2011年8月4日(木)
――立体音声は、これまでゲームではあまり使われていないと思うのですが、使うにあたって苦労したところはどこでしょう?
すべてですね。オトフォニクスという技術を使っているんですけど、その技術者の方を見つけて、コンタクトを取り、説明してゲーム作りに参加してもらうところまで、まず苦労しました。その後は、収録でかなり苦労しましたし、その音をゲームに組み込むのも苦労したので、「こんな苦労するのか!」ってくらいに大変でした。声録りだけで3~5倍くらいの時間がかかるので、終わった今は「もうしばらくはやりたくないな」と思っています(笑)。
――3~5倍ですか?
動きながら収録するので、状況や動きの説明を声優さんにして、理解していただく必要があります。そして、録音した音をその場では聞けないんですね。後日、技術者の方から送られてくるものを聞いて、初めてちゃんと録れていたのか、そうじゃなかったのがわかります。ですので、つねに心配がつきまとっていました。
――ということは、シーンの動きや演出を完全に決めた上で収録する必要があるということですね?
そうです。その準備にも時間がかかりました。
――収録した音を確認して、NGということもあったのでしょうか?
一流の声優さん方なので、スケジュールを何度も押さえられませんから、つねに一発録り、一発勝負のミスは許されない状況でした。ですが幸い、大きなミスはありませんでしたね。入念に準備もしましたし。ただ、運よく何回かに分けて収録できる方の場合は、シチュエーションを変えてもう一度お願いすることはありました。
――音が右から左に振られたり、自分の周りを回る演出があったりというのは、あえて用意したのしょうか?
立体音響を使うことを決めた時点で、「どんな音だったらおもしろいか」から始まり、部屋の遊びをいくつも考えていました。たとえば、海岸の音だったり、雪をかきわけながら歩いたりです。ゲームなので、普段できないことができるような音作りに気をつけました。ハチが耳の中に入ってくるとか、ガムテープを頭に巻かれるとかって、あまりないじゃないですか?
――ないですね(笑)。
そんなところに気をつけて、遊びを作っていきました。
――声優陣の豪華さに驚きましたが、起用にあたってこだわったところはありますか?
一番こだわったのは、声や音が命のゲームなので、“住人のイメージに合う”ということですね。有名でも無名でもいいので、演技の上手な方。それとバラエティ感を意識しました。子どもの声を出せる人から、実際に高齢の方まで出演されています。あとは……私が好きな声優さんですね!(笑)
――ちなみに誰が好きなのですか?
藤原啓治さんや日笠陽子さん、竹達彩奈さん……です。自分が好きなアニメ作品に出ていた方たちですね。最終的に今のメンバーを見て、本当によい方々に集まっていただけたと思っています。
――主人公の声を櫻井孝宏さんにしたポイントはどこでしょう?
主人公の声がでしゃばっていると、自分の分身だと思えないので、まずはアクが強すぎないことを重視しました。その上でクセがなくて、好感が持てる声で、たまに言うギャグも嫌味がない感じで演じられて、さらに人気があるとよい。それらをふまえて、櫻井孝宏さんに決まりました。
――予算を軽減するために声だけにしたかったということですが、これだけ声優さんが多いと、他のゲームよりもボイス収録にかける金額が多そうですね。
そうですね。その部分は多いんですが、他のところをできるだけ切り詰めてやっているので、結果的に予算が少なくなっています。
――ボイス収録で印象的だったエピソードはありますか?
小さな音すら拾ってしまうので、空調がつけられず、暑かったです。それと、余計な音が出せない……骨がパキッって鳴るのも駄目ですし、服の音もペーパーノイズも駄目なので気をつけました。
後は先ほどもお伝えしたように、現場で成果物を確認できなかったことが印象的です。オトフォニクスはまだまだ発展途上の技術なので、トライ&エラーの繰り返しでした。そんなわけで、ボイス収録はとにかく苦労しました。
――声優さんがアフレコしている部屋に、音響監督のようなスタッフがいて指導するのでしょうか?
はい。音響監督はメインブースにいますが、アフレコの部屋には、演技指導するスタッフがいます。彼は、収録中はずっと息を止める必要があって大変でした(笑)。収録は1カ月くらいかかったので、その間はとにかくスタジオに通い詰めていましたね。
――制作中の印象的な出来事や、トラブルなどのエピソードはありますか?
若手主体のチームで、2~3年目の人が多かったんです。メンバーがユニットを組んで部屋を作っているんですが、文化祭のようなノリで作っていて楽しかったです。「俺たちの部屋を、あいつらの部屋よりおもしろくしてやる!」みたいに、互いに切磋琢磨していたのがよかったです。
――かなり一体感のあるチームだったんですね。
20人足らずのチームで、開発は短期間で、しんどくはありましたが、まとまりやすかったです。あとアクションゲームと違ってバグがそんなに出ないので、バグチェックは楽な方でしたね。「笑うくらいにバグが出ないね」って話していました(笑)。実際『バイオハザード』などで1日で出るバグの量よりも、全体のバグは少なかったです。
――その分、音声認識で苦労はあったのでは?
それはもう……無茶苦茶ありました。プレイヤーが何と答えるかわからない状況で、それを試行錯誤してワードの登録をしていくんです。あとは、声をちゃんと拾わないこともある。それともっとも起こって欲しくないのは、"はい"と"いいえ"を誤認識すること。うん、いやだ、いいよ、やっぱりやめ……と、いろいろなYesやNoが日本語にはありますので、"はい"って言っているのに"いいえ"ってとられると、遊んでいてストレスが溜まりますから。色々と試行錯誤した結果、メニュー画面で、個人の声質に合わせて細かく調節を行えるようにしました。それをきちんと設定しておけば、ストレスなく遊んでいただけると思います。
――方言にも対応しているのでしょうか?
全国各地の方言はさすがにはないですけど、ある程度は対応しています(笑)。たとえば「ええよ」と言っても“Yes”に認識されます。
――カプコン本社は大阪にありますが、関西弁は多く入っているのでしょうか?
そうですね。やはり大阪の会社ですので(笑)。
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