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2013年8月23日(金)

“『パズドラ』の親”ガンホー森下氏が語るヒットの方程式――「そんなものは“ない”」「自分たちが作りたいものを作る」【CEDEC 2013】

文:イトヤン

 パシフィコ横浜・会議センターで、8月21日~23日にかけて、ゲーム技術者向けカンファレンス“CEDEC 2013”が開催されている。

 第2日目となる22日には、ガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長CEO 兼企画開発部門統括エグゼクティブプロデューサーの森下一喜氏による基調講演“開発賛歌”が行われた。

『パズル&ドラゴンズ』 『パズル&ドラゴンズ』
▲ガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長CEOの森下一喜さん。ちなみに、森下氏が着ている赤いTシャツは、8月31日に開催される浅草・サンバカーニバルに、ガンホー全社で参加するためのものだという。

 ガンホーといえば、現在はスマートフォン用ゲーム『パズル&ドラゴンズ(パズドラ)』の大ヒットで、ゲーム業界のみならず、広く一般からも大きな注目を集めているゲームメーカーだ。そのため森下氏も、「(この講演では)おそらく、“ヒットの方程式”といったものを聞きたいと思われているんでしょうけど」と切り出しつつ、そんなものは「“やっぱ、ない”です」と会場を笑わせた。

 そして「最近、TVドラマがおもしろくて」ということで、今年のヒットドラマの名セリフを引用しながら、自身のゲーム開発に関する哲学を、ユーモラスに語ってくれた。

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▲森下氏の講演は、今年のヒットドラマのセリフをもじった言葉でゲーム開発の哲学を語るという、ユーモアあふれるものだった。

■第一話「企画」

 “ゲーム開発はドラマである”ということで、森下氏は開発の各段階をドラマのエピソードになぞらえて語ってくれた。まず最初の段階は“企画”だ。

 企画でまず最初に重視されるのは、そのゲームの遊びの核となる部分が“直感的なおもしろさ”を持っているかどうかだ。こうした企画を生むために、森下氏は“天邪鬼(あまのじゃく)”という表現を使って、常識にとらわれない非常識な発想の重要さを語った。

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▲直感的なおもしろさを生むために必要な、周囲に流されない柔軟な発想を、森下氏はあえて“天邪鬼”と呼んでいた。

 森下氏としては“自分たちが本当に作りたいものを作る”ということを、何よりも重視しているようだ。この講演でもそのことを、何度も繰り返し語っている。特に最近は『パズドラ』が大ヒットしたために“『パズドラ』の場合はこうだった”といった具合に、成功体験による思い込みに縛られてしまうことが、森下氏自身にもあるという。そうした思い込みを打ち破るために、森下氏は“破壊と創造”という言葉を掲げて、既存のフォーマットを打ち壊すような、革新的なゲームデザインの重要性を訴えた。

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▲森下氏は、あえて自社のヒット作である『パズドラ』を使って語っていたが、成功体験による思い込みは、どんなタイトルでもあり得ることだ。

 またスマートフォン向けゲームの世界では最近、『パズドラ』のようにスマートフォン本体の“ネイティブ”アプリとしてゲームが動作する形と、Web“ブラウザ”を介してゲームをプレイする形の、どちらが将来的に有望かという議論が盛んになっている。しかし森下氏は、「内容次第で最適な手法を選べばいい」と、その議論を一蹴する。ここでも重視されているのは“自分たちが作りたいものを作る”という考え方だ。

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▲スマートフォン向けゲームの世界では比較的ホットな話題だけに、このスライドが映し出されると、会場からは笑いが起きていた。

 このように、自由な発想の企画を重視する森下氏にとっては、完成にまで至らなかったり、企画書段階でボツになったりした企画も全て、“宝の山”だという。これまで森下氏の元に提出された企画書は、紙一枚に至るまで全て、大事に保管されているそうだ。

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▲ボツになった企画に対する愛情も、ゲームのおもしろさを優先する森下氏ならではのこだわりと言えるだろう。

