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2014年3月20日(木)

【GDC 2014】旧『FFXIV』の失敗は『FFXI』の成功体験から来た慢心や映像偏重主義。吉田プロデューサーが語る『FFXIV』のこれまでとこれから

文:megane

 現地時間3月17日~3月21日の期間に、サンフランシスコで開催されている“Game Developers Conference 2014”。3日目にあたる3月19日に、『新生FFXIV』のプロデューサー兼ディレクターを務める吉田直樹さんのセッション“Behind the Realm Reborn”が行われた。

『新生FFXIV』

 このセッションでは、2010年9月にローンチを迎えた『ファイナルファンタジーXIV』の失敗から、『ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア』として復活を遂げるまでが題材となる。どのような理由で旧『FFXIV』が失敗してしまったのか、『新生FFXIV』として復活を成し遂げられた理由は何か、といったことについて話された。3年強におよぶ事柄などを1時間に凝縮しているということで、テンコ盛りの内容となった。

『新生FFXIV』 『新生FFXIV』
▲吉田プロデューサーの自己紹介。『FF』シリーズでは黒魔道士が大好きで、『新生FFXIV』でも黒魔道士をメインとしている。▲1時間の中にこれだけの要素が詰め込まれていた。

 なお、電撃オンラインでは現地時間3月18日に行われた吉田プロデューサーへのインタビューも掲載中だ。『新生FFXIV』に興味がある人はそちらも合わせて参照して欲しい。

■散々な船出となってしまった旧『FFXIV』。その理由は

『新生FFXIV』
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 まず初めに、旧『FFXIV』はなぜ失敗してしまったのか、ということが語られた。2010年9月にローンチを果たした旧『FFXIV』、そして吉田さんがプロデューサー兼ディレクターとして就任したのが2010年12月。この間に行われた判断とは一体どのようなものだったのだろうか。

 最初に伝えられたのは、ユーザーおよびメディアからのレビューの評価やスコア。メディアによるレビュースコアの平均であるMetacritic averageは48であり、ハッキリと落第点という評価になっている。この原因とは、サーバーが1日に400回もクラッシュするほどの不安定性や不親切なUI、コンテンツ量の不足、物語の欠如などが挙げられた。では、『FFXI』で高い評価を得ていた開発チームによる最新作に、なぜこのようなことが起こってしまったのだろうか。

『新生FFXIV』 『新生FFXIV』
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 吉田さんはその理由の1つとして「『FFXI』での成功体験によるもの」と述べた。2002年より現在まで運営がされている『FFXI』は、スクウェア・エニックスに安定した収入をもたらすほどの多大な成功を収めた。しかし、その次なる展開である『FFXIV』が登場するまでに実に8年も年月が経過している。その間には「MMORPG市場の変革」などがあった。

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 また、開発当時のスクウェア・エニックスは、とにかくグラフィック重視のソフト開発が行われていた。PS2時代に他社を凌駕するグラフィック技術で存在感を示した同社だが、そのグラフィックへの意地が開発およびプレイのレスポンスに大きな足かせとなっていた。

 これについて吉田さんは「本当に必要だったものは、グラフィックのクオリティの追求ではなく、ユーザーのニーズを考えた、ユーザーのプレイ体験の向上を追求すること」と語った。

 しかし一方で、当時の開発チームについて「成功体験から目を背けて、新たな手法を取るのはとても勇気がいることだし、難しいこと」とも述べた。

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■街中のフラワーポットとキャラクターのポリゴン数が同じ!?

 当時の開発チームがグラフィックを偏重していた理由として、街中にあるオブジェクトの1つであるフラワーポットの例が挙げられた。どこにでもあるようなフラワーポットだが、このフラワーポット1つに1000ポリゴン、そして150ラインものシェーダーコードが書かれていた。これはプレイヤーキャラクター1人と同等であるという。

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 こんなリッチなオブジェクトが街中に置いてあれば、さぞかし描画が重かったことだろう。そこで開発チームが取った手法は、グラフィックのクオリティを落とすことではなく、表示人数を20人まで減らすことで負荷を軽減することだった。これはまさしくユーザー体験よりもグラフィックを尊重した例である。

 このグラフィック偏重主義について、吉田さんはグラフィッカーのことを「刀匠のような職人」と表現した。前述したようにPS2時代ではグラフィッカーが精魂込めて丁寧にグラフィックを作り上げていくことで、当時としてはすばらしいグラフィックを実現していた。しかし、世代が進んでフルHDが当たり前の時代になってくると、合わせてグラフィッカーの数も増やさなければいけなくなる。

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▲刀匠のイメージとして出てきたのは懐かしの『ブシドーブレード』。
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▲現世代でPS2時代と同じようなことをすると、大量の人員が必要になる。

