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2014年1月28日(火)

『紫影のソナーニル Refrain』にはタイトルにかかわる大仕掛けが存在! シナリオライター・桜井光さんにインタビュー

文:ごえモン

『紫影のソナーニル Refrain』インタビュー

 2月27日に発売されるビジネスパートナー(ライアーソフト)初のコンシューマ移植作『紫影のソナーニル Refrain -What a beautiful memories-』。その特集企画として、ビジネスパートナーの石井秀典社長とシナリオライターの桜井光さんにインタビューを行った。

 『紫影のソナーニル Refrain』は、2010年11月に発売されたPC用アドベンチャーゲーム『紫影のソナーニル』のPSP/Xbox 360移植作。蒸気機関が異常に発達した世界を舞台とする人気シリーズ“スチームパンクシリーズ”の5作目にあたる作品だ。

 インタビューでは、コンシューマへの参入経緯や『紫影のソナーニル Refrain』の注目ポイント、予約特典“大機関辞典”の収録内容について伺っている。作品だけではなく、スチームパンクシリーズのディレクション/シナリオライターを担当した桜井さんご自身の歴史についても伺ったので、シリーズ未体験の人はもちろん、ライアーソフト&スチパンファンもぜひチェックしてほしい。(※インタビュー中は敬称略)

『紫影のソナーニル Refrain』インタビュー 『紫影のソナーニル Refrain』インタビュー

【主なインタビュー内容】

『紫影のソナーニル Refrain』編

・PC版『紫影のソナーニル』の制作経緯
・シリーズ未経験者に知ってほしい魅力
・スチームパンクに興味がなくても楽しめる?
・コンシューマへの参入経緯
・なぜ5作目の『紫影のソナーニル』だったのか?
・ハードにPSPとXbox 360を選んだ理由
・予約特典“大機関辞典”の収録内容
・プレイ済みの人に知ってほしい注目ポイント
・スチパン独特なモノローグ演出の誕生経緯
・『紫影のソナーニル』以外の移植について

桜井光さん編

・シナリオライターになった経緯は?
・少女の主人公とイケメンが多いのはなぜ?
・決めシーンへのこだわり
・魅力的なキャラを生み出すコツ
・出演声優さんの続投が多い理由
・規則性のあるゲームタイトルについて
・影響を受けたシナリオライター
・フリーになっての感想と今後の活動予定
・スチームパンクシリーズのアニメ化は?
・スチームパンクシリーズの続編は?

■作品のテーマは“memories”。『紫影のソナーニル』で人の“想い”を描く

――まずはPC版『紫影のソナーニル』の制作経緯を教えてください。

『紫影のソナーニル Refrain』インタビュー
▲画像はシリーズ第6作『黄雷のガクトゥーン』のヒロイン・ネオン。桜井光さんがTwitterのプロフィール画像として使用している。

桜井:スチームパンクシリーズの4作目『白光のヴァルーシア』を作り終えた時に、次の新作もスチームパンクシリーズで行こうと内々で決まっていました。そういった事情もありましたが、『漆黒のシャルノス』でご一緒したイラストレーターのAKIRAさんと、「もう一回組んで何かやりたいね」と話をしていたんです。AKIRAさんの紡がれる絵の魅力をもっと出せるような題材はないだろうかと考えながら、『紫影のソナーニル』の企画を立てました。

――スチームパンクシリーズ以外の作品という意識はまったくなかったのですか?

桜井:ありませんでした。最近の日本でも流行ってきていますけど、当時、欧米を中心としてスチームパンクファッションが流行っていたんです。その中心は19~20世紀頭のビクトリアンファッションなんですが、シリーズ3作目の『漆黒のシャルノス』でAKIRAさんが描いたビクトリアンなヒラヒラ、フリフリのドレスがものすごく美しかったし評判にもなったんですね。

 AKIRAさんのように美しく描ける人はそうそういないので、その美しさをもう一度世に出したかった思いが『紫影のソナーニル』の始まりでした。なので、シリーズを外そうという考えはなかったです。

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――『紫影のソナーニル Refrain -What a beautiful memories-』のタイトルの由来やテーマについて教えてください。

