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2012年5月23日(水)

『ルートダブル』のプロトタイプは『Myself;Yourself』? 中澤工さん講演会の模様を詳細レポート

文:ごえモン

中澤工さん講演会
▲中澤工さん(写真右)

 5月19日に、東京大学学園祭“第85回五月祭”で、ゲームクリエイター・中澤工さんの講演会が行われた。

 この講演会は、東京大学の学生を中心とした文芸サークル“新月お茶の会”が主催したもの。中澤さんのこれまでの作品を振り返りながら、作品に込められた思いやゲーム制作に対する考えなどが語られた。その他、聴講者や事前に募集した質問に対する質疑応答が行われた。電撃オンラインでは、その講演会の模様を詳しくお届けする。

●“閉鎖空間”はゲームに合った題材! “制約”を付けることが大事

 これまでディレクターやプロデューサー、監督などさまざまな立場でゲーム制作にかかわってきた中澤さん。ユーザーからしてみれば、ディレクターやプロデューサーがどのような作業をするのか不透明なため、まずはその仕事内容について簡単に紹介された。

 ディレクターとプロデューサーは、会社やプロジェクト、その時々でまったく違う仕事内容になるが、中澤さんが担当する場合の区分けとしては、ディレクターはゲームの中身についての監督、管理を行うポジションになる。プロデューサーはそこから一歩引いたところから、ゲームの売り方、ユーザーに知っもらうための紹介の方法を管理するポジションになるという。ディレクターのほうが、よりミクロな立場でプロジェクトにかかわり、プロデューサーはマクロな立場からゲームに携わるポジションになる。

 イベントの司会者から、ミクロとマクロ、両方の立場でさまざまなゲームに携わってきた中澤さんにとって、「もっとも印象に残っているゲームとは何か?」という質問をされると、「甲乙つけがたい。どれも自分にとって大切なゲームです」としながらも、イエティから6月14日に発売されるXbox 360用ソフト『ルートダブル -Before Crime * After Days-(以下、ルートダブル)』を挙げた。

 『ルートダブル』は、中澤さんが原案・監督・プロデューサーを務める新作ゲーム。重大な事故が発生して9人の人間が閉じ込められた巨大研究所“ラボ”を舞台に、救助に奔走するレスキュー隊員と閉じ込められた高校生の少年の2つの視点で物語が進行していくサスペンスアドベンチャーゲームだ。“閉鎖空間”や“2人の主人公”、“脱出”“タイムリミット”など、中澤さんらしいキーワードがいくつも盛り込まれている。

 “閉鎖空間”や“限定条件”は中澤さんの作品のカラーとして知られているが、最初から強く意識していたわけではなかったという。何度か似たようなモチーフを扱うことになって、なぜこれほどまでに閉鎖空間モノを企画するのかを考えてみると、“大変ゲームに合った題材”だという考えに至ったそうだ。ゲームの舞台を閉鎖空間にすることで、“脱出”というゲームの目的を、説明することなくプレイヤーに伝えることができるようになる。

 さらに中澤さんの作品では、閉鎖空間にタイムリミットが設定されることが多い。その理由は、タイムリミットを設けることで、“いつ”までに“何”をしなければならないか、最小限の説明でプレイヤーに伝えられるのが大きなメリットだからだ。そして、中澤さんはゲームを作る上で“制約”を非常に大事にしていると語る。わずかな登場人物や舞台で何ができるのか、その“制約”の中で、もっともおもしろく物語を展開させるためにどうしたらいいのか、集中して考えることができるようになるそうだ。ネタに困ったら、世界を広げたり新たな登場人物を出したりできないので、より密度の高い物語になるという。

 しかし、今でこそ“制約”はゲームを制作するうえで大事なもの、という考えに至ったが、以前は“もっといろいろなシーンを書きたいのに、なぜ書かせてもらえないのか?”という文字通りの制約だったことも明かされた。家庭用ゲームということで、幅広い年齢層を想定して自主規制しなければならないが、その制約のギリギリのラインを狙うことによって、作品がより尖った深みのある作品になることに気が付いたそうだ。

●キャラ設定の手法はテーブルトークRPG『トーキョーN◎VA』の影響から

 その他にも、中澤さんの作品として特徴的なのが、『ルートダブル』の“エニアグラム”や『Myself;Yourself』の“花言葉”、『I/O』の“タロットカード”、『Remember11 -the age of infinity-(以下、Remember11)』であればユングの“元型(アーキタイプ)”といった、“記号に当てはめられたキャラクター設定”だ。

 キャラクターを記号にあてはめることが多いことについて、中澤さんは学生時代にはまっていたテーブルトークRPGに影響受けたと語る。その中でも、『トーキョーN◎VA』のタロットカードを組み合わせてキャラクターのプロフィールを決定する設定が、とてもカッコよく、特徴的でわかりやすいと感じていたという。そんな経緯があり、『Remember11』のキャラクター設定や特徴づけ、物語上の役割決めで迷っていた時期に、キャラクターに記号を当てて、シンプルな役割分担を設定すれば、わかりやすく重複することのないバラエティに富んだものになるだろうと考えた。そして、その当時に興味が高かったユングのアーキタイプを割り当てることになる。

