2013年5月13日(月)
中原:今回の取材のために、こんなものを持ってきたんですよ。
高橋:出た。中原さんが開発中につけていた、リアルDの手帳(笑)。
中原:開発中、浅野さんからのメールをプリントアウトして貼り付けつつ、その案件に対するアイデアのメモ書きや打ち合わせ結果を記載していった手帳です。
――それはすごい! 『ブレイブリーデフォルト』の秘密が詰まったD(ディレクター)の手帳ですね。ちょっと撮影を……。
中原:本当に生々しいことまで全部書いてあるので、ちょっと遠くからの撮影でお願いします。中の文字が映ると、マジでヤバイので(笑)。
▲中原ディレクターが開発中のやり取りを綴ったリアルなDの手帳。表紙はもちろん、黒かった。 |
――1冊丸々『ブレイブリーデフォルト』用の手帳なんですか?
中原:1冊どころか、もう何冊かあるくらいです。
――なるほど! 記事の見出しに使いたいです。“リアルDの手帳は3冊以上存在した!”とか。
高橋:これを見ると本当に開発の歴史がわかりますよ。
中原:パラパラと見てみると……ここは、フレンド召喚 の“●●さんのティズ”という表示に関するやり取りです。初期はアビリティ名と同じ形式で表示していたんですけど、浅野さんから「もっとアピールしたい」との相談がありました。その時の参考用画像として添付されていたのが、AKB48が出演しているドラマのワンシーンだったんですよ。
――(手帳に張られた画像を見せてもらう)え? セリフをテロップで見せるような感じにしたいということですか?
中原:お互い、忙しい時にはインスピレーション重視になることもあって、暗号のような相談が来ることもありました(笑)。
高橋:あらためて打ち合わせをして、「単純に文字だけを表示するのではなく、飾って目立たせたい」という意図がようやく伝わり、最終的にはフレンドの名前の表示位置と装飾を工夫しました。
▲すれちがい通信ですれちがったプレイヤーのキャラクターを召喚できるフレンド召喚。当初、プレイヤー名の演出はシンプルだったが、最終的にはかなり目立つ演出に変更したとのこと。 |
中原:こういうメールをもらった時は、シリコンスタジオの社内で「みんな、集まれー!」と開発スタッフを集めて緊急ミーティングをしながら対応していました(笑)。いろいろと開発秘話があるんですけど……(手帳のページをめくりながら)この時期は、ノルエンデ村のレイアウトについて、■や★の記号を駆使した要望メールが浅野さんから届いていますね。
最初は、ノルエンデ村は1画面ですべてが完結する見せ方だったんですけど、もっと広がりを感じさせたいという話が出て、今のようにスクロールさせる形になりました。それに、瓦礫を除去して復興できる部分を増やしていくという案も書いてありますが、ゲーム開始直後は画面中が瓦礫だらけで、けっこうげんなりする見え方になりそうだったので(苦笑)、少しアレンジして今の形になりました。
高橋:そのやり取りを、なぜかメール中の記号表記でやり取りしていたんですよ。
中原:知らない人が見たら、本当に暗号みたいに見えると思います。■が瓦礫で、★が初期位置を意味していたようです(笑)。ノルエンデ村と言えば、初期には“大穴探索隊”という施設がありました。製品版でいう必殺技パーツ屋の原型で、村人を探索に出すと必殺技のパーツを持って帰ってくる流れでした。
――楽しそうですね。大穴の先で異世界のものを持ち帰ったり、探索に失敗して村人が帰ってこなかったりしたら、さらに熱いです。
中原:いやいや、せっかくすれちがって集めた村人が減ってしまうのはちょっと(苦笑)。でも、皆さん、ものすごいペースで村人を増やしていたので、村人が減るという要素を組み込んでも、おもしろかったかもしれません。
(手帳のページをめくりながら)このページは、召喚魔法に関する話題ですね。今回、魔法の名前が“ケアル”や“ブリザド”と『ファイナルファンタジー』シリーズにならっているように、召喚魔法も“バハムート”みたいに『ファイナルファンタジー』系にすることも考えていたんですよ。そんなある日、浅野さんからメールがあって、「召喚魔法は異質なものにしたい」と書かれていたんです。
その流れから、ファンタジー世界における異世界=我々が暮らす現実世界という設定を結びつけて、飛行機や電車をモチーフにするような演出となり、名前も『ファイナルファンタジー』系とは別のものにすることになったんです。
――異世界という言葉について、発想を逆転させたということですね。
高橋:実はラストダンジョンは、ティズたちが暮らすルクセンダルクとプレイヤーの世界(現実世界)の狭間の場所という設定なので、その背景は現実世界の建物などを意識したデザインになっているんですよ。遊んだ人には、意外と気付かれなかったみたいですけど。
中原:体験版などでおなじみのARムービー自体が、現実とゲームをつなぐような演出となっていて、いろいろなところでストーリーとかかわる仕掛けを意識していました。