桜井:“ソナーニル”はクトゥルフのソナ=ニル(楽園)からきていますが、作品のテーマ自体はサブタイトルにもある“memories”です。人間の想いってなんだろう? 死ぬってなんだろう? 生きるってなんだろう? そして、世界ってなんだろう? というような、哲学的な要素を少女のリリィと女性のエリシアの2つの視点で描いています。『紫影のソナーニル』が発売されたのは2010年の11月末で、震災の少し前なんです。震災を経て以降、私が書いたテーマ自体は変わらないのですが、少し受け止められ方が変わってきているところがあると思います。

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――『紫影のソナーニル』を未プレイの人のために、その魅力や注目してほしいところについて教えてください。

桜井:本作は、よく『不思議の国のアリス』や『オズの魔法使い』のような“おとぎ話”で例えられることがあります。最近はロボットものの監督として有名になりましたが、ギレルモ・デル・トロ監督が昔撮られた映画に『パンズ・ラビリンス』というものがあります。ああいったダークファンタジーを目指して始めたところがあって、ビジュアル方面では成立していると思っています。ダークなだけではなく、AKIRAさんのイラストはとても可愛いので、そこも注目してほしいです。

 表情パターンの多さにも注目してほしいですね。主人公のリリィは、何百種類と表情があります! 1人のキャラに数百種類の表情がある作品は、世界を見てもそうそうないと思います。

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――そもそもスチームパンクに興味がない人もいらっしゃると思いますが、そんな人でも楽しめる作品でしょうか?

桜井:全然大丈夫です! ハードSFの作品ではないので、設定が重たそうと感じている人は安心してください。一方で、SFが好きな人にも「おっ!」と思っていただける要素もあると思います。

――『紫影のソナーニル Refrain』で初めてシリーズを知った人は、6作品をどういう順番でプレイするのがオススメですか?

桜井:『紫影のソナーニル』から入った場合は、『漆黒のシャルノス』がいいと思います。物語の方向性という意味では、2作目の『赫炎のインガノック』もオススメですね。でもシリーズとは言っていますが、実はシリーズという名前がついたのはごく最近なので、どれから入っていただいても大丈夫だと思います(笑)。

――確か4作目の『白光のヴァルーシア』辺りから“シリーズ”と目にするようになった気がします。

桜井:1作品の読み切りが多いことがメーカーの特色だったので、そこは踏襲はしようと考えていました。唯一世界観だけは同じで、キャラの継続はなく、毎回独立したキャラの物語になっています。

 実際、PC版のころも『紫影のソナーニル』が初めてのお客さんが結構いらっしゃいました。シリーズが進んでいくと年齢層が上がってしまう傾向にあると思いますが、スチームパンクシリーズに関しては若い人がどんどん入ってくれるので、平均年齢が変わらないんですね。

■そろそろ“茨のない道”を歩んでみたかった

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――今回のコンシューマ移植はどなたが企画されたのでしょうか?

桜井:コンシューマ化は私自身が企画しました。社長に「そろそろコンシューマにしますか?」みたいな感じで提案して(笑)。

石井:会社の経営状態などもあって、PCのいわゆる美少女ゲームだけでやっていくのはどうなのか? という事情もありました。世間一般の美少女ゲームを見る目も、だいぶゆるくはなってきたと思いますが、基本的にアダルトゲームというカテゴライズでしか世の中から見られていないですよね。そうすると銀行さんとのお付き合いにも関係してきて……。

桜井:すごくリアルな話ですね(笑)。

石井:その辺りもコンシューマ化への布石です。一番大きかったのは、「スチームパンクシリーズは女性ファンに人気がある一方で、美少女ゲームでは新規の女性ファンが買いにくい」という桜井さんの意向でした。

桜井:実際に「買いにくい」という声は結構お客様から挙がっていて。今まであえて茨の道を進んでいたのですが、「そろそろ茨のない道を歩んでみてはいかがでしょうか?」と石井さんに提案しました。

石井:そこで開発キットの値段を調べてみたら、昔よりはだいぶ安く手に入るようになっていました。以前よりも参入しやすくなっていたことも理由の1つですね。

――なぜ、そこでスチームパンクシリーズとしては5作目の『紫影のソナーニル』だったのでしょうか?

