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2012年7月18日(水)

『ガンパレ』の芝村裕吏がブラウザゲーム業界を斬る! 脱線ありの『ガン・ブラッド・デイズ』しゃべくりインタビュー(前編)

文:電撃オンライン

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――改めて3つの陣営について教えていただけますでしょうか。

芝村:まずオルトロスという組織からいきましょうか。これは実は政党政府というか、選挙で選ばれた政府なんです。まず、過去に「これまでの政治はダメだ」といって立ち上がった政党がありまして、彼らは「無駄を減らして税金も安くします」という公約を掲げて政権をとったんですが、これが大失敗してしまいました。前と変わらないどころか、よりひどくなったじゃないか、と。

 国民たちはその間違いを受けて前に戻った……かというと、そんなことはなく、さらに過激な政党を選ぶことになります。そして、次も、その次も同じ過ちを繰り返していくんですが、首相が暗殺されるという事態が2回も続いたことをキッカケに、国民は「選挙が国政を不安定にさせる原因だ」と断じて、日本は民主主義を放棄してしまうんです。

 それと時を同じくして、エネルギー革命のようなことが起こるのですが、その革新的なエネルギー技術を握っていた財閥が政府とくっついたことで、今の組織形態“オルトロス”ができ上がるわけです。

 次に日本解放戦線。これは簡単に言って「昔の日本に戻りましょう、選挙をしましょう」という民主主義に立ち返ろうとする人間の集まりです。グダグダな思考なんですが、彼らは「国民も十分反省した」と考えていて、今の民主主義を否定する政治はダメだから戦って権利を勝ち取ろうとしているわけです。

 国民を信用していない政府と、政府を信用していない民衆の対立構造が、本作で描かれている戦いなんですね。ところがオルトロスが政権を握ることになった裏で、かつて政権を握っていた政治家たちがアメリカに逃げて亡命政権を樹立していたんです。「アメリカにとって日本は弟分のような存在なんだから、内戦状態を放ってはおけないだろう」と言って、彼らは彼らで日本の内戦に介入する戦力を送り込んできたわけです。これがセイバーという勢力となり、三つ巴の戦いという様相を呈しています。

『ガン・ブラッド・デイズ』
▲オルトロス、日本解放戦線、セイバーの各エンブレム。いづれも個性的なのでどこに所属するか迷った人もいるのでは?

 ゲームも小説も基本的にはこの3つの対立構造になっています。それぞれの主要人物は、財閥系の勢力であるオルトロスは「早永家」という兄弟たちと頭の悪いOLたちによって話が展開します。早永家では次男坊の裕次郎や、その兄で現在の首相という人物が出てきますね。

 一方、日本解放戦線の主要メンバーがどんな人たちかと言うと、伊坂ナミを筆頭とするダメ学生や少年少女の兵士、それと元自衛隊所属の自衛官たちです。あるいは昔の日本を知らなくても、権力に抑圧されることを嫌う風来坊的な人たちが寄り集まっていますね。

 最後にセイバーというアメリカを中心とした多国籍軍に関しては、指揮官が金髪の美女だったり、軍曹と呼ぶのがぴったりな軍人ライクなメンバーが中心で、プロの軍人たちがぞろぞろいます。

 ちなみに小説では、3つの勢力を渡り歩くジャーナリストの視点で物語を書いています。戦争モノを書いているわりには主人公がジャーナリストなので、銃を持たないし、襲われて殺されそうになったりするんですが、ペンだけは絶対に離さないキャラクターですね。

――芝村さん原作の小説版『ガンパレード・マーチ』(著:榊涼介)にも桜沢レイというニュースレポーターのキャラクターが登場していますよね。小説『ガン・ブラッド・デイズ』の主人公も似た印象を受けたのですが、その点はいかがでしょうか。

芝村:あえてネタを被せているところはありますね(笑)。といっても、あくまで『ガンパレード・マーチ』の主軸は、5121小隊になるわけですからね。今回の主人公はもっと自由な観点で、読者の代表にしたかったんです。読者には「なぜ日本が内戦しているの?」っていうところから説明が必要で、そこに日本の内情に詳しくない外国人を出すことで、さまざまな状況に巻き込まれながら少しずつ内戦勃発の真相が明らかになっていきます。

『ガン・ブラッド・デイズ』
▲こちらは小説の表紙。右手前の金髪女性が主役のイーヴァ・クロダ。

――読者の視点のキャラクターがこの日系アメリカ人のジャーナリストなんですね。

芝村:そのための主人公であり、キャラクターではありますね。あとはまあ、彼女の成長を描くことで小説としての体裁が整ったかなと(笑)。「なんとなく安全だから」という理由で軍隊にくっついてきた女性が、危険な状況を何度も乗り越えて成長していく姿が書けたらおもしろいなと。

――先日の先行体験レポートで3勢力の所属率などを発表されていましたが、予想通りの数字だったのでしょうか?

