2012年2月16日(木)
小説『明日から俺らがやってきた』で、第18回電撃小説大賞・電撃文庫MAGAZINE賞を受賞した、高樹凛(たかぎ りん)先生のインタビューを掲載する。
▲ぎん先生が描く『明日から俺らがやってきた』の表紙イラスト。 |
本作は、推薦入学か大学受験かで悩む高校3年生の少年・桜井真人の前に、進路選びで失敗した真人本人が未来からやってきて運命を変えさせようとする物語。しかも、未来からやってきたのは1人ではなく“推薦”――推薦入学を選び、遊び過ぎてチャラ男になった真人と、“受験”――大学受験に挑戦してガリ勉になり女の子との出会いがなくなった真人の2人。それぞれ、いかに自分の未来が大変なのかを力説するのだった。
どの道を選んでもお先真っ暗と落ち込む真人だったが、同じく進路に悩むクールでマジメなクラスメイトの少女・高瀬涼(たかせ りょう)とひょんなことからお近づきに! そうしているうちにも進路を決めるタイムリミットが近づき、真人は決断を下すことになるのだが……。
高樹先生には、本作が生まれたキッカケや小説を書く時に心がけているポイントなど、さまざまなお話を伺った。
▲高樹先生が飲んでいるドリンク。机に向かう時は飲み物を飲んで、作業を始めるスイッチを入れるのだとか。 |
――まずは、本作を書こうと思ったキッカケを教えてください。
結構単純なんですよ。皆さんにもよくあるかと思いますが、物ごとがうまくいかなかった時に「ああ、5分前に戻れたら、この状況を自分に教えて回避できるのに……!」と悔やんだことがキッカケですね。
――確かにそういうことを考えてしまうことってよくありますよね。
そこから、「もしも別の選択肢を選んだ自分が未来から戻ってきたらどうコメントするんだろう?」とアイデアをふくらませていきました。ついでに、別の選択をした自分も失敗していて、未来の自分同士で言い合いをしたらおもしろいかな、と思ったんです。
――特に「ここに注目してほしい!」というポイントはありますか?
やっぱり未来から来る自分が1人ではないという点ですね。
――どうして未来から来る自分を1人にしなかったのでしょうか?
何かに悩む時って、詰まるところいくつかある方法の中から1つを選択するってことになるわけじゃないですか。ですので、どちらかの選択肢を取った結果、失敗したから別のほうにしよう……というのだとあまりにも普通だな、と思ったんです。
――でもどっちを選んでも失敗してしまうんですよね(笑)。
まぁ、片方が成功していたらそちらを選んでしまいますからね(笑)。
――未来の自分が両方とも成功していてどちらにしようか迷うパターンも考えられますが、失敗にしたのはなぜですか?
迷う、という点では似ているかも知れませんが、それだともう答えがわかってしまっていますよね。それよりも、主人公が自分で未来を切り開いていく様子を書きたかったからというのが大きいです。
――未来から来る“受験”と“推薦”はもともと同じ人物なのに、だいぶ性格が違いますよね。
ええ。やはり性格まで似せてしまうと、もともと同じ人間なので見分けが付かなくなってしまいますから。受験勉強に一生懸命取り組んだ場合と、遊ぶことに一生懸命になった差がああいう形で出ているわけです。
――続いて主人公の桜井真人について聞かせてください。
真人は、本当に普通の少年ですね。特殊な能力もありませんし……。読んでいただくとわかるんですが、彼はツッコミ役なんですよ。ですから、普通の感性であることが望ましいだろうと考えて、ごく普通の少年を目指して書きました。
私自身が“受験”や“推薦”のようにはっちゃけて遊ぶ方でも、マジメに勉強に取り組む方でもなかったんですよ。ですから、もしも自分がどちらかに力を入れていたらこうなったんじゃないかな、と想像しながら書きました。
――ヒロインの高瀬涼ついても聞かせてください。
ヒロインはもう、自分の好みですね(笑)。"氷の女王"なんて呼ばれていますが、本当は不器用なだけでとても優しい。担当編集の粂田さんもこういうタイプのキャラクターが好きとのことで、より魅力的に見えるように、さまざまなアドバイスをいただきました。
――アドバイスの具体的な内容は?
例えば口調であるとか、もっと彼女の魅力を前面に出したシーンを追加したりだとか。そんな具合です。
――他にお気に入りのキャラクターはいますか?
あまり恋愛という点では絡んできませんが、寿ゆかりは好きですね。言ってしまうと、自分の好きなタイプのキャラをポンポンと配置した感じです(笑)。あとは、涼を家に送って行った時に登場する妹の優(ゆう)もいいキャラクターですね。
――そのシーン、なんとなくヤキモチを焼いているような涼もいいですよね。
気付いてもらえてよかったです。あまりあからさまにし過ぎると、読んだ人が「ちょっと早すぎない?」と思ってしまうだろうと考えて、なるべくさりげなく、でもちょっぴり甘酸っぱい感じを出せるように書きました。
――書く上で苦労した点はありますか?
会話部分などはサラッと書けたんですが、最後のヤマ場をどうするか悩みました。最初に書いた時は、そこまで盛り上げずに終了してしまっていたので。一番手を加えたポイントですね。
――執筆にかかった期間はどのくらいですか?
初稿は中編程度の長さだったので、文章を書き上げるのにかかったのは3週間くらいです。アイデア出しやプロットを固めるまでを含めると2~3カ月くらいでしょうか。
――修正作業なども順調でしたか?
ええ。実は僕、編集者の方ってもっとガンガン「直せ! 直せ!」と言ってくるものだと構えていたんですよ。それがほとんどそんなこともなく……。自分自身で3回くらい修正していることも関係しているとは思うんですが、もっとヒロインのカワイさを前面に出そうという方向で、一緒に考えながら修正していきました。
――2月10日に発売された『電撃文庫MAGAZINE』に、本作のサイドストーリーが掲載されていますが、どういったお話か説明していtだけますか?
こちらも真人と涼の話ですね。写真写りが悪いことで悩んでいた涼を、真人が助けてあげようとする話です。文庫版、電撃文庫MAGAZINE用短編、そのどちらから読んでいただいてもいいように書いていますので、本編を読んで気になった人は短編を、短編を読んで気になった人は長編を読んでみていただければと思います。
――続編もあるのでしょうか?
あります。
――第2巻に“受験”と“推薦”の2人は……?
出てきます。第2巻に出てくるのは、2人とはまったく別のバージョンの未来からやってきた真人でもいいのかなと思ったんですが、やっぱりこの2人がいいかな、ということで。
――それはよかったです。ちなみに、“受験”と“推薦”のその後は考えているのでしょうか?
のちのちもしかしたら書くかもしれません。……今現在のところでは、まったく考えていませんですが(笑)。でもいいアイデアが浮かんだらきっと書くと思います。
――第2巻では、どのような話が展開していくのでしょうか? 言える範囲でかまいませんのでお答えください。
涼の過去にまつわるキャラクターが登場します。第1巻でもほんのチラッと出ていますので、想像しつつ待っていていただけるとうれしいです。
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