 『Remember11』以降、記号にキャラクターをあてはめる考えに手ごたえを感じたことで、前述した『I/O』『Myself;Yourself』『ルートダブル』などのキャラクター設定に生かされることとなった。なお、『I/O』のシナリオライターである健部伸明さんは、中澤さんが影響を受けたテーブルトークRPG『トーキョーN◎VA』のゲームデザイナーであり、それを知った中澤さんは、あとからうろたえつつも感激したという。さらに健部さんは専門学校でシナリオの講師をしていたこともあり、その時の生徒には、中澤さんと“infinity”シリーズを生み出した打越鋼太郎さんもいたそうだ。

●記憶喪失という“制約”は、プレイヤーとキャラクターの知識量を近づけるギミック

 続いて、中澤さんの作品にはつきものの“主人公が記憶喪失”という制約について話題が移る。「毎回記憶喪失にしてしまって、キャラクターには申し訳ないです」と会場を笑わせながら、「自分にとって記憶喪失は非常に便利な設定」とコメント。主人公を記憶喪失にすると、制作陣の都合よく、そして必要なだけ情報を与えられ、残りはないものとして扱えるために情報コントロールがしやすいそうだ。

 また記憶喪失という設定は、プレイヤーとキャラクターの情報量を近づけるギミックにもなる。ゲームでは自分を主人公に重ね合わせて物語に参加することとなるが、プレイヤーがゲームを始めた段階では、基本的にストーリーやキャラクターの過去はわからない。事前情報を集める人もいるが、ゲームについて知識がゼロの状態でストーリーに参加することになることが多い。つまり、それは記憶喪失と同義ということになる。主人公を記憶喪失にすると、周りの登場人物に、今の状況をストーリー上で自然に説明させることができるようになる。

 その上で、記憶喪失という設定にどうオチをつけるのかは、毎回悩んでいるとのこと。『ルートダブル』の主人公・笠鷺渡瀬についても、これまでの設定と違うものになるよう、シナリオライターの月島総記さんと相談しあったそうだ。さらに『ルートダブル』に関していえば、主人公が記憶喪失の理由はもう1つある。それは、主人公がレスキュー隊員の隊長であるため、そのままゲームを始めてしまうと、プレイヤーとキャラクターの知識量がかい離してしまい、プレイヤーが置いてけぼりになってしまうことだ。だからこそ、主人公を記憶喪失にし、周りのプロフェッショナルに1つ1つ教えられながら以前の渡瀬に戻っていき、さらにプレイヤーも徐々に成長できるようになっているそうだ。

●Aルートをクリアしても、エラリー・クイーンでいう“読者への挑戦状”は出せない

 プレイ時間は10時間、収録内容は1ルートの一部のエンディングまでという、非常にボリュームのある体験版が話題となった『ルートダブル』。その意図について中澤さんは、1つのエンディングまでプレイすることでキャラクターへの愛着が生まれ、もっと先が見たいとなれば、後戻りができなくなるだろうと考えたからだと語る。

 この施策は『ルートダブル』で思いついたひらめきのアイデアではなく、『Ever17-the out of infinity-(以下、Ever17)』のころからやりたかった試みだという。その理由は、『Ever17』の前作にあたる『Never7 ~the end of infinity~(以下、Never7)』にある。『Never7』を制作した時に「これは本当におもしろい。とんでもない作品を作ってしまった。おもしろすぎて困る」と、その内容に非常に自信があったが、実際は知る人ぞ知るゲームになってしまった。AVGはストーリーを売りにしているゲームが多く、一番おもしろいポイントが物語の結末付近にあるためだからだ。“発売前からおもしろい”と感じてもらうには、実際にプレイしてもらう他はないため、体験版は非常に重要な要素となる。

 中澤さんが手掛ける作品は、起承転結の転以降の展開にプレイヤーを驚かせるギミックが詰まっているため、『Ever17』の時点で1ルート(小町つぐみ編)を体験版として配信したかったそうだ。そうすることで、ただの恋愛ゲームではないことや、さまざまな謎、人間模様などがわかってもらえるだろうと考えていたという。だが、当時はネットワークで体験版を配信する手段がなく、メディアにデータを焼いて配布するしか方法がなかった。『Ever17』では、さまざまな問題により体験版が配布されることはなく、それ以降の作品でも実現されることはなかった。

 その当時の思いもあり、『ルートダブル』の企画当初から、体験版でAルートを配信すると決めていたそうだ。「情報を出しすぎではないか?」という懸念もユーザーからは上がっているが、中澤さんの中では出しすぎている印象はなく、まだまだ見せていない情報もあるという。ただインターネット上の考察を見ると、核心までは到達していないが、中澤さんが想定していたよりも少しだけ考察が進んでいて驚いたそうだ。しかし中澤さんは、体験版のAルートをすみずみまでプレイしても、「エラリー・クイーンでいえば、まだ挑戦状を出せない段階なんですよ」とコメントしていた。

●自分でも「この企画にどうやってオチをつけようか」と悩むような題材に

 続いては、中澤さんが手掛ける作品の最大の特徴“終盤のギミック・どんでん返し”についての話題に。そのアイデアの秘訣は、普段から、自分がおもしろそうだと思ったゲームやドラマ、小説、映画などさまざまなジャンルにアンテナを広げ、自分の肥やしとして蓄えることだという。蓄えた肥やしが、何がどうおもしろかったかを忘れるころになって、他のアイデアと融合し、そして化学変化がおきることによって、自分なりにアレンジしたアイデアが生まれるそうだ。特定のギミックが生まれるということではなく、普段からアイデアの元となるものを集め、企画を立てる時になってから、プレイヤーが驚くような、どのように物語を収束させるのか想像つかないようなギミック・ネタにするという。さらに、自分でも“この企画にどうやってオチをつけるか”と悩むような題材にしているそうだ。

