2013年10月31日(木)
セガが放つ話題のアーケードゲーム『CODE OF JOKER(コード・オブ・ジョーカー)』。本作の特別掌編の第3話を掲載する。
『コード・オブ・ジョーカー』は、ゲームで使用するカードがすべてデジタル化された思考型デジタルトレーディングカードゲーム。プレイヤーは自分の戦術に合わせてデッキを組み、1VS1で交互に攻守交代をするターン制バトルを繰り広げていおく。相手のライフをゼロにするか、もしくはライフが多く残っていれば勝利となる。
『コード・オブ・ジョーカー』の小説を執筆しているのは、『ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー』で第18回電撃小説大賞銀賞を受賞した、三河ごーすと先生。小説は全7話の構成で、電撃オンライン内特集ページにて順次掲載されていく。
特別掌編の第3話“サウンドオブゴールド”でピックアップされるのは、星光平。彼にかけられた疑惑とはいったい……!? 以下でお届けするので、ゲームファンや三河ごーすと先生のファンはチェックしてほしい。
音楽を愛し、音楽に生きる好青年。貧しい生活の中で育ててきた義理の妹が、電脳空間に飲みこまれる事故に遭遇。その際に妹を守るために、エージェントとしての才能に覚醒した。
昼下がりの陽光がアスファルトに燦々と降り注ぐ。鏡面仕上げのビルが、休日を謳歌すべく闊歩する若者たちの姿を映し出している。思い思いの服に身を包み、彼らあるいは彼女らは楽しげに語らっている。
そんな営みの裏に、暗躍する三つの影があった。
一人はストロベリーブロンドの短い髪に花飾りのついたヘアバンドを合わせた女子大生。一人はやたらと肌の露出が多い、カウボーイハットの女子高生。そしてもう一人は長身の男で、暗い銀髪を億劫そうに掻き上げている。
銀髪こと緋神仁は、かたわらの少女の帽子を見下ろした。
「おい……まりね」
「しっ。任務遂行中はコードネームで呼び合う決まりだ、ミスターJ」
鼻の前に指をたてて、小さな声でとがめたのは鈴森まりねだ。その目にはずんぐりとしたレンズのサングラスをつけている。
「誰がJだ……というか、なんだそのやたらと目立つ格好は」
「尾行といえばグラサン! 常識だよっ」
「本当にこんなことしていいのかしら……ねえ、まりね。やっぱりやめない?」
御巫綾花はかすかに眉をひそめて、まりねの腕を軽く引いた。
しかしまりねはサングラスをくいと指で持ち上げて豪語する。
「エージェントの不審な行動をしっかりきっかり監視するのもリーダーたる者の務めだよっ」
「うーん、正しいような、間違っているような」
と、綾花は釈然としないように首をひねった。
「おしゃべりはここまでだ――動いたぞ」
低い声で仁が言うと、まりねはがばっと物陰から顔を出した。綾花も後ろめたそうな顔のままそっとまりねの後ろに続く。
目下、一番の不審者である仁たちの視線の先では、一人の青年が歩いていた。派手に染め上げた髪。がっしりした筋肉質な背中には大きなギターケースを背負っている。後ろ姿だけでもずいぶんと遊んでいそうな風貌だ。
青年の名前は星光平。彼には今、とある嫌疑がかけられている。それは――
「それじゃあミッションスタートだよ。仁くん、綾花ちゃん――『光平くんにカノジョができた事件』の真相を求めて、いざ出陣!」
つまり、そういうことだった。
事の発端は三日前。
仁がエージェントの活動を終えて電脳空間から帰還すると、ASTの端末室のわきにある休憩室からまりねの声が聞こえてきた。
「あれは絶ッッ対に女の子がらみだよっ」
「そうかしら? 光平ってそういうタイプには見えないのだけど」
こちらは綾花の声。
「なんの話をしてるんだ?」
と声をかけながら仁が休憩室に入ると、長いテーブルをはさんで紅茶を飲んでいた綾花とまりねが顔をあげた。まりねはカップの中身がこぼれそうな勢いで立ち上がり、「いいところにきたーっ! 仁くーん!」と言って、激しく腕を振り回す。
「ちょうどいいわ、仁。あなたの意見も聞かせて」
綾花のほうは常と変わらぬ生真面目な目で仁を見上げた。
「実は、まりねが、最近光平の様子がおかしいって言い張ってて」
「だっておかしいよーっ。いままでは音楽の話ばっかりで、ここで休憩してるときも、音楽雑誌とか楽譜ばっかり読んでたのにさー。この前、いきなり――」
いったん言葉を区切り、きりりっと決め顔を作る。そして、
「『ねえねえまりねちゃん。いまアツいアイテムってなんかない? 女の子の流行最先端みたいな』――って訊いてきたの」
と、完璧に光平の口調を真似してみせた。
「これは間違いなくカノジョだよっ。むしろカノジョ以外にこの変化を説明できるのかね、綾花ちゃんっ」
「そう言われちゃうと、たしかにまりねの言うとおりなんだけど……なにか重要なことを忘れているような……」
「もー、煮え切らない。仁くんはどう思う? 光平くんバンドマンだしさ、ファンの子の一人や二人、テゴメにしちゃっててもおかしくないと思うんだよね」
唇に指をあてて考え込む綾花から視線をはずして、まりねは仁へ水を向けた。
「テゴメって、意味わかって使ってるのか? まあ、たしかに星の野郎はナンパな雰囲気あるけどな」
光平の姿を頭の中に思い浮かべながら、仁もうなずく。ナンパとは言ったが悪い意味ばかりではない。気さくで誰に対しても気兼ねしないところなどは、むしろ女子からの人気を集めそうに思える。
まりねは、ばん、とテーブルを強くたたいて身を乗り出し、
「よーっし。アタシたちで真相を突き止めちゃおうよっ。カノジョさんの姿を激写だーっ」
どこからかデジタルカメラを取り出してフラッシュをたいた。
仁は巻き込まれては敵わないと、渋い顔を横に振る。
「星が誰と付き合ってようが関係ないだろ」
「そうね。エージェントの私生活には干渉しすぎない決まりだし」
綾花も横から助け舟をだした。
ところがまりねには納得の兆しはなく、頬をふくらませるとじと目で綾花を見つめた。
「私生活には干渉しない、かー。ふーん。アタシ、知ってるんだけどなー」
「知ってるって、なにを?」
「ヒントは料理、探偵事務所、日帰り奥様は女子大生!」
「なっ――」
綾花の頬が髪よりも鮮やかな色に染まった。
「あ、あれは変な意味じゃないの! 仲間として仁の不摂生を見過ごせなかっただけでっ」
「なら今回も仲間として光平くんの不純異性交遊を見過ごしちゃいけないってことで!」
「まりねはどうしてそんなに気になるんだ?」
仁はふと疑問に思ってそう訊ねた。
するとまりねは満開の笑みを咲かせて、
「色恋沙汰をチェックするのは女子の義務!」
と、断言したのだった。
Illustration:Production I.G
(C)SEGA
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