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2013年8月2日(金)

【レビュー&攻略】『トガビトノセンリツ』必ず誰かが死ぬデスゲームに放り込まれた少年たちは極限状態で何を見る?(電撃おすすめアプリ 第77回)

文:石田賀津男

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■誰も死なないハッピーエンドは存在するのか?

 ゲームの設定を知ったプレイヤーは、仲のよかった面々が心の裏を探り合い、ドロドロな思考から殺し合いに陥っていく物語を想像したはずです。しかし本作はそうなりません。和馬はみことを殺さないわけですから、プリズナーゲームでは“看守”としての勝ち目がありません。よって和馬は、プリズナーゲームそのものと戦うことになります。

 和馬はプリズナーゲームをしようという向きになっている周囲を止め、あくまで別の方法で全員助かろうと語り掛けます。他の面々も概ね同意し、大きな争いもなく団結して打開策を探り始めます。

 物語もずっとシリアスというわけではありません。元々が天才とは紙一重の奇人変人の集まりだけに、自分の世界に突っ走っていく言動のキャラクターも多く、会話ではそこかしこにギャグが挟み込まれます。その会話のテンポ自体も楽しいですし、死が間近に迫っている状況との緩急が、より物語のコントラストを強くしています。

『トガビトノセンリツ』 『トガビトノセンリツ』
▲会話はバカ話の多い軽いノリ。キャラクターも個性的で、こんな事件に巻き込まれなくとも十分おもしろそうな連中です。

 物語の結末がどうなるのかは当然お話しできませんが、いくつか断片的なことはお伝えできます。まず登場人物たちは、ただゲームのことだけを考えているわけではありません。それまで他人に言えなかった思い、過去のトラウマなどが、切羽詰まった状況で噴出し、それが物語にも大きな影響を与えてきます。この手の作品で見どころとなる、極限状態における人間の心理描写、登場人物たちが見せる意外な一面は、本作においても注目点となります。

 次に、プリズナーゲームのルールについて。ゲームにおける敗北は死を意味するというルールでしたが、「死はゲームにおける敗北を意味する」という逆もまた肯定しています。そしてもう1つ、ルールには「“看守”の処刑と“殺人鬼”の殺人以外の傷害行為」を禁ずる項目がありません。これの意味するところは何でしょうか?

 そしてタイトルにある“トガビトノセンリツ”とは。作中、あるメロディ(旋律)の存在が時折浮かび上がってきます。それがいったい何を意味するものなのか。これが物語の重要なテーマになっています。

『トガビトノセンリツ』 『トガビトノセンリツ』
▲和馬にも、他の面々にも、過去に背負ったものがあります。それが何なのかを知ることが、物語の謎を解いていく鍵になります。

 先にお話しした通り、本作はマルチエンディングではありません。ただし、クリア後に各キャラクターの考えが見えるようになる隠しモードが用意されています。ひと通りプレイしただけではわからない事件の全体像が見えるのに加え、エンディング後のエピローグも追加されるので、本作は2周してクリアだと覚えておいてください。

 10人の思考が交錯し、真実が見えるようで見えないのが本作のおもしろさ。月並みな表現で言えば、一度始めたら最後まで見ないと気が済まない作品になっています。和馬ははたしてみんなを助けられるのか、あるいは誰かを死なせてしまうのか。先行きにハラハラしつつも、個性的な人物たちに笑いながら、じっくり読み進めてみてください。


●石田賀津男’s profile

石田賀津男

 先の読めない展開で思い出したのが15周年コラボ企画。複数の作家さんがリレー形式で書いていて、話が繋がっているのにテイストが全然違うというのがユニーク。それまで読んだことがなかった作家さんの雰囲気もつかめるので、新しい作品に手を出したいなと思っている方にはカタログ的な意味でもオススメです。もう5年前の本ですが探せばまだ売っているようです。(Twitter:@wis_Arle/ブログ:ougi.net


(C)2011-2012 KEMCO

データ

▼『トガビトノセンリツ』
■メーカー:コトブキソリューション(KEMCO)
■対応機種:iOS/Android
■ジャンル:ADV
■配信日:配信中
■価格:無料(アプリ内課金)

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