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2012年2月24日(金)

インタビューでも熱き怒羅漫(ドラマ)が展開! 『アスラズ ラース』開発スタッフの熱量を感じろ!! “ドラマティック~無敵編”

文:電撃オンライン

 サイバーコネクトツーとカプコンの共同開発によって誕生した『アスラズ ラース(以下、アスラ)』が、ついに2月23日に発売された。今回はそれを記念して、開発のトップの2人、サイバーコネクトツー社長の松山洋氏、カプコンの土屋和弘プロデューサーに加えて、脚本を手掛けられたシナリオ工房月光の重馬敬氏への特別インタビューを実施! 前回の記事では、『アスラ』の開発経緯から開発チーム誕生秘話を存分に語っていただいた。そして今回はさらにディープな話へと物語が展開していく――。

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▲前回に引き続き、『アスラズ ラース』開発スタッフより、カプコンの土屋和弘氏(写真左)、サイバーコネクトツーの松山洋氏(写真中央)、脚本を担当したシナリオ工房月光の重馬敬氏(写真右)の怒りの形相。今回もとても濃い内容から話は始まるのであった――。

■ディレクター・下田氏に外出禁止令が発令!? どうなる『アスラズ ラース』!!

――前回、あまりにも長い開発の経緯を語っていただきまして、ある意味もうお腹いっぱいなのですが、これからがようやく本編スタートという感じですね(笑)。さて、前回、何か意味深な終わり方をしましたが……2011年の1月に一体何があったのでしょうか!?

松山洋氏(以下、松山) 実は海外へのプロモーションをするにあたって、一度どういう内容のゲームなのかをプレゼンする必要がありまして。マーケットとしてはヨーロッパが中心になってきますので、私と土屋さんとディレクターの下田で現地へ行くことになりました。海外のマーケットの方々から「どういう商品なのかわからない」と言われていたんですね。確かに海外の方にはわかりにくいのかもしれないので、ここはちゃんとコンセプトを説明しに行こうと思いました。

 ところが、開発の現場にしてみれば、脚本ができたばっかりで、ようやくいろいろなセクションが本格始動する時期じゃないですか。そこで開発のトップの人間がみんな海外に行ってしまうことはやばいぞということになりまして。特に下田は1秒でも多く現場にいて、1つでも多く指示を出していかなくてはいけない。これは下田を連れて行くことは無理だと判断して、ヨーロッパへは私と土屋さんの2人で行くことになりました。このときから下田には“外出禁止令”が発令されることになります(笑)。

――それは一歩も外に出るなということですか?

松山 気持ち的には本当にそんな感じですね。ご飯も食いに出るなと(笑)。買ってきてもらえと(笑)。それくらい徹底して、1つでも多くのことを判断して決定しなさいと言いました。そこから下田の長い戦いが始まるのですけど、本日(2012年2月17日)をもって、ようやく外出禁止令が解除されたことをここに報告します(笑)。

――そんなところまで徹底しないと、このドラマは完成しなかったのですね! 下田さん、おつかれさまでした(福岡の方角の空を見ながら)。

松山 下田がそうやって孤軍奮闘してる中、私と土屋さんもヨーロッパのロンドンで、海外の方に向けて『アスラ』とはどんなゲームなのかをプレゼンしました。プレゼンが始まると、やはり先方からは「どういうゲームかがわからない」と言われまして。こちらがコンセプトなどをいろいろ説明するのですが、「ようするにアジア版の『ゴッド・オブ・ウォー』じゃないの?」と言われまして。こちらとしては、もちろん『ゴッド・オブ・ウォー』とは違うと説明するのですけど、「それくらいわかりやすく言ってくれたら、こっちも売りやすい」と言われるわけです。

 なるほど、それも一理あると思いました。海外の方にアピールするには、こちら側がガッチリと型にハメたほうがいいんだなと。『アスラ』は海外の方が初めて触れる熱量を持った作品だと思うんです。なので、もっとわかりやすくしないとダメだなと感じさせられましたね。

