2014年3月10日(月)
世界から集まった100以上の出展者と数多くのインディーズゲームを遊ぶことができたインディーゲームの祭典“BitSummit MMXIV”。
ここでは最終日のステージで実施された、4本のセッション&講演、展示作品から大賞を決める“BitSummitアワード”について紹介する。
先日発表された開発者支援プログラム“ID@Xbox”についての詳細が、日本マイクロソフトの松山氏から語られた。Xbox、Xbox 360と続けてきたことの集大成となり、Xbox One向けに制作されたゲームをデベロッパーが独自にデジタル配信を行える新しいプログラムが、このID@Xboxになるとのこと。
▲まだ日本では発売されていないXbox Oneだが、ゲームが配信されるときには世界中のストアで買うことができるようになる。 |
このプログラムのメリットは“Xbox Oneの開発機材(2台)が無償で提供される”、“Unity Pro for Xbox Oneを無償で利用できる”、“Xbox Oneの機能をすべて実装できる”、“配信されるゲームの取り扱いに差異はない(ストアには同等に並ぶ)”、“Xbox Oneを展開している地域すべてで配信可能”という5点。また日本専任の担当チームが結成されているので、サポート体制も整っていることが発表された。
▲マイクロソフトブースに用意されていた説明パネル。詳しくはWebサイトがオープンしているのでそちらで確認できる。 |
2月20日に発表された故・飯野賢治氏の遺した企画を実現する“KAKEXUN(カケズン)プロジェクト”について、その概要が語られた。
▲登壇者よりも目立っていた飯野氏のパネル。 | ▲コンセプトアートも公開された。飯野氏の企画がどのように実現されるのかを見てみたいところだ。 |
登壇したのは、飯野氏と18年の付き合いがあった江口勝敏氏(プロデュース)、飯野氏と親交の深かった飯田和敏氏(チーフディレクター)、そして佐藤直哉氏(制作プロデューサー)。佐藤氏は『エネミー・ゼロ』や『D2』などを飯野氏とともに制作した人物。彼らが、このプロジェクトと飯野氏への思いを語っていった。
『KAKEXUN』は2012年に書かれた全10数ページの企画書で、飯野氏が「やり残したことがある」と最後に江口氏に渡したものだという。飯野氏が亡くなってから1年をかけてこのプロジェクトにかかわるスタッフを集めた。「キーワードは、四則演算、マルチデバイス、脳のオリンピックという3つ」(江口氏)で、250万年前の金星が舞台。流された短いビデオでは、“宇宙を遊べ”“世界を解け”などのキーワードも見受けられた。
そして、このプロジェクトはクラウドファンディングで資金を集めて制作される。3月20日から60日間で1,500万円の支援を目指していく。援助額が予定に到達しない場合は「全額返金でプロジェクトは中止」(江口氏)となる。利用するファンディングはモーションギャラリーで、500円から援助可能とのことなので、興味がある人は3月20日以降にサイトをのぞいてみよう。
インディーズゲームの販売サポートプロジェクト“Unity Games Japan”として、発売予定のいくつかのタイトルが明らかにされた。
中でも海外と日本の架け橋としてサポートをしている“Kakehashi Games”との取り組みで注目されるタイトル『ボールポイントユニバース:インフィニト』は、敵、味方、背景などすべてがボールペンで描かれた世界で遊ぶシューティング・ジャンプアクションで独特の個性が光っていた。
▲『ボールポイントユニバース』の対応機種はタブレットやPCなど。STEAMではすでにPC版が発売されている。 |
▲『ARCH ANGEL』は本格ダンジョン探索アクションRPG。iOSとAndroidで3月に発売予定だ。 |
3DS『ルイージマンション2』を制作したNext Level Gamesのゲームプレイプログラマである、Brian Davis氏の特別講演が行われた。この講演では、個人的な体験と影響を受けたもの、ゲーム制作における私見というテーマで、クリエイターへのメッセージが伝えられた。
彼は、小さい頃に遊んだゲームのほとんどが日本製だったという。そして「シャイだった自分を変えてくれたのはゲームだった」ことにより、テレビゲームを作るという目標ができ、高校や大学で絵を描くことやゲームデザインについてを学んでいった。
▲ブライアン氏の任天堂のゲームの原体験があったからこそ『ルイージマンション2』を作ることができたといえる。 |
大きなテーマとなったのは“任天堂のゲームはなぜおもしろいのか?”で、その研究はその後の彼のベースになっているという。「失敗を恐れずに、失敗したときにいかに早く次に進めるか。まずはやってみることが重要で、失敗から学びさえすれば問題はない。思えばそれは小さい頃から知っていたことでした」と述べた。
プラチナゲームズの神谷英樹氏と食事をしたときの話として、Next Level Gamesとプラチナゲームズで似ているところがあることに気がついたという話も。まずゲームプレイを大切にするところ、次に早い段階でプレイヤブルのものを作るところ、任天堂のサードパーティであること、これらが似ている点だという。
『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』が好きだと話したところ、神谷氏も好きだと言ってくれて「何百キロも離れた場所で同じものに共感していた。国は違えど、お互いがゲームプレイが第一ということで作っていることに感銘を受けた」と語った。