桜井:一番売れていたからです(笑)。ありがたいことに、プレイ後に「おもしろかった」と言ってくださるユーザーさんのおかげで、作品を重ねるごとに少しずつユーザーさんが増えていきました。5作目の『紫影のソナーニル』になって、コンシューマでも行けるかもしれない数字まで到達したので、それが契機だったと思います。実は、6作目の『黄雷のガクトゥーン』と『紫影のソナーニル Refrain』は同時並行で開発を進めていたんですよ。

石井:『黄雷のガクトゥーン』は全年齢を念頭に入れた作りになっているよね。

桜井:そうですね。元々『紫影のソナーニル』は移植を想定していない作りで、逆に『黄雷のガクトゥーン』は当初は全年齢で作ろうと考えていた作品でした。

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――確かに、『黄雷のガクトゥーン』だけイメージがまったく違いますね。王道ヒーローもののようなイメージです。

桜井:まさにその通りです。負の部分を掘り下げる物語は、いったん『紫影のソナーニル』で狙い通りのところに帰結をしたかなと私の中で手ごたえがあったので、『黄雷のガクトゥーン』では意識してテイストを変えています。

――なるほど。『黄雷のガクトゥーン』の移植にも期待ですね。話を『紫影のソナーニル Refrain』に戻しますが、どのような理由でPSPとXbox 360をハードに選んだのでしょう?

石井:女性ユーザーのことを考慮すると、PSPに移植することが一番だと思いました。ファンクラブの会員を見ると3~4割は女性ユーザーですし、男性よりも女性から「社員を募集していませんか?」という連絡をいただくことが多いですね。

桜井:女性のユーザーさんが多いせいかTwitter上で結構盛り上がっていて、作品に絡めて実際に女子会を開かれた方もいらっしゃいました。各作品の発売日になると、多くのファンアートをアップしていただいたり、本当にありがたいです。

石井:女性だけではなく、スチームパンクシリーズは海外でも人気があります。海外展開まで含めて考えると、Xbox 360で発売することにも意義があるだろうと考え、2機種同時で発売することにしました。

桜井:スチームパンクを題材に扱っているせいか、海外の方にもご注目いただいています。国産PCゲームとしては、グレーなところではあるのですが……。『漆黒のシャルノス』には英語のWikipediaページもありますね。

石井:そういば、ロシア在住のロシア人の女性から「スチームパンクシリーズのファンなので、ライアーソフトで働きたい」という日本語の求人メールが届いたこともありましたね。

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――どの作品から女性ファンが増えたのでしょうか?

桜井:2作目の『赫炎のインガノック』からですが、火が付いたのは『漆黒のシャルノス』からですね。1作目の『蒼天のセレナリア』までは従来のPCゲームの文脈に添って作っていたのですが、『赫炎のインガノック』からは原画家さんの色に合わせて企画をチューンしていこうと意識しました。

――私も『赫炎のインガノック』からシリーズにハマってしまいました。1作目の『蒼天のセレナリア』と比べて、グッと暗くなった印象です。

石井:ストーリーもそうですが、『蒼天のセレナリア』以外は基本的に空が灰色なので、そういったイメージを受けるのかもしれません。

桜井:スチームパンクシリーズの世界では、蒸気機関が発達した関係で空が灰色に染まっています。産業革命期のイギリス、特にロンドンは本当に空が黒かった記録があるので、それを世界規模に広げてみました。

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――予約特典の“大機関辞典”について気にされている方も多いと思いますが、どのようなものが収録されているのでしょうか?