土屋和弘氏(以下、土屋) 僕らとしては熱量の高いものということを伝えようとするんですけど、まだそこまで達していないといいますか。そこからドラマ形式の合間にアイキャッチを入れたり、次回予告を入れたり、もっと洗練していくことになります。

松山 実はその段階で、現場のスタッフの間では「各話が終わったあとにポイントを割り振るなどの成長要素を入れたほうがいいんじゃないか」という議論がされていて。でも、そのことがあって、僕らも完全に振り切ったわけです。怒りをテーマにしている作品でポチポチとポイントを割り振るなどというこざかしい要素は一切いらないでしょ。ドラマの熱量とアクション要素、そしてちゃんと結論が出て、以上! 完全に振り切りましたね。

――そうなってからは、完全に全員が同じ方向を向いて、一気に仕上げていったと。

松山 すっきりしましたね。そこからは絵コンテ作業に入っていくのですが、ここで“板野サーカス”で知られるアニメーターの板野一郎さんにご協力いただくことができまして。僕らの『アスラ』に対する熱い思いに共感していただいて、1話の絵コンテをお願いすることになりました。

――板野さんが参加されるというのは豪華ですね!

松山 でもその時に板野さんがおっしゃったのは、「よく“板野サーカス”なんて言われるけど、みなさんミサイルの軌道とか、そういう演出を“板野サーカス”って思っていませんか? 僕の演出すべてが“板野サーカス”なんです。だからそれを見せてあげますよ」と。板野さんにそう言っていただいて光栄でした。

 あと、板野さんはグラフィニカさんという映像制作会社に所属されていらっしゃるんですけど、そのグラフィニカさんにモーションデータも作っていただくことになりました。モーションに関しては、外注するのは今まで絶対に難しいと思っていたのですが、ウチと同じ熱量かそれ以上で仕上げていただいて。これはウチも負けてられないぞという気持ちにさせてくれましたね。

重馬敬氏(以下、重馬) でも先日グラフィニカさんに伺った時に、まったく同じことをおっしゃっていましたよ。ウチよりすごいものを仕上げてくるから、こっちもうかうかしていられない、と。

松山 本当ですか! それはうれしいですね。光栄です。

 

■熱量のある脚本と世界観はどのように組み上がっていったのか?

――これだけいろいろな方々の熱い思いが込められた『アスラ』ですけど、脚本を仕上げる際に松山さんから何か注文はあったのでしょうか。

松山 この作品世界が持っている、そもそもの熱量や、このお話で本当に言いたいことは最初に全部伝えたので、それ以上のことは細かい説明だけですね。この部分はなぜ作品全体のキモになるのかなどを、わかりやすく漫画などのシーンを例え話として持ち出したりしました。でもその論法ですべて伝わるので、こちらとしてはやりやすい。あとは、ずっと熱い展開だけだと吐きそうになっちゃうので(笑)、合間に温泉回を入れたりですとか、温度差を作ってあげたりもしました。

――そんなやりとりがあって、ようやく脚本が完成しましたね。でき上がりを見て、いかがでしたか?

松山 さすがの一言でしたね。ありとあらゆるジャンルの作品を手掛けていらっしゃるだけあって、素晴らしいものでした。僕らゲームクリエイターは、要素を積み上げていくことは得意ですが、そぎ落としていくことがどうしても苦手で。その作業が当然ながらうまいんです。あと、説明に2行かかるところを、意味も変えずに、温度も下げずに1行で説明するのは、見事だと思いました。

