2013年8月24日(土)
ここでセッションのサブタイトルにある“バンナムで8年間行われたリーダー育成研修”についての紹介が行われた。この研修は『SEVEN~モールモースの騎兵隊』や『ヴィーナス&ブレイブス ~魔女と女神と滅びの予言~』などを手がけた川口忠彦さんが提唱した研修方法である。
この研修は2005年から2012年までの8年間で行われ、1クラス4人という少人数で、1年間というスパンで行われるもの。カリキュラムは川口さんのオリジナルで、クリエイターに足りない要素を習得したり、自らの弱点に気づいて強化しやすくしたりするためのものとなる。現在では川口さんがバンダイナムコスタジオを退社されたために行われてはいないとのこと。
ではなぜこの研修を行うようになったのか。それは川口さん自身がゲーム作りの現場から覚えた危機感のようなものだという。クリエイター1人1人のスキルは高いものの、チームとして動くとなると話はまた別で、チームとしての仕事の進め方や取り組み方について“間違っている”と感じることが多かったようだ。
そこで川口さんは組織の形を変えたり、自分のやり方を見て学んでもらおうとしたそうだが、効果としては薄かったようだ。集団として、その中で課題を達成しようとする力を持っている人はとても少ないと感じたとのこと。別のアプローチとして、社外の研修を受けることもあったようだが、知識を得ただけで満足してしまい、変化としては起こらなかったという。そこで、自分でクリエイター向けの研修を作ることにした。
▲受講者は自らの意志で、自分を変えたいと思って受講していた。 |
▲研修を受けたのは8年間で約50人。研修後はリーダーとなって活躍している人が多数いるという。 |
ここからは問題解決における考え方などについて紹介する。仕事をしていく上で問題が起こるのはつきもの。まずは3つの問題例とよくある解決策について提示された。
1つめは起こった問題について、どうすればいいか考えがまとまらない場合。よくある解決案として考えられるのは、同様の問題を以前に経験した人に聞いて、その時の解決方法を教えてもらうというもの。
2つめは会議で進行役を任されたが、会議での意見がまとめられないというもの。この際に考えられる解決案は、進行役をとにかくたくさん経験して上手になろう、というものだった。
3つめは他の人に指示を与えたけど、なかなか思い通りのものがあがってこないというもの。これについても、経験を積んで上手な指示の出し方を学ぼうというもの。
これら3つの解決案に共通しているのは“それまでに積んできた経験”だ。しかし、経験というのは成功例や失敗例をもとにした体験の蓄積である。体験によって解決策を導きだすというのは、まるっきり同じような問題の場合ではいいが、表面上は似ていても実は別の問題だった場合に正しい解決策を導き出せない。
問題例1の場合では、まず起こっている問題に対して、何が起きているのかという情報を分解し、その上で情報を整理する。こうすることによって起こっている状況を的確に捉え、解決案を導き出すことができる。
問題例2の場合では、会議でのみんなの意見をまとめる前に、議題に対しての軸を決めることが大事だという。その上で軸に対してそれぞれの意見を判断していくということが必要となる。
問題例3の場合では、指示に対する結果に相違がある時、考えを相手に的確に伝えることが重要となる。的確に伝えるには“自分がどういう風に考えやすいかを知る”、“相手の思考をつかむ”、“相手が共感しやすい伝え方を選ぶ”ことが必要となる。
問題例3で自分がどう考えやすいのか、思考グセをつかむ必要があると言っているが、思考グセがもたらす影響とはなんだろうか。河野さんは、無意識で起こる思考を自分で認識することで、情報の分析や判断といったものをきっちりと行えるようになると語る。
▲この中のどれかをよく言うかによって思考グセの傾向がわかる。 |
河野さんはこれまでの内容をふまえて、クリエイターに必要な能力とは専門能力の他に、仕事を進める上で重要な能力“基本能力”であると語った。ここで言う基本能力とは“状況を的確に捉える力”、“物事を判断する力”、“考えを的確に伝える力”といったことだ。しかし、これらは仕事の上では当たり前すぎて、深く考えることがないのも事実だという。
クリエイターに基本能力が必要なのは、前述したようにゲーム作りが変化してきているからである。仕事を始めて中堅どころになってくると、プロジェクトを任されるようにもなってくる。自身の専門能力を活かすために働いていた時期から、ゲームを作るために働く時期へと移行するようになる。つまり、専門職ひとすじでやってきていると、会社から求められる働き方が変わっているということに気づきにくいのである。
▲チームを任せてもらうには専門能力だけでは力不足という例。 |
▲専門能力はもちろん必要だが、基本能力に基づく考え方を知ることも必要。 |