 中澤さんは、「ゲームはプレイを始めた時に、どのように物語をまとめるのだろうかと気になれば気になるほど、つかみがいい作品になる」と語る。そういう意味で、最新作『ルートダブル』の冒頭部分は、これまででもっとも愛着があるという『Remember11』のオープニングを超える内容になったという。

 終盤のギミックや、どんでん返しにひと役買っている、複数の主人公や多角的な視点。中澤さんは、多数の主人公を出すようになった原点は、チュンソフトから1998年に発売された『街 ~運命の交差点~』をプレイしたことだと明かした。1つの出来事を複数の視点から見ることで、まったく違う見え方がすること。出来事の重要性が変わることなどを体験し、いろいろな描き方があるのだと感銘を受けたそうだ。『街』をプレイして以降、自分の作品にもそういった要素を入れたいという気持ちがどこかにあったという。そんな中、打越さんが2人の主人公を設定した『Ever17』の企画が立ち上がる。『Ever17』の制作を経て、物語を多角的に描くことに加えて、主人公を2人にすることでさらに1歩進んだトリック&ギミックができると学んだという。それ以降、よりゲームらしい表現が使える題材として、複数の主人公が登場する設定を何度も使っているのだそうだ。

●休日はインプットを大切に

 普段の仕事では、アウトプットが中心となるため、仕事から離れる時にはインプットをするようにしているという。特に若いころは、その“インプット”に関して、あまり見たことがないようなジャンルの映画を見たり、自分が知らなかった分野の本を読むなど、なるべく広いところから集めてくるよう意識していたそうだ。その理由は、当時の上司からのアドバイスだったそうだ。その他にも「古典を読みなさい。君は古典を知らなすぎる。基礎を知らなければ何もできない」というアドバイスもいただいたそうだ。

 中澤さんは、昔のことを思い出すと何日も家に帰れなかったつらい思い出などの記憶がよみがえると語る。ゲームクリエイターとなった当初は、頭ではわかっていたが、実際に仕事をしてみると本当に過酷できつかったそうだ。その上で、これからゲームクリエイターになりたいと考えている人に向けて、「ゲームを作りたいという気持ちや、熱意を忘れないでください」とコメントした。つらいことも多々ある仕事内容に、初志を忘れてしまうこともあるそうだ。だが、それに相反するやりがい、終わった後の充実感があることも確かなので、最初の熱い思いを忘れないでほしいと語った。

●『ルートダブル』の取材では、ハイパーレスキューの訓練を見学

 続いて、『ルートダブル』と『Myself;Yourself』の裏話が明かされた。『ルートダブル』に関しては、取材を重点的に行ったそうだ。当然、すべてのタイトルで準備はするのだが、『ルートダブル』では特に意識して、ライターの月島さんと一緒に原子力の勉強や、原子力に関係する場所への取材、ハイパーレスキュー(消防救助機動部隊)の訓練を見学、レスキュー隊員へ話を伺うなど、入念に準備をしたという。

 『Myself;Yourself』は、和歌山県にある海岸線の小さな町をモデルにしているが、3~4日の取材旅行をして熊野古道を1人で歩いたみたこともあるそうだ。なお、ガイドもつけずに散策したため遭難しかけたという。また、その日は日差しが強かったため、ひどいやけどを負ってしまい、会社では「誰に殴られたんだ?」と心配されてしまうほど顔がはれ上がったそうだ。しかも、その経験は『Myself;Yourself』本編にまったく生かされていないと笑顔で語っていた

●学生時代に熱中したTRPGで、人を楽しませるおもしろさに気が付いた

 ここからは、ゲームクリエイターとして『ルートダブル』を制作することになるまでを振り返っていく。中澤さんは学生時代に、テーブルトークRPGの自由度や奥行きに感動し、自分たちでサークルを作り、イベントを主催するほどのめりこんだそうだ。その時の経験が、ストーリーを作ってプレイヤーを楽しませるおもしろさに気が付いた原点になっているという。その時のエピソードとして、1人暮らしをしていた中澤さんの部屋をたまり場にし、徹マンならぬ徹TRPGを朝までやっていたことを語った。

 中澤さんは、もともとシナリオの勉強をしていなかったそうで、実際にシナリオを書く際、どのように書けばいいのかわからなかったと話す。テーブルトークRPGでは、題材とシチュエーションと流れだけを作り、その後のシナリオは即興で展開することになる。そのテーブルトークRPGの経験しかなかった中澤さんは、常にキャラクターが仮想にいると過程して、頭の中でテーブルトークRPGをプレイするかのごとく、シナリオを考えていたそうだ。

●“infinity”シリーズは“1人1人の真実があってもいい”がテーマ

 “infinity”シリーズの最初の作品となる『infinity』は、もともとプロジェクトとして決定していたところに、中澤さんがディレクターとして参加してできた作品だという。もともとシリーズとして展開する予定はなく、実際に“infinity”シリーズとして展開することになったのは、『Ever17』の発売以降だった。『Ever17』は、打越さんが独自に考えていたミステリー企画が原点だったが、『Ever17』を“infinity”シリーズとして売り出すことになって初めて、“infinity”とは何かを考え、世界観をつなげていったそうだ。

