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2012年11月21日(水)

【歴史的視点でレビュー】現実は小説よりなんとやら──史実と架空、過去と未来が交錯する『コール オブ デューティ ブラックオプスII』の世界

文:イトヤン

■レーガン大統領の仕組んだ内戦がラウル・メネンデスの人生を変えた!?

 ニカラグアを独裁支配したソモサ一族は、1972年に首都マナグアを襲った大地震に対して世界中から寄せられた支援物資を私的に着服するなどの横暴な政治を続けたために、国民の間で不満が高まっていきます。そして1979年、かつての英雄サンディーノ将軍にちなんで“サンディニスタ民族解放戦線”と名付けられた集団が武装蜂起し、ニカラグアに革命が起こりました。

 当時、アメリカ大統領だったジミー・カーターは人権を重視した外交を行っており、米国が横暴なソモサ政権を見限ったこともあって革命は成功し、ニカラグアにサンディニスタ政権が樹立されました。ロック好きの人の中には、イギリスのパンクロックバンド“ザ・クラッシュ”のアルバム『サンディニスタ!』をご存じの方もいるでしょう。このように1979年当時には、世界中の多くの人々が、独裁政権から解放されたニカラグアを祝福したのです。

 ところが、1980年にロナルド・レーガンがアメリカ大統領に就任すると、米国は共産主義と対決する強硬路線に転換し、ソ連やキューバから支援を受けていたサンディニスタ政権とも対立します。そしてCIAなどを通じてニカラグアの反政府武装勢力に武器や資金を援助して、サンディニスタ政権打倒のための内戦を引き起こしました。アメリカから非公式な援助を受けていた、このニカラグア反共ゲリラは総称して“コントラ”と呼ばれています。『コール オブ デューティ ブラックオプスII』のゲーム中で描かれているのは、まさにこの時代です。

『コール オブ デューティ ブラックオプスII』
▲1980年にアメリカ大統領となったロナルド・レーガンは、“強いアメリカ”を政策に掲げ、アフガニスタンやニカラグアなど世界各地でソ連陣営に対する対決姿勢を明確にしました。

 ゴルバチョフ書記長によってソ連の改革が進み、東西冷戦の終結が近づいてもなお、コントラへの支援を続けていた米国には、国際的な批判が向けられました。そして1986年、当時アメリカの敵として見られていたはずのイランに、米国政府が秘密裏に武器を売却し、その代金がコントラに横流しされていたことが発覚すると、政治的な大スキャンダルになりました。この事件は“イラン・コントラ事件”と呼ばれています。

 この事件の影響もあり、翌1987年にはサンディニスタ政権とコントラの間で停戦合意が実現し、これによってニカラグア国民はようやく、自分たち自身で国の政治を決めることのできる自由を手に入れました。しかし、過酷な内戦はニカラグアの国土と経済を徹底的に破壊し、その傷は今もなお癒えていません。

『コール オブ デューティ ブラックオプスII』
▲ラウル・メネンデスは、アメリカ人の放火した火事によって妹が重傷を負い、麻薬カルテルを築き上げた父は、コントラによって暗殺されました。彼はアメリカ人の手で、家族を奪われていたのです。

 ここに紹介したのはニカラグアという、1つの国が歩んできた歴史ですが、パナマやドミニカ、エルサルバドルなど、“アメリカの裏庭”と呼ばれる他の中南米諸国にも、米国は軍事侵攻や反政府勢力の支援といったさまざまな形で、干渉を続けてきました。

 『コール オブ デューティ ブラックオプスII』の物語の中で、巨大テロ組織のリーダー、ラウル・メネンデスがアメリカ合衆国に対して見せる敵意とは、こうしたラテンアメリカ諸国の歴史的な“怒り”を反映しているのです。……もちろん、そのことによって、無差別テロという行為が正当化されるわけではありませんが。

→日本でも知られる事件にかかわる実在の人物が登場!(4ページ目)

(C) 2012 Activision Publishing, Inc. Activision and Call of Duty are registered trademarks and Black Ops is a trademark of Activision Publishing, Inc. All other trademarks and trade names are the properties of their respective owners.

データ

▼『コール オブ デューティ ブラックオプスII』
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:PC
■ジャンル:ACT
■発売日:2012年11月22日
■価格:オープンプライス

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