(手帳のページをめくりながら)これは、バトルの画面構成に関する打ち合わせのやり取りです。初期のころからほとんど変わらず、演劇の舞台のように、敵と味方が向かい合う構成にしていました。本当のお芝居もそうなんですけど、お客さんにお尻を見せないようにハの字の形で向かい合う形です。
高橋:体験版で敵と味方の距離が近すぎるというご意見を受けて、少し位置を調整した経緯もあります。
▲バトル時の画面構成は、演劇の舞台のようなイメージで考えたという。 |
中原:バトルのカメラワークは、実はちょっとだけウソをついているんですよ。というのも、攻撃アクションを行う際、立ち位置をリアルに再現してしまうと、隣にいる味方キャラに武器が当たっちゃったりするんですよ。
高橋:だから、一時期はバトル開始の最初だけ向い合わせて、その後は敵味方がばらけてバトルが進む形も試してみたんですけど、キャラが小さく見えすぎて、迫力がなくなってしまったんです。
中原:やっぱりキャラを大きく見せたいということで、今のようにアクションを行うキャラを主体にしたカメラワークにしたんです。個人的には、昔好きだった『シャイニングフォース』というゲームのバトルの見え方を意識した部分がありました。内部処理的には、アクションを行う時には敵の前に置かれたお立ち台的な場所にワープするような流れです。ちょっとシステム的な話すぎるかもしれませんけど。
――いえいえ、開発の舞台裏という感じでおもしろいです。
中原:今回、ジョブごとの衣装のバリエーションが多くて、どれも気合が入っていたので、できるだけ大きく見せたかったんです。(手帳のページをめくりながら)あ、嫌な思い出のページを見つけてしまった……。
――どんな部分の開発秘話ですか?
中原:立体視とからめたメッセージウィンドウの見せ方に関する部分です……。最終的には、立体視で見た場合、キャラクターのいる場所とメッセージウィンドウの表示される場所は同じ位置になっているんですけど、初期のメッセージウィンドウは完全に固定だったんですよ。それを見た浅野さんから、「目が疲れるから嫌だ」みたいな指摘があったんですけど、これは自動で調整できないことなので、基本的に1つ1つを手作業で調整していくことになるので……本当にイバラの道でした(苦笑)。その分、立体視で見た時にすごく自然に見えるようになったので、演出としてはうまくいったと思いますけど。
――ちなみに、大きな部分のストーリーが決まるまではスムーズだったんですか? それとも、紆余曲折があったのでしょうか?
中原:大枠が決まるまでは紆余曲折はありましたが、その後は基本的にはスムーズですね。この資料を見ていただくとわかると思いますが、ほとんど完成版と流れが変わっていません。マルチエンディングにしたいという部分も、早い段階で浅野さんが提案していましたし。
――たしかに、国の名前や訪れる順番もほとんど変わっていませんね。
高橋:唯一、大きめな変更となったのは“動物の国”に関する部分です。初期プロットでは動物が暮らす国も検討していましたが、最終的には国ではなくユルヤナの森の仕立屋になりました。ちなみに、状態異常で“動物”を入れるかどうかも、かなり悩んだ末のボツネタです。入れたかったんですけどね……。
――動物への変身は、『光の4戦士』にもありましたね。あのゲームでは、動物に変身するとグラフィックや能力が変わるだけでなく、村や町で暮らしている動物と会話ができるようになる部分も楽しかったです。
中原:もちろん、動物に変身したままバトルができる形を考えていたので、サイズの違いをどうするのか調整するのが大変になりそうだと思っていました。まあ、まだストーリーができる前段階でのテスト的な制作だったので、杞憂に終わりましたけど。
――あ、資料の中に“闇の4戦士”という気になる言葉が……。
高橋:その用語自体はなくなりましたけど、アイデアや設定的な部分は後々に引き継がれていった形です。
中原:一番最初の時点での浅野さんのキーワードが“大穴”と“並行世界”で、その要素は最初から最後までぶれなかったです。よく、「シナリオが『STEINS;GATE(シュタインズゲート)』の林さん(5pb.に所属する林直孝さん)だから並行世界を扱うことになったのでしょうか?」という質問をいただくんですけど、そもそものアイデアは浅野さんから出たもので、そういったキーワードをもとに、林さんにストーリーを膨らませてもらいました。
(手帳のページをめくりながら)おっと、ここから先は危険な領域になってきたので、そろそろ話題を変えましょう。
――本当にいろいろな開発秘話が詰まったDの手帳ですね。そのままグッズとして発売したら、すごく売れそうな気がします。
中原:いやいや、本当にオフレコなネタも書かれているので、勘弁してください(苦笑)。
▲ゲーム中ではリングアベルが持っており、未来の出来事らしきことが書かれた予言書のような存在だったDの手帳。中原Dの手帳には、未来というより過去の開発秘話がたっぷりと詰まっていた。 |
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