芝村:まさか設定通りになるとは思っていませんでした。あまり勢力ごとの分布は考えていなかったんですが、蓋(フタ)を開けてみたらセイバーが大不人気……もとい、選ばれた民だけが遊んでいる、みたいな状態でした。オルトロスが真ん中、日本解放戦線が圧倒的な人気という感じで、実に全体プレイヤーの6割近くが所属していましたね。

――やはり「日本の内戦」というテーマから、日本解放戦線が主人公に見えるのでしょうか?

芝村:日本人の本能的に“日本”と書いてあると、主人公っぽく見えて選んでしまいそうですね。「横文字よりは漢字で選んだな、コイツら」って(笑)。

上町:人数だけではなくて、プレイヤーの属性も陣営ごとに大きく分かれましたね。

芝村:性格がね。3陣営ともプレイスタイルが全然違ってすごくおもしろかったですよ。日本解放戦線の烏合の衆たるや…って感じで(笑)。

――人は多いけど統率は取れていないということでしょうか?

芝村:協力プレイも特にしないし、みんなバラバラに活動していましたね。逆にセイバーの訓練されたような動きはすごかった! 「偵察に行ってきました!」⇒「ここの守りが薄くて攻めやすそう」⇒「よし攻めろ!」と、まるで一個部隊のような動きでした。

 数は少ないながらも、集団で大戦果を挙げることもあれば、相手の侵攻が激しくなると引き際を見極めて「ここはもうダメだ、逃げろ!」って鮮やかに撤退するわけですよ。あとは精鋭を集めておきながら弱いふりをして、油断して攻め込んできた相手をボコボコにして追い返す“ホイホイ作戦”みたいなこともしていましたね(笑)

――先行体験では、そんな戦略が始まっていたんですね。

芝村:4日間のテストプレイ期間があったんですが、3日目ぐらいにようやく日本解放戦線で「どこかにメチャクチャ強い初心者部隊ってのがいるらしい」という噂が出ましてね。じつは、初心者部隊みたいなギルド名のベテラン部隊だったんです。そこに至るまでのツイッターの会話なんかはすごくおもしろかったですね。こいつらいつ気付くんだろうと、見ていてドキドキしましたよ(笑)。

 陣営によって異なるプレイ方針を見ていくと、この不平等感はゲーム的にアリだなと思いました。これは杉山さんの言葉なんですが「バランスに偏りのある方がおもしろい」というのは、まさしくその通りだなと感じましたね。全員に課せられたルールは同じなのに、人数差や意識によって、ここまでのプレイングの違いが出るとは思っていませんでした。

『ガン・ブラッド・デイズ』
▲戦略性に富んだSLGが楽しめる本作。数で負けていても、戦い方次第で相手を一網打尽にできることも!?

――多少バランスに偏りのある方が、ユーザーさんが戦略を練る余地があるということでしょうか。

小野木:元々プレイヤーの資質というか、性格があるんです。例えば、セイバーを選ぶ人は軍隊好きな人が多いですね。だから軍事知識に詳しかったりして、それを戦い方に取り入れようとするわけです。逆にそうした知識がなく直感で選ぶ人は、日本解放戦線とかオルトロスを選びやすかったりするんですね。

杉山:全体のルールとしては平等ですが、仲間との会話や戦略が陣営ごとにだいぶ違うんですね。それが見ていておもしろいです。

上町:なかでもオルトロスは分析屋の人たちが集まっていて。

芝村:電撃のプロライターが混じっていたんじゃないかという噂も流れるくらいでしたね。したり顔で「融合表作ってきました!」なんて俺に向かってツイートしてきたりする人がいたり……(笑)。

杉山:ちなみに先行体験プレイで実装していた融合表は解析されてしまっているので、正式サービスでは別の融合パターンを新たに作り直す予定です。

上町:表だった戦いには参加せずにそういうことをコツコツとやっていたのがオルトロスですね。

芝村:オルトロスは勝敗に見切りを付けて先の戦いを見据えた行動をしていたわけですね。いかにも企業っぽい。「融合の法則を発見しちゃいましたよ」という報告が送られてきたりして、「そんな分析はしないでいいのに~」とか思ったりもしました(笑)。

『ガン・ブラッド・デイズ』
▲2枚のカードを融合させることで、より強力なカードが手に入れられることも!

