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2014年3月1日(土)

『C.S.T.情報通信保安庁警備部』で電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》に輝いた十三 湊先生への制作秘話インタビュー

文:電撃オンライン

 『C.S.T.情報通信保安庁警備部』で電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》を受賞した十三 湊先生のインタビューをお届けする。

『C.S.T.情報通信保安庁警備部』

 本作は、現代からさほど遠くない未来、脳とコンピュータを接続するブレイン・マシン・インターフェイス(通称BMI)が一般化した世界を描く小説。そんな世界で“神”を名乗る犯人によって無差別大量殺人が発生。情報通信保安庁警備部に所属する隊員たちによって事件に立ち向かっていき、そして真実へと近づいていく。

 インタビューでは、十三先生に本作の制作にまつわる秘話や登場キャラクターである御崎蒼司と伊江村織衣について、見どころなどについて伺っている。

――メディアワークス文庫『C.S.T.情報通信保安庁警備部』が発売を迎えました。今の素直な心境を教えてください。

 受賞作特設サイトでしか見られなかったイラストや、自分の文章が本になった姿を早く見たい!! ……という気持ちもあるのですが、小心者なのでいまだに「本当にこれを本にしてもらっていいのだろうか……」という不安を拭い去ることができません。本が出るまでずっと心配していると思います。

――本作の物語を作る上で、特にこだわったところはどこでしょうか?

 「○○が犯人なのか?」という点も含めて、読んでいる人がドキドキできる展開にする、という点はこだわっていました。実際のネットワークセキュリティやコンピュータの仕組みから考えると、ありえない点や不要な作業なども出てくるのですが、リアリティよりはドキドキの方を大切にしたいと思っていました。

――執筆にはどれくらいの期間をかけたのでしょうか?

 ちょっと書いて、半月くらい放置してまた書き始めて……といった調子で4カ月くらいでしょうか。ひととおり推敲した後、「今の実力では、もうこれ以上のものにはならない」と締切の2カ月くらい前に電撃小説大賞に送ったのですが、もう少し練ればよかったというところが後からたくさん出てきてしまいました。寝かせてから推敲するのも大事ですね……。

――キーパーソンとなる御崎蒼司と伊江村についてお聞きします。キャラクターメイクのコツや彼らが誕生した経緯を教えてください。

 最初にヒロインが“もう1人の自分”と対話するシーンが思い浮かんで、それが伊江村と犯人である〈AetΩ〉になりました。無口で賢い美少女が好きなので、伊江村のその設定と2人の対話シーン、2人の関係性を成立させるために、ストーリーと他のキャラクターを作っていったという感じです。

 主人公の御崎は、父親と男子中学生が1人の中に同居しているようなイメージです。伊江村にとって家族と異性の間に位置する存在としてつくっています。中学生みたいなところは可愛いと思ってますが、あまりかっこいい男性として描けなかったのは心残りです。

――その他のC.S.T.メンバーのキャラクターメイクはいかがでしょうか?

 伊江村と御崎が無口なので、同期の浅井と山上は自然とよくしゃべるキャラクターになりました。友だちとは違う、同期の気安さや絆みたいなものが描けるといいなと思っていました。伊江村の部下の篠木は、御崎よりも先にできたキャラクターで、都合のいい王子様ポジション。

 最後のほうは、どう考えても御崎より篠木の方がいいだろう……とわたし自身が思ってしまって、書きながら慌てました。脇役の中でいちばん好きなのは、ヒロインのアンチである岡田隊長です。心が狭くて大人げない。

――本作の見どころの1つは、恋愛要素だと思います。SF的世界観でありながら、女性も楽しんでもらえる作品になっているのではないでしょうか。そのあたりも意識して書かれたのでしょうか?

 特に意識していたわけではないのですが、わたし自身が少女小説から本の世界に入っていったので、そのテイストは入っていると思います。個人的には、ストレートな恋愛ものや女性向けに特化した作品よりは、本筋は別にあって恋愛はエッセンス程度に入っているような作品、男性にも女性にもファンの多い作風の方が好きなので、無意識にそういうものを書きたいと思っていたのかもしれません。

――十三先生にとって、愛に必要なものはなんでしょうか?

