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2010年10月26日(火)

【洋鯨亭 第32回】『デッドライジング2』プロデューサー・稲船氏インタビュー

文:電撃オンライン

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■ブルーキャッスルゲームズを選んだ理由

──開発にカナダのブルーキャッスルゲームズを選んだ理由はなんですか?

 最初にこの会社を僕が訪ねた時、彼らはベースボールゲームを作っていたんです。「元はどこどこのメーカーにいた」というメンバーばかりで、その野球ゲーム以外に作っていたものはなかったんですね。

 でも僕が海外のデベロッパーを訪れる際は、その会社が過去に何を作っていたかということにはあまり興味がないんです。その会社が過去にどんな作品を作っていて、どんな評価をされたかという点ばかりを見ても、仕方がないからなんですよね。

 たとえば、その会社が開発したあるゲームの評価が85点や90点だったから、その評価を得たジャンルの仕事を依頼しようという人がいるんですが、それは誰でもできる選び方なんです。別に、そこが作ったゲームの最高点が60点ぐらいでもいいんだと。重要なのは、その会社が何を特徴としていて、何を考えてゲームを作っているのかという点で、僕もそこを見ています。

 なぜかというと、たとえばパブリッシャー(販売会社)との関係がうまくいかなかったら、いいゲームが作れるわけがないですよね。もしかしたら、60点にはそういった理由があったかもしれない。または、パブリッシャー側が注文ばかりつけてダメになったとか、逆に丸投げしてダメにしてしまったケースだってありえるわけです。そんな会社、いっぱいありますよ。丸投げして、上がってきたものをそのまま発売して、評価が60点ということもあるんです。

 そういった場合、はたしてそのデベロッパーが悪いのか、それともパブリッシャーが悪いのかというのは、裏側を見ることができないお客さんにはわからないじゃないですか。だから、表面的な点数は関係ないですし、何を作ってきたのかも関係ないんです。その人たちが作る時に何を考えて、どんな特徴のある作品になっているのか、何を作りたいのかということが重要な点なんです。

 ブルーキャッスルゲームズが作っていたのは、たまたまベースボールゲームだったんですけど、そこで培った技術は『デッドライジング2』にも生かせるんです。なんでかと言うと、観客や選手などの人物データはたくさんのパターンを組み合わせて作っているので、これはゾンビの制作に転用することができるんですね。まぁ、だからと言って、彼らがサンドボックス(箱庭)型ゲームが作れるかといったら、その経験はないわけです。

 この点に関しては、一部を除いてどこも同じようなレベルだと思います。サンドボックス型ゲーム自体、作るのが難しいんですよね。ですから、カプコンのノウハウを提供しつつ、彼らのやる気や作りたいものを確認しながら、日本型のゲームに対するリスペクトがあるかどうかといった点などを重要視しました。

 実際にあちらの経営サイドと話をした時は、すごくリスペクトしていただいて『デッドライジング』も非常に日本的なゲームだと評価してくれたんですね。だから『デッドライジング2』でもそういった日本のゲームのよい部分は残しておきたいと言っていました。

 ロードの回数が少し多いかな、と思う部分があるんですが、彼らはロードを入れるタイミングにも意味があるんだと言って残しているんです。そういったこだわりは、いろんなところにありますね。さらにこちらもカプコンのノウハウをたくさん提供して、その結果日本製ゲームのいい部分を残せた作品に仕上がったので、これはいけると。こうやって、協力して楽しく作れるところってなかなかないんですよ。もちろん制作時には、意見をぶつけあうケンカもしましたけどね。

■ゲーム制作における2社の決定的な違いとは?

──ゲームのアイデアは、主にどちらが考えたのでしょうか?

 これはお互いに、ですね。毎週TV会議をしてましたし。コンセプトに関する部分はカプコン側から出しましたが、それに対するフィードバックと、さらにそれに対してのフィードバックを向こうに返して……という作業をずっとやっていましたので。

──あちらから出されたアイデアで、稲船さんが感心したものはありますか?

 そうですね……考え方という部分では、向こうは当たり前のようにレベルデザイン(※4)をしてくるんですよ。「レベルデザインを入れましょう」という提案ではなくて、入れるのが当たり前になっているんです。

 たとえば建物の屋根に上れないよりは上れるほうがいいでしょうと。前作はそのへんができていなかったんです。『CASE 0』だったら、地上から屋根の上にいる人と話したいなぁと思うような場面で、ちゃんとできるように提案してくるんです。そういったレベルデザインが、当たり前のようにできるスタッフがそろっていたんですね。これがカプコンでは言わないとそういうデザインにならないんですが、ブルーキャッスルゲームズではそれは当然のことだったんですよ。

※4:ゲームのマップ設計や敵の配置による難易度調整などのこと。

──そういう違いが出る理由は、どこにあるのでしょうか?

