2013年8月12日(月)
「そうだ、北海道へ行こう!」。まとまった休みに遊びたい名作ゲームをおすすめする……そんな企画趣旨を聞いて真っ先に思い浮かんだタイトルがPS用ADV『風雨来記』でした。“思い出よみがえりゲーム特集”という連載名にもバッチリマッチしていますしね。“よみがえり”とか特に。
▲12年が経過した今でも購入しやすいゲームアーカイブス版『風雨来記』を紹介! 手に入れられるなら、イベントの追加や声優が変更されているPS2版もオススメです。 |
『風雨来記』は2001年にFOG(フォグ)から発売されたプレイステーション用のアドベンチャーゲームです。一応、ギャルゲーに分類されるゲームではあるのですが、女の子が一切登場しない風景のみのパッケージデザインが非常に硬派に感じた思い出があります。裏面にはしっかりとヒロイン4人が描かれているので、裏返せば多少はわかるのですが、それでも当時の多くの人は「これ、どんなゲームなんだろう?」と店頭で頭に?マークを浮かべていたことでしょう。僕は『久遠の絆』のおかげで『風雨来記』にも注目していたので、迷いなくプレイできましたけど。
▲PS版『風雨来記』パッケージ表。 | ▲PS版『風雨来記』パッケージ裏。 |
▲PS2『風雨来記2』パッケージ。 | ▲PC『風雨来記3』パッケージ。 |
そんな要素もあってか、一部のユーザーには人気があって評価されているタイトルなのですが、一般に周知されているかと問われれば、おそらくNO。特徴的なシナリオ、年齢が高めな登場ヒロインの美しさ、心を揺さぶる音楽、挑戦的なシステムなど、“PS時代の名作!”と言っても過言ではないゲームだと思いますので、この機会に紹介+レビューしたいと思います! ぜひ、時間のある夏休みにゆったりとプレイしてほしい1本です。
▲本作の背景はすべて実写で表現されており、2Dイラストと実写が見事に融合されています。まるで現実世界にヒロインたちが現れたかのような溶け込み具合に、発売当時は本当に驚きました。 |
『風雨来記』は、夏の北海道を舞台とした旅ゲーです。主人公の相馬轍(そうま てつ)は、カメラを片手に1人で北海道をバイクで回り、紀行文をインターネットに掲載しながら、出版業界の大きなコンクールで入賞を目指すフリーライター。そんな彼が、北海道へと向かうフェリーでヒロインと出会うところから物語が始まります。
【『風雨来記』人物紹介】
▲斉藤 夏(さいとう なつ)18歳(左)と斉藤 冬(さいとう ふゆ)18歳(右)……フェリー上で出会う双子の姉妹。冬は主人公の紀行文のファンで、時折送られてくるメール通りに移動すれば、簡単にルートに入ることができます。序盤から個別ルートの伏線が張られているので、勘がいい人は序盤で気が付くかも。 |
▲相馬 轍(そうま てつ))20歳……本作の主人公。たくみな話術とカメラを武器に、旅先の女性にガンガン近づいていく男。『風雨来記』をプレイすると無性に旅に行きたくなりますが、彼と同じように女性と知り合えるかと言えば……ただイケただイケ。 |
本作の特徴は、主人公を含めて登場人物の年齢が比較的高いことです。最年少でも、夏と冬の18歳。昨今では学園ものという物量に押され気味で少なくなりましたが、昔は平均年齢が高いギャルゲーが多かったですよね。そちらのほうが、濃い恋愛劇を描く時に深みが増し、現実寄りの作品ではリアリティが増すと思いますので、個人的には平均年齢が高いほうが好みです。あと、どの娘も現実では出会えない清純さを持っているところがポイント!
▲平均年齢が高いので、アダルティなシーンもあります。そこも魅力! ……その分、あとで受けるダメージが大きいのですが。 |
もう1つの特徴は、結ばれたヒロインとエンディングで必ず別れる点。主人公は北海道へ仕事で訪れていますし、ヒロインたちにはそれぞれの生活があり、そして個別の悩みを抱えています。旅先で何度も出会って仲を深めていき、紀行文での写真モデルを経て恋人関係へと発展、十分仲がよくなった後に問題が発生して別れる……。旅ゲーの名にふさわしく、旅での“出会いと別れ”、“切なさ”が根底に込められた作品に仕上がっています。
▲序盤~中盤にかけてのいちゃラブから一転、確実に滅びへと向かう別れの美学が込められた秀作です。特に、轍と玉恵がささいな出来事ですれ違うリアルな男女の恋愛劇が好き。男の無神経さや、女のしれっと地雷をブっ込んで来た時のあの感覚を味わえます(笑)。 |
とはいえ、必ず別れるからといって“鬱”な部分が売りかと言われれば少し違います。作中に「終わりはゼロじゃない」というような印象的なセリフがあるのですが、『風雨来記』は別れの痛みと哀愁を感じられつつも、最後には不思議と爽やかな涙を流せるような作品です。それは、本作が“別れによって何かを得て、自分と向き合う轍の成長物語”だからだと思います。これはエンディングを迎え、軽快なエンディングテーマを聴き、そして轍の編集後記を読んだ時に、強く実感できることでしょう。
『久遠の絆』では、戦闘システムでプレイヤーに毎回“五芒星”を描かせるという突飛なシステムを導入していたFOG。約3年後に発売された『風雨来記』にも、2つの特徴的なシステムが存在していました。
その1つが“ツーリングモード”。これは、旅の臨場感を味わうために、まるで本当にバイクで北海道を旅しているかのように観光地と観光地の区間を移動できるモードです。ツーリングモードに入ると、バイクのエンジン音とともに最大3つの分かれ道が画面上に現れます。メニューで開くことができる地図を見ながら、自分が行きたい方角のサムネイルを選択し、目的の観光地へと移動していくのがこのモード。わかりやすく言うと、360度を見渡せないGoogle ストリートビューでしょうか。
