News

2013年12月10日(火)

スクウェア・エニックス×日本ファルコム×スパイク・チュンソフト、クリエイター特別鼎談――日本のRPGの過去・現在・未来は?【後編】

文:まさん

■これから変えていくべきことと、これからも継続すべきこと

――新たなRPGを生み出すにしても、変えてはいけないと思うところはどこですか?

近藤:日本人的な、“メイドインジャパン”のよさですかね。私は一時期、東南アジアに住んでいたことがあるのですが、日本に帰ってきた時に気がついたのが、ノートの紙が上質だということだったんですよ。文字を書くシャーペンは握り心地がよく、シャーペンの芯もしっかりしていて折れない、日本製品ならではの品質。そういった細やかさや配慮の部分は、ゲームにも通じることだと思います。

 齊藤さんにお褒めいただいたレベルデザインもそうですが、ゲームにも日本人ならではの手触りのよさがありました。ですが、今では海外のほうが日本のゲームを研究し、そういったものをどんどん取り入れて、追い越されてしまっていると思います。

 また、ソーシャルゲーム業界もそうした品質の部分を研究し始めていて、デバイスを触った時の感覚や動かした時の手応えなど、どんどんいいところを取り入れていますよね。これは、もう一度コンシューマゲーム業界が取り戻すべき部分ですし、この先も変えたくないと思っている部分です。

――逆に変えたほうがいいと思う部分は?

近藤:今回の鼎談で皆さんとお話をしてみて思ったのですが、RPGって意外とまだやっていないことが多いんじゃないかということです。例えば、昔はファンタジー中心で今は現代物が多いですが、それ以外のものとなると、実はあまり手を付けられていないですよね。『コンセプション』のように定型の外にあるものもそうですが、今までがこうだったから今回もこうするというのではなく、毎回きちんと考えていかないと駄目なんだと思います。

 ここ10年ぐらい、国内のRPGは停滞していた雰囲気がありますが、その中でスパイク・チュンソフトさんのような会社が出てきたり、細分化されていった結果、スクウェア・エニックスさんの『ブレイブリーデフォルト』のようなものがでてきたりと、次のステップに向けて、皆が模索している段階なのではという予感がするんですよ。それがこの先どうなるのかという楽しみもありますし、そこは自分たちがなんとかしたいという思いもあります。

 こう考えるに至ったいきさつとしては、やはりソーシャルゲームの存在が大きいと思います。最近は、純粋にゲームとしてもおもしろいものがどんどん出てきて、継続させるための工夫や新しいユーザーさんを取り込むための工夫に関しては、非常にアグレッシブです。今はまだぼんやりとした考えですが、コンシューマで培ったものと、そうしたものを両立させた新しいジャンルを私たちの手でなんとか作り出したいと考えています。

 そのうえで、私たちが目指したいのは、やはり“心に残るゲーム”ですね。歳をとって、余命2時間くらいになった時に、最後に思い出してもらえるようなゲームを目指したい。そんな思いが、ものづくりをする者としてあります。

齊藤:いいですね。余命が少ないおじいちゃんに「昔は『コンセプション』があったのう」と。最後に、ふっとこう“愛交ノ儀”を思い出したまま逝く、みたいな感じで(笑)。

近藤:それは、相当元気なおじいちゃんですね(笑)。でも、それこそがクリエイターとしてのロマンじゃないですか?

浅野:しかし、そのロマンを考えると、ゲームという媒体は、すごく不利だと思います。ゲームは、その時に出したハードやプラットフォームに縛られるんです。だから、漫画や映画などに比べると、圧倒的に残りづらい特徴を感じます。

齊藤:今は、ゲームアーカイブスやバーチャルコンソールといったサービスでいくつかの作品が遊べますけど、共通のフォーマットって存在してないですね。

浅野:そうなんです。それに、同じファミコンのゲームでも、あのコントローラーとブラウン管TVで遊んだものと、バーチャルコンソールで遊んだものは何かが違うんです。プラットフォームって、その時代性も含めたゲーム体験なのではないでしょうか。だからこそ、原体験として強烈に残っているのかもしれませんが。

近藤:逆に、ゲームはいろいろな模索の仕方があると思いますよ。映像的にインパクトのあるものを作り出すやり方もありますし、シナリオで勝負するやり方もあります。尖ったアイディアで勝負するのもありで、そこで何か引っかかって少しでもいい印象を抱いてくれるとうれしいですね。

浅野:わかります。自分はそのハードならではのゲーム体験ということで、『ブレイブリーデフォルト』は3DSで遊ぶことを前提に作りました。ただ、今後もし他のハードに移植することになったら、どうしようかと(笑)。

