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2013年11月27日(水)

『ブレイブリーデフォルト』×『英雄伝説』×『コンセプション』クリエイター特別鼎談――日本のRPGの過去・現在・未来は?【前編】

文:まさん

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■新規タイトルを立ち上げる苦労と、シリーズものを出し続ける苦労

――近藤さんは、当時人気があった『ガガーブ・トリロジー』シリーズの続きではなく、新たに『軌跡』シリーズを立ち上げられましたよね。和製PCゲームの市場の衰退期ということもあり、相当な苦労があったと思うのですが……。

近藤:確かに、『空の軌跡』を立ち上げた時は、社内でも反対の声がありました。ですが、実は一番深く覚えているのは『零の軌跡』なんですよ。『零の軌跡』では、デザインをガラッと変えて近代的なイメージにしたのですが、「せっかく『空の軌跡』で実績ができたのに、どうしてテイストを変えるのか」といった意見が出ていました。

 ですが、やはり新しいお客様に見ていただきたいというのが大きかったんです。『英雄伝説』は1作目からずっとつながっているシリーズですが、当然ながら途中から入るお客様もいますよね。なので、前作がそうしていたからというだけの理由でシリーズを踏襲するのは避けたかったんです。特に『零の軌跡』は、ファルコムがコンシューマでゲームを出す最初のタイトルでしたから。

 コンシューマのユーザーさんは、PCのユーザーさんよりもビジュアル面で入りやすいものを好む傾向が強いんですよ。そこで『零の軌跡』では、舞台を都会にしようというところから始めました。これまでは、ブタやニワトリが辺りを歩いているような、牧歌的な場所から始まるのがお約束だったのですが、『零の軌跡』ではクロスベルという大都市を設定し、主人公がそこの警察官に配属される場面から始まる切り口に挑んでみたのです。結果として、それがいい評価につながり、ホッとしています。

 また、『零の軌跡』から、キャラクターイラストにエナミカツミさんを起用してイメージを変えたのですが、それも確実に手応えとして感じています。その証拠に、PCで展開していたころの中心的なユーザーの年齢層は30代だったのですが、『閃の軌跡』では10代後半から20代前半がメインになっているんですよ。

浅野:ユーザーの世代交代がしっかりできるというのは、本当にすごいことですよね。私が『光の4戦士』を出した時、ユーザーさんの平均年齢は30歳だったのですが、『ブレイブリーデフォルト』では32歳だったんですよ。結局、自分と同じ年代の方についてきていただいているだけで、新しい世代へのアピールができていないじゃないかとも(笑)。

 うちの他のシリーズ作品でも、世代交代は本当に難しい課題だと聞きます。『軌跡』シリーズは、歴史のあるシリーズで根底の話が続いていますから、新しいユーザーさんが入ってくれば、じゃあ、1個前の作品はどうなっているのか、2個前はどうなっているのかといくらでも掘っていけるのが、すごくうらやましいです。

近藤:でも、コアなファンからもまったくの想定外な意見が届くこともありますよ。例えば、『空の軌跡』の時だと、「女の子のスカートがファルコム作品なのに短すぎる!」と怒られたんですよ(笑)。

齊藤:ファンの間では、スカートの長さにまで定説ができているんですね。ヒロインはひざ上何センチまでとか(笑)。僕も『コンセプションII』を作った時にすごく大変だな、と個人的に感じたことが、今までのファンを残しつつ、さらにファンを獲得していかなきゃいけないという部分でしたね。1作目は、今までのシリーズファンがまったくいない状態で1から勝負できるので、あとのことを考えなくていいからある意味やりやすいんですよ。でも2作目以降は、前作で好評だった部分を変えたとして、ファンはついてきてくれるのだろうかと悩んだり……。 

近藤:それは、私たちも毎回悩む部分ですね。シリーズ物は、どんなに工夫をこらしても、必ず過去作と比べての不満が出るものですから。

齊藤:シリーズファンの気持ちを冷まさず、さらに今まで知らなかった人を呼び込む作品を作れているファルコムさんは、本当にすごいですよ!

浅野:それを言うなら、スパイク・チュンソフトさんもすごいと思います。2作目って、基本的に売上の数字が落ちちゃうじゃないですか。でも『ダンガンロンパ』は、1作目の後に廉価版で人気を積み上げて、さらに2作目で数字を伸ばしていますよね。“作品そのものが持つ力”を感じましたよ。

齊藤:僕ら自身も驚いています。結果として売れましたが、ファンの人たちが育ててくれた部分がかなり大きいですね。それに浅野さんもスゴイですよ。『ブレイブリーデフォルト』は完全新規の作品なのに、昔の『ファイナルファンタジー』の匂いが残っていて驚きました。

RPGクリエイター特別鼎談

近藤:『ブレイブリーデフォルト』は、安定感があってスキが少ない作品ですね。

浅野:『ブレイブリーデフォルト』は、古くからのスクエニRPGファンで、『光の4戦士』に反応してくれたようなオールドユーザーに評価が高かったですね。

近藤:『FFIII』のジョブチェンジシステムがベースにあるんですよね。あれは、すごくうれしかったなあ。

浅野:近藤さんのように、『FFIII』や『FFIV』が好きだった人が『光の4戦士』で20万人くらい存在していることがわかったので、そのお客様をベースにして肉付けしたものを出そうと、お客様の顔をイメージして作っていました。

齊藤:そこで『ファイナルファンタジー外伝』と銘打った『光の4戦士』の『2』ではなく、『ブレイブリーデフォルト』という新規タイトルで挑戦して、かつスクウェアのRPGらしさがちゃんとあるというのが、また……。

近藤:おそらく、ユーザーさんが期待している“スクウェアらしさ”があったのがよかったんでしょうね。

浅野:そうだと思います。今のスクウェア・エニックスとはまた違う、昔の“スクウェアらしさ”でしょうかね。

近藤:私は、作品を作り続けていく時に、作り手側が飽きないことも重要だと思うんですよ。続けていくと、急に別物を作りたくなるじゃないですか。私たちも時々「レースゲームを作ろう」なんて言いだすこともあったりしますが、それは駄目ですよね(笑)。もともとあったよさを残しつつ、新しい部分を楽しめる作品であれば受け入れてもらえるんですよ。それが『ブレイブリーデフォルト』なのではないでしょうか?