▲「俺、今旅してる!」と強く感じられて楽しいツーリングモード。ただし、オート移動(イベントではアリ)がないため、周回プレイにはやさしくありません。そんな声を受けてか、沖縄が舞台の『2』では目的地選択型の移動方法に変わったのですが、それはそれで寂しかったことを覚えています(わがまま)。 |
▲地図上では表示されていなくても、脇道をそれてみると新たな観光地を見つけられることも! “どこを訪れてもいい自由度の高さ”が本作の魅力の1つです。 |
実写を使っての移動は、ツーリングモードだけではなく訪れた観光地でも発生します。こちらはシンプルに、矢印で移動できる地点が表現されていて、その矢印の方向を選択すると実写の背景が切り替わっていく、というものです。訪れることできる観光地は約80カ所収録されていて、そこでは固有のイベントが発生したり、紀行文に必要な写真を自由に撮影できたりします。
▲観光地で発生するイベントは、ランダムで発生するものや複数回訪れないと発生しないものがあります。『風雨来記』にはやり込み要素も盛り込まれているというわけです。 |
個人的に大好きなのが、2つ目の特徴的なシステム“インターネットモード”です。主人公の轍は、紀行文で賞を取るために観光地の取材記事を毎日アップロードしなければなりません(1週間連続でサボるとゲームオーバー)。なので、1日観光地を回った後は、メニューの“キャンプ”を選択してインターネットモードに入ることが必要となります。この時「ピーーーヒョロロロロ、ギギギギー」と懐かしのダイアルアップ音が流れるのがまた、ノスタルジックでお盆休みなどに最適ではないでしょうか!(企画趣旨を今思い出した)
▲キャンプ時に轍が1日を振り返ったり、過去を思い出す描写があったり、同じキャンプ地に泊まっているライダーとの交流があったりと、昼の観光地巡りとはまた違った楽しさが、キャンプでは味わえます。 |
インターネットモードでは、轍に届いた読者からのメール(まれにヒロインから)を読んだり、自分がアップロードした記事についたコメントを読めたり、主人公の連載記事“風雨来記”の順位を見たり、記事を作成してアップロードしたりできます。
このアップロード作業と読者の反応が超楽しい! 実際に編集者になった今でも楽しいです! むしろ仕事に関係ない分、こっちのほうが楽しいかもしれません(笑)。記事を作成するといっても、記事をイチから作るのではありません。訪れた観光地(訪れた回数でも変化)ごとに決まっている“記事のネタ”を選択し、選択肢で記事の方向性を決め、道中で撮影した写真2点を張り付けるという非常に手軽な仕様です。
▲紀行文は、クリアデータをロードすると最初から最後までまとめて読むことができます。轍の旅行記であると同時に、プレイヤーの旅行記でもあるので、「こんなこともあったなー」とか「この記事は失敗したなー」とか、旅を終えた後の一抹の寂しさと、なつかしさを同時に味わうことができるのです。 |
ネタによって順位が大きく変動したり、「こんな記事つまんねーよ」と読者からのメッセージにショックを受けたり、高評価を得られた時にうれしかったり、ゲーム内の紀行文ではあるのですが、細かいレスポンスに一喜一憂している自分がいます。そうなると、次第にヒロインの写真の構図を考えたり、「次はあそこのアレをネタにしてみよう」と記事ネタにこだわりが生まれて、自分が本当に轍になって紀行文を描いているような感覚に陥り、より物語に没入していけるというわけです。
▲女の子と温泉に入った記事などは順位が上がりやすいです。これは、現実でもゲームでも変わりはありませんね。 |
この記事で最後に取り上げる魅力にして、本作最大の魅力かもしれない“1人旅ルート”。本作では、ヒロインとまったく出会わなくても独自のルートが展開し、満足のいくエンディングへと到達することができます。一説によると、ヒロインルートよりも1人旅ルートのほうが好評だとか……。確かに、独特な味のあるルートなので僕も好きです。
▲ヒロインとのイベントが発生しない分、現地の人やライダーとの交流が増し増しに。“これぞ1人旅!”という感覚が味わえるこのルートには、ヒロインシナリオとはまったく別のおもしろさがあります。 |
1人旅ルートでは、紀行文で1位を取ることをメインに考えつつ、ヒロインルートでは詳細まで明かされない轍の過去と向き合うこととなります。両親を失い、親友と呼べる“アイツ”まで失った天涯孤独の主人公。バイクの“前輪”を失ってしまった状態の轍は、1人旅を通じて何を見つけるのか? そして、コンクールに入賞することができるのか? それは、ぜひプレイして確かめてみてください! 12年が経過していますが、今なお色あせない感動が待っていると思います。
最後にひと言。『風雨来記2』をPS2アーカイブスで配信してください! FOGさんお願いします!!
▲紀行文で1位を狙うことはもちろん、ぜひ、伝説の女性ライダー・女王蜂との連続イベントをすべて見てください。ちなみに、1人旅ルート途中で隠しヒロインのルートに入ることも可能です。“こいこい”楽しいよ。 |
●ごえモン プロフィール
ADVや美少女ゲームをこよなく愛する電撃オンラインの編集。『久遠の絆』が大好きで、それがきっかけで『風雨来記』をプレイ、ドハマリする。PS2『風雨来記2』、PS2リメイク版『風雨来記』、PC『風雨来記3』もプレイ済み。樹のような女性と出会えないものかと未だに思っている。
(C)2001,2011 FOG
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