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2012年10月6日(土)

【Spot the 電撃文庫】終わった世界で生きる2人の少女を描いた『世界の終わり、素晴らしき日々より』の一二三スイ先生インタビュー

文:電撃オンライン

 電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。第54回となる今回は、『世界の終わり、素晴らしき日々より』を執筆した一二三(ひふみ)スイ先生のインタビューを掲載する。

『世界の終わり、素晴らしき日々より』
▲七葉なば先生が描く『世界の終わり、素晴らしき日々より』の表紙イラスト。

 本作は、敵対する近隣国“高国(こうこく)”との開戦直後、突如として人類のほとんどが消えた“終わってしまった世界”を舞台に、トラックで旅する2人の少女を描いた作品。スケッチブックを手放さない人見知りのチィと、いつもポケットに拳銃を突っ込んでいる皮肉屋のコウ。2人がある日たどり着いた街には、戦争と消失の混乱によって散り散りになった“高国”の軍人が潜んでおり……。

 一二三スイ先生には、本作のセールスポイントや作品を書くうえで悩んだところなどを語っていただいた。また、電撃文庫 新作紹介ページでは、本作の内容を少しだけ立ち読みできるようになっている。まだ読んでいない人はこちらもあわせてご覧あれ。

――この作品を書いたキッカケを教えてください。

 第17回電撃大賞に応募した『素晴らしきこの世界』という作品を、担当さんから「もう一度書き直してみませんか?」と提案されたのが始まりです。ついでに言いますと、初めて編集部から電話をいただいた時は応募してから丸1年以上過ぎており、寝耳に水過ぎてうれしいとかいう感情はあまりなかったのを覚えております。

――作品の特徴やセールスポイントはどんな部分ですか?

 誰もいなくなった世界で必死に生きる少女、コウとチィの葛藤です。人が消え、廃墟となってしまった世界で苦しみながら、それでも懸命に生きる姿を描きました。時雨沢恵一先生からいただいた帯の推薦文の言葉をお借りすれば本作は『二人の女の子の話』です。

 また人がいなくなった世界も力の限り描きましたので、廃墟とか終末とか路地裏、錆びたレール、水没した都市、無人の交差点、アスファルトを突き破る雑草など、どれか1つでもピンと来た方はぜひご一読を!

――作品を書くうえで悩んだところは?

 後半のバトルシーンについて、戦闘描写が苦手なので四苦八苦した記憶があります。どう決着をつけるのかだけは決まっていたのですが、そのシーンにたどり着くまでが長いこと長いこと。

――執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 第17回電撃大賞の応募作を下敷きに書いたため一概には言いにくいですが、新たにプロットを組み直すのに1カ月、執筆に1カ月、修正に2、3カ月ほどかかったと思います。ただ修正については担当さんとやり取りしながら進めたため、実際どのくらいかかったのかは自分でもよくわかりません。

――主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。

 カッコいい女の子が好きなので、主人公にはそういう子を据えたいと思っていました。ちなみに作中で主人公のコウは常に飴をくわえておりますが、プロットの段階では煙草の予定でした。いわゆる大人の都合というやつです。人を殺してるけどそっちはいいのかな、という疑問は今の今まで胸の中に秘めておりました。

 主人公がぶっきらぼうな皮肉屋なので、一緒に旅する女の子は正反対の純粋でかわいらしい子にしようと決めていました。書いた後に気付いてみれば、立派なおねロリコンビの誕生です。

――特にお気に入りのシーンはどこですか?

 詳しく言うとネタばれになるのですが、やはりラストシーンです。最後のチィの一言のために、300ページを書きました。

 また中盤でコウとチィが、濡れたタオルで互いに体をふきあうシーンがあるのですが、第1稿の段階では照れるチィの心理描写に力を入れて結構気に入っておりました。ですが少し力が入りすぎたらしく、担当さんから百合っぽいうえに“生々しすぎる”というダメ出しをくらい、あえなく今の形に。

――今後の予定について簡単に教えてください。

 1巻ではあまり語られなかったコウの過去を軸に、絶望の中の希望というテーマのもとで2人の少女が成長する姿を書けたらいいなと思っております。

――高校生くらいのころに影響を受けた人物・作品は?

 秋山瑞人先生です。特に『イリヤの空、UFOの夏』を読み終えた時の清々しい喪失感は今でも覚えています。また壁井ユカコ先生の『鳥籠荘の今日も眠たい住人たち』、時雨沢恵一先生の『キノの旅』など、独特の世界観を持つ作品に惹かれていました。

――現在注目している作家・作品は?

 『エスケヱプ・スピヰド』で第18回電撃大賞を受賞された九岡望先生。懐かしい未来を舞台に繰り広げられる鬼虫同士のバトルは、時間を忘れて読みふけっております。

――ゲームで熱中しているものがあれば教えてください。

 『ソリティア』です。執筆の息抜きでやるととんでもない時間になります。しかしいくらやっても上達する気がしないのは自分だけでしょうか。

――それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。

 誰しも人生の中で1度や2度、「皆死ねばいい」と考えたことがあるかと思います。そんな願いが叶ってしまった世界で、懸命に生きる2人の女の子の不器用でまっすぐな生き様を見守ってください。読後に、もう少し生きるのを頑張ってみようかなと感じていただけたら、作者冥利に尽きるというものです。

(C)一二三スイ/AMW
イラスト:七葉なば

データ

▼『世界の終わり、素晴らしき日々より』
■発行:アスキー・メディアワークス
■発売日:2012年9月10日
■価格:620円(税込)
 
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