――OBTでゲームを始める場合「人の多い勢力に行った方が楽なんじゃないか」と考える人もいそうですが、それに対するテコ入れや対策みたいなものはあるのでしょうか?

芝村:公式レポートを公開の結果を見て、本番ではまたプレイの方法を変えると思うんですよね。みんな裏をかいて動いてくるでしょうし、勢力ごとの設定や専用カードなどが明らかになっていくにつれて、変わってくる部分があると思います。実際にどうなるかは、蓋を開けてみないとわからない部分もありますが、我々がこうなってほしいと考えている部分はあります。そのための仕掛けも頑張って作っています。

――全然予想しないところに動くのがユーザーさんですしね。

芝村:それこそがおもしろいところでもあります。今回も人数は圧倒的に不利だったセイバーが2位になって、総合的に見たらこいつらが優勝といっても過言ではないと思いました。

杉山:人数の多い陣営が必ず勝つと、ゲームとしてはおもしろくないじゃないですか。仕組みは教えられませんが、戦闘の仕組みの中でバランスを調整したりしています。

――常勝できないということでしょうか?

杉山:そうですね。ただ、陣営の勝利だけが目的ではないんです。ギルドや個人での競争もありますので、陣営を勝利に導くのもいいですし、陣営内でトップを狙うのもいいでしょうね。

芝村:間違いなく、そこに工夫の余地やゲーム性のおもしろさがあると思います。

――楽しそうですね。プレイヤーが所属する3勢力以外にも無所属NPCの勢力があるようですが、彼らの役割を教えてください。

芝村::“紅蓮の夜”ですね。彼らのゲームでの役割は……経験値の提供です(笑)。

上町:身も蓋もない(笑)。対人戦ばかりでは後発のプレイヤーが困りますし、実戦に出るための練習台という意味です。

芝村:イベント戦では主要な役割を持たせることもあるので、ストーリーに絡む形での登場もさせる予定です。「どうして彼らのような存在がいるんだろう?」というところから始まるストーリーもありますし、「どうしてどこにも所属してないの?」とか、「同じ顔をしているのはなぜ?」という疑問を紐解いていく絡ませ方もします。

『ガン・ブラッド・デイズ』 『ガン・ブラッド・デイズ』
▲広江礼威さんが描く“紅蓮の夜”のメンバー。

――その「どうして?」を教えていただくわけには……?

芝村:ストーリーの根幹にかかわっている部分もあるので秘密です。代わりと言ってはなんですが、『ガン・ブラッド・デイズ』は、陣営ごとに視点の異なるストーリーが展開していきます。3パターンのストーリーを書いていると時間が足りなくて、安請け合いするんじゃなかったと後悔しています(笑)。

――ぜひ全部見たいですね。陣営を変えてプレイすることもできるのでしょうか?

芝村:もちろんできますよ。ただ、個人的にはあまり陣営を変えず、陣営ごとのストーリーは人づてに聞いてほしいというのがあります。それはTwitterでもいいし、2ちゃんねるみたいな掲示板でもいいので、断片的な情報を聞いて組み合わせながら物語の全体像、あるいはザッピングを体験してほしいですね。すべてのストーリーを直接自分で体験することもできますが、全陣営でプレイすると時間がかかりますから。何より今まで一緒にやってきた仲間とのつながりや絆を捨てて別の陣営に行くのはもったいないでしょう。

(7月25日公開予定のインタビュー後編に続く)

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データ

▼『ガン・ブラッド・デイズ』
■発行:アスキー・メディアワークス
■著:芝村裕吏
■イラスト:kyo
■発売日:2012年7月10日
■定価:630円(税込)
 
■『ガン・ブラッド・デイズ』の購入はこちら
Amazon.co.jp
▼『ガン・ブラッド・デイズ』
■運営:ケイブ
■対応機種:PC(対応ブラウザ:Internet Explorer7以降、Firefox3.0以降、Google Chrome)
■ジャンル:SLG(オンライン専用)
■サービス開始時期:2012年夏予定
■プレイ料金:無料(アイテム課金)

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