重馬 でも、ローカライズは大変そうだなとは思いましたけどね(笑)。

松山 「無聊(ぶりょう)を託っておったが」とか、どういう訳になるんだろう(笑)。

重馬 そうなんですよ、オーガスはそういったセリフが多いので、ちょっとでもニュアンスが違ってしまうのが心配ではありました。

土屋 そこはですね、カプコンには開発内に専門の翻訳部門というのがありまして。そこにはネイティブのスタッフがいるんですが、わざわざ世界中にあるゲーム会社からカプコンを選んで、大阪の開発室にまで来てゲームに携わる仕事をしているくらいなので、普通に漫画の『うしおととら』とか『進撃の巨人』とかが好きなんですよ(笑)。なので、まったく問題なくニュアンスを理解してくれます。そこで曲がっちゃうと台無しですからね。

重馬 あと、実際に演技をする声優さんのことも考えました。ある程度想定している声優のお名前を教えていただけたので、イメージはしやすかったですね。特にオーガス役の石塚運昇さんには、オーガスの朗々としたけれん味たっぷりのしゃべり方で見栄を切ってもらうイメージが想像できました。ワイゼンの茶風林さんも想像しやすかったです。ワイゼンの場合、「俺は偉い」とか「俺はこんなにすごい」というのを自慢してくるキャラで、それを長ゼリフで語るのですが、「話が長い」と言ってアスラに殴られてしまうとか(笑)。

松山 ワイゼンとか一部のキャラのセリフでは「話が長い」と言って、話をさえぎって殴り倒すことができるんですよ。説明を聞きたい人は聞けばいいし、こんな長いセリフ、別に聞きたくないという人は殴り倒せばいい。そうすると、だいたいの人が殴る決断をするわけです。聞かないと話がわからないこともありますけど、それは自分で納得して選択しているわけですから、納得してくれるんです。特にアメリカのユーザーはこういうのが大好きみたいですね(笑)。

土屋 ワイゼンを殴ると、「人の話を聞け」と怒られるんですけど、それを見てまた喜んじゃいますね(笑)。

重馬 キャラによってはもちろん殴れないわけです。だからヤシャとかは絶対に殴れない。キャラの性格とか関係にもよりますけど、アスラは基本的に拳で全部解決したいタイプなんですね。だからその怒りの動機をまず考えてあげるところから、脚本を作っていきました。

――プレイしていても爽快でしたね。無駄なものが一切なく、複雑なこともなかったです。

松山 語り過ぎず、足りな過ぎず。そのさじ加減が絶妙でした。

――ここまでストイックな作品、ゲームに限らず最近ないなと思いました。そういったコンセプトは段々と組み上がっていったのですね。

土屋 怒りを持った忍者という設定を捨てた時から、お互いの意識は同じ方向を向いていました。それ以降は、カプコンの中でも「ドラマを見せるために話の腰を折りたくない」とか、「余計なザコ戦はやっちゃだめ」とか、『アスラ』の開発と関係ない人からもそんなことを言われるくらいでしたね。ともすれば外野が余計なことを言ったりするのですが、このタイトルだけは違いました。「余計なことをしなくていい、『アスラ』は」と、こんな感じですから。

――プレイしていても、経験値稼ぎがあると物語に没頭できなくなりますからね。

土屋 そうなんです。大きな敵を倒すためにちまちまとザコ戦をして、パラメータのポイントを振ってレベルを上げて……とか絶対にこの作品ではやってはいけないことです。それよりも物語の先を見てもらうのが先決ですから。そこは松山さんが徹底してくださったと思います。だからここまで突き抜けたんだろうなと。

――この独特の世界観を構築するのも大変だったかと思います。

松山 いや、それが意外と早かったんですよ。コンセプトはウチの犬丸という担当と詰めていきまして。「怒りを爆発させるゲーム」や「深く美しきアジア」をキーワードに、いろいろと考えていって。敵を誰にするか……悪いやつってどんなやつですかね? むかつくやつじゃないか? 偉そうなやつはむかつきますよね? 偉そうなやつ……神様か。神様をぶっ飛ばすゲーム……それ気持ちよさそうだな! っという具合に、最初のイメージデザインが出来上がったわけです。そこには殴られている神様が描かれていましたね。

重馬 僕が伺ったときも、最初にそれを拝見しました。それを見て、イメージが浮かびましたね。

――アスラはどれくらいでイメージがまとまったのですか?

