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2010年10月26日(火)

【洋鯨亭 第32回】『デッドライジング2』プロデューサー・稲船氏インタビュー

文:電撃オンライン

【洋鯨亭 第32回】ゾンビACT『デッドライジング2』プロデューサーインタビュー

 こんにちは。洋ゲー紹介所“洋鯨亭”のRonです。

 今回は、カプコンから9月30日に発売されたPS3/Xbox 360『デッドライジング2』のプロデューサー・稲船敬二氏のインタビューをお届けします。「え? 『デッドライジング2』って洋ゲーだったっけ?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。洋鯨亭は洋ゲーを中心としたコラムですし、ごもっともです。

 では、なぜ今回『デッドライジング2』を取り上げるのかと言いますと、本作の開発は海外のデベロッパー(開発会社)が担当していて、それに関して興味深いお話が聞けたからなんです。開発の段階から海外の企業が大きくかかわっているだけに、日本だけで開発する場合とは違った驚きや発見があるようです。

 さて、その内容とは? ……ということで、さっそくご覧ください。この記事は、現在発売中の『電撃PlayStation』481号および『電撃ゲームス』14号に掲載されたインタビューに、誌面スペースの都合で入りきらなかった貴重なお話を入れ込み、再構成したものとなっております。

▲現在発売中のPS3/Xbox 360『デッドライジング2』は、大量のゾンビと戦うゾンビパラダイスアクション。ただし、ホラーなのにお笑い要素があります(注意:主人公はオカマではありません・笑)。

■『デッドライジング』誕生秘話

──ゾンビが登場するカプコンのタイトルとしては『バイオハザード』シリーズが有名ですが、あえてXbox 360『デッドライジング』を作ろうと思った理由はなんでしょう?

 理由はいろいろとありますが、まず僕自身が昔からゾンビ映画が好きだったということですね。ゾンビ映画はカプコンに入る前から好きで、ずっとハマっていたんです。そういったこともあって、いつかゾンビのゲームを作りたいなという気持ちがあったんですよ。

 『バイオハザード』はゾンビが出てくるので、昔から僕もすごく好きなシリーズだったんです。いつも、三上さん(※1)が作っていたのを見て楽しみにしていたんですよ。ところがですね……マルチ展開をした『バイオハザード4』で、ゾンビが走っちゃったんですよ(笑)。三上、何してんねん、何で走んねんと(笑)。こんなんゾンビやない、自分が作ると(笑)。

 もちろん『バイオハザード4』は、ゲームとしてすごくおもしろいんです。“ゲーム”の出来としては98点ぐらい。さすが! といえる作品を作ったと思っているんですよ。でも“ゾンビゲーム”として見ると、0点です(苦笑)。『バイオハザード』シリーズで走るゾンビを登場させるくらいだったら、いっそタイトルを変えて作ったほうがいいと思うんです。『バイオハザード』のゾンビはそれまで走らなかったのが怖さだったわけですから、ここで急に切り替えてしまうのはどうなのと。

 名前も“ゾンビ”ではなくなっていましたし、今後のシリーズでも遅い動きのゾンビが出てこなそうなので、カプコンとしても悲しい。『デッドライジング』の制作は、そこからスタートした感じですね。作るならゾンビがよりゾンビらしく見える、ゾンビにスポットライトを当てたゲームにしようと思いました。そのためにも、ゾンビが単なるシューティングゲームの的になってしまうのは避けようと。

 僕が考えるゾンビというのは、ちょっとマヌケで、ゾンビになる前の人間の記憶が少し残っていたりするキャラクターなんです。たとえば警察官のゾンビだったら、銃を撃つことはないけれど、銃を構えたり、誰かを捕まえようとしたりするんです。主婦のゾンビだったら買い物カゴを下げて、ベビーカーを押したりしているんですね。そういった人間だったころの記憶があるので、人間を見たからといって急に走って襲い掛かってくるようなことはないんです。

 以前ロメロさん(※2)と仕事をした時にゾンビについて話を聞いたら、「1、2体のゾンビが相手だったら人間側が有利で怖くはないんだ。それが100体、200体になって初めてゾンビ側が有利になるんだよ」とおっしゃっていました。これは人間の本性にもかかわる話で、たとえば1対1の会話は対等でも、数が多くなると手に負えなくなる。インターネットで同調して多くの人が誰かを無責任に批判するような場合にも、人間の本性が表れやすいですよね。こういった人間の内面を形を借りて表しているのが、ゾンビという存在なんですよ。

 これは多くのゾンビ映画で描いているテーマですから、ゾンビゲームでもそういう表現は踏襲したいと考えているんです。他のゾンビが出てくるゲームで、ロメロさんの映画と同じようにゾンビを扱ったゲームは少ないと思うんですよ。海外のゲームで走るゾンビが登場するおもしろい作品はありますが、いずれもゾンビは単なる射撃の的にしかなっていないんですね。

※1:以前カプコンに所属していたゲームデザイナー・三上真司氏のこと。現在は株式会社Tangoの代表取締役。
※2:ゾンビ映画の監督で有名なジョージ・A・ロメロ氏のこと。

【洋鯨亭 第32回】ゾンビACT『デッドライジング2』プロデューサーインタビュー
▲足は遅いものの、とにかく大量に出現するゾンビ。本作ではco-opができるようになり、協力してゾンビと戦うことができる。

──『デッドライジング2』の制作が始まった際、前作とは異なる主人公を登場させることはすでに決まっていたのでしょうか?