 “infinity”シリーズは、シリーズ化をする上で直接的なつながりを入れないように注意したという。最新作から入った人がついていけなくならないように、知識があれば、より深みが出る程度にとどめた語る。それ以降は、前作のストーリーを直接的に引っ張らないことを制約として、制作したそうだ。

 続いては『Remember11』について紐解いていくことになるのだが、ここでエンディングについての話題に。『Remember11』のエンディングは、プロジェクトの最後のほうに定めたもので、最初からあのエンディングを目指したものではなかったという。中澤さん曰く、「あのエンディングを企画書に書いたら、たぶん承認は下りないです」とのこと。

 中澤さんが手掛ける作品の特徴として考察要素があるが、これは『infinity』を制作した時の経験から始まっているという。プレイした人が語りあったり、想像できるような内容であれば、より思い入れが深くなるとの思いから、ユーザーそれぞれの補完が必要になる要素を意図的に入れているという。なお、考察要素は意図的なものもあれば、描ききれなかったものもあるそうだ。

 また、“infinity”シリーズには“1人1人の真実があってもいい”というテーマがあるが、この考えの原点は『infinity』だという。この作品では、ヒロインそれぞれのルートで無限ループをテーマとしたシナリオが展開していく。だが、なぜ無限ループをしているのか? 物語のまとめになるようなシナリオは存在しない。なので『infinity』は、どのルートも主人公にとって真実であり、各ヒロインにとっても、そのルートで起こった出来事が真実である、という思想で作られている。それぞれの現実があり、プレイヤーが一番しっくりくるものを回答として考えていいという。のちに発売された『Never7』では、想像の余地を残しつつ、さらに2つの回答が用意されたゲーム的なシナリオになっていると中澤さんは語った。

●『Myself;Yourself』は『ルートダブル』のプロトタイプ?

 『I/O』は、中澤さんにとって『ルートダブル』と同じくらい印象に残っているタイトルだという。シナリオのボリュームが多く、設定が複雑で情報量もあり、中澤さんとシナリオライターとの間で混乱が生じてしまったそうだ。振り返ってみると、『I/O』は情報化社会をテーマとした作品だったので、情報量が多いのは必然だったと、今は解釈しているそうだ。

 『Myself;Yourself』の話題になると、この作品には『ルートダブル』につながる部分があることが明かされた。『Myself;Yourself』の根底にあるテーマは、“主人公を2人用意すること”と“価値観を描くこと”。価値観は人それぞれで、正解がないものだ。当時、人とのすれ違いを痛感する出来事があり、“人間とはわかりあえない生き物なんだ”と気が付き、それをゲームの中に落とし込んだという。

 当時は、『Myself;Yourself』が恋愛モノだったことと、自身が未熟だったことを挙げ、“価値観”というテーマを描ききれなかったと語る。そして、もう1度同じテーマを描きたいと『ルートダブル』に継承したそうだ。『ルートダブル』では極限状態が描かれるので、人間の原始的な感情を直球で描くことができる。物語としてはまったくつながりがない2本のゲームだが、『Myself;Yourself』は、ある意味で『ルートダブル』のプロトタイプなのだという。

 『I/O』と『ルートダブル』が発売されるまでの間には、同人ゲームの『ひまわり』と『キラークイーン』の移植が中澤さんの手により行われている。移植をする際、中澤さんは原作のコンセプトを何よりも尊重し、原作ファンが首をかしげるような作品にはしたくないと語る。しっかりと原作者に話を聞き、さらにユーザーの感想にも目を通して、評判のよかった部分を強化し、改善してほしい部分には手を加えるようにしているという。そのおかげで、『ひまわり』と『シークレットゲーム -KILLER QUEEN-』は、新規ユーザーと原作ファンの両方から評価を得られたとコメントした。

 これまでの作品を振り返った後、中澤さんの今後の予定についも聞くことができた。『ルートダブル』の次の企画はすで考えているところで、発表できれば、ユーザーが驚くようなことができるという。『ルートダブル』については、もともとコンテンツとして大事に育てていくことを目標としており、今後もさまざまな見せ方を準備しているそうだ。

 講演会の第2部では、聴講者からの質問や、Webで事前に募集した質問に対する質疑応答が行われた。その内容をQ&A形式でお届けする。なお、第1部でされた質問に関しても、ここでまとめる。

Q:中澤さんの作品の中で、一番体験したくないシチュエーションは?

A:全部体験したくないです(笑)。特に、『ルートダブル』はどう考えても助かりようがないシチュエーションですからね。

Q:ゲームの登場人物になれるとしたら、どの作品の世界に入りたいですか?

A:『ルートダブル』や“infinity”シリーズ以外であれば、なんでもいいですね。せっかくなので、恋愛ストーリーが展開する『メモリーズ オフ』や『Myself;Yourself』の世界に入れたら、モテモテになれるので幸せでしょうね。

Q:18禁ゲームは作らないのでしょうか?

A:僕も18禁ゲームをプレイするので、“作りたくない”という気持ちはまったくありません。ただ、舞台やキャラクターの人数を限定するのと同じように、家庭用ゲームでしかできないと限定することで、企画を研ぎ澄ますことができると思っています。

Q:実際の人物をモデルにキャラを作ることはあるのでしょうか?