 まぁ、考え方の違いではあるのですが、ゲームだからこれでいい、と考える時の割り切り方が、日本のスタッフと海外のスタッフで違うんですよね。それはたとえばキャラクターデザインの違いにも表れていますよね。

 日本人が海外の作品を見た際に、このキャラクターデザインでいいの? と思うのと同様に、外国人が日本のキャラクターを見たら、こんな髪型や体格の人はリアルじゃないよと思っているわけですから。でも、海外のスタッフはそう思ってはいても、表現の1つとしてリスペクトをしているんです。ちゃんと認めているんですよ。

 日本だと、海外のタイトルを認めないことも多いじゃないですか。アメリカだと日本のゲームをきちんとリスペクトするんだけれども、彼らの作品は日本のゲームを単にマネしないで個性を出してくるんです。ここが彼らの強さじゃないかなぁ、と思っているんです。

──リスペクトする部分をちゃんと持ちながらも、自分たちの信念を貫いているんでしょうか。

 そうなんですよ。海外のスタッフに「海外のゲームはいいね」と言うと、「そんなことないよ、日本のゲームだっておもしろいよ」と言うんです。じゃあ、その人がそういった日本のゲームばっかり買っているかというとそんなことはなくて、そのいいと言ったタイトルは10番目ぐらいにいい、という意味だったりするんです。全体的にそんな感じなので、海外ではトップ10になかなか日本のゲームが入ってこないんですよね。

■一番大切なものを守るという使命

──今回はCASEを追う要素とは別に、主人公の娘のゾンビ化を防ぐため、ゾンビ化抑制剤“ZOMBREX”を投与する必要があります。この要素はどういった意図で用意されたのでしょうか?

 CASEを追うことって、ゲーム進行の上で義務付けられるんだけれど、すぐにやらなくてもいいじゃないですか。事件を追って解決していく目的にはなるけれど、そんなにせっぱ詰まった感じはないですよね。

 そもそもCASEを追うことが自分にとって一番重要なことかと言われればNOなんですよね。ということで『デッドライジング2』には、一番重要になる“何か”を入れたかったんです。やっぱり、人間性と欲望だけで生きているゾンビを対比させたいんですよ。あとは、人間とゾンビの違いとして守るべきものがあるかないか、愛があるかないか、ですね。欲望だけのゾンビ、自己中心的でお金のことや自分が生き残ることしか考えていないサイコがいる中で、チャックがサイコにならないのは自分の大切な娘を守りたいという愛情という理由があるからですよね。そういった愛情を、今回は表現したいなと思ったんです。

 これを、たとえば娘を安全な部屋に入れておいて、そこでじっとしておくようにと命じるだけだと、あまり感情移入できないじゃないですか。なので、娘をピンチの状態にしておいて、薬を探して必死になる父親の姿を描いているんです。やっぱりこういう状態だとCASEを追うより薬探しを優先しちゃうと思うんですよね。自分にもケイティーと同じぐらいの娘がいるのでなおさらです。

 『デッドライジング』シリーズは、ある種シミュレーターのように作ってあるんです。あの状況下に自分が置かれたらどうするか、というシミュレーションですね。

■作れば強力なコンボ武器について

──コンボ武器は、当初から考えていたアイデアなんでしょうか?

 そうですね。『デッドライジング』シリーズの基本的な遊びって何? と考えると、やはりゾンビを倒すことじゃないですか。僕はまず、この基本的な遊びがあることが大事だと思うんですよ。要は事件を追いましょうとか、人を助けましょうということだけで進んでいくと、ゲームがつまらなくなるんです。

 シューターで言えば撃って敵を倒すことなわけで、この基本の遊びというのは大事です。前作は、その基本的な遊びが受け入れられたと思うんですよ。だからと言って、普通の武器だけを増やしていくのではおもしろさの限界があるじゃないですか。でも、コンボ武器だと、「これ使えないよね」と思われていた道具が、強い武器に化けるおもしろさなんかも味わってもらえるんじゃないかと思っています。

 中にはくだらないのもあるんですが、それでも自分でコンボ武器を作った気持ちよさがあると思うんですよ。そういったことをいろいろと考えて、わりと当初から用意していたアイデアですね。

──新しいコンボ武器が作れた時は、すぐ試したくなりますね(笑)。

 多くのゾンビが出てくるゲームは、プレイヤーが攻められる側なんですけど、『デッドライジング』シリーズはゾンビを攻めるゲームですからね。新しいコンボ武器を作ったら、攻めてみたくなって、自分からゾンビのところに行くという流れは、通常の逆を行っていますよね。

 実際ゾンビに試してみてバカバカしくも強力な武器に、なんて残酷なんだとちょっと笑ってしまうようなゲームが『デッドライジング』シリーズなんです。この感覚はこのゲームでしか味わえないので、ゲームの評価で何点がついても、そこはオンリーワンだと思っています。

【洋鯨亭 第32回】ゾンビACT『デッドライジング2』プロデューサーインタビュー
▲ラジコンヘリのプロペラ部分に、大型のナイフを取りつけたコンボ武器。このように遠隔操作して使う武器もある。

■海外版同様のバイオレンス表現について

──前作の日本語版は、海外版とは異なりゾンビの部位欠損表現がありませんでした。今回は海外版と同様の表現にした理由は?

