2012年8月20日(月)
――映画の中で好きなシーンを教えてください。
三池:作っているとどのシーンも好きなんですけれども……ただ、この映画のことを思い出す時には、必ず“さゆりさん”がいますね。オウムが裁判の証人として立つことが、映画として成立するということがわかり、僕らが思い描いていた「映画とはこういうものだ」という常識は覆された。それどころか、映画そのものを何もわかっていなかったと思いました。
巧:監督、そんなことはないでしょう。
三池:プロとして経験を積んできた、小さい映画の中に押し込められていたんですよ。その小さい中で、無限に表現できると思い込んでいた。
犬だったら訓練のしようがあるのですが、鳥は学ばないので、そもそもテストが無意味。練習するとオウムが疲れてしまうので、同じ大きさの人形を使ってまず人間が練習します。“オウムさん”は人間ができてからお呼びする。
――オウムは満を持して登場するわけですね。
三池:そうです。でも、最初は止まり木に止まってくれない。慣れて止まってくれるようになったんですが、なぜかオウムが成宮君を好きみたいで、ずっと目で追ったあげく最後には体に飛び乗ってしまう。
普通はビックリしてそこで芝居をやめてしまうのですが、成宮君はナルホド君として証人のオウムと接していたので、そのまま演技ができた。あれは成宮君でなかったら、成立していなかったシーンですね。
――では、オウムが成宮さんの体に飛び乗ったシーンは、予定されているものではなかったんですね。
三池:あれを予定していたら、いつまで撮影がかかったかわかりませんね(苦笑)。ナルホド君がしゃべり出してから、さゆりさんには2つのカットしかないんですよ。どちらも生身で証言者のオウムと一生懸命やりとりをするシーンで、「大丈夫か、こいつ」っていうなんとも言えない感じが出ています。ちなみに、両方のシーンともワンテイクでした。
なんか、“オウムさん”のおかげですごく楽しかったです。「映画として成立している!」っていう独特の興奮がありました。ちゃんと演技できるのか不安もありましたが、「やれるんだな」って感心しましたね。
――巧さんの好きなシーンは?
巧:それだけ熱く語られた後だと話しにくいんですが、僕もさゆりさんのシーンが一番好きですね。仮つなぎというような途中の段階を、何回か見せていただいたのですが、オウムが出てくると試写室の雰囲気が独特のものに変わるんです。笑いではないんですが、どよめきのような……空気に変わる。その独特の雰囲気が映画だと感じました。映画を見ていてオウムの証人というのはやはり見たことがないし、これから先もないだろうなって思います。
三池:そもそも、ゲームの時にビックリしましたからね(笑)。基本的にゲームって、ゾンビが出てきたりして何でもアリじゃないですか。でもオウムが法廷に証人として出てくると「ええっ~~!?」ってなる。
巧:でも、それと同じことをスクリーンを見て思いました。ゲームは、僕自身が作ったので問題なく見られるんですが、実写になった瞬間に「この絵面は見たことがない!」って。映画を見て笑うことはあっても、どよめくことはあまりないですよね。
その後、成宮さんの肩にさゆりさんが乗っているのを見た時に、彼の緊張感が伝わってきました。まるで舞台を見ているようなライブ感があり、劇場にいる皆さんと一体になった気がしましたね。あのシーンはたぶん映画史に残ると思いましたよ。
三池:鳥ですから、飛んでいってしまう。それも不安でしたね。
巧:飛ばないと思っていましたが、飛びましたよね。
三池:あそこにじっとしていること自体、誰も保証できない。そして飛んでいったら、捕まえるまで撮影は中断ですから……。
飛ばないためには2つ方法があります。足を縛りつけてそれを後で消すか、飛ばないように羽根を抜く。でも、いいカットをするために鳥の命である羽根を抜いて飛べなくするなんて、虐待ですよね? 他の作品だったらできたかもしれないんですが、このゲームが持つ優しさとか、おもしろさの根っこにあるものを考えるとできませんでした。結果的に1回飛びましたが、そのカットも使っています。
巧:あれは、わざと飛ばしたんではないんですね。
三池:いろいろな作品を知っていても、オウムにCGの出現と同じくらいのインパクトがありました。「鳥さん、すげー!」って。
巧:本当に、あれは劇場だけの臨場感だったと思います。完成披露試写会の時も、あのシーンで温度が変わった気がしたので。
――個人的に、あのシーンは傍聴人のような気持ちになりました。
巧:そうですよね! 参加しているような気持ちになりますね。
――撮影中、印象的だった俳優さんを教えてください。
三池:小中大役の鮎川誠さんですね。
巧:オウムのサユリさん……と、奇跡の競演を果たした役者魂・成宮さんですね。原作とはガラリと印象の違った小中の鮎川誠さんも印象的でした。
→次のページでは、続編についての思いを伺いました(4ページ目へ)
(C)2012 CAPCOM/『逆転裁判』製作委員会
データ