2013年8月26日(月)
1990年代に入ると、日本アニメはフランスの政治家やPTAから批判を浴びるようになる。暴力シーンや性的な場面が多すぎる、というのがその理由だ。
そのため『ドラゴンボール』や『北斗の拳』ではアクションシーンがカットされた他、『シティーハンター』の“もっこり”もNGだったという。ゴルジュ氏によると、『北斗の拳』は場面のカットに加えて、フランス語のセリフも日本版とはまったく異なるものになってしまい、ギャグアニメとして扱われていたそうだ。
また当時、フランスでは自国の文化を保護するため、TVとラジオで自国の作品を一定の割合で放送するよう義務づける法律が制定された。その影響もあり、1997年に“クリュブ・ドロテ”が終了するなど、日本アニメの放送は激減していった。
しかしゴルジュ氏によると、ここでいったん日本アニメの放送が激減したことが、フランスでの日本コンテンツの人気における、ターニングポイントになったという。
『ゴールドラック』や“クリュブ・ドロテ”で育った世代は、1990年代後半にはすでに、行動力のある若者になっていた。一部のファンたちは日本へやってきて、フランスで観た日本アニメの多くはマンガが原作であることを“発見”した。彼らによって日本のマンガがフランスに持ち込まれると、今度はフランスの出版社に、日本のマンガをフランス語に翻訳して出版してほしいという声が寄せられた。こうして、日本マンガのフランスでの翻訳出版が実現するようになった。
ゴルジュ氏によると、日本アニメの放映がなくなったことによって、フラストレーションが溜まった若者たちの間で、強固なファン・コミュニティが誕生したのだという。
1990年代後半から2000年代前半にかけて誕生した、このようなフランスの“オタク”たちを代表する存在が、日本の戦隊シリーズをパロディ化したアマチュアフィルム作品『銃士戦隊フランスファイブ』を制作したチームだ。
彼らの活動は、ちょうどインターネットの動画サイトが普及する時期と重なったこともあり、日本のアニメ・特撮ファンの間でも大きな話題となった。完成した作品は現在でも、公式サイトやyoutubeなどで、日本語字幕付きで見ることができる。串田アキラ氏がオリジナル主題歌を唄うといった徹底した再現ぶりと、日本人の目から見るとあまりに豪華なロケーションを、ぜひ堪能してほしい。
ちなみに『フランスファイブ』のレッド役は、フェレロ氏が働くケーブルTVチャンネル“NO LIFE”の社長だそうだ(笑)。他にも『フランスファイブ』のスタッフ・キャストは現在、フランスのマンガ出版業界や、ゲーム業界などで大いに活躍しているという。このあたりは、ガイナックスの前身であるダイコンフィルムが、『愛國戰隊大日本』などのアマチュアフィルムを制作していた事実と、シンクロする出来事と言えるだろう。
このように、1990年代後半から盛んになった、フランスのアニメファンの活動の中から誕生したのが、“ジャパンエキスポ”と呼ばれるイベントだ。
フェレロ氏によると、1999年に開催された第1回のジャパンエキスポは、フランスのアニメファンたちによる同人誌イベントだったという。当時は学校の校庭や駐車場で開催されており、来場者も3000人ほどだったそうだ。ところが、2013年7月にパリで開催された第14回ジャパンエキスポは、4日間で約23万人が来場した、ヨーロッパ最大の日本文化イベントにまで成長している。
その内容も現在では、日本のアニメやマンガ、ゲームが大々的に紹介されているのはもちろんだが、それだけではなく、ももいろクローバーZやきゃりーぱみゅぱみゅといったアイドル歌手のライブ、書道や弓道など伝統文化の紹介、日本の観光庁や地方自治体による観光PRと、まさに日本文化の博覧会といった感じになっている。ゴルジュ氏によると、会場の雰囲気は「コミケよりも東京ゲームショウに近い」とのこと。
またフェレロ氏によると、フランスの地方都市でも、こうしたアニメ・マンガを中心とした日本フェスティバルが、毎月のように開催されているという。
このように、TVアニメから始まった日本文化への関心は、現在ではすっかりフランスに定着している。特に和食ブームはかなりのもので、フランスには1600店以上もの寿司店があるそうだ。ただし、板前さんの9割以上は日本以外のアジア人のため、味はイマイチだとか。
また近年は不景気を反映してか、日本風のお弁当に関心が集まっているそうで、フランス語でも“ベントー”で通じるという。
→フランスのゲーマー6400人が語る、好きな日本のアニメやマンガとは!?
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