2014年2月8日(土)
『ゼロから始める魔法の書』で第20回電撃小説大賞《大賞》を受賞した虎走かける先生のインタビューをお届けする。
▲しずまよしのり先生が描く『ゼロから始める魔法の書』のカバーイラスト。 |
本作の舞台となるのは、魔術が主流で、世界がまだ魔法という技術を知らなかった時代――。世界を滅ぼす可能性を秘めた魔法書“ゼロの書”を探して旅をする魔女・ゼロと、その護衛役を引き受けた獣人の傭兵の交流を描いていく。
そんな本作で電撃小説大賞《大賞》を受賞した虎走かける先生を直撃インタビュー。気になる執筆秘話からキャラクター愛まで、心のままに語っていただいた。
――いよいよ電撃文庫『ゼロから始める魔法の書』が2月8日に発売されます。今の素直な心境を教えてください。
ドキドキしています! 発売が楽しみな気持ちと評価が心配で怖い気持ち、その両方がせめぎ合っています。今はもう、読んでくださった方が「おもしろかった!」と喜んでくれることを祈るのみです。
――本作は傭兵を生業にしている獣人が美しい魔女・ゼロと出会い、一緒に世界を滅ぼす力を秘めた魔法書を探す旅に出るというストーリーです。途中、魔女狩りを行う教会側の陰謀に巻き込まれたり、ゼロと傭兵を狙う少年と出会ったり。そんな魔法ファンタジー作品を書こうと思ったきっかけを教えてください。
その理由はたった1つ。子どものころから、中世ヨーロッパ風のアイテム――木製の馬車、石造りの城、羊皮紙、分厚い木の表紙でできた祈祷書などが大好きで、ファンタジー以外の作品を書くことは考えられなかったからです。
魔術や魔法の設定も一般的に知られているものをベースにしました。私がオリジナルで作った設定といえば“獣堕ち”くらいかな? じっくり本編を読むと「中世にはまだ存在していないよ!」というアイテムも登場するのですが、それはそれで……(笑)。例えば、傭兵がしれっと「辞書を引け」というんですね。実際、気軽に庶民が閲覧できる辞書が流通するのは、もっと時代が経ってからだと思うのですが、書き手の発想を自由に設定へ組み込めるのもファンタジーモノの魅力ですから。王道の設定に、私らしいモチーフを加えて完成したのが今回の物語になります。
――なるほど、ご自身の大好きなものを詰め込んだ作品なんですね。
それしか書けないんです! キミしか見えないんです! 逆に学園ラブコメを書けといわれたら「探さないでください」と置き手紙をして家出すると思います。だって私に楽しい学園生活などなかった……。学生時代は“ぼっち”でしたから。1人で悶々と考えることで、小説を作るための想像力は磨かれたかなと(笑)。
――では、続いて登場人物についてお聞きします。本作の魅力の1つは、読者の共感を呼ぶ、主人公の傭兵と魔女・ゼロのいきいきしたキャラクターだと思います。この2人はどのようにして誕生したのでしょうか?
もともと半人半獣が好きだったので、主人公にしたいという気持ちはありました。特に毛皮のモフモフ感! 人間誰しも一度は大きな犬にまたがって、最高のモフモフ感を味わってみたいと思うものですよね? その願望を作品にぶつけてみたんです。残念ながら、私の家には猫しかいなかったので、毛皮の描写は飼い猫の腹に顔を埋めてはその感触を参考にしました。
それから彼(獣の傭兵)はディズニー映画の『美女と野獣』のように外見がケモノというだけで、中身はごくふつうの男性です。ずるいことも、スケベなことも考えるし、ちょっとヒーロー気取りのこともしたい。優しい恋人も欲しいし、本当はみんなと仲よくしたい……。ただ、醜い外見のせいで人間から迫害されてちょっと厭世的になってるだけ。私達が暮らす現実世界でも相手が自分のことを理解してくれず、悲しくなる時がありますよね? 「もっと俺の中身を見てくれよ!」という誰もが抱く願望が投影されているキャラクターでもあります。
――では、ゼロはいかがでしょうか。キャラクターメイクは大変でしたか?
ゼロは傭兵と違って描くのが難しかったですね。まず、彼女は森羅万象を研究している魔女だから博学なわけです。当然、私よりも頭がいい。自分より頭のいいキャラクターの思考回路やしゃべり方を想像するのは大変でした。さらに彼女の性格が書いている途中で変わってしまったというのも予想外の出来事で……。
実はゼロは、プロットの段階では“素直クール”のみの属性でした。つまり、素直に自分の好意を口にする、クールで知的な女の子。イメージは『銀河鉄道999』に登場するメーテルのような感じですね。でも、気が付いたら、すごく世間知らずで食いしん坊で、ちょっと幼い印象の女の子になっていたんです。
――食いしん坊で世間知らずのメーテル……これは手に負えないですね(笑)。
まったくの別人ですからね(笑)。でも、そのおかげでゼロと傭兵は対等な存在になれた気がします。ゼロは世の中の常識は知らないけど、傭兵は世の中のことをよく知っている。ゼロには学問的な知識はあるけど、傭兵には知識がない……というように、バランスが取れたんです。足りない部分を補って、2人の会話がうまいこと回るようになったのはよかったなぁと思っています。
――それからゼロは小悪魔な発言で傭兵を惑わしたりしますよね。男子がひれ伏したくなる美少女を書く虎走さんはドMだと察しましたが、いかがでしょうか?