松山 実際には2010年の9月に初めて発表したときは、形は出来上がっていました。ただ、細かいところも含めて本当に出来上がったのは発表後ですね。キャラクターデザインは福岡在住のイラストレーターに頼みました。彼にはやっぱりすごい能力があったので、日々描けば描くほどうまくなっていきましたね。今もまだ今後の展開のために、どんどん描いてもらっています。

――今日は設定画をたくさんお持ちいただきました。初期の頃のアスラはどんな感じだったのですか?

松山 完全に初期なので、いろいろな武器を手に持っていました。ガトリングガンとか錫杖(しゃくじょう)とか持っていますね。ちなみにこちらは忍者の設定です。

――忍者ということで、もっとスマートなイメージをしていましたけど、結構ゴツいですね。

松山 体型が細いと怒りの表現がしにくいんですよ。

重馬 強いやつがゴツいというのは夢枕獏の世界ですね。

松山 そんなイメージですね。ギミックも結構考えていて、膝蹴りをすると膝の部分のアタッチメントが作動して相手を噛み切るなどのアクションもありました。この時から、白目、白髪で名前はアスラにしようと決まっていました。

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▲初期の設定画の数々。アスラはサイボーグ忍者の案が没になり、現在のような姿になっていったが、写真上段のアスラにはさまざまな武器が持たされている。また、その他の世界観イメージもおもしろいものが多い。寺院ロケット(写真左下)は、最終話に登場(?)とか。

――他のキャラクターの設定などもお聞きしたいのですが。

重馬 最初の頃はまだ名前も今のものとは違っていましたよね。最終的に決まったのは2010年の年末くらいです。

松山 アスラはもちろん阿修羅からきています。怒りの化身ですね。阿修羅が出るなら八部衆(天、龍、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦楼羅、緊那羅、摩睺羅伽)は欠かせません。なのでそこからイメージして、現在の八神将が出来上がっていきました。でも実際の八部衆とは関係も設定も引っ張られてしまうのは違うということになって、名前はほとんど変えることになりました。怒りのコンセプトからも外れてしまう内容になってしまうので、ヤシャ以外はガラッと違うものになって。もちろんこのお話は仏教ではないし、何かの神話をなぞる物語でもないので、そういった意味もあって、引っ張られそうな要素は省くことにしたんです。

――最初アスラを見た時に、奥さんも子供もいるとは思いませんでした(笑)。そしてヤシャはアスラとライバル関係で、とても味のあるいいキャラだなって。

松山 男の子はガード不可のキャラが好きですよね。

――立ち位置もそうですけど、キャラクターとしてのバランス感が秀逸ですよね。あとはなんといってもオーガス。この人がいないと、今のようなアスラにはならなかったんじゃないでしょうか。

松山 オーガスは戦闘狂ですよね。デザインのコンセプトも最初からほぼ変わらなかったですし。他のキャラもみんな曲者ぞろいです。

重馬 声優の方々の演技も素晴らしかったですね。

松山 ゲームの収録では珍しいと思いますが、今回の収録は掛け合いでやりました。普通は1人ずつブースに入って、自分の担当するキャラクターの声を入れていくんですけど、今回は物語を見せるわけですから掛け合い以外にないでしょうという話でまとまりました。これにはお金も時間もかかってしまうのですが、それはやりましょうと。

土屋 アスラ役の安元洋貴さんが、他の方の演技を見ていてやり直しをさせて欲しいと言ってきてくださって。同じくらいの熱量でやらないと負けちゃいますとか、役者さんからの提案が多くて、本当に嬉しかったですね。

――そうやって作られていったのがプレイしていても伝わってきました!

