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2013年8月26日(月)

フランス人ジャーナリストから日本のゲームクリエイターへの支援――想像力にリミットをかけず、日本人らしいゲームを【CEDEC 2013】

文:イトヤン

■フランスのゲーマーが最も好きなのは、なんとRPG!

・一番好きなゲームのジャンルは?

“日本のゲームでもっと遊びたい!”

 日本のゲームファンにとって、この質問に対する回答は、おそらく最も意外なものだろう。フランス人ゲーマーたちの最も好きなジャンルは、アクションゲームやFPSではなく、RPGだというのだ! 

 この回答の背景にある歴史的事実を、ゴルジュ氏が解説してくれた。じつはファミコンやスーパファミコンの時代、日本製のRPGはフランスで発売されることがなかったという。『ゼルダの伝説』シリーズですら、英語のアメリカ版で発売されていたそうだ。どうやら、RPGは文字が多いために翻訳が困難な上、ヨーロッパでは売れないと勝手に判断されていたらしい。

 ところが1997年、プレイステーションでフランス語版の『ファイナルファンタジーVII』が発売された。これがフランス人にとって初のJRPG体験となったわけだ。フランスのゲーマーたちは、そのビジュアル表現やドラマチックなストーリーに、大きな衝撃を受けたという。『FFVII』の登場以降、フランスでは日本のRPG、特に『FF』シリーズは非常に高い人気を誇っているそうだ。

「“日本以外では流行らない”という偏見を持ったままでは、何も先に進まない。ゲームが面白ければ、どこの国でも通用するはずです」というゴルジュ氏の言葉は、日本のゲーム業界にとっても大いに参考になるはずだ。

・輸入版の日本製ゲームを購入したことは?

“日本のゲームでもっと遊びたい!”

 日本では、英語やそれ以外の言語の輸入版ゲームソフトを購入するのはかなりの洋ゲーマニアだと想像できるが、フランスのゲーマーはなんと、52%が輸入版を購入したことがあると回答している。これにもヨーロッパの特殊な状況が関係しているそうだ。

 ゴルジュ氏によると、日本のゲームが世界をリードしていた時代、ヨーロッパは“忘れられた大陸”と呼ばれていたという。当時のサイクルでは、日本でゲームが発売されてから約1年後に、英語に翻訳されたアメリカ版のソフトが発売されていた。しかしアメリカでヒットしなければ、ヨーロッパでは発売されない。

 たとえ発売されることになっても、そこからフランス語などに翻訳する作業でまた1年かかり、合計すると日本で最初に出てから2年後に、ようやくヨーロッパでリリースされるのだという。しかもマイナーなジャンルのゲームであれば、そもそも海外版が発売されることすらない。そのためフランスをはじめとするヨーロッパでは、専門の輸入ショップなどでアメリカ版や、日本版のゲームを購入することが比較的身近になっているのだそうだ。

 現在は、大作ソフトになると全世界でほぼ一斉に発売されることが多くなったとはいえ、前述のような状況に置かれたヨーロッパのゲーマーにとって、ゲーム機がリージョンフリーかどうかというのは、かなり重要な問題なのだそうだ。ゲーム機を購入する際にリージョンロックの有無が判断の基準となるか? という質問には、61%が“はい”と答えている。

“日本のゲームでもっと遊びたい!”

・プレイの際に日本語音声は重要ですか?

 これも日本人にはかなり意外な結果だが、フランスのゲーマーの87%は、日本製のゲームをプレイする際に、日本語音声が重要だと考えているという。

 「アメリカだと、かなり違う結果になるはずです」とフェレロ氏。アメリカでは字幕を嫌がる人が多いので、英語吹き替えは必須なのだそうだ。ところがヨーロッパでは、言葉の違う多くの国が隣接しているので他の言語に慣れているし、特にフランスでは日本のアニメが身近な存在なので、日本の声優の演技を聞き慣れているという。「吹き替えはお金がかかると思うかもしれませんが、ヨーロッパは字幕で大丈夫です」とフェレロ氏は強調した。

 一方、ゴルジュ氏のコメントはもう少し切実だ。「フランス語への翻訳が難しいなら、アメリカ向けの英語版でもいい。とにかく現地で発売して、遊べるようにしてほしい」とのことだ。

■フランス人はゲームメーカーではなく、クリエイターに注目する

・一番好きな日本製ゲームは?