浅野:今の時代って、ゲームがいくらでも無料で遊べますよね。プラットフォームも増えてますし、価値観が細分化していて、あらゆるコンテンツが無数にある。そんな時代なので、万人に受けるのではなく“ブレイブリー味”が好きな人に、ちゃんと“ブレイブリー味”を提供するのが正解ではないかと思います。

近藤:そうですね。お客様に「私はこれが好き」と選んでもらえる作品を目指しているところが、昔と違う部分だと感じます。

浅野:日本のRPG市場の現在という話でしたが、自分がスクウェア・エニックスに入った時は、すでにコンシューマ市場の縮小が始まっていました。一昔前の、100万本や200万本は当たり前という時代の話は、まるでファンタジーです。

 価値観とサービスの細分化により、もう昔のようにゲームが売れる時代ではないと思っています。あらゆるコンテンツがある現在の市場では、お客様とのかかわり方もこれまでとは変えていかなければなりません。つまり、100万人のお客様を相手にするのではなくて、“ブレイブリー味”が好きな方とどれだけ深く対話できるのか。例えば、それが20万人だとしたら、その方たちに5倍楽しめるようなサービスを用意することで、ビジネスとして成立させ、作品作りを継続してゆかねばならないと感じています。

――『ブレイブリーデフォルト』はブラウザゲームでも展開していますが、そうした仕組みもお客様と深くかかわるためのものなのですか?

浅野:ブラウザゲームは新しい取り組みの1つですね。コンシューマのゲームって、2~3年かけて作っても発売したら大体1~2カ月ぐらいのムーブメントで終わりじゃないですか。その対策として、せっかく好きになってもらった作品なのだから、長期的な運営ができるブラウザゲームのようなフォーマットに移行してもらえば、その世界観への意識を継続してずっと楽しんでもらえると思ったんです。

 そして、数年後にコンシューマで続編が出るとなった時に、また戻ってきてもらえるようなサイクルが生み出せたらいいなと。せっかく好きになってもらった世界観でも、その続編を遊べるのが2年以上も先となれば、ほとんどの人が忘れてますから。

齊藤:どんなに好きでも、何も進展がなければどこかで興味が切れちゃいますものね。

浅野:特に今は、情報が多い世の中ですからね。ですので、『ブレイブリーデフォルト2』という続編をいきなり出すのではなく、まずは続編に入っている“ブレイブリー味”の“ダシ”の部分を『フォーザ・シークウェル』で味わってもらおうと思っています。

――サブタイトルもストレートですね。ちゃんと“フォーザ・シークウェル=続編のため”と謳っていて。

齊藤:まさに『俺の子供を産んでくれ!』みたいな感じですね!

浅野:確かに、それと近いかもしれませんね(笑)。やはり、今はタイトルがいっぱいありますから、わかりやすいほうがいいですよ。

齊藤:『コンセプション』は、逆に続編だと普通のRPG風サブタイトルに変えたんですよ。「続編ではサブタイトルまで言わないといけないので、『俺の子供を産んでくれ!』みたいなものだとレジで買えない!」という熱い要望が届きまして(笑)。「こういうゲームが好きなんだけど、こういうゲームを買っていると思われるのが嫌だ!」というファンの複雑な気持ちが伝わってきたので、じゃあ、今回は恥ずかしくないですよと。

 先ほど浅野さんがおっしゃられていたように、今は出せば売れる時代ではないので、どんなお客様に届けたいのかをしっかりと考えたうえで出していかないといけないですね。基礎が出来上がっている日本のRPGというジャンルの中で、お客様に手を伸ばしてもらうには、相当な工夫をしなくては駄目だと感じています。結果として、スパイク・チュンソフト合併1発目の作品になりましたが、我ながらこのタイミングでこの企画がよく通ったなと(笑)。

近藤:そこは、スパイクさんの文化ですよね。変わったことをちゃんとやらせてくれる。

――まさに、“スパイク味”ですね。そういった味を提供し続けていくという意味では、追加DLCの販売などもその一環だと言えるのでしょうか?

齊藤:これはまた、なかなかデリケートな話題を切りだしてきましたね。

――これは今、ユーザーさんが一番興味のある話題の1つですよね。近年、DLCの可否につてユーザー間で論争になることも多いですが、DLCを提供する側としては、どのように思っているのかをお聞きしたいです。

浅野:わかりました。では、最近『フォーザ・シークウェル』のDLCが話題になったので、私からお話しましょう。

――ぜひともお願いします。

→“日本のRPGの過去・現在・未来”クリエイター特別鼎談・後編に続く

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データ

▼『ブレイブリーデフォルト フォーザ・シークウェル』前作所持者向け優待DL版
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:3DS
■ジャンル:RPG
■配信日:2013年12月5日
■価格:2,900円(税込)

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