桜井:PCゲーム版では世界観を補足する辞典がゲーム内に搭載されていました。コンシューマではそれを再現することがシステム的に難しいということでしたので、内容を書き足しつつ、冊子という形で再現しました。PC版発売後に、ファンサービスとして実施した“Twitterノベル”も全編を修正しつつ、書き下ろしパートを入れて収録しています。修正作業中に「え、こんなに書いたの? 私?」と思うほど、異常な分量を書いていましたね(笑)。

 コンシューマ版ではPC版本編の後日談を描いたWeb小説『ウイツィロポクトリの紅涙』とブックノベル『ヒュプノスの魔眼』をEXシナリオとしてゲーム化しているのですが、そのEXシナリオと本編の間の時系列に入る物語を小説として“大機関辞典”に収録しています。手は加えていますが、『紫影のソナーニル』関係のテキストは公式サイトで掲載した発売前コラムを除いてすべて収録したことになります。もちろん、“大機関辞典”にはAKIRAさんの描き下ろしイラストも入っています。

 特に続編にあたる『ヒュプノスの魔眼』は絶版になっているので、今回収録できてすごくありがたいです。それを知ったファンの方から「これはXbox 360を買うしかない!」とおっしゃっていただいて、ありがたかったですね。描き下ろしのCGを大画面で見たい人は、ぜひXbox 360でプレイしてみてください。

■リリィのとあるイベントでCEROがCに

『紫影のソナーニル Refrain』インタビュー

――PC版をプレイ済みの人のために、『紫影のソナーニル Refrain』の魅力や注目してほしいところについて教えてください。

桜井:EXシナリオもフルボイスとなっていますので、やっぱりそこを見ていただきたいです。あと、『紫影のソナーニル Refrain』というゲームタイトルに仕掛けた大仕掛けもありますので、既存のファンも楽しんでいただけると思います。

――その大仕掛けというのは……?

桜井:……(ニコッ)。

――言えないですよね(笑)。追加部分についてお聞きしましたが、逆にコンシューマに移植する際に削った部分はありましたか?

桜井:艶っぽいシーンは新規のシーンに置き換えたりしています。これが結構うまくはまったような気がするので、プレイされる方は期待していてください! われながら違和感なくキレイにつながったなと思います。

石井:CEROはBを目指していたのですが、最終的にCになりました。本編中にリリィが洗濯されるシーンがあるのですが、そこが原因だったみたいです。だめだろうなと思っていた過激なシーンはすべて問題なかったのですが……(笑)。

桜井:えぇ! 全然エロくないのに!?(笑)。

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――リリィは……少しあれですから(笑)。ちなみに、目標本数はどのくらいでしょう?

石井:ライアーソフトでは『ReBORN』や『大機関 BOX』などのリメイク作も出していて、原作の半数は売れている実績がありましたので、両ハードで15,000本くらいを目標にしています。

――昔の作品は途中でボイスがなくなっちゃいましたから、フルボイスならもう一回買おうと思う人も多かったと思います。私も『大機関 BOX』を買いました(笑)。

桜井:ありがとうございます(笑)。『漆黒のシャルノス』まではパートボイスだったので、そのさみしさをフルボイス版でリベンジした形になります。『白光のヴァルーシア』以降はフルボイスで、一般作品の1.5倍ほどの異常なボイス量がありますね。

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――モノローグ部分にもほとんどセリフがあるので相当大変だと思います。モノローグと言えば、スチームパンクシリーズで大好きなのが、演技をしていない演技のモノローグです。

桜井:シリーズを通じてお願いしている音響監督さんのこだわりで、あえて感情を抑制したモノローグを収録していることがシリーズの特徴となっています。ただ例外はいくつかあって、リリィなどの純粋ゆえのキャラクターは自分を客観視できないため、素が出るようになっています。逆に自意識が進んだキャラクターは大人なので自分を客観視でき、自意識を抑制したモノローグになります。

――あのモノローグは音響監督の方が演出されたんですね。

桜井:その音響監督さんにご助言をいただきながら、2人で作っていった形です。複数スタッフで作っているがゆえの帰結なんじゃないかと思っています。あのモノローグは『赫炎のインガノック』から明確に意識してやり始めましたね。

――野月まひるさんとかわしまりのさんのモノローグが大好きです。

桜井:声優さんにもだいぶ助けられました。電源ありのメディアは本と違って、絵と音楽と声、そしてテキストがマリアージュして成り立つ作品なので、声が入っているメディアならではのよさを大事にしていきたいです。テキストだけよりも全然いいですからね。

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――桜井さんとしては初のコンシューマ作品となりますが、その感想を教えてください。