“日本のゲームでもっと遊びたい!”

 この質問では、『FFVII』が圧倒的な人気で1位となった。ランキングの他のタイトルを見ても、フランスでのRPGの人気、特に『FF』シリーズの人気の高さが裏付けられる結果となっている。

 フェレロ氏によれば、4位の『テイルズ オブ シンフォニア』と30位の『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』は、いずれもシリーズで初めてフランスで発売された作品とのこと。また「フランスでは『MOTHER』が発売されていないから、ランクインしていないんです!」と、胸中の思いをぶつけていた。

 ここで遠藤氏が、日本の神話を題材にした『大神』が、3位に入っている点に注目。それに対してゴルジュ氏は、「日本神話の難しい話が出てきても、ゲーム自体が面白い。外国人には日本の文化が分からないと思われるかもしれないが、ゲームが面白ければそれで十分に楽しめるんです」と答えていた。

 またゴルジュ氏の分析によると、ランキングに入ったゲームの大半は、リアルな世界を描くのではなく、ファンタジーの世界を描いた作品だという。とはいえ、『シェンムー』はリアルな世界を描いているが……という疑問に対する回答が、じつにユニークだった。

 「フランス人の目から見れば、日本の生活をリアルに描いた『シェンムー』は、非常にエキゾチックな作品なんです。日本にやってきた海外の友人たちを、日本の下町に案内すると、“まるで『シェンムー』みたいだ!”って驚くんですよ(笑)」とのこと。

 同様に『龍が如く』も、まるで日本の歓楽街を旅するような、エキゾチックな作品として受け止められているという。それに対して遠藤氏は、「『龍が如く』は、オレたちが向こうに合わせるんじゃなく、日本のものをそのまま持っていくんだと、サムライ名越(稔洋氏)が海外に送り出したもの。その考えは合っていた」とコメントしていた。

・一番好きな日本製ゲームのシリーズは?

“日本のゲームでもっと遊びたい!”

 この質問もやはり、『ファイナルファンタジー』シリーズが、圧倒的な得票数で1位となっている。

 19位にはなんと、同人ゲームである『東方Project』が入っている。これはもちろんキャラクターの人気を反映したものだろうが、フェレロ氏によると「フランスでは弾幕系のシューティングも人気のあるジャンルです」とのこと。

 また30位には『スーパーロボット大戦』シリーズ、43位には『初音ミク-Project DIVA-』シリーズが入っているが、フェレロ氏は「これらがフランスで遊ばれているという話は、さすがに聞いたことがない。これはおそらく、熱心なファンがフランスでの発売を希望して答えているのでは」と語った。

 ちなみにフランスでもボーカロイドの人気は高いそうで、「パリ郊外の大きな映画館で初音ミクのコンサートが上映されて、それをパリから郊外までファンがわざわざ観に行く」のだという。

・一番好きな日本のゲームメーカーは? 

“日本のゲームでもっと遊びたい!”

 この質問は任天堂が1位、スクウェア・エニックスが2位という結果になったが、このアンケートでは非常にユニークな結果が現れたという。“ゲームメーカーは?”という質問にも関わらず、ゲームクリエイターの名前を回答したファンが、大勢いたのだそうだ。

 これについてゴルジュ氏は、「ヨーロッパのゲームファンはメーカーではなく、ゲームクリエイターに対して信頼を寄せて、“この人が作ったゲームなら面白い”というふうにゲームを選んでいます」と語った。今、インディーズゲームが流行しているのも、作家性の強い作品が求められているからだという。「だからこそ日本のゲームクリエイターは、もっと自分自身の意見を伝えてほしい」とのこと。

 フェレロ氏も「“ジャパンエキスポ”の会場では、ゲームクリエイターのサイン会や握手会が大人気なんです。ゲームクリエイターがフランスへやってきて、現地のファンと直接触れ合うのは、すごく大事なことだと思います」と語った。

→日本のゲームの最大の長所は“クレイジー”なところ!?(6ページ目へ)

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