齊藤:やり方はいろいろあると思いますよ。RPGに限った話ではないですが、そのハードでしか遊べないことをやるという作り方も正解としてありつつ、プラットフォームを選ばずに、コンシューマでも携帯アプリでも操作性が違うだけで体験としては同じものですよ、というアプローチの仕方もアリですよね。いろんなアプローチがあると思いますが、僕はPRGなら“RPGだけどRPGじゃない、限りなくそれに近いもの”を作りたいです。さらに、それがユーザーに受け入れてもらえて、かつ売れれば最高ですね。

近藤:受け入れてもらって、売れてほしいと思う反面で、ゲームを消耗品にしてほしくないとも思っています。使い捨ての消耗品のように、多少質が悪くても値段の安さで選ばれるような状況になってほしくありません。

RPGクリエイター特別鼎談
RPGクリエイター特別鼎談
▲浅野さんが手掛ける『BDFF』の続編『ブレイブリーセカンド』。

浅野:そういった側面は、コンシューマよりもソーシャルのゲームのほうが強いと思います。コンシューマゲームなら、ハードとソフトがあればお爺ちゃんになっても遊べるのに対して、ソーシャルゲームはサーバが止められたら、自分の思いとは関係のないところで遊べなくなってしまいますから。いつかは消えてしまうものだと考えざるを得ない。

近藤:私たち自身、ゲーム黎明期のファミコン時代から遊んでいて思い出の作品がたくさんあります。しかし、実際のところファミコンを引っ張り出して昔のゲームを遊ぶことはあまりないと思います。それでも、RPGで街を出た時に、海岸の向こう岸に何かが見えたときの感動を今でも覚えているんですよね。私は、そういう残り方をするものを作っていきたいです。

齊藤:思い出に残ることを考えると、RPGは“ロールプレイングゲーム=役割を楽しむゲーム”なので、主人公に自分を投影できる部分を持たせるのは絶対変えてはいけないところですね。そこが変わってしまうと、日本人が遊ぶRPGとしては成り立ちません。

 なぜなら、日本人が思い描く“勇者像”って、わりと固まっているんですよ。イケメンは絶対必須条件みたいな。例えば『軌跡』シリーズで、次の主人公がいきなりブルース・ウィリスになっていたら受け入れられないですよね。僕はよく、RPGは様式美だと言っているんですが、そういうところは守らなきゃいけないと思います。逆に、それは変えていったほうがいい部分でもあるとは思うのですが、そういう部分を少しずつ取り入れて行って、物語に没入させる仕組みを作っていく必要もあるのかなと。

浅野:かつてスクウェア・エニックスでは……いや、日本のゲーム業界全体がそうだったと感じますが、「これからは、ゲームを日本だけではなく世界で売らねばならない。ならば主人公は、ブルース・ウィリスのような外見が望まれるだろう」と、顔が見えないお客様のニーズを想像して、自分たちも釈然としないままゲームを作っていた時期がありました。不幸な時期だったと思います。そのカウンターとして、日本のお客様に向けて、自分たちがもっともよいと思うRPGを作るぞ、と言って生み出されたのが『ブレイブリーデフォルト』なのです。やはり、クリエイター側も自信を持って作らないとダメなんですよ。

近藤:少なくとも、作った時点で自分たちが胸を張れなければいいものではないですからね。自分たちがよいと思っていないものを、ユーザーさんがよいと思ってくれるはずはないんですよ。実は、ファルコムでも似たような話がありまして。『イース』はアドルが17歳の時から始まって23歳まで話が進んだのですが、最新作では18歳の時の話に戻っているんですよ。年齢を重ねて40歳や50歳のアドルにするという案もあって、毎回企画会議には出るのですが、それは製品にはならない。例えば、壮年のアドル役に大塚明夫さんを起用して赤ヒゲの姿で登場させたら、ものすごくコアなユーザーさんは喜ばれるかもしれませんが……。

齊藤:それは、完全に自分がアドルという存在に没入できる人向けになりますね。

近藤:そうです。本当にアドルが好きだという方は喜ぶでしょうが、それでも本流のアドルの話があって、外伝としてなら見てみたいという要求だと思いますよ。『イース』は、あくまで若き冒険家のアクションRPGなので、そちらを遊びたいターゲットとは違いますよね。

→スマホ向けのゲーム市場は、例えるならメジャーリーグ!?(4ページ目)

(C)SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
MAIN CHARACTER DESIGN : Akihiko Yoshida.
(C)2013 Nihon Falcom Corporation. All rights reserved.
(C)Spike Chunsoft Co., Ltd. All Rights Reserved.

データ

▼『ブレイブリーセカンド』
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:3DS
■ジャンル:RPG
■発売日:未定
■希望小売価格:未定
▼『ブレイブリーデフォルト フォーザ・シークウェル』前作所持者向け優待DL版
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:3DS
■ジャンル:RPG
■配信日:2013年12月5日
■価格:2,900円(税込)

関連サイト