 そうですね。『デッドライジング2』はPS3とXbox 360のマルチで作ることが決まっていたので、もしXbox 360でしか作らなかった前作と同じ主人公のフランクを登場させてしまうと、PS3ユーザーの方はキャラクターを知らなくて戸惑ってしまいますので。

──モトクロスバイクのライダーを主人公にしたのは、なぜでしょう?

 実を言うと、特に大きな理由はないんです。一応、最初からコンボ武器を作るシステムについては考えてあったので、キャラクターとしては器用であるというイメージが欲しかったんですね。今回の主人公・チャックはバイクのメンテナンスができるライダーということで、手先が器用という点は伝えられるかなと。あとは、バイクを武器としても使えるので運転に長けている点も生かせるだろうと思いました。

──では、ゲーム内世界で放送されるゾンビを相手にした競技番組“テラー・イズ・リアリティー”は、ライダーという設定が決まった後で出てきた案なのでしょうか?

 これは、同時に考えていたことですね。僕の場合、いくつかのアイデアを同時に考えて決めていくことが多いんです。そもそも、今回は遊園地をベースにしてゲームの舞台を作ろうと考えていたんですね。“テラー・イズ・リアリティー”の原型も、最初はその遊園地で行われているゲームというような位置付けだったんです。

 で、今回開発を担当したブルーキャッスルゲームズと話し合いをしていた時に、せっかくZ指定の大人向けゲームなんだから、普通の遊園地ではもったいないという意見が出たんですよ。大人向けの遊園地、つまり、ラスベガスの方が舞台としてはふさわしいんじゃないかと。子ども向けの遊園地じゃなくて大人向けの遊園地なら、ちょっとエロ要素も出せていいなと(笑)。

 そういったこともあって、最初は実際のラスベガスを舞台にしようかとも考えたんですが、街の構造や建物の配置なども含めて、ゲームに落とし込む際にいろいろな制限が加わるので、オリジナルの街にしました。もしあの時に遊園地の設定のままで進めていたら、ちょっと前まで公開されていた『ゾンビランド』(※3)という映画をパクったと思われるところでした(苦笑)。

※3:今年公開されたゾンビ映画。物語の終盤に遊園地でゾンビと戦うシーンが出てくる。

【洋鯨亭 第32回】ゾンビACT『デッドライジング2』プロデューサーインタビュー
▲モトクロスの元チャンピオンであるチャック。バイクの運転はお手の物。

──Xbox 360専用DLCとして配信された、本作のプロローグにあたる『デッドライジング2:CASE 0(以下、CASE 0)』とエピローグの『デッドライジング2:CASE WEST(以下、CASE WEST)』を作ろうと思われた理由は?

 前作の時は、発売前に体験版の配布をやったんですね。これはおかげさまで好評を得まして、それが北米でのヒットにもつながったんです。じゃあ今回も体験版を配信しようか、という話に当然なったのですが、僕は同じことをするのが嫌でして。ルーチンワークが嫌いなんですよね。でも、単にやらないという決定ではなくて、何かそれに代わる効果的なことを行ったほうがいいよね、という話になりました。

 体験版を試食にたとえると、賞味期限が切れかけている饅頭(商品としての質の低いもの)をまず食べてもらって、食べておいしかったら作りたての饅頭(商品としてしっかりとした品質のもの)を買ってくださいね、ということだと思うんですよ。その分無料ですよということなので。でも、それよりもまずはお金を払う価値のあるものを遊んでもらって、それが本編につながる内容だったら、もっといいんじゃないかなと考えたんです。

 だから買っていただくことを前提に、プロローグという形でちゃんとしたゲームを開発しようと。もし無料で同じものを作ろうとすると、『デッドライジング2』本編の予算を一部削って制作費に充てる分、あまりしっかりしたものは作れないんです。それだったら作りたいものを優先して、その予算がうん億円だとするならその費用が回収できる値段で作品をしっかり作ろう、という考え方です。

 あと、前作は宣伝も含めてマイクロソフトさんにいろいろな形でご協力いただいたので、恩義もあります。それと、今回はマルチタイトルですが、前作はXbox 360ユーザーが支えてくれた部分もあるわけですから、そのお礼の意味も込めてエピローグとして『CASE WEST』を作りました。ただ、両方やらないと全体がわからないという構成にするのを避けたかったので、プロローグは本編の何年前かのお話ですし、エピローグももしこうだったらという仮定のストーリーにしてあります。

──『CASE WEST』で、前作の主人公・フランクがどういう形で物語に絡んでくるのかすごく気になります。

 『CASE WEST』ではですね、経年といいますか、歳をとったフランクを見てほしいですね。ちょっと老けてますよ。あぁ、フランク疲れてるね、と思うんじゃないかなぁ(笑)。

──歳をとっていても戦いますか?

 戦いますよ。強いですよー。

──もしかしたら写真は撮らなくなっていたり?

 それは、まぁ、ねぇ。フランクですから、まぁ撮るでしょう(笑)。ユーザーが求めている期待に応えたいですから。「なんで写真撮影でPPが入るシステムをなくしたんだ」と言われるんですけど、ありますよと、誰がなくすと言いましたかと(笑)。

→制作に海外スタジオを選んだ、その理由とは――(2ページ目へ)

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