桜井:フリーの時代に外注として参加したことはあったのですが、企画段階からは今回が初めてですね。とはいえ、実は私自身はそんなに大変ではありませんでした。新規シナリオやイラスト部分はさくさく進んで、2013年の始めぐらいには私の実作業は終わっていたんです。イベントCGをリサイズしたり、16:9に作り直す段階で塗っていない部分を塗り直したり、スクリプターの方は新しいプログラミングを覚えたり……私以外はとても大変だったと思います。

――イベントCGは単純に上下を切っているわけではないんですね。

桜井:少し切り落としつつ描き足す作業をしています。そこは「単純に切るだけではつまらないよ」とCGチームがこだわっていました。

石井:やはりコンシューマ移植が初めてということで、一番苦労しているのはシステムの部分ですね。

――Xbox 360の場合は作ってしまえばPCに移植しやすいとよく聞きますが、PCに逆移植というお考えはありますか?

石井:やりたい気持ちはありますが、全年齢のPCにはもう売り場がないんです。直販や通販がメインになってしまうかもしれませんので、検討したいと思います。

――『紫影のソナーニル』が移植されましたが、その他の作品を移植したいというお考えはありますか?

石井:初めてのコンシューマ移植ということでどうなるかはわかりませんが、今回ご好評いただければ、移植第2弾、第3弾があるかもしれませんので、応援よろしくお願いいたします。

――コンシューマ完全オリジナル作品という可能性はありませんか?

桜井:可能性としてはなくはないと思います。

■女性主人公が多い理由は……手癖?

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――シナリオライターとなったきっかけ、経緯などについて教えていただけますでしょうか?

桜井:母が読書家で、海外小説、特にアガサ・クリスティやエラリー・クイーンの推理小説が好きでした。叔母もSF小説が大好きで、叔母の書棚に行くとアーサー・C・クラークの本があったりと、母と叔母の影響で小さいころから物語が大好きでした。ギリシャ神話や絵本をよく読んでいた子どもでしたね。

 当時、NHKで『アニメ三銃士』をやっていたんですが、それを見た後で母に「三銃士が好き」と言ったら、その年の誕生日プレゼントはアレクサンドル・デュマ・ペールの原作版『三銃士』になりました。それを読んで「うわぁ、陰惨な話」と(笑)。

――英才教育ですね。専門学校に行かれたりは?

桜井:特に学校には行かなかったです。自己流ですね。

――初めて執筆された作品はどのような内容だったのでしょうか?

桜井:テーブルトークRPGの同人誌だった気がしますが……高校の文集でも何かを書いていましたね。当時は世紀末だったからなのか、結構暗いものばかりを書いていた気がします。ファンタジーが流行っていたのですが、後味の悪いサイコホラーが好きでファンタジーの文脈でホラーを書いていました(笑)。インパクトが強いものを書くのが好きだった気がします。

――美少女ゲーム業界に入られたきっかけは?

桜井:少し複雑なんですが、PCゲームやテーブルトークRPGを運営していた遊演体という会社がありまして。1998年に遊演体で働いていたメンバーでゲーム会社を作ろう、とライアーソフトを立ち上げた方々がいて……私は、そこに途中から参加した形ですね。

――ライアーソフトで一番最初にシナリオを書かれたのは『ANGEL BULLET』ですか?

桜井:企画そのものから入ったのは『ANGEL BULLET』ですね。それ以前だと、実は『Little Little Election』にも関わっていました。

――『Little Little Election』にも参加されていたんですね! 『ANGEL BULLET』『絶対地球防衛機 メガラフター』と続いて、シリーズ1作目の『蒼天のセレナリア』を担当されることになりますが、そのころからスチームパンクシリーズの構想はあったのでしょうか?

桜井:『蒼天のセレナリア』の開発が終わって次の企画を考える時に、「せっかく広がった世界観を作ったし、シリーズにしてみようかな」と考えたことが始まりです。『蒼天のセレナリア』で終わらせてしまうのはもったいないと思ったんです。

――私のイメージですが、桜井さんが描く物語のヒロインは、幼くて純粋な少女が多いイメージがあります。これはなぜなのでしょうか?

