2013年6月5日(水)
――バンダイナムコゲームスが販売している、映像ソフトとPS3用デジタルコンテンツを1枚のBlu-ray Discに収録した“Hybrid Disc”と言えば、ゲームが収録されるイメージが強かったのですが、今回はなぜ“完全版資料集”になったのですか?
小菅:確かに“Hybrid Disc”と言えば、アニメとゲームの組み合わせが浸透していますので、最初は“ちょっとしたゲーム要素で設定資料の収集を楽しみながら鑑賞する”ものを考えていました。でも『ねらわれた学園』でゲームと言われても、ユーザー的にも楽しみ方が想像しづらいだろうと。あとは単純に制作の時間的な問題もあって、今回は資料集に特化させようということになりました。
そう考えた時に、以前、SCEさんからPlayViewをプレゼンしていただいたことを、ふと思い出したんです。PlayViewを活用すれば新しいチャレンジとして、PS3ならではの資料集の見せ方を提示できるんじゃないかと思って、今回の形に至りました。
――完成したものを実際に操作してみて、正直なところいかがでしたか?
氷川:アニメの資料集はすでに世の中にたくさん出ていて自分も編集に携わっていますが、限界も感じています。紙の書籍の場合、コストの問題でページ数はいくつ、そのうちカラーは何ページ……という枠が最初にありきで、その範囲内ですべての構成を考える必要があります。でもPS3のコンテンツだと、まずすべての資料がフルカラーで収録できるのが当然ではあるんですが、驚きでした。
例えば『ねらわれた学園』の絵コンテは原稿をスキャンしたものなので、中村監督が光の演出にすごくこだわって、細かく照明の指定が描かれている青鉛筆のタッチを再現しています。普通の絵コンテ集はモノクロか2色印刷ですが、これは900ページ以上ある絵コンテがフルカラーで収録されている。もう、それだけでもお得です。
森貞:デジタルデータを扱っている僕らにしてみれば、カラーであることは当然のことなのですが、氷川さんのお話を聞いて、なるほどと思いましたね。
▲大量の美術設定なども、きちんとフルカラーで閲覧できる。フルカラーの資料を惜しみなく収録できるのも、紙の書籍ほどコストを気にせずにすむPlayViewの利点と言えるだろう。 |
氷川:カラー印刷だと、インクがモノクロの4倍必要ですからね。今回のPlayViewでは、劇場アニメ1本分の設定資料がすべてフルカラーで収録されていて、しかも快適な操作で見られる。キャラクター設定には、身体の各所にも細かな注意書きがあったりしますが、気になったらさっとズームして見ることができる操作感が気持ちいいんです。
▲原画に書き記された注意書きなどもしっかり収録。“ズーム機能”で資料の細部までしっかり見ることができる。こうした注意書きなどは、制作スタッフの作品に対する考え方などが伝わってくる部分でもあるので、見たいというファンも多いのでは? |
しかも従来の印刷メディアでは、拡大すれば網点やデジタル圧縮の荒れたブロックノイズなど見たくないものまで見えてしまって、気持ちが冷めてしまう瞬間があるんですが、そういうストレスなく資料に接近できるので驚きました。
森貞:それだけ拡大しても荒れたりしない高解像度の画像を、PS3の処理能力を使い、ユーザーの操作に応じてスムーズに拡大・縮小しています。
氷川:その操作感が、自分が想像していたものとはまったく違っていて、衝撃を受けたんですよ。普通はこれだけの大きさの画像を拡大したり縮小したりすると、ゴツ、ゴツ、ゴツって感じで変わっていくじゃないですか。そうじゃなくて本当にクイックに、スーッとなめらかに変わっていくんです。
――まるで、本物の資料に顔を近づけて見ているような感じですか?
氷川:いえ、それ以上ですね。本物の資料だって、顔を近づけたらコピー機のトナーが見えちゃいますから(笑)。そうじゃなくて、描かれている絵そのものが無限に拡大していくような感じ。まるで自分の一部になったみたいで、そんな感覚は今までに体験したことがなくて、驚きでした。
資料の示すイメージって、正解は実際に絵を描く人の頭の中にだけ存在するものだと思うんです。それがいきなり目の前に飛び出てくる感じで、まるで資料そのものが自分の脳ミソに直接つながっているかのような、とても新鮮な感覚を味わえました。
森貞:それだけスムーズに操作できるからこそ、どんどん近寄って見てみたくなるんだと思うんですよ。特にこの資料集は手描きのものが多いですから、鉛筆線の微妙なニュアンスだとか、拡大することでいろんな情報が見えてくる。すごく見応えがあると思います。
氷川:今回収録している総作画監督さんの修正原画は、まさにそうですね。ちょうど安彦良和さんの原画を紙の書籍として編集していて、鉛筆線を印刷でどこまで再現できるか苦労していたところなので、このPlayViewで原画をズームした時の、生々しいぐらいの鉛筆線のタッチ、質感に感激しました。
――特にこの『ねらわれた学園』の原画は、すごく魅力的なものが多いですよね。
氷川:この作品の原画で一番の見どころは、“柔らかさ”の表現ですね。髪の毛から、服から、身体のポーズから、表情から、すべて柔らかさが伝わってくる。アニメの作法で柔らかさというと、ディズニーに代表されるゴムみたいな柔らかさになることが多いんでが、これはそれとは違う、しなやかな柔らかさなんですよ。
――あえて言わせてもらいますけど、健康的なエロさにあふれてますよね。
氷川:ええ。“エロい”とか“萌え”って、記号的な表現、つまり属性で表現されることが多いんです。でもこの作品の場合は、キャラクター自身の肉体がしめす存在感なんですね。本当には存在しないはずなのに、そういうしなやかで柔らかい存在として、確かにここにいて、触れそうな感じがします。
もちろん、完成した映像を見てもそれは伝わってきますが、こうして鉛筆の線で描かれた原画を見ていると、人の手で描かれた1枚1枚に、鮮烈な青春のフェロモンが宿っているように感じます。アニメというものが、1コマ1コマの積み重ねによってできているという事実が、これを見ることで本当によくわかりますね。
▲こちらは、『ねらわれた学園』のティザーポスター。このポスターの設定画も資料集には収録されている。(※拡大率は素材によって変わります) |
→完全版資料集を読んで、もう1回アニメ本編を見てほしい!(3ページ目へ)
(C)眉村卓・講談社/ねらわれた学園製作委員会
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