーションは大事だと思っています。

――彼らとの交流も大事な要素の1つであると。

 僕がこうした活動をやっているのは、もちろんゲームが好きというのもありますが、ゲームを通じてコミュニティの輪を広めたいという気持ちがあるからなんです。僕はこれを“ゲーミング”と呼んでいます。僕自身、ゲームを楽しむというよりも、ゲーミングを楽しんでいることのほうが多いですね。

――この興味深い“ゲーミング”については、次号の本コーナーで詳しくお届けします!

【用語解説】

●アメリカの食事
 アメリカの食事は基本的に大味で脂っこいとされる。また、朝から山盛りのフライドポテトが出される場合もあり、アメリカ人の多くがポテトを野菜として認識しているという説もある。

●カフェイン
 コーヒーなどに多く含まれるアルカロイド(有機化合物)の一種。覚醒作用がある。豆から抽出したコーヒーのカフェイン含有量は、緑茶の約2~3倍、紅茶の約2倍といわれている。なお、カフェインの覚醒作用は、飲んでから30分後に効果が出る。

●レッドブル
 オーストラリアで生まれた炭酸飲料。アルギニンやナイアシンが含まれており、興奮作用があるといわれている。ただし、タウリンが含まれていないため、日本では栄養ドリンク扱いにはならない。カフェインも含まれており、含有量はコーヒーと同等。そのため、田原氏はコーヒーがわりにこれを飲む。

●QuakeCon
 毎年1回開催される『Quake』の祭典で、スポンサーはベセスダ・ソフトワークス(参加費は無料)。QuakeConに参加する人達は、近くにあるヒルトンホテルにたいてい泊まるため、そこはまるで合宿所状態になるという。

●LANパーティ
 ある程度広いスペースを借りて、自分達のPCを持ち寄って対戦ゲームなどを遊ぶ集まりのこと。北米は場所が豊富なため、これが早くから根付いた。


―田原“uNleashed”尚展 2010年夏 北米参戦レポ―

プロゲーマー
▲3,000台のPCが並ぶLANパーティエリア。さまざまなプレイヤーたちとの出会いも大会の楽しみだ。

●いきなりトラブルに巻き込まれた!?

 8月15日から3日間にわたってアメリカ・ダラスで開催されたQuakeCon 2010。本イベントは『Quake』の天下一武道会ともいえる、年に1度の祭典である。私は日本在住のスウェーデン人proZaCとともに、イベントへの参加を計画。スポンサーであるARTISANの協力により、10日ほど余裕を持ったスケジュールで渡米できた。アジアよりもレベルが数段高いアメリカで直前練習を積むことで、よりよい結果を持ち帰ろうという魂胆である。

 我々は、直前に行われているゲームイベントBigbang 2010に参加しているプロたちとの対戦機会を得るべく、この会場を訪れた。だが、様子がおかしい。どうやらネットワーク障害により、プレイができないようだ。イベントの最終日には、北米のトッププロが続々登場したが、彼らは先日のネットワーク障害で遅れた北米プレイヤー向けの大会の試合消化に忙しい模様。当然、我々とプレイをする時間はほとんどなく、移動も含めて1週間もムダに過ごしてしまった。そして我々は、不安だけを残してQuakeCon 2010当日を迎える。

●大会初の伝説を残した我がパートナー

 トーナメントの初戦は、プロゲーマーのなかでは下位ランクにあたるkgbとの対戦。こちらとしては好カードだったが、相手の激しい攻撃スタイルに押されてミスを連発。結果、ストレート負けを喫してしまう。その後、敗者復活戦で自分と同レベルのwhazと対戦したが、こちらでもゲームをコントロールできずに敗退。

 一方のproZaCは、カナダの中堅ランクのプロゲーマーSparksと対戦し、1対2の接戦の末、敗者復活戦行きとなった。しかし、そこで事件が起きてしまう。proZaCがトーナメントエリア内で着替えを行ったため、なんと大会初の公然わいせつ罪による退場処分となってしまったのだ! チームの敗退とproZaCの退場を、出展ブースにいたスポンサーの社長に伝えたいが、どう報告すればいいかわからない。「脱いで退場になったみたいッス」などとストレートに言えるはずもなく、巧みに表現を変えて報告を切り抜けた。とにかく最初から最後までトラブル続きだ。

 2人とも完全に消化不良で終わった今回のツアー。結果はどうあれ、やはり持っているものは出し切って終わりたい。苦い思いを胸にリベンジを誓いつつ、我々はアメリカをあとにした。



『電撃ゲームス』

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データ

▼『電撃ゲームス Vol.13』
■発行:アスキー・メディアワークス
■発売日:2010年9月24日
■価格:650円(税込)
 
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