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■アスラ(CV:安元洋貴) 本作の主人公。八神将の1人であったが、デウスらの裏切りにあい妻であるドゥルガを殺され、娘のミスラまでをも奪われ、怒りの化身として闘いに身を投じる。 
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■ヤシャ(CV:諏訪部順一) 冷静沈着で文武に長ける七星天の1人。アスラのライバルで、その実力は七星天の中でもトップクラス。大義のため、デウスの陰謀に加担するが……。 ■オーガス(CV:石塚運昇) 七星天の1人でアスラのかつての師匠。豪胆な性格にして戦闘狂。武を重んじ、闘いにすべてを見出そうとする。
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■ワイゼン(CV:茶風林) 七星天の1人で巨体の持ち主。自分のすごさや偉さをひけらかすことが大好きなので、拳で黙らせてしまえ! ■カルロ(CV:大塚周夫) 七星天の1人で軍師的存在。さまざまな策を講じてアスラを葬ろうとしてくる。
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■セルゲイ(CV:飛田展男) 七星天の1人で何よりも美を愛する男。優雅な戦闘スタイルからアスラとは対極にいる存在のようだ。 ■オルガ(CV:本田貴子) 七星天の1人で唯一の女性。デウスの副官として、大軍を指揮する役割を担っている。
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■デウス(CV:江原正士) 七星天の筆頭。かつて八神将の総司令だったが、神皇殺害をアスラの罪として断罪。七星天を名乗り、己の大義のために突き進む。 ■ミスラ(CV:釘宮理恵) アスラとドゥルガの娘。神の力を高める巫女としての高い資質を見込まれ、デウス達に囚われてしまう。

■「EASYモードは極端な話、無敵でいいです!」

――カプコンのアクションゲームというと、イメージ的にかなり歯ごたえがあるんじゃないかと思ってしまいましたが、その辺の調整はどうでしたか?

松山 私も実はアクションゲームがすごく苦手なので、そういう方でも絶対にクリアできるバランスにはなっていると思います。『アスラ』は物語を楽しむことが最重要なので、勝てないから先が見られないということは絶対にあってはならない。なのでEASYモードは絶対に最後までいけるようになっています。NORMALはそこそこ歯ごたえのあるレベル。HARDはいつもどおりのカプコンの難易度です(笑)。そういう認識でいていただいて構わないかと思います。

土屋 EASYは、かつてないほど優しくしてくださいとお願いしました。すごく極端なことを言うと無敵でもいいと言いました(笑)。さすがに無敵だとゲームとしてどうかと思いますので、それはもちろんしませんでしたけど、絶対にゲームオーバー画面を見せたくないくらいの気持ちとして、あえて無敵という表現を使ったくらいです。なので、EASYにしていただければ誰でもクリアは可能です! 一番の悲劇は、世界観とかキャラクターを気に入ってくださったお客さんが、難しいと言ってプレイすることをやめてしまうことですから。これが今回一番やってはいけないことです。

松山 ただゲームレベルを優しくするだけではなくて、例えば相手から攻撃を受けた時に×ボタンで踏ん張ることができるんですけど、EASYだとそのタイミングがわかるようになっています。さらにアンリミテッドモードという無敵状態になるためには、ゲージが溜まってからL2ボタンを押さないといけないのですが、EASYではこれを自動発動にしました。そうすることで、アクションゲームが苦手な人でも死ににくくすることができます。そういう工夫をいくつか入れて難易度を調整したら、誰も死ななくなりました(笑)。

――誰でもクリアできるレベルから、歯ごたえのあるレベルまで用意されていて、単純に物語の先が知りたい人、緊張感のあるアクションを堪能したい人の両方に応えているのが嬉しいですね。ちなみに、このゲームのコンセプトにもなっている“怒”とか“逆境”は、どのような形でゲームに組み込まれているのでしょうか。

