2013年8月23日(金)
8月21日~23日に神奈川・パシフィコ横浜で開催されている開発者向けのカンファレンス“CEDEC 2013”。ここでは会期中に行われたセッションの1つ、“アイドルキャラクター徹底支援! ユーザーのハートをキャッチするキャラクターソングデザイン”について紹介する。
セッションに登壇したのはバンダイナムコスタジオ ET開発本部サウンド部 部長の大久保博さん、同部 サウンド2課 サウンドデザイナー/コンポーザーの内田哲也さん、佐藤貴文さん。3人とも同社の『アイドルマスター』シリーズの数々の楽曲を手がけている、まさにキャラソンのオーソリティとも言える。
▲バンダイナムコスタジオ ET開発本部サウンド部 部長の大久保博さん | ▲バンダイナムコスタジオ ET開発本部サウンド部 サウンド2課 サウンドデザイナー/コンポーザーの内田哲也さん | ▲バンダイナムコスタジオ ET開発本部サウンド部 サウンド2課 サウンドデザイナー/コンポーザーの佐藤貴文さん |
大久保さんは、古くは『アイドルマスター』に収録されている『My Best Friend』から、最近では『アイドルマスター シンデレラガールズ』に登場するアイドル・十時愛梨のキャラクターソング『アップルパイ・プリンセス』を手がけている。
内田さんは『アイドルマスター シンデレラガールズ』のテーマソング『お願い!シンデレラ』や、萩原雪歩のキャラクターソング『Kosmos, Cosmos』などを手がけている。
佐藤さんは『アイドルマスター シンデレラガールズ』のキャラクター・双葉杏のキャラクターソング『あんずのうた』で同社でのキャラクターソング制作を始め、『アイドルマスター シンデレラガールズ』や『アイドルマスターミリオンライブ!』での楽曲の制作を中心に行っている。
▲キャラクターソングはキャラクタービジネスという意識が必要。キャラクターを含めたIPのイメージアップや補強に役立つ。 | ▲『アイドルマスター』というコンテンツにとって、音楽のコンテンツは当然だが相性がよく、ライブなどのイベントにも使われる。 | ▲『アイドルマスター』は様々なシリーズに向けて多数の音楽CDが発売されている。 |
『アイドルマスター シンデレラガールズ』のテーマソングとして位置づけられる『お願い!シンデレラ』は、楽曲の制作にあたってIPディレクターからの要望として「キャッチーさ」を求められたという。
内田さんはここで「キャッチー」という言葉が示すものについて、“ライブで皆が一体となって盛り上がれるような曲”という解にたどり着いたという。そこで内田さんがとった手法とは、ライブで確実に行われるファンたちのコール(掛け声、通称PPPH)と呼ばれるものを入れやすくすることだった。
楽曲の制作の際に、実際にコールを内部で収録したものを用意して、メロディーに合わせてコールを流していく。コールを制作時から意識することで、一体感を作り上げることに成功したとのこと。
▲制作ソフト上で輝く“参考用コール”という文字。 |
その他の音楽のデザインとして、複数の人で歌われる曲になるので、無理のない音域に留めるために音の幅を基本的に1オクターブ内におさめているという。
次に登場したのは双葉杏のキャラクターソング『あんずのうた』を制作した佐藤貴文さん。IPディレクターからの要望は強烈で、“働きたくないアイドル”で“電波曲”、そして濃いキャラクター性を出すというもの。
そこで佐藤さんがとった手法は、ゲーム屋としてキャラクターと真正面から向き合って、企画書から楽曲を作り上げるということだった。ゲームの企画書でよく見るようなキーイメージ(ビジュアル)をまず作り、そのイメージに沿って輪郭を決めていく。
続いて、楽曲内に盛り込むネタをブレーンストーミングしながら出していく。こうしてまず曲のアウトラインを決め、ネタとなる要素を散りばめながら、イメージに合うように修正していくという、およそ曲作りらしからぬ手法で制作された。なお、この時点ではまだ設計図ができた段階であり、実際の曲制作には入っていなかったとのこと。
曲中のネタとしては“既存曲のフレーズをパロディとして使う”、“コール&レスポンス”、“歌詞の縦読み(途中から投げやり)”、“夢オチ”などいくつもが用意され、それらがめまぐるしく切り替わりながら曲を構成している。
実際のライブでも『あんずのうた』が歌われているが、まさしくキーイメージのような光景が広がっていたようで、キャラクターソングとして成功をおさめたといえる。
ラストは、十時愛梨のキャラクターソング『アップルパイ・プリンセス』を手がけた大久保博さん。IPディレクターからは、キャラクターイメージとして“豊満なボディ”ということが挙げられた。しかし、気をつけなければいけないのは、だからといってそれを直接的に表現してしまうのは『アイドルマスター』という作品にそぐわないということ。
この十時愛梨というキャラクターは、個人的にはストレートな萌え要素がつまった理解しやすいキャラクターだったという大久保さん。楽曲には萌えと色気、かわいらしさといった要素に、総選挙で1位だったというプリンセス要素を加えた楽曲を制作するのが目標だったとのこと。
大久保さんは、これらの印象からたくさんのキーワードを集め、そこから楽曲をデザインしていく。また、前述のように直接的な表現をすることはできないため、楽曲を聴いたファンに想像および妄想をさせるような歌詞デザインも心がけていったという。
音楽のデザインは、女の子らしいガールズポップをテーマに、『キラメキラリ』的な裏打ちノリのリズムを混ぜることで、『アイドルマスター』シリーズとしてのイメージを踏襲させる。また、ピチカート奏法、チェンバロやグロッケンといった楽器を使うことでプリンセスのイメージを組み立てていく。
その上で、豊満なボディを連想させるためにティンパニの“ボイ~ン”という音やシモンズ(シンセ)ドラムも随所に盛り込む。さらに“十時”という苗字が“じゅうじ”とも読めるため、時報音を入れて言葉とリンクさせているという。
このように『アップルパイ・プリンセス』はさまざまな要素が計算されて盛り込まれている。これについて実際に歌詞の担当者ともに狙うべきポイントを共有していたため、妄想できるような意味深な言葉が作詞担当者からもたくさん出てきたとのこと。これによりファンからも曲自体についての感想の他、仕掛けに対する反応も多く寄せられ、“喜んでもらえた”と考えているという。
最後に大久保さんは、キャラクターソングというものについて、声優さんが役として歌っていれば成り立つものではなく、もともとのコンテンツと向き合って、要素をきっちりと盛り込む必要があると語る。キャラクターを音楽で支援するというのがそもそもの目的である。
楽曲というものは、それ自身のみで成り立つアートのように捉えられることが多いが、キャラクターソングは前述のようにキャラクターに沿って成立しているものである。キャラクターをたてるために、演出するために、情報を集め、イメージをディレクターと詰めて作っていくものだとして、セッションを締めくくった。
(C)窪岡俊之 (C)NBGI