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2012年6月10日(日)

【Spot the 電撃文庫】常夏の小国を舞台にしたファンタジックアクション『チェンライ・エクスプレス』の百波秋丸先生にインタビュー!

文:電撃オンライン

 電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。第39回となる今回は、『チェンライ・エクスプレス』を執筆した百波秋丸先生のインタビューを掲載する。

『チェンライ・エクスプレス』
▲桶谷完先生が描く『チェンライ・エクスプレス』の表紙イラスト。

 本作は、第18回電撃小説大賞の最終選考作で、常夏の小国・チェンライを舞台にしたファンタジックアクション。事故で人間の心を失った人造人間や、魔法が使えない魔法少女、カマを奪われた死神など、ひとクセもふたクセもある人外たちが、自らの欲望を叶えるべくチェンライを駆ける様子が描かれていく。

 百波先生には、本作のセールスポイントや作品を書くうえで悩んだところなどを語っていただいた。また、電撃文庫 新作紹介ページでは本作の内容を少しだけ立ち読みできるようになっている。まだ本作を読んでいない人はこちらもあわせてご覧あれ。

――この作品を書いたキッカケを教えてください。

 最初に“商売道具のカマをなくして困っている死神”をポッと思いつきました。でも、それだけではおもしろくないので、カマを失っている死神以外に“○○を失っている××(人外)”というのをいくつか思いつくままに並べていき、そんな人外たちのエピソードをそれぞれ考えて、つなげて重ねてアレをナニして……といった具合に、今回の話を形作っていきました。

――作品の特徴やセールスポイントを教えてください。

 カマをなくした死神のDJ、金を求める狼男の賭博師、黒歴史を持った人魚のキャバ嬢、相手を眷属にできない吸血鬼のカメラマン、魔術を使えない魔女の中学生など、どこか部品が足りていない、人間臭い人外たちが常夏の夜の街をにぎわすお話です。その人外たちが、思い思いのモノを求めて騒動を起こし、その騒動が連鎖して各々が各々の問題に決着をつけ、最後には同時多発的ハッピーエンド――大体そんな感じです。

――作品を書くうえで悩んだところは?

 このお話は群像劇のスタイルをとっているのですが、群像劇を書くにあたって、そもそも群像劇というのはどうやって書くのか、というところから悩みました。「どうやれば群像劇というものが成立するのか」とか「ある人物から別の人物の視点に話を移す時、どうつなげていくと効果的なのか」とか「1つの視点はどの程度の長さにしたらいいのか」とか「事件と事件をどうつなげたらおもしろくなるのか」とか、そんなところですね。後は「キャラクターを魅力的に登場させ、印象づけるためにはどうすればいいか」とか。でも一番悩んだのは地名とか人名とかかも知れません。

――執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 最初に書いた時に2カ月、それからしばらくした後に手直しをしたのですが、その直しに2カ月。編集さんとの見直しにかけた時間は、足かけ4カ月くらい。だから合計8カ月くらいということになりますね。

――主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。

 主人公は“心を失っている人造人間の中学生”なのですが、先に述べた“○○を失っている××(人外)”をつらつら挙げている中で思いつきました。いくつかある話の軸のうちの一番大きな軸が、この人造人間の少年と魔女の少女の物語で、彼らの成長も見どころの1つです。

――特にお気に入りのシーンはどこですか?

 作中に出てくるモデルが広場で手品をするシーンが出てくるのですが、この時、このモデルは人前でスカートの裾から手を入れてパンツを脱いでみせて、「今、自分はパンツをはいているでしょうか!」とクイズをするんですね。そこがお気に入りです、なんとなくやんちゃな感じがして。あと、最後の数行は気に入っています。小説は最後の着地でだいぶ印象が変わると思うので散々悩みましたが、結果読後感のいいラストになったと思います。

――執筆中の印象的なエピソードはありますか?

 執筆中ではなく執筆後ですが、この『チェンライ・エクスプレス』という作品を第18回 電撃小説大賞に応募した後のゴールデンウィークに、タイに行きました。応募原稿を送付した段階では、チェンライという地名がタイに存在していることを知らず、漢字で当て字を付けていたのですが、タイ旅行に行くにあたって買ったガイドブックにチェンライの地名があり、しまったな、と。「まあでも気づかないだろう」とタカをくくっていましたが、編集部さんからお電話をいただいた時に、「この話に出てくるチェンライって、チェンライじゃないじゃん」と、ずばりバレバレでした。

――今後の予定について簡単に教えてください。

 タイトルにもなっている『チェンライ・エクスプレス』という列車にまつわるエピソードを軸に、人外の話が展開できれば……なんてことを思っています。

――百波先生は本作でデビューするわけですが、小説を書こうと思ったキッカケはなんですか?