 また、グラフィッカーにとって同じ作業をしていう仲間も、ある意味ライバルとも言える。切磋琢磨しあいグラフィックのクオリティを上げていった結果が、キャラクターと同等のポリゴン数を持つフラワーポットであるとした。

■旧『FFXIV』が失敗した3つのポイントとは

 MMORPGの開発には途方もない労力が必要であり、その規模に見合った開発チームが必要となる。またそれゆえに多大なる費用がかかり、企業はMMORPG開発のリスクから避けるようになる。その結果として日本のMMORPG文化は育たなくなり、プレイヤーも少なくなっていくという悪循環が生まれる。

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 吉田さんはそうした悪循環を踏まえつつ、旧『FFXIV』の失敗について、「グラフィッククオリティを尊重しすぎたこと」「開発チームにMMORPGそのものの知識が乏しかったこと」「ユーザーはついてきてくれると思ってしまったこと」といった3つの点を挙げた。

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■いかにして『新生FFXIV』は立ち上がったのか

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 ここでは旧『FFXIV』から『新生FFXIV』の立ち上げまでについてが語られた。吉田さんは『新生FFXIV』として復活させるまでの時間は実に少なかったと語った。旧『FFXIV』の立て直しを決めた2010年12月から、『新生FFXIV』としてローンチするまで2年8カ月という期間しか与えられていなかった。また、旧『FFXIV』のアップデートを続けながら、『新生FFXIV』といて一から作り直す必要もあった。

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 そのために取られた手法は以下のものだ。まず吉田さん自身による400にもおよぶゲームデザインが行われ、それをもとにMMORPGに造詣が深い開発チームのメンバーが仕様として起こす。それをすべて吉田さんがチェックしていった。

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 次に昨今のMMORPGのトレンドを調べ上げ、その仕様は何なのかを洗い出す。これは新しい試みを優先するよりも、MMORPGとして当たり前となっていることを優先するためである。

 MMORPGとして当たり前の仕様を盛り込みながら、『FF』らしさを失わないためのコアデザインを確定する。それから『新生FFXIV』のシステムデザインが行われた。この状態で『新生FFXIV』に関わったメンバーは、全体の0.5%程度であるという。このシステムデザインがすべて終わるまでは、プログラマーはコードを1行たりとも書くことが禁止され、MMORPGの研究や旧『FFXIV』の開発などを担当していた。

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 このように旧『FFXIV』のアップデートと『新生FFXIV』の開発が並行して行われたが、これらは別個のチームで行われたわけではなく、同一のチームにて行われた。これについて吉田さんは「1つのチームが2つの『FFXIV』を行ったり来たりすることで、開発チームの意思の統一が図れた」と語った。少ない期間で『新生FFXIV』を構築するための工夫である。

 また、ユーザーのプレイ体験を重視するためには、ユーザーとのコミュニケーションも必要だった。とはいえ、吉田さんはこれまであまり表に出てくることがなかったため、ユーザーからの知名度は少なかった。そこで行われたのが、現在の開発状況を逐一公開したり、LIVEによる生放送などを行ったりすることだった。これにより、ユーザーに信頼および期待をしてもらうということだった。

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 これは吉田さんによる「『新生FFXIV』に向けた約束をすべて果たし、失墜してしまった信頼を取り戻していかなければいけない」という意思のもと、それを実現するための施策でもあった。

 その後、2012年8月にドイツで開催された“gamescom”にて、『新生FFXIV』の試遊プレイが初めて行われた。この時、α版のサーバーが動き始めたばかりで「いつクライアントがクラッシュしてもおかしくない」状況だったという。α版ではユーザーがどのような動線でフィールドを移動しているか、などを確認し、それらを徹底して見直したという。「納得して遊べるものができあがるまではリリースできない」という言葉通り、スケジュールを遅らせてまでも見直しを図っていた。この事について吉田さんは「この場を借りてスタッフにお礼を言いたい」と述べた。

■旧『FFXIV』と『新生FFXIV』の比較

 ここでは、旧『FFXIV』と『新生FFXIV』のフィールドおよびバトルシステムの比較などが行われた。

『新生FFXIV』 『新生FFXIV』

 旧『FFXIV』は確かにグラフィックは今見ても遜色ない出来になっているものの、全体的にオブジェクトに乏しく、どこか寂しい。同じ地名・場所で見ても『新生FFXIV』の方が華やかである。

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▲キャラクターの描画の違い。また『新生FFXIV』のほうがはるかに遠くまでカメラを引くことができる。▲同じシダーウッドでの比較。『新生FFXIV』では当たり前にできるジャンプは、旧『FFXIV』ではできない。
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▲モラビー造船廠の比較。旧『FFXIV』では何もない。
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▲バスカロンドラザーズの比較。旧『FFXIV』ではドアが開かない。
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▲キャンプ・トランキルの比較。旧『FFXIV』ではエーテライトがポツンと置いてあるだけ。
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▲ブラックブラッシュの比較。旧『FFXIV』では綺麗な風景が広がっているが何もない。敵すらいない。