桜井:……手癖?(笑)

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――手癖ですか?(笑)

桜井:それは冗談としても、私が年若い少女を主人公にする時は基本的に成長ものにしているような気がします。無垢な少女が何かに気が付き、世の中の理不尽に立ち向かう。スチームパンクシリーズの世界もわれわれの世界とあまり変わらず、過酷で厳しい現実が待っている世界なので、それに関して敢然と立ち向かうために必要なのは“純粋さ”だと思っています。きっとその結果じゃないでしょうか。

――男が主人公の場合と少女が主人公の場合と半々だと思うのですが、桜井さんとしてはどちらが好みですか?

桜井:正直な話、どちらかをやっている時はもう1つのほうが楽だなと思っています(笑)。男性を書いている時には「女性のほうがしっくりくるなぁ」と感じていて、女性主人公を書いている時には「男性のほうがいいなぁ」と思っていますね。

――業界の中では異例なほど女性主人公が多いですが、それが女性から支持されている理由なんでしょうか?

桜井:普通PCゲーム業界では、女性を主人公とした企画は通らないんです。それをやり続けられたのが大きいと思います。独自性が生まれて、結果的にお客さんがついたのかなと。

――女性主人公の隣には常に魅力的な男性キャラがいるイメージなんですが、それはなぜなのでしょう?

桜井イケメンが好きだからです!(笑) ただ、イメケンにもいろいろと種類があって、実はそのへんのこだわりはAKIRAさんのほうが強いです。ただの美形ならいいだろうという単純な考えではないですね。ちなみに、『紫影のソナーニル』はA、『漆黒のシャルノス』はM、『黄雷のガクトゥーン』ではテスラとヴァルターが人気ですね。

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――私はギーが好きです。

桜井:究極の草食系のギー先生も人気が高いですね。

――あの決め台詞が好きなんです。

桜井:決め台詞自体は『蒼天のセレナリア』のころから少しあるのですが、しっかりと意識したのは『赫炎のインガノック』でした。私が好きな月蝕歌劇団の演劇や『少女革命ウテナ』の影響だと思いますが、いわゆる決めシーンというのは歌舞伎の手法であり、サンライズロボットアニメの手法でもあり、東映特撮の手法でもあります。さらに言えば、『セーラームーン』や『少女革命ウテナ』、月蝕歌劇団でも踏襲されていて、実は男女や世代を問わず好きな手法なんじゃないかなと思います。時代劇もそうですよね。

――決めシーンの他で、特にこだわっている部分や気をつけているところはありますか?

桜井:スチームパンクシリーズは現代劇ではなく、ある種西洋時代劇です。本来はなじみがない世界の物語を体験していただくので、“モニターの向こうにもう1つの世界がはっきりあるんだ”と、“向こうにあるのは本物の世界と人間なんだ”と感じてもらえるように注意しています。クリアして終わりではないんだと感じられる、空気感のあるシナリオにできればいいなと。キャラクター描写もそうですし、世界の描写もそうですね。“ありそう”、“いそう”というのを意識して書いています。

 どんなに過酷な世界観でも、プレイして「行ってみたいな」と多少は思っていただければうれしいです。あとは書いている時に泣けることです(笑)。自分が泣けない物語はだめだろうと思っていますし、やっぱり書いていて泣けるシーンは皆さんの反応もいいですね。

■実はスチームパンクシリーズをアニメ化する機会もあった

『紫影のソナーニル Refrain』インタビュー

――泣けるシーンを書くためには魅力的なキャラクターが必要だと思いますが、その魅力的なキャラを生み出すコツというのはありますか?

桜井:絵描きさんやスタッフ、声優さんの力が大きいです。キャラクターを作る段階で、スタッフ全体から「こういった特徴はどうですか?」「こんな過去は?」とアイデアを募集するんです。ゲーム制作は集団作業なので、私1人の頭の中から出てくるものだけで作り上げるものではないと思っています。複数のスタッフがいるからこそのケミストリー的なものは大事にしていきたいです。

 PC版の話ですが、体験版と本編で音声の収録日が別の場合があるので、体験版収録時に聞いた声優さんの感想を「なるほど」と思って本編に反映させることもありますよ。綱渡りになってしまいますので、スタッフには悪いと思いますが(笑)。

――スタッフの皆さんから細かくアイデアを募集して、イラストを発注されるのですか?