松山 作品全体のノリが少年漫画なので、結局勝つことは勝つんですけど、その勝ち方にもルールがあると思うんです。特に怒りがトリガーとなっているので“キレていい理由”が必要になる。その理由を満たしつつ、我々が日本の子どもとして学んできた少年漫画の文法を活用して表現してみました。最高に怒りが爆発して勝つにはどうしたらいいのか? そのためにはまず、1回バカみたいなレベルでやられる、そのやられっぷりを作る必要があるということに気付きました。そういった演出を入れることで物語に起伏が生まれましたし、怒りの表現を十分見せることができたと思います。

 そしてもう1つ、開発も後半になって生み出されたのがバーストゲージでした。実は最初は敵のライフゲージがあって、それをゼロにすると次に進むという方式にしていたのですが、どうしても違和感がありまして。敵にライフゲージを設定することで、経験値とかポイントとかの要素を付け足したくなるんですね。でもそれは違うんじゃないかという話になりました。この物語は怒りを原動力として進むので、たとえ敵に囲まれていても自分の怒りが爆発していたら物語は進んでしまってもいいんじゃないだろうか? だって怒っているんだもん(笑)。敵の都合なんか知ったこっちゃないんです。こっちの都合で物語が進まないとおかしいんですよ。そこが決まった瞬間、敵からライフゲージがなくなりました(笑)。

 それに変わるものとして、バーストゲージが誕生したというわけです。すべては怒りのゲージを中心に展開していきます。極端な話ですが、こちらのライフもなくそうかという議論までしましたから(笑)。

土屋 実際にその方向で作ったりもしましたからね。そうやって、思ったらまず試してみて、じっくり考えて検証して、違うと思ったらすぐに軌道修正を繰り返してきました。

松山 「怒りがすべてです」と集約している以上、ライフももしかしたら必要ないんじゃないか……と思ってしまったり。これはでも最後まで議論しましたよね。踏ん張るボタンとかも結局は怒りを表現するうえで絶対に必要でしたし、踏ん張ることで怒りが溜まっているとかわかりやすいじゃないですか。ちなみに踏ん張るとバーストゲージだけでなく、ライフも回復するんです。ライフゲージを入れるか入れないかの議論の終着点は、この踏ん張った時にライフが回復しているのがひと目見てわかるためにも入れようというところでしたから(笑)。

――確かにダメージを食らっているのに、なんでライフが増えたんだろうと思ってました(笑)。

松山 男の子ですからね。「踏ん張ったから痛くない!」というがんばりから来ていると思われます(笑)。

――その他にアクション的にこだわったところはどんなところですか?

松山 スペシャルアタックと呼ばれている攻撃があるのですが、敵にある程度ダメージを与えるとダウン状態になりまして、その時に△ボタンを押すことで発動できるという攻撃です。これは各エピソードやシチュエーションごとに演出を変えています。普通のアクションゲームだと、同じ攻撃を何度も見なくてはいけないじゃないですか。ところがですね、状況によってはアスラの腕の数が毎回違うわけです。2本だったり4本だったり、もしくは腕がないこともあります。なので、同じアクションは必然的にできないんですよ。そのため、状況に応じてスペシャルアタックの演出は全部変えて作ることになったというわけですね。

 ちなみにエピソードを作っている班が3つありまして、チームごとに割り振られた各話を作っているのですが、とっくの昔に終わったエピソードをまた作り直していたりする。何をやっているのかと聞いてみると、他のチームが作ったあのエピソードのスペシャルアタックがすごくて、負けてられないので作り直します、と(笑)。もう次をどんどん作らないとスケジュール的に間に合わないのに、戻っては作り直しの繰り返しでした(笑)。

重馬 でもそのおかげで、アクションシーンの殺陣(たて)は素晴らしかったですね。毎回違う個性を見せてくれました。

――開発のみなさんのこだわりっぷりがすごいですよね。ここまでたくさんの方がかかわって、みなさんがこだわりを持ってお仕事されているのはすごい。

松山 ここまで泥臭いプロジェクトとチームも今までなかったですね。当然『アスラ』はオリジナルのチームですけど、『.hack//』チームや『NARUTO -ナルト-』チーム、『ソラトロボ それからCODAへ』チームのメンバーがいろいろと集まってできたものです。それだけの面々がいても、『アスラ』はまだ誰も正解を知らない。だから手探りでぶつかり合いながら作りました。

 それこそ、世界を代表するゲームクリエイターのみなさんがいるカプコン、日本を代表するアニメクリエイターのみなさんの協力もあって、ここまで作ることができたと思います。俺たちは……サイバーコネクトツーは、また強くなってしまったな(笑)。見事、逆境に打ち勝ちました! 