■第二話「開発」

 企画の段階では、遊びの核となる部分が“直感的なおもしろさ”を持っているかどうかが重視されたが、開発の段階では、その“遊びの核となる部分”を継続的にプレイできるようなエコシステムを作り上げることが必要だと、森下氏は語った。開発の途中ではつい、ゲームにあれこれと新たな要素を付け加えたくなるそうだが、森下氏はそれも構わないとしつつ、そうした追加要素がゲーム全体にどう影響するのか、マクロな視点で常にチェックすることが、一番重要だという。

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▲“遊びの核”を継続的にプレイできるようなエコシステムを作り上げるには、修練度と偶発性のバランスが重要だという。

 また、ゲーム開発は集団作業である以上、現在作っているゲームの最終形がどうなるかというイメージを、チームの全員で共有することが重要だという。『パズドラ』のプロデューサーである山本大介さんは、完成したゲームのイメージを頭の中で再生できる人物であるため、森下氏としてもお互いに意思疎通がしやすかったそうだ。

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▲ゲーム制作においては、ゲームの最終形を模式化したプロトタイプのソフトを作ることがあるが、これはチーム全員でイメージを共有するのに大いに役立つそうだ。

■第三話「運営」

 オンライン要素のあるゲームでは、いったんゲームが完成しても、そこがゴールではない。現在のゲームでは、“運営”を開始するサービスインこそが、本当の意味でのスタートだと言えるだろう。

 ここで森下氏が強調したのは、コンテンツを制作する開発スタッフと、日々のサービスを担当する運営スタッフが一体化することの重要性だ。森下氏によると、ガンホーではかつてMMO RPGなどの運営のみを受け持ち、開発の部分を自社でできなかったことが、極めて辛い体験だったという。そのため、開発と運営が一体化できる環境をできるだけ自分たちで作っていくことが、何よりも重要だと語った。

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▲オンラインゲームの運営においては総ダウンロード数ではなく、アクティブユーザーの数が最も重要だという。また運営の際には山脈が連なるように、盛り上がりを継続させることが大事だそうだ。

 また、オンラインゲームの運営にはトラブルがつきものだが、このトラブルに対して適切に対処することで、逆にチャンスへと変えることもできるという。森下氏はここで、トラブル対処の際の心構えとして「電車に閉じ込められた時のことを想定しなさい」と語った。電車に閉じ込められた乗客は、情報がないことにイライラしてしまう。それと同じように、オンラインゲームでトラブルが発生した際は、たとえ復旧のメドが立っていない段階でも、こまめに素早くアナウンスし続けることが重要だという。

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▲トラブルの対処においては、判断を迷った時には自分が正しいと思うことをやるのが大事だという。

■第四話「経験」 そして「まとめ」

 ガンホーのこれまでの歩みを「ほぼ失敗の連続」と語る森下氏だが、そうした多くの失敗と、ほんの少しの成功によって磨かれる“勘”が重要だという。「これについては説明できないし、説明しても理解されない」とした上で、「失敗から逃げずに立ち向かうことが大事」と語った。

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▲森下氏は経験の重要さを説いた上で、成功した時は“運が良かった”と思うことにしていると語っていた。

 そうした姿勢は、ゲーム作りの現場でも大事になってくる。森下氏は大河ドラマ「八重の桜」のセリフをもじって“思いっきり、創ってみなんしょ。自分が動けば、皆も一緒に動き出しやす”と、ゲーム作りから学ぶ経験の重要性を語って、CEDECの会場に集まったゲーム開発者のみなさんへエールを送った。

 そして最後は、今や流行語になりつつある“10倍返し”をもじって、“つまらなかったら創り直す! ちゃぶ台返しだ!”と掲げてみせた。森下氏は「これがいちばん言いたかったんですよ」と笑っていたが、この講演で繰り返し語られていた“自分たちがおもしろいと思うゲームを妥協せずに作る”という、森下氏のゲーム開発哲学が、この言葉に集約されていると言えるだろう。

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