桜井:ビジュアルイメージについては基本的に原画家さんにお任せしています。物語の役割、立ち回り方、性格などをまとめて発注書としてお渡ししますが、「このキャラは背が低くて……」などの細かい指定はしません。特別に「このキャラは眼帯をしておいてね」とお願いすることもありますが、基本的に具体的なビジュアルの指定はしないようにしています。

 役割とキャラクター性だけをお伝えして、絵描きさんがどのようなものを導き出されるのか待ち構えている状態です。本当に二人三脚で作らせていただいていて、アウトプットされたビジュアルイメージをこちらが受けて、シナリオに反映させています。

『紫影のソナーニル Refrain』インタビュー 『紫影のソナーニル Refrain』インタビュー

――声優さんの力も大きいということですが、シリーズの中で継続して出演されている方が多いですよね。それは信頼されている方にお願いしたいという桜井さんの意向なんですか?

桜井:続投をお願いしている理由は腕にほれ込んでいるからですね。声優さんは役者さんで、役者さんというのは基本的に演技のプロでいらっしゃいます。理論的には演じられない役はないと思っていて、1つのキャラクターだけで終わりというのは本来ないはずなんです。商業的な理由から、毎回新しい方にお願いすることもありますが、私はそれをもったいないと思っていて。「いや、この方はこんなにうまいんだから、こういう演技もできるはず」「前回とは全然違うキャラだけど、この人ならやれる!」と引き続きお願いしています。

――スチームパンクシリーズのタイトルは、必ず“2文字の漢字”+“の”+“カタカナ”で構成されていますが、何かこだわりがあってのことなのでしょうか?

桜井:単純に「大好き!」という理由もありますが(笑)、ライトノベルがジュニア小説と呼ばれていたころに、『星空のエピタフ』という小説がありまして。そのタイトルの響きが本当に好きで魂に刻みつけられたのか、それ以降はほとんど『○○の○○○○』というタイトルにしています。

『紫影のソナーニル Refrain』インタビュー

――物語の内容の点で影響を受けた作家さんやシナリオライターさんはいらっしゃいますか?

桜井:シナリオライターで言うと『Forest』(ライアーソフト/2004年2月発売)の茗荷屋甚六さん(木村 航さん)です。茗荷屋さんのテキストは神がかっていて、1MBくらいあるテキストを韻を踏みながら書いたりするんです。いったいどういう思考回路をされているのか……。意識してたまにマネをしているのですが、足元にも及ばないです。

 TYPE-MOONの奈須きのこさんとニトロプラスの鋼屋ジンさんにも影響を受けました。奈須さんが紡がれるキャラクターの内面描写は凄まじいですね。もちろんバトルも秀逸でいらっしゃいますが、キャラの内面描写、特に女性の心理描写が秀逸でいらっしゃいます。鋼屋さんは見得切りのカッコよさが素晴らしいです。『黄雷のガクトゥーン』では少し意識して見得切りを書いてみました。

――鋼屋さんが書かれた『斬魔大聖デモンベイン』の見得切りは印象的でした。

桜井:鋼屋さんの謳い上げるような見得切りは、媒体を問わずに随一のカッコよさだと思います。実は鋼屋さんとは仲がよくて、鋼屋さんと東出祐一郎さん、海法紀光さん、クトゥルフ研究家の森瀬繚さんたちとは毎週のようにお食事して、しゃべっています。

――シナリオ論を語り合うような会なんですか?

桜井:いえ、「あのアニメだけどさぁ」「最近の鋼屋提督は~」「あのアメコミ見た?」なんて話をする会です。完全に大学生ですね(笑)。

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――それは同席してみたいですね(笑)。桜井さんは1年に1本は新作を書かれていますが、アイデア出しの時に行き詰まったりしませんか?