 夢のない回答で申し訳ありませんが“お金と時間”です! “貧すれば鈍する”で、生活に余裕がないと思いやりの気持ちなんてわいてこなくて「働けば1時間で3000円稼げるこの時間を費やしているのに、この人の態度ときたら……!」とか考えはじめますからね。昔のわたしのことです。

――ご自身的には本作を通じて、どのような想いが読者のみなさんに伝わればよいと思いますか?

 たったの一言が、人との関係や人生を大きく変えたりすることもあるよね、ということでしょうか。

――本作は映像を意識したシーンメイクが多いような気がします。文章を書く時は、登場人物たちが映像で頭に浮かんだりするのでしょうか?

 基本的に書く時にはいつも、話の流れが映像の形で思い浮かんで、それを文章におこすという形を取っています。逆に、映像にならない設定などを文章の中で説明するのは苦手かもしれません。今回初めてSF要素やコンピュータを扱った作品を書くことになって、説明しなければならないことが多く苦労しました。

――ご自身が考える本作の魅力はどこででしょうか? 3つほど選んで、その理由も教えてくださるとうれしいです。

(1)不器用な恋愛模様

 自分ではあまり意識していなかったのですが、選考では恋愛要素を評価していただいたようなので。大人になれば自動的に恋愛スキルが上がるわけではないし、自身にそれ相応の“売り”がなければ可愛い女の子が都合よく寄って来たりはしない。それが悲しい現実です……。

(2)殺人ウイルスによる事件とヒロインにまつわる謎

 サイバー犯罪を扱っていますが、キーボードをやたらとカタカタ叩くクラッキング合戦ではなくて、ワクチン作成のためのウイルス検体をめぐる攻防を描いています。ヒロインが見えないところで何をしているのか、過去に何があったのか、という謎も楽しんでいただければ幸いです。

(3)キャラクター

 作者の愛がこもってます!

――突然ですが、ゲームで熱中しているものがあれば教えてください

 自制心というものが欠けているので、ゲームにはまっていた時期は、寝ないでいつまでもやり続けていました。生活が破綻するので、今は封印中です。おもしろそうだからやってみたいゲームはいくつかあるんですけどね。

――今回の出版にあたり、担当編集の方からどのようなアドバイスをいただきましたか?

 たくさんのアドバイスやご提案をいただいたのですが、特になるほどと思ったのは「これにカッコいい名前つけて」でしょうか。わたしは名称のかっこよさに無頓着で、“記憶データ”とかそのまんまな名称が多いので、ムード作りが大事なのだなあと。タイトルにもなっている組織名“C.S.T.”はご提案をいただいてつけたもので、応募時にはなかったものです。

――今後、電撃小説大賞を目指す方への応援やアドバイスなどお願いいたします。

 特に戦略もなく初応募してしまったので、有益なことは何も言えないのですが……とにかく最後まで書き上げること、人に読んでもらって意見をもらうことは大事だと思います。自分が意図していたことが伝わらないこと、まったく違う受け取られ方をすることもありますし、意見をもらって応募前にできるだけ穴を埋めておくのは有効ではないでしょうか。わたしは今回それをしないで応募してしまったので、後からツッコミどころがたくさん出てきて後悔しました。

――最後に今後の抱負もふくめ、読者の方へメッセージをお願いいたします。

 つたないところも多い作品ですが、手に取ってくださった方に楽しい時間を提供できるよう、今後も精進してまいります。「新人のために寄付してやらあ!!」と思ってくださる男気あふれる紳士淑女の皆様、拙著『C.S.T.情報通信保安庁警備部』をどうぞよろしくお願いいたします!

データ

▼『C.S.T.情報通信保安庁警備部』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:KADOKAWA
■発売日:2014年2月25日
■定価:本体570円+税
 
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