 実は、日本版は一部内容を変える準備もしていたんですが、いろいろと社内で頑張ってくれて、海外版と同様の内容にできました。変えてしまうと、日本のユーザーさんにがっかりされてしまうので、その点は本当によかったですね。

──バイオレンス表現について、稲船さんはどのようにお考えですか?

 そうですね……本質がわかればいいんだと思うんです。普通は首が飛んだら気持ち悪い、そう考えるのですが、じゃあなんのために首が飛んでいるのか、首が飛ぶことにどんな意味があるのか、という点が明確でないといけないのかなと。

 首が飛んだり身体欠損があることが海外のゲームだと思っている人がいるんですけど、単に首が飛ぶ表現があったって、それだけじゃ当然売れないですよ。グロテスクな表現やゴア表現を入れればいいというものではないでしょう。そういった部分がわかれば、日本人も海外のゲームに親しみを持てるんじゃないですかね。

──稲船さんの作るゲームは子どもがよろこぶ『ロックマン』シリーズから、大人向けの『デッドライジング』シリーズまで、作風が幅広いですよね。では、対象が違ってもゲーム制作において共通する部分、また違う部分があるとすれば、それはどういった点でしょうか?

 基本的には、僕は好きなことがやりたいというだけなので、子ども向けに作らなきゃとか、大人向けに作らなきゃといった気持ちはないんです。それでも、自分が考えているメッセージは、作品に込めてみたいんですね。だから、ただ単におもしろければいい、というのではなくて、子どもが遊んでくれる作品でも、どう伝えるかということは考えています。

 たとえば『ロックマンX』シリーズは、本来仲間だったキャラクターがどんどん悪くなっていったりするお話なんです。これなどは人間の表面だけを見るのではなくて中身もしっかりと見る必要性や、善悪についてもその境目がはっきり分かれているとは限らない、といったテーマが盛り込まれています。

 図式が単純ではないという点では『デッドライジング』シリーズも同じで、人間は味方、ゾンビは敵という単純な内容にはなっていないですよね。子どもが遊ぶ作品であっても大人が遊ぶ作品であっても、自分の人生の中で感じたことをメッセージに込めたいと思っているんです。

 今作っている他の作品にも、そういったさまざまなメッセージが随所に込められていますよ。

──では、最後に『デッドライジング2』のこういった部分を楽しんでほしいといったメッセージをお願いします。

 本当に、オンリーワンの内容を持ったゲームになっていると思います。見た目には洋ゲーっぽい部分はあるんですが、すごく日本的なゲームで、まずはさわってみてほしいですね。洋ゲーの入門編としても、ゾンビゲーム入門編としても、入りやすいゲームだと思いますよ。

――ありがとうございました。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 はい、いかがだったでしょうか? 分量が多かったので2回に分けようかとも思ったのですが、一気に読んでもらったほうが話の流れがつかめるだろうと考え、ノーカットでお送りしました。

 今回のように海外のデベロッパーと組んで制作されたタイトルに関するお話はなかなかお聞きする機会がないので、私自身にとっても大変興味深いインタビューになりました。稲船さんのお話は率直で飾り気がなく、またパワフルで、すごいスピードで次々と質問にお答えいただいたのが印象に残っています。

 今回のお話で『デッドライジング2』の魅力はもちろんですが、稲船さんがどういった狙いで海外を意識されているのか、という点もお伝えできたのではないかと思います。あと、いかにゾンビというキャラクターを大事に考えているか、ですね。単なる歩く死体ではなく、ゾンビ映画で描かれている“人間性”というテーマを、ゲームにも生かそうと考えていることがおわかりいただけたかと思います。

 このインタビューの前に『デッドライジング2』をクリアまでプレイしたのですが、前作以上にアクション要素が強くなっていると感じました。また、前作同様にエンディングの種類が複数用意されていますし、助けられなかったサバイバー(生存者)や倒せなかったサイコもたくさんいたので、クリア後に何度も挑戦したくなるタイトルになっています。

 あと、稲船さんもおっしゃっていましたが、洋ゲーの入門編としてもいいと思います。Z指定のゲームですが、興味がわいた方、ゾンビゲーム好きな方はぜひ遊んでみてください。



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