桜井:めったにないですね。ドラマツルギーを大事にしているので、世界観とシチュエーション、キャラクターが出そろえば、あとは自然とお話が生まれます。それができたら、盛り上がる部分などの緩急を意識してプロットを組んでいくだけです。

石井:執筆速度は業界でもトップクラスだと思います。

――どのくらい速いのでしょう?

桜井:そんなに速くないんですが……。シナリオの執筆のみで言うと、概ね1カ月かからないくらいですね。ですが私はディレクターも兼ねていますので、一作を作り上げるために1年をたっぷり使います。

――ライトノベルだったら1カ月に5冊以上は出せちゃいますね。

桜井:そんなにやりたくない(笑)。でも、PCゲームのシナリオをお1人で書かれている方の執筆速度はすごいですよ。

――フリーになられてライトノベルなどにも挑戦されていますが、いつごろフリーになられたのでしょう?

桜井:『黄雷のガクトゥーン』の続編『シャイニングナイト』が発売された後の2013年の9月ですね。今は小説を書いたり小説を書いたり、ゲームのお手伝いをしたり、小説を書いたりしています(笑)。

――ものすごく小説を書いてらっしゃいますね(笑)。でもゲームは初耳でした。

桜井:まだゲームタイトルは言えませんが、正式発表時には私の名前も公表されると思いますので、ご注目お願いします。

――フリーになった今だからこそやってみたいことはありますか?

桜井:前からずっと言っているのですが、絵本をやってみたいです。でも、お知り合いの絵本もやられているライターさんから「色のついちゃったライターさんは名前を変えなきゃダメな時もありますよ」と聞いたので、もしかしたら名前を変えて絵本を描いているかもしれませんね。

 あと、周りのお友だちがどんどんやっているからというミーハーな理由ですけど、いずれはアニメの脚本もやってみたいです。

石井:できればスチームパンクシリーズでアニメ化をしたいよね。

桜井:以前に何回かお話をいただいていたのですが……どれもうまくいかなかったんです。

――今アニメ化するとしたら、どの作品にされますか?

桜井:『紫影のソナーニル』か『漆黒のシャルノス』ですね。『黄雷のガクトゥーン』も向いているかも。『赫炎のインガノック』は……過酷かもしれません。

『紫影のソナーニル Refrain』インタビュー 『紫影のソナーニル Refrain』インタビュー

――『赫炎のインガノック』は倫理的な部分で難しい気はします。

石井:そうなんです。コンシューマへの参入を検討した際に、『赫炎のインガノック』は倫理的な部分で厳しいと考えて、『紫影のソナーニル』に決めた経緯もあります。

桜井:『赫炎のインガノック』は非常に残酷な世界ですからね。

――難しいとは思いますが、アニメ化と『赫炎のインガノック』の移植にも期待したいです。スチームパンクシリーズについては、すでに新作の構想はあるのでしょうか?

桜井:実は、2本くらいはすでに構想があります。

――いずれライアーソフトさんから発売されるのでしょうか?

石井:桜井さんがうちで出していいよと言ってくれれば(笑)。

――ニトロプラスさんで発売とか(笑)。

桜井:(笑)。ただ、出すならやっぱりライアーソフトですね。

石井:私としてはひと声かけてほしいですが、出せるところで出していただければとは思っています。

――スチームパンクシリーズ第7弾、第8弾にも期待しております! 最後に『紫影のソナーニル』の発売を楽しみに待っている読者へ、メッセージをお願いします。

桜井:コンシューマ初参入なのにシリーズと付いているうえに、5作目というのは抵抗があるかもしれませんが、1本1本独立して楽しめる作品として作っています。今回の『紫影のソナーニル Refrain』も未経験の方でも楽しめるように作っていますので、そこはご心配なさらずに触れていただければうれしいです。ぜひ、もう1つの世界の1907年を楽しんでください!


●ごえモン プロフィール

ごえモン

 ADVや美少女ゲームこそが自分の“輝き”だと豪語する電撃オンラインの編集。桜井光さんに会いたいがために、今回の特集を企画した。スチパンでは『赫炎のインガノック』が一番好きだが、『黄雷のガクトゥーン』も大好き。最近は忙しすぎて『シャイニングナイト』を途中で積んでいるため、この仕事を続けるかどうか割と本気で悩んでいるという。

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