A:特に意識して、誰かをモデルにすることはありません。ただ、過去に出会った印象的な人物のエピソードなどが、印象的に影響されていることがあります。

Q:中澤さんは、プレイヤーの視点を大切にして作品が作られていますが、この独特な視点はどのような発想から生まれるのでしょうか?

A:ゲームならではの物語を作るうえで、プレイヤーの立場や位置づけは無視できないものです。その気持ちをストーリーに組み込むことで、自然とできているものだと思います。ゲームは他のメディアと違って、未完成な物語なんです。結末やそこに至る道筋は流動的で決まっているものではありません。プレイヤーが関与して、初めて正しい道筋が確定します。そういう意味で、プレイヤーは物語を作るうえで大事な要素です。

Q:中澤さんの作品は、印象的なタイトルが多い気がします。タイトルを付ける上でこだわりはありますか?

A:タイトルは、いつも非常にこだわっている要素です。ただ単にストーリーを意味するものではなくて、何重にも意味合いを込めるようにしています。タイトルをぱっと見て、表面上の意味がわかるようなものや、最後までプレイすることで、ようやく本当の意味がわかるものもあったりします。プレイすることで、タイトルに隠された本当の意味が見えてくるのは、個人的に大好きな要素です。

Q:タイトルにこめられた意図について教えてください。

A:『I/O』以降は、意識して記号を取り入れるようにしています。『I/O』なら“/”、『Myself;Yourself』では“;”、『ルートダブル』では“√と*”。最初から意味があったわけではなかったのですが、『I/O』の“/”は、少し正確ではない表現ですが、数字の1を0で割るとプログラム上で無限ループになってしまう、というような意味がタイトルから見えてくるようになっています。“infinity”シリーズ(∞)と同じシリーズにするつもりではなかったのですが、なんとなく似たようなエッセンスが含まれているので、違った形でタイトルに入れられたらと思っていました。

 『Myself;Yourself』の“;”は、英語の文章で句読点と似たような意味で使われる記号です。正確ではないですが、明確に切れてはいないけれど、区切っていはいるという“ゆるい”記号なんです。これで何が表現できるかというと、“Myself”と“Yourself”をゆるく区切ることで、完全に同一ではないけれど、お互いがわかりあって溶け合っていくが、私とあなたは違います、という絶妙な距離感を表現できます。絶対に気が付く人はいないと思うので、僕の独りよがりです(笑)。

 『ルートダブル』の“√”は、そもそもAVGのシナリオのことをルート(√)と言いますから、単純にルートが2つあるという意味です。その他、“√”は根源を意味する記号で、今回の事故は何が原因だったのか、それぞれのキャラクターの人生・ルーツとはなんなのか? というメッセージが込められています。“*”は、6本の枝分かれする放射線、ワイルドカード、そして誕生を意味する記号でもあります。“*”1つにいろいろな意味が込められていて、1つ1つが物語のどこかで絡みますので、頭の片隅に置きながらプレイすると、発見があると思います。

Q:中澤さんが影響を受けた作品を教えてください。(この質問には、当日に配布された小冊子から、ショートインタビューの内容がピックアップして紹介された)

A1:影響を受けた小説家・麻耶雄嵩さん
 麻耶さんは、とにかく結末の真相が、ほぼ読者が考えないであろうはるか彼方の次元から持ってくるという作風で、最後のどんでん返しがやりたくて、舞台設定やキャラクターの名前を作っていたりします。初めて麻耶さんの作品に触れた『夏と冬の奏鳴曲』では、本当にビックリして、夜中に「なんだこりゃ!」と大声を上げてしまいました(笑)。ショックと同時に衝撃的で、それが気持ちよくもあり、こういう作品があったらおもしろいなと常に思っています。この『夏と冬の奏鳴曲』を知ったきっかけというのが、『Ever17』をプレイした人たちのやり取りで、「他に『Ever17』みたいな作品はない?」という質問への回答だったんです。その時に初めて知って、まるで『Never7』や『Ever17』のモデルかのような要素がたくさんあってビックリしました。打越さんも読んでいなかったそうですが、僕たちが扱うようなネタは、どこかで他の作家さんも感銘を受けていて、作品の中に落とし込んでいるんだなと知りました。

A2:映画『そして誰もいなくなった』
 なぜ小説ではなく映画を挙げたかというと、僕が小学校の低学年の時に、金曜ロードショーみたいに、映画をTVで放映する番組で『そして誰もいなくなった』が放映されていました。僕はミステリーと知らずに観みていて、その展開に大変な恐怖を覚えたんです。『そして誰もいなくなった』のことを、島に集まってきた人たちのさまざまなドラマが描かれる作品だと思っていたので、すごいショックで僕の中ではホラー映画なんですよ(笑)。当時は親の教育も厳しく、21:30には寝ないといけないような家庭だったので、途中で寝てしまって結末を知らなかったんです。だから非常に気持ち悪くて、その時の気持ちがほの暗く残っています。この時の影響だと思いますが、恐怖からきっちりと抜け出せないと嫌なんです。だから、ミステリーみたいに最後に悪意から逃れられてスッキリと解決する作品が好きなんです。

A3:影響を受けた映画監督・クリストファー・ノーラン
 デビュー作ではないですが、『メメント』を観た時から大ファンになりました。『Remember11』の人格を入れ替えて、舞台が変わった時に何が起きていたのかわからず混乱し、ユーザーを翻弄させる部分は『メメント』の影響が多分に含まれています。