 またバトルについては、段違いともいえるスピードが感じられた。旧『FFXIV』は『FFXI』を踏襲したオートアタックによるバトルであり『新生FFXIV』と比べると緩慢。『新生FFXIV』も息つく暇がないという状況はあるものの、爽快感は比べ物にならないだろう。

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▲両タイトルで同じイクサル族との戦いを収録。

 ただ、旧『FFXIV』は課金が始まってから、最終的にはユーザー数が3倍にもなったという。これは旧『FFXIV』のアップデートをギブアップせずに続けていたことにユーザーがついてきてくれたからだと言い、旧『FFXIV』はいい終わり方ができたと語っていた。

■F2Pと月額課金の優劣はつけられない

 続いて、MMORPGのビジネスモデルについて語られた。このFree to Play(F2P)とサブスクリプション(月額課金)型に関する吉田さんの見解は、先日掲載したインタビュー記事にもある通り、ニーズによって使い分ければいい、というもの。どちらが優れていて、どちらが劣っているというわけではない。

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▲必要に応じてどちらかを選べばよい。

■大型MMORPGの開発に必要なものとは?

 『新生FFXIV』の開発に携わった吉田さんによる、大型MMORPGの開発を成功させるための秘訣が語られた。

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 まず必要なものは「アップデートを簡単にできるようにするということ」。また、MMORPGというものはサービスを行うための最低条件、「これはできて当たり前」という条件がとてつもなく多い。これは世界には『World of Warcraft』という化け物級の大型MMORPGがあり、MMORPGプレイヤーはその『WoW』に慣れているからである。

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▲MMORPGは最低条件の積み重ねが非常に多く、開発は過酷である。ということを表しているイメージ図。
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▲『WoW』と『新生FFXIV』を、屈強なルガディンとかわいいララフェルで表現。

 『WoW』のリリースから現在まで約9年。『新生FFXIV』はまだ8カ月程度にすぎない。しかしユーザーから見たら同じMMORPGであり、他のMMORPGで当然のようにできていることは、『新生FFXIV』でもできていなければいけないということだ。

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▲他のMMORPGと『新生FFXIV』が比較されて、足りないものを探されてしまうのは当たり前のことと感じることが大事。

 MMORPG開発で念頭に置いておくべき事柄は、「他のタイトルでできていて、自分たちのタイトルでできていないことは何か」「コンテンツの量は足りているか」「UIは使いやすくできているかどうか」といって部分となる。しかし、これらが全部できていても当然のように「このゲームで新しい部分はどこか」と聞かれることになる。これらを踏まえて、吉田さんは「いきなり新規性を追求せず、まずはしっかりとした設計を行って、アップデートしやすい環境を作るということが、MMORPG開発の近道である」と述べた。

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■MMORPGの運営は国家を運営していくようなもの

 MMORPGの運営は1つの国を運営するのと同じようなものである。プレイヤーはその国の住人であり、運営側の方針に納得がいかない場合は、その国を離れていってしまう。

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 またプレイヤーの声を聞くというのも重要なポイントとなる。運営の声が独善的だった場合は、運営は独裁者となってしまう。

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 そしてプレイヤーは運営に対して非常に多くの意見を述べるものである。しかし、本当に危機的な状況になった場合は、プレイヤーは何も言わずにそのゲームを去っていく。なので、プレイヤーたちと対話をして、どこに問題があるのか、何を望んでいるのか、その上で運営側が何を考えているのか、という点をつねにコミュニケーションする必要がある。

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 そして、運営側の人間自身もその国の住人となること、つまり自分たちのゲームをしっかりと遊ぶことが重要であると述べた。自分たちが一番のコアゲーマーでなければ、その国が住みやすいかどうかはわからないというわけだ。

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 もちろん、運営とプレイヤー側で交わらない部分も存在する。特にコンテンツに関しては相容れることはないだろうという。だからといってプレイヤーと言葉を交わさないのは間違いであり、1つのゲームに集まった同じ住人として相互理解を深めることが、MMORPGの運営で一番重要なことだという。

 旧『FFXIV』を含めたこのプロジェクトは、大きな失敗も生み出したものの、意識改革という点では非常に大きなものだったと吉田さんは語る。また、『FF』は多くのファンに支えられているシリーズであり、ファンを愛すべき味方である。常に前に向かって進み、世界中のファンが求める『FF』であることを目標として作っていくと語った。

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 最後に吉田さんは「『新生FFXIV』はMMORPG業界から見たら、まだまだひよっこであり、くちばしの青い鳥のようなものである。皆さんに愛されるように全力で育っていこうと思います」と述べて、セッションを締めくくった。

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▲セッション終了後、日本に帰るフライトの時間ギリギリまで来場者の質問に応じていた吉田さん。

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