――そうですね。また1つ上のステージへ行ってしまったんじゃないかなと思います。下田さんも大変でしたね。

松山 あいつ、この作業の間に2回太って2回痩せていますからね(笑)。そういう意味でも成長したと思います(笑)。正直な話、少々のことでは動じなくなったと思いますよ。相変わらず生意気ですけど、言葉のチョイスに自信や説得力が生まれるようになってきたように思います。こうやってエースって生まれていくんだなと。そして、『アスラ』を通して下田が育てたスタッフもいます。彼らがまた次世代のエース候補として、育ってくれると嬉しいですね。

――『アスラ』チームを見ていると、すごくうらやましいですね。そして松山さんのインタビューは、いつも時間が足りなくなってしまいます(笑)。それでは最後に『アスラ』の発売を楽しみにしているユーザーへ一言ずつお願いします。

土屋 紆余曲折あっていろいろな試みをしていますが、結果的に出来上がったゲームはすさまじい熱量を持った作品になっているかと思います。その独特の世界観やキャラクターに興味を持った方は、ぜひ最後までプレイしてみてください。絶対に誰でも最後まで遊べるように気を配っていますから、残念な思いはさせません。

 この作品を手掛けてきて、ゲームの限界はまだまだ変えられるんだなと思いました。そしてカプコンにも、サイバーコネクトツーという新しい血が入ってきました。サイバーさんと作る以上は、カプコンで作れるゲームを出しても仕方がないですし。そういうものを生み出せて、それを体現できてよかったです。曇りのない、いいゲームになっているので、ぜひよろしくお願いします!

重馬 今回、ようやくサイバーコネクトツーと一緒にお仕事ができて光栄でした。本当に楽しかったです。このゲームは、古今東西の漫画とかアニメとか特撮とか、そういったおもしろいものの要素が渾然一体となって詰まっています。これはゲームだからこその表現。ゲームという器の中に、僕たちの大好きなものがいっぱい詰まっているんです。この楽しさをぜひみなさんにも味わってほしい。脚本としては、下田さんもそういったことがわかる人で本当によかったです。でも、欲を言えばもうちょっと殴り合いのできる時間がほしかったですね(笑)。

松山 カプコンのプロデューサー陣の表敬訪問から足かけ4年(笑)。いよいよ発売です。もちろんすでに体験版や雑誌、CMなどで『アスラ』を知っている人たちからのご意見もいただいています。ある人はすごく熱い作品だと言ってくださったり、ある人はこれはゲームではないと評価してくださったり。もちろん賛否あってしかるべきだと思います。これは新しいゲームですからね。だからゲームシステムがどうとか、そういった細かいところは置いといて、おもしろいかおもしろくないかがすべてだと思うんですよ。

 僕の好きな漫画に『幽遊白書』、『るろうに剣心』、『ドラゴンボール』、『NARUTO -ナルト-』、そしてちょっとマニアックになると『悟空道』や『エクゾスカル 零』とか。こういう作品ってみなさん好きじゃないですか。私はもちろん大好きです。そういった作品が好きなアナタは間違いなく『アスラ』を好きだと思ってくれるはずです。細かいことは抜きにして、まずはおもしろい作品に酔ってほしいですね。

――ありがとうございました! 発売後もまだまだ『アスラ』の展開は続くようなので、そちらの情報も楽しみに待っています!

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