A4:影響を受けたSF作品『新世界より』
 つい最近に読んだ作品なのに、たぶんこの後、僕の中で強いウェイトを占める作品だと思います。この作品を読むことによって、『ルートダブル』Bルートの天川夏彦の物語を書いています。僕と月島さんが受けた感動を、僕らなりにアレンジして込めています。『ルートダブル』はビヨンド・コミュニケーションという超能力が具現化した世界ですが、その能力者たちが、どう他の人類と向き合って生きていくのか。この能力が、どんな意味で人類に与えられたのかを僕らなりに考えながら描きました。

Q:いままでボツになったアイデアを教えてください。

A:ボツといいつつも、それを捨てさってしまうわけではなく、僕の中では温めて再利用することが多いです。ですが、せっかくなので『ルートダブル』のボツアイデアを1つ。研究施設“ラボ”からの脱出という舞台設定ですが、最初からこの設定で企画を立てていたわけではなく、最初は超高層ビルから脱出する話として企画提案をしていました。これまでの作品では、絶海の孤島や海底のテーマパーク、雪山、精神医療施設などがあったので、せっかくだからと全然違う要素にしたいと考えて思いついたのが、“高さ”でした。“高さ”は僕の作品では使われていないものですが、古典などの他の作品ではよく使われている設定だったので、独自性がなくボツとなりました。他にも、いつか使いたい設定で軌道エレベーターがあります。1回動き出したら、当然途中下車ができませんから、ここに閉じ込めたらそりゃおもしろいやと(笑)。

 ストーリー的にボツになった話だと、『Remember11』ですね。プロット段階だと、まったく違う真相がありました。企画がスタートした段階で、今と変わっていない要素は、人格が入れ替わること、閉鎖空間に殺人鬼がいることなんですが、当初は主人公の冬川こころが真犯人でした。完成したシナリオにも痕跡が残っていますが、冬川こころは二重人格の持ち主で、彼女自身が極限状態から抜け出したいがために、自傷行為を行っていた、という設定です。“こころ”という名前の通り、彼女が暗躍していたという。

Q:実はこんなメッセージがあったが、プレイヤーには伝わらなかったという作品は?

A:そういう要素があるということは、作り手としてはあまりいいことではないですが、裏メッセージのようなものはいくつかあります。『メモリーズ オフ 2nd』では、白河ほたると南つばめを裏表の対象関係を描くのが基本プロットでした。それを描くうえで、実はつばめシナリオでは陰陽道の設定が絡んでいます。これは何かというと、キャラクターそれぞれを、五行説の木、火、土、金、水に割り当てています。ほたるは金、つばめには火が割り当てられていて、主人公は2つの心で揺れ動く設定だったので、木(風)と水を割り当てています。つばめ寄りのルートに入ると、やたらと風が吹くなど、誰にも気付かれないまでも、自分たちでこだわりながら作っていましたね(笑)。

Q:TVアニメ『Myself;Yourself』は、ゲーム版の制作スタッフ、また一視聴者としてどのようにご覧になっていましたか?

A:『Myself;Yourself』のアニメは、「そうきたか」という形で一ユーザーとして楽しんでいましたね。アニメ版『Myself;Yourself』は、基本設定やテーマ性を踏襲して、アニメ単体としておもしろくしてください、とほぼ制約ゼロでオファーをしたものでした。僕自身も、どうなるか予測不可能だったのですが、それぞれの展開に驚きながら、どう収集をつけるのかが楽しみな作品でした。

・『ひまわり』の家庭用移植に際して、お酒の表現など倫理規定の部分で大変だったことはありますか?

A:まさに飲酒の部分ですね。飲酒というと「何をそんなところで悩むんだ」と思われるかもしれませんが、この作品にとって“お酒を飲む”ことはものすごく重要なんですよ。普通、18禁ゲームからコンシューマゲームに移植する時には、飲酒のシーンはジュースに置き換えたり、カットして対処します。この作品では、それをするとストーリーが破綻してしまうんです。なので、非常に困りました。

 原作者のごぉさんからも、なんとかして通せないかと言われていましたので、企画当初は、どのようにして飲酒の部分を置き換えるのかが最大の問題でした。ここをクリアできなければ、家庭用移植はないだろうと。最初は、未成年でも飲酒が許される国に置き換えてみたり、宇宙空間でお酒を飲むので、現在位置を未成年でも飲酒がOKな国の上にして飲んだり、ものすごく苦肉の策を用意して、SCEさんに持っていったのですが「ダメです」と言われ(笑)。それを延々と繰り返しました。最終的には、酒であって酒ではない、似た効用のあるドリンクになりました。

Q:エニアグラムを知ったきっかけや、開発中のエピソードは?