どこに需要のある質問なんですか! う~ん、逆に登場人物に関しては、ドSなのかな、と思います。ゼロにも試練をたくさん与えてあげたいというか。口うるさくて、威勢のいい女が苦しんでいる姿って、最高にグッときますよね……って、あくまで創作の中の話ですよ? 私の社会的地位のために、そこはちゃんと書いておいてください(笑)。
――わかりました! もう1つ、忘れてはいけないのが、ゼロと傭兵のパーティーに途中から加わる魔術師団の少年・アルバスですね。彼の活躍にも注目したいです。
はい。実はプロットの段階では、アルバスはいなかったんです。でも、書き始めたら、アルバスが突然物語に現れて、そのままメインキャラクターとして居座ってしまったという(笑)。最終的にアルバスのせいでプロットと全然違う話になってしまい、私自身がびっくりしたほどです。
――アルバスが自らの力で物語に割り込んできた、物語が必要としたキャラクターだったのでしょうか?
そうかもしれません。この物語を書いている時は、キャラクターが勝手に動いて、物語を作ってくれている感覚が常にありましたから……。まるで導かれるようなイメージですね。私が下心を出して萌えるセリフをゼロに言わせようとすると、「吾輩はこんなセリフ言わないんですが、なにか?」と強く抵抗されたりしました。その度に「すいません! そうですよね~! ゼロってそんなキャラじゃないですよね」と謝りながら修正して(笑)。
――ということは、物語前半でゼロが全裸になるシーンがありますよね? それは彼女が自ら進んで脱いだと……。
ゼロが裸になるのは、決して私が下ネタ好きだからとか、サービスシーンが大好きだからという理由だけではないと思うんです。美少女が全裸で抱きついても、相手が獣人だとあまりいやらしくならないですし。ふつうの男子がラッキースケベをするとエッチな感じが出るんですけど、動物の姿をしている人が相手だと、不思議とハートフルな感じになるなんですよね。
――ハートフルなラッキースケベですか(笑)。
はい。でも、担当編集さんに「女性が引きますね」と指摘され、泣く泣く変更したシーンもあります。私的にはかなり控えた下ネタをやっていたんですけど……。もし、本作の続きが書けるとしたら、担当編集さんに修正されないよう頑張りたいです。
――では、本作に登場するキャラクターの中で、虎走さんが一番気に入っているのは誰ですか?
“ゼロの書”のカギを握ると言われている、十三番という名の魔術師です。陰気で、嫌味で、頭がよくて、自分が興味のあることには熱中するけれど、それ以外は全部がゴミだと思っているような理想の変人……。そんな十三番を書くのはとても楽しかったです。十三番が傭兵やゼロ、アルバスとどのように関わってくるのか、それも楽しみにしていただけるとうれしいですね!
――今、ここに電撃文庫を買おうとしている読者がいると仮定して、どのような言葉でご自身の著作をアピールしますか?
ラッキースケベあるよ! ゼロかわいいよ! 全裸になるよ!
――どうしてハレンチなお店の呼び込みのようになっちゃったんですか! 担当編集さんがコワイ目でこちらを見てるので、もっと詳しい説明をお願いします(笑)。
ゼロと傭兵のボーイ・ミーツ・ガールを一生懸命書きました! 魔女と獣人……性格も育ちも違う2人が偶然出会い、一緒に旅をしながら紡いでいく物語の行方をお楽しみに。それから人気イラストレーター・しずまよしのりさんの描くゼロは本当にキュートです!
あと「傭兵は虎がモデルなので耳が丸いんです」といった細かい要望まで叶えてもらい、世界観にぴったりのイラストを書いていただきました。本当にありがとうございます! 最後は「ファンタジー作品って難しそうだな」と思っている方にも読んでいただけたら……。ハイなフリをして、ハイじゃないファンタジーを読んで、「こういう世界観もおもしろいかも♪」と気付いていただけたら幸いです。そしてファンタジーを読む人が増えたら、書く人が増える。その作品を私が読んで喜ぶ(笑)。その流れを作っていきたいですね。
――最後に読者のみなさんへメッセージをお願いいたします!
この小説を書いている時、ファンタジー作品は古いとか、獣人が主人公なんて今どき受けないとか、ヒロインの一人称が“我輩”じゃダメだとか、周囲からいろいろ言われた私ですが、電撃小説大賞《大賞》をいただくことができました。「100パーセント自分の趣味で書いたら売り物にならない」という言葉をよく聞きますが、たぶんそうでもないのだと思います。
自分の好きなものをとことん突き詰めて、「私がおもしろいと思うのはこれだ!」と証明書を叩きつけるような気持ち……。私はやっぱり、ファンタジーが好きなので今後も自分の心に正直に作品を書き続けていきたいと思っています。そして、設定とあらすじを見ただけで「これ、虎走が書いたヤツだろ?」と読者のみなさんにわかってもらえるような作家になることが目標です。どうぞよろしくお願いいたします。
(C)虎走かける/KADOKAWA CORPORATION 2014
イラスト:しずまよしのり
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