続いてDavis氏は「日本のゲームを遊んだ原体験を持っているデベロッパーはたくさんいて、日本のデベロッパーの話を聞きたがっているはずです。次世代へと引き継がれる大事な知識がそこにはあります」と語った。任天堂のWebサイトに掲載されている“社長が訊く”コーナーは、いろんな人の話が聞けるのでお気に入りの1つだとか。
現在、インディーゲーム開発者のトレンドは少人数で開発することで、その状況は80年代に戻っているが、これは意味のあることだとブライアン氏は言う。「小規模のチームの場合、1人で何役もこなすので守備範囲が広くなる。ユニークなアイデアが浮かぶようになったり、個人的にはそれがゲームプレイプログラムにはよいことになると思います」と語った。
また、あるゲームデザイナーの言葉にある「考えることにお金はいらない。いつでも新しいアイデアやゲームは考えられる」とということを常に意識しているという。「プレイヤーが思いもつかないことをゲームプレイにすることは大事。予想もしないことを創作する方法とそれをほかの人たちと共有することを、私は心がけています」と述べた。
最後にDavis氏は「私たちは恵まれた時代にいます。家にいて開発ができるし、あらゆる場所に発表することができます。それゆえに競争率も高いですが、それも切磋琢磨という点ではいいこと。つらくなったときはいつも、友人たちと遊んだときのことを思いだします。子供の頃、自分はゲームに助けられました。人々にプラスの要因を作るために、私はゲームを作っているのです。とにかく作り続けていきましょう」という言葉で、講演を締めくくった。
『AZEL-パンツァードラグーンRPG-』や『クリムゾンドラゴン』の楽曲を担当した小林早織氏と、『幻想水滸伝II』などでボーカルを担当した高橋由美子氏によるライブが開催された。
▲『Shattered Moon』などの楽曲が演奏された。 |
株式会社ブレインストーム代表の中村隆之氏によるライブステージ。飯田和敏氏がボーカルとギターで参戦するなど賑やかなステージとなった。
▲ファンにはおなじみのゲームミュージックに加え、パフォーマンスも見どころだった。 |
BitSummit MMXIVのフィナーレは、100作品以上も出展されたタイトルの中から、それぞれの部門で優れた作品を決定し、表彰するBitsummitアワードのステージ。
投票は、来場者、出展者、メディアにより行われた。各出展者は、ステージでの発表で各賞の受賞を初めて知ることになるこのアワード。受賞を聞いた瞬間に喜びを爆発させるデベロッパーの姿に、見ているほうも熱くなってきた。なお受賞作品は以下のとおり。
『モダンゾンビタクシードライバー』(Vitei)
『ラクガキ忍者』(Team Poyhaymen)
『ギャングスオブスペース』(littlebigMMO)
『STRATOLITH』(Winning Blimp)
『少女とロボット』(Flying Carpets Games)
『キラキラスターナイト』(RIKI)
『ミリオンオニオンホテル』(オニオンゲームス)
『ミリオンオニオンホテル』(オニオンゲームス)
『重装機兵レイノス』(ドラキュー)
大賞を受賞した『モダンゾンビタクシードライバー』は、Oculus Rift(オキュラスリフト)というバーチャルリアリティに特化したヘッドマウントディスプレイで遊ぶゲーム。本作は今回、初めてプレイできる状態で出展された。
受賞時にステージに上がった2人が5カ月をかけて制作したゲームで、オキュラスリフトの発売(まだ一般販売は行われていない)にあわせての発売を考えているそうだ。
プレイヤーはタクシードライバーとなり、ゾンビが住む町でゾンビを乗客として目的地まで運んで運賃を稼いでいく。実際にプレイすると、ゾンビは常にうーうー唸っていたり、ポップな色づかいの街並みだったりで、かなり独特な印象。
オキュラスリフトを装着し、ヘッドホンをかけてプレイするので、没入感は相当なもの。会場ではプレイするのに常に待ちが発生していたということもあり、納得の受賞だった。
オキュラスリフト対応のゲームはほかのデベロッパーからも出展されていたので、インディー系にも注目されていて、インディー系でも開発できるという点で、今後さらに注目されていくことが予想される。
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3月7日~9日の3日間にわたって開催されたインディーズゲームの祭典・BitSummit MMXIVは、こうして幕を閉じた。
家庭用ゲーム機でもインディーズゲームが注目される状況になってきており、SCEやマイクロソフトがスポンサーとして出展して、デベロッパーへのサポートを強調していたのが印象的だった。
BitSummitは、PCやスマートフォンアプリ、3DS、PS4、Xbox One、Oculus Riftなど、ありとあらゆるプラットフォーム、さまざまなジャンルのゲームに実際に触れられるイベントとして、訪れる人にとっても本当に楽しめるイベントになっている。
イベントの送り手もゲームの作り手も、そして訪れる人も、ゲームが好きであるという共通項が揺るぎないという点が、いい雰囲気を醸す大きな理由だろう。1年前と今回とではインディーズゲームを取り巻く状況はかなり変化した。来年はどんな状況でBitsummitが開催されるのか、今から楽しみにしたい。