A:最初のきっかけは、『Myself;Yourself』です。『Myself;Yourself』の6人目のヒロイン設定を考える時に、非常に苦労していました。どんなに考えても似てしまって、打越さんに「キャラが思いつかない。何かいいアイデアはない?」と聞いて、出てきたのがエニアグラムの本だったんです。本を読んで、これに当てはまらないキャラを考えたらどうか? と、自分なりに本を解析して生まれたのが星野あさみです。

Q:難解な設定について、どこまでを説明して、どこまでを省略するのか、その兼ね合いについて教えてください。

A:この手の話を考える時に非常に難しいのが、ユーザーさんそれぞれが持っている知識量の差です。どこまでの説明が必要で、どこまでが不要なのか、いつも迷っています。ただ、物語にかかわるギミックについては、間違った説明になってもいいから、シンプルに分解して説明するようにしています。逆に、物語に深くかかわらない設定については、はぶくようにしています。説明の仕方についても、可能な限り別の物事に置き換えて、まったく知らない人でも理解できるように工夫しているつもりです。まだまだ勉強中なので、これからも試行錯誤をしていきます。

Q:ゲームならでは、またはゲームでしかできない表現に強いこだわりを持っていると思うのですが、このこだわりはゲーム制作に携わる過程で、よりおもしろい作品をと出てきたものなのか、もともとそういった表現をしたいと入れていたものなのかを教えてください。

A:前者にあたります。僕自身は、もともとお話メインのゲームを作ろうとして、この業界に入ったのではなかったんです。結果的に、“infinity”シリーズのようなゲームに数多く携わることになり、専門家のようになっていったところがあります。その中で、せっかくゲームの中で物語が展開するのだから、ゲームの中でしか表現できないものを突き詰めて、考えるようになりました。

Q:これまでの作品の中で、特に印象に残っているキャラクターを教えてください。

A:甲乙付けがたいですね。インタビューでは絶対に聞かれる質問で、コピー&ペーストのように「みんな好きです」と答えています(笑)。八方美人なわけでなくて、本当に誰もが重要なポジションにあるので、誰が好きかとは決められないので、毎回同じ答えを言っています。好きとか印象に残っている、というのは大変難しいですが、自分の中で“キャラクターとしておもしろかった”と思うのは、『メモリーズ オフ 2nd』の南つばめです。あのキャラクターは、描いていてとても心地よく、この作品以降でもつばめに該当するキャラクターはいないぐらい、記憶に残っています。つばめのプロフィールのプロットは、だいたいは打越さんが作っていて、僕はそれをどうやったら印象付けることができるのか、発展させたにすぎないのですが、おもしろいキャラクターですよね。次に何が出てくるのかわからないキャラクターで、制作時、キャラクターに翻弄された印象がすごくあります。

Q:例えば、RPGなどのシナリオ制作について他社からオファーがあった場合、やってみたい気持ちはありますか?

A:あまり真剣に考えたことがないので、すぐには回答が出てこないのですが、僕がかかわることで、その作品がおもしろくなって僕らしいご協力ができるのであれば、かかわってみたいと思います。ただ、なにぶん経験がゼロなので、興味はありますが、大変悩むと思います。

Q:システムの裏をつくようなことを作品の中でしているかと思うのですが、今、こういうシステムであれば裏をつけるんじゃないか? とか、こんなシステムを利用してみたいという構想があれば、教えてください。

A:『ルートダブル』の“Senses Sympathy System(センシズ・シンパシィ・システム)”を通して、物語をよりおもしろく描ける手ごたえがありました。次も、システム的なものを応用し、それを逆手にとってゲームが作れたらと思っています。……なので、考え中です(笑)。

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 最後に、中澤さんから聴講者に向けてメッセージが送られたので、以下で紹介する。

中澤さん:この『ルートダブル』は僕にとって非常に印象深いタイトルで、言ってしまえば、制作スタッフや応援してくださるファンの皆様すべての魂を込めた作品だと思っています。文字通り、精魂込めた作品でもありますし、いろいろな“思い”を込めたという意味もあります。

 そもそも、この作品のプロジェクトを立ち上げた時から、スタッフ皆さんの“過去最高の作品を作りましょう”と呼びかけて作っています。皆さんの並々ならぬ努力と思い入れでもって作っていただきました。“全力で作る”というのはごく当たり前のことですが、これは理想でもあって、実際には全力で作りたくても状況や環境が理由で、全力が出せないことが往々にしてあるんです。でも『ルートダブル』に関しては、自分自身が突き詰めたいという題材に出会えましたし、スタッフの皆さんも全力を出してくれる素晴らしい方々に出会えました。メーカーも、それを許容・応援してくださるような環境を用意してくれましたし、本当に恵まれた状況で作ることができました。

 ご存知の通り、この作品は発売さえも危ぶまれる状態にありましたが、ファンの皆様の応援もあって、発売を間近に迎えるところまでこられたました。本当に、スタッフや皆さんの思いが結集したような作品です。それに加えて、“魂を込めた”という表現には思惑がありまして、作り手のスタイルだけでなく、内容的にも魂を込めたつもりです。所詮、ゲームは情報メディアの中に込められた0と1の情報にしかすぎないのかもしれません。でも、確かにわれわれは、この作品の中に“魂”を込めてみました。その存在感を実感できる作品になったと思いますので、もしよろしければ体験してみてください。非常におもしろいゲームになっています。

 講演会の終了後、中澤さんと今回の講演会を企画された、新月お茶の会・漆原正貴さんにコメントをいただいたので、以下に掲載する。

――講演会の感想を教えてください。

中澤さん:講演会が始まるまでは、何人の方が来てくださるか本当にドキドキしていたのですが、想像以上の方に聴講していただき、そしてものすごく真剣に聞いてくださいました。最後に質疑応答がありましたが、皆さん多種多様な、しかも僕が答えられる範囲の質問をしてださいまして、僕自身も楽しんだ講演会でした。主催サークルの方々もよくしてくださいましたので、僕自身が緊張してトークに失敗したところ以外は、なんの問題点のない講演会だったと思います。

――講演会の最後で、希望するファンの方々と握手、写真撮影がありましたが、実際にファンにお会いしていかがでしたか?