 ある時たまたま読んだ小説(五十嵐貴久さんの『Fake』)がとてもおもしろく、しかもその物語の構成がとてもシンプルで、おもしろさを演出するメカニズムと骨組みがよく見えたんですよ。「こうやって話を組み立てればおもしろいモノができるのかな」と思い、自分でもやってみよう、とキーボードを叩き始めました。今回書いた作品はそれとはちょっと違う構造になっていますが。

――初の商業作品というところで、その感想は?

 編集部さんの、小説を文庫のパッケージにしていく勢いとスピード感とエネルギーはすごいな、というのが一番の感想です。あと、イラストが入るとがぜんヤル気が出ます。それから、今までA4の紙の上で見ていたものが文庫になると全然印象が変わると感じました。商品としてパッケージングされると、心なしか内容(というか文章)までよくなっているような錯覚に陥りました。「普通に売り物っぽいよ!?」と思いました。実際売り物なんですけどね。

――小説を書く時に、特にこだわっているところは?

 “息抜きができるシーンが適当に挟まってるかな”とか“興味を引くようなシーンや状況で章を区切れているかな”とか“キャラクターが魅力的に見えているかな”とかですかね。後は“オチが効果的に映るように話が構築できているかな”とか。

 違う観点では、執筆に使うPCの画面サイズとフォントサイズはやや大きめにしています。誤字脱字が見えやすくなるので。それから、文字入力の方法(キーボードで両手の指全部を使って書く、携帯で親指だけで書く、手で書く)によってアウトプットの文章や内容が様変わりしてくるので、自分に一番フィットしたやり方でやることを心がけています。他には寝ぼけた頭で書かない、酒を飲んで書かない、そもそも酒を飲まない、とかですかね。

ちなみに自分がそれをちゃんとできているかどうかはともかく、ですが……

――今後、どういった作品を発表していきたいですか?

 今後は「お見事!」とひざを打ってもらえるような仕掛けを持ったものを書いていければと思っています。自分の今のスキルではできることが限られていますが、今後いろいろと力を付けていければと。

――アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?

 アイデアを出す時、というかつまった時には散歩をします。「ここの部分はどうしようかな」というのを1つだけ頭に入れて、そのことをぼんやり考えながら川沿いを歩いたりすると、ふと出てきたりします。出なかったりもします。その時は「気分転換に散歩に行ったのだ」と自分を納得させています。

――高校生くらいのころに影響を受けた人物・作品は?

 一番影響を受けたのは岡崎京子さんの漫画でした。大人になってから読んでいたらまったく違う感想を持ったでしょうが、高校生のころに読んだので、だいぶ効きましたね。後期の作品は暗いムードのモノが多いですが、初期のころのにぎやかな作品が好きです。にぎやかさの裏に見え隠れする儚さとかむなしさとか、そういったものが当時衝撃的でした。他には江口寿史さんの漫画の『エイジ』。フリッパーズギターもよく聞いていました。

 映画では『ビートルジュース』がお気に入りで、それを見て以来、映画をひんぱんに見るようになりました。こう振り返ると、高校のころは小説をまったく読まなかったですね。大学を卒業する直前までほとんど読まなかったです。

――今現在注目している作家・作品は?

 漫画家の杉山小弥花さんが好きです。本が出るたびにうれしくなります。後は今日マチ子さん、渡辺ペコさん、宇仁田ゆみさん。女性の漫画家さんが多いです。

――最近熱中しているゲームはありますか?

 ゲームは全然やらないですね……もうずっとやってない。一応コンピュータ業界の人間なんですけど。コンシューマゲーム機は16ビットマシン(スーパーファミコン)でストップしています。3Dのゲームが出てきて、新しい時代の波についていけなくなりました。『パラッパラッパー』とか『ウンジャマラミー』は大丈夫でした。年がバレます。

――その他に今熱中しているものはありますか?

 この問いにすぐに答えが返せないような、可哀想なやつです。

――それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。

 ロマンチックでドラマチックでちょっとエキゾチックな、後味のスッキリとしたお話なので、安心して楽しんでいただけると思います。とにかく、ぜひ1度書店さんでこの本を開いていただき、第18回電撃イラスト大賞で金賞を受賞された桶谷完さんの素敵なイラストをご堪能いただければと。一番はそこですかね。

(C)百波秋丸/AMW
イラスト:桶谷完

データ

▼『チェンライ・エクスプレス』
■発行:アスキー・メディアワークス
■発売日:2012年5月10日
■価格:620円(税込)
 
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