2013年4月24日(水)
この作品は世界観も特徴的です。作品の世界全体が“大欲界天狗道”と呼ばれる概念に支配されていて、登場人物のほぼ全員が“自己愛”しか持ち合わせていません。他人への気遣いや友情、愛なんてものは存在せず、行動のすべてが自分のためのもの。この世界の中で誰かを守る行動を起こしたとしても、それは結局「誰かを守っている俺って素晴らしい」という感情でしかないのです。
その“大欲界天狗道”という概念に染まっておらず、逆に“狂気”だと認識されている人物がヒロインの1人である久雅竜胆(こが りんどう)。彼女は東征軍の将として、御前試合に集まった益荒男たちを導きます。竜胆との出会いと東征を経て、徹底的な自己愛しかなかった益荒男たちの考え方がどう変化していくのか? というところも魅力の1つ。シナリオライター・正田崇さんの言葉を借りれば“『神咒神威神楽 曙之光』は主人公たちを更正させる物語”でもあるのです。
個人主義の超人たちが時折見せる“個人主義だからこそのチームワーク”には燃えますし、東征によって何かしらの変化を見せる益荒男たちの姿には感情を揺り動かされます。設定や派手なバトル展開も見せ場の1つですが、根底にあるテーマ“更正ストーリー”も見どころですね。
『Dies irae』のオールクリア後レビューでもアツく語ったことですが、圧倒的な力を持つ敵とのバトルで得られる“絶望感”が素晴らしい。同じシリーズなだけあって『神咒神威神楽 曙之光』でもその部分はもちろん踏襲されています。
益荒男たちも西の世界では最強と呼べる存在なのですが、東征で出会う敵・夜都賀波岐(やつかはぎ)の強さは圧倒的! 大人と子ども以上の力の差があるので、“どうやって勝つのかまったく想像が付かない絶望感”をところどころで味わうことができます。
どのくらい絶望的かをひと言で表すなら「知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない」的な感じでしょうか(笑)。あまりの実力の違いに笑いが込み上げてくるような絶望を、大体のバトルで楽しめるんですよ。そして、その絶望を乗り越えた時のカタルシスがまた素晴らしいのです!
「絶望を乗り越えた時のカタルシスが素晴らしい」なんて言っておいてなんですが、この作品において、地道に修行をしたり、段階を踏んで強くなるような描写はほとんどありません。大体の場合、主人公たちは加速度的にパワーアップしていきます。
これは物語の設定にかかわるので仕方がないことではありますが、修行をして地道に強くなったり、頭を使って強敵を倒したりするようなバトル展開はほぼなし。そういう物語を求めて本作を買った人には、もしかしたら合わないのかもしれません。しかし、突然のパワーアップにもしっかりとした理由があるので、どうか色眼鏡で見ないでプレイしてみてほしいです。
▲急にパワーアップする理由の1つに、本作における強さの概念があります。この世界では頭がおかしいほど祈り、願うほどに力が強くなっていきます。言わば、強さ=思いの強さです。 |
→もう1つの主人公チームと言えるほど敵キャラクターに魅力あり
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