中澤さん:初めての体験だったので、講演会とは別の緊張があり、ガチガチでした。皆さんと何をしゃべっていたのか、半分くらいとんでしまうくらい緊張しました(笑)。でも、生の声を間近で聞くことができてうれしかったですし、今後のゲーム制作のエネルギーになるような体験でしたね。

――本当に大勢の方が並んでいましたね。

中澤さん:ここだけの話、握手会に何人の方が並ぶのかドキドキしていたんですよ。やると言って誰も並ばなかったら、しょぼんとなってしまいます。それをなんとか、いろいろな方に並んでいただけて、本当にうれしかったです。

――なぜ第1回講演会のゲストが、中澤さんだったのでしょう?

新月お茶の会・漆原さん:僕自身も中澤さんの大ファンだったことが、おそらく一番の理由です。その他、新月お茶の会はミステリー研ではなく、SFやライトノベル、小説に限らずゲームやアニメも扱うサークルだったんです。そのようなサークルの講演会で、どなたをお呼びするかとなった時に、いろいろなジャンルをミックスしつつ、メディアということにしっかりとしたこだわりを持って発表されている方でしかありえないと思いました。そうなると、恋愛やSF、ミステリーなどを1つの媒体に落とし込んだ、中澤さんが1番の適役かなと思い、第1回講演会のゲストにお呼びしました。

――オファーをいただいた時は、どう思われました?

中澤さん:恐れ多いことなので、一度お断りしているんです。

漆原さん:去年の夏コミのころでした。

中澤さん:お誘いは本当にうれしかったのですが、僕などが講演会なんて、皆さんが期待するような内容にはならないので、辞退させていただきました。ですが、改めてオファーをいただいた時に「インタビュー形式ではいかがですか?」など、いろいろと気を使っていただきまして、それであれば、人生の中で非常に大きな経験となって、今後の糧にもなるかもしれないとやらせていただきました。

漆原さん:それが、去年の冬コミの前くらいの時期でした。

――漆原さんは、中澤さんの大ファンということですが、『ルートダブル』の体験版をプレイしてみて、いかがでした?

漆原さん:期待していたよりもおもしろいし、展開が速いし、何より最後が意外だし、もう続きが読みたくてしかたがないです。実は、講演会ではBルートの試遊があったのですが、これをプレイできなかったのが本当に心残りです。

中澤さん:講演会前に、僕が機材のセッティング用にプレイしていたのですが、中途半端にBルートを見たくないと見られなかったんですよね。

漆原さん:それぐらい、楽しんだ体験版でした。

――会員の皆さんは、『ルートダブル』の体験版をプレイされているんですか?

漆原さん:多くの会員がプレイしています。中澤さんの作品では、『Ever17』はほぼ全員がプレイしています。『Remember11』や『I/O』、『Myself;Yourself』など、近年の作品は大抵の会員がプレイしています。

――そんなメンバーの間で、『ルートダブル』の体験版の評判はいかがでした?

漆原さん:これは実際に聞いてもらったほうがいいですね。(会員に向けて)体験版どうだった?

新月お茶の会会員:謎がどんどん深まる展開で、事前に与えられた情報もいくつか覆されておもしろかったです。本当は、製品版が発売されるころにXbox 360を買おうと思っていたのですが、体験版の誘惑に勝てずに買ってしまいました。

漆原さん:新月お茶の会の会員は、ミステリーやSFサスペンスが好きな人が多いのですが、特に『ルートダブル』のサスペンス要素と、体験版終盤のミステリー展開が従来の作品と比べても密度が高く、好評でしたね。

中澤さん:講演会の中でも言いましたが、『ルートダブル』という作品は、僕の中でも集大成として、これまで表現しきれなかったものを詰め込んだことに加えて、シナリオを担当した月島さんも、僕の思いを汲み取ってくださいました。そのうえで、僕が「ここまでやってほしいな」というライン以上の領域まで膨らませてくださったので、僕にとってうれしい作品になりました。

――もう間もなく発売されますが、今の段階で、ファンに伝えたいメッセージをいただけますか?

中澤さん:何度も訴えていることではありますが、『ルートダブル』は自分自身、やりきった感がある作品になっています。スタッフも「これでもか!」というくらい頑張って作ったものですので、本当に多くの方にプレイしていただきたいです。もし興味があったら、まずは体験版をプレイしていただいて、おもしろいと実感できたら、製品版をプレイしてもらいたいと思います。もっと言うならば、周りに『ルートダブル』のような作品が好きな人がいらっしゃいましたら、「こんなゲームがあるよ」と教えてもらえたら、僕にとって、これ以上の喜びはありません。

――Xbox 360ごと、買ってもいい作品になっていますでしょうか?

中澤さん:そうですね、それぐらいの価値がある作品だと思っています。……どんどんハードルを上げているなぁ(笑)。

中澤工さん講演会 中澤工さん講演会
▲魂が込められた中澤さんの最新作『ルートダブル』は、いよいよ3週間後の6月14日に発売される。中澤さんの“自分至上最高傑作”となっているのかどうか、ぜひ体験してほしい。

(C)イエティ/Regista

データ

▼『ルートダブル』クロスポスター
■メーカー:アスキー・メディアワークス
■発売日:2012年7月14日
